足向け調査(インドア編)
花粉症で呼吸に支障が生じてもだえる時期をのぞいて、私は寝相がいい。
高校の修学旅行の時、仰向けになって胸に両手を置いたまま死んだように静かに眠り、同室だった友人から「カーメン」と呼ばれたことがある。
そんなカーメンがベッドに入った時、足はどこを向いているのか
とコンパス片手にざっくり方角を確認する。
せっかくなのでカーメンを寝かせてみた。
南西か。
いきなり目に入ったのは本棚。漫画や文芸その他様々な本をめくり、心の旅にでかけるたびに見識や夢、希望ときには絶望をもらった。
未整理罪とかあったら即刻逮捕だな
そんな本たちに足を向けて寝ていました。すいませんでした。
書を捨てないで町へ出よう
あいにくの雨模様ながら外に出て、足を向けて寝ている方向を目指す。
行くぜ!もう目の前T字路ですが
武蔵野市の西の方にある自宅から武蔵境、調布方面にお前は足を
向けているのだとコンパスは語っている。
ざっくり線を引くとこんな感じ
いきなりどん詰まったがめげない。
仲がしっくりいっていない感じ。
バス停の名前が「浄水場中央」、西には「浄水場西」というバス停が。なんせ西だし。
境浄水場。多摩湖と狭山湖の貯水池を源流とする、緩速濾過方式としては
日本最大規模の浄水場である。ここで浄化された水は千代田区、渋谷区、世田谷区、港区など広域に給水される。東京都の最重要インフラのひとつといえよう。
年に2回程の一般公開以外は立ち入り禁止。
そんな公共的にすごい拠点に、今まで足を向けて寝ていた非礼をわびた。すいませんでした。
まあ、これからも足向けて寝るんですが…
さっき広いと書いたばかりだがとにかく広い。縦断は不可能なのでこのまま南西方向に進むには迂回するしかない。
より大きな地図で 迂回 を表示
地図まで載せる必要があるかどうかは置いといて
前にバスの中で近くに座ったおばさんが「ここを通り抜けるのが夢なのよ」と言っていた。
みんな様々な理由で持っているのだな浄水場縦断願望。
すきっぷ通りから謎の横道へ
迂回して南西に進むと控えめな賑わいを見せるJR中央線武蔵境駅前
の商店街「すきっぷ通り」にさしかかる。
飛び跳ねる軌跡が気持ちいいすきっぷゲート
1989年に「好き」と「切符(駅前だけに)」
を組み合わせて命名されたという。どうでもいい話だが成増には「すきっぷ村」という商店街がある。元気で躍動感あふれる商店街にも足を向けて寝ていた。申し訳ない。
まあ、これからも足向けて寝るんですが…
武蔵境駅にも謝り、調布方面へとひたすら歩く。
序盤でぽんぽん出て来たランドマーク的な物件との出会いはめっきり減り、目の前を飛んだカミキリムシをおっかけたりしながらルーテル学院大学、国際基督大学を迂回。
心の底からウザがられていたと思う(飛んで逃げた)
西武多摩川線を横目に見ながら野川を渡る。
人見街道から南進するとなにやら感興をそそられすぎるものが…
三鷹市 ..沢…水…経営農..?
はたらく水車に興奮
「三鷹市 大沢の里水車経営農家」
今から約200年前、1808年頃に作られた動力水車とそれを経営していた旧家が保存・公開されていた。
閑静な住宅地の奥にひっそりとたたずむ古民家。
母屋の座敷には織機や糸車が。当時の部品を組立てたり、一部修繕して復元。
近くを流れる野川の水流から動力を作り出し、製粉や精米を行う営業水車で、1817年より峰岸家によって五代の長きにわたって様々な改造を加えながら運営されてきた。
現在では旧家ごと三鷹市に寄贈され、一般に公開されている。
水車小屋の中で回転する水輪。
水輪の回転が木製の回転軸や歯車に動力を伝達し…
杵を上下させて下の穴に入れられた玄米の皮を取り、白米にする。 理屈はともかく、かっこいい。
ボランティアのガイドさんによる詳細な解説付きで当時の農家経営の道具類や機械類をじっくり見学できる。
土蔵に収納された道具類。「そのまま持って来ていますから、 実は結構新しいのも混ざっていたりして、そこがまたいいでしょう」 いいですねえ。
精米機・製粉機をはじめとする機械類がいちいちかっこいい。
還流式と呼ばれる精米機。30キロ以上の大口の時に使用していたらしい。
押麦圧片機(おしむぎあっぺんき)大麦をついた後、これで押し麦にする。 名前を読むだけで惚れる。
いやあこんな有意義な施設が身近にあるなんて知らなかった。足の方に歩いてみるもんだ。あ、足を向けててすいません。
おお!神奈川県北多磨群だった頃の名残が!(無闇に喜ぶ神奈川生まれ)
「ここへはなんで来たの?」
ガイドの方に問われ、よせばいいのに当企画の主旨を語ってしまった。
すると一瞬苦笑いともつかぬ微笑を浮かべたガイドさんから重大な提言が飛び出した。
「そういう事ならあなたえらい人に足を向けて寝てますよ」
「え?誰です?」
「ここからちょっと言った龍源寺というお寺にね、近藤勇の墓があるんですよ、そこ行ったほうがいいですよ」
なんだって!(写真は水車ロゴマーク「すいしゃくん」)
こんなにも近藤勇スポットだったとは
近藤勇..言わずとしれたあの新撰組の総長である。
たしかにどえらい人物だが個人的に世話になったわけでもないし、別にいいんじゃないのかとも思ったものの、今後夢に出てこられたらたまらないし何しろ強そうでこわい。
僕ん家に討ち入りしたってなにもありませんから!
まあ、これからも足向けて寝るんですが…
この近辺では他にも横穴墓(古代の墓)や調布飛行場にも足を向けて寝ていたことがわかった。
中の人骨はレプリカです。念のため。
飛行機かっこいい(かなり疲れてきた)
犬神家の一族の佐清(すけきよ) みたいな車がこわかった。
府中市に入り、京王線武蔵野台駅で日が暮れてひとまず終了。
足を向けて寝ていたもの(抜粋)
・本棚 ・境浄水場 ・すきっぷ通り
・武蔵境駅・ゴマダラカミキリ・ルテール学院大学
・国際基督大学 ・「大沢の里水車経営農家」
・近藤勇の墓所 ・調布飛行場 ・横穴墓
・佐清(すけきよ)みたいな車 ・武蔵野台駅
見づらくて申し訳ないがGPSログデータより。上の小さい迂回が浄水場、 下の大きい迂回が大学関係。
大河を渡って境目へ
日を改めて武蔵野台から歩みはじめる。どこへ?南西へ。
今回は歩き始めるとすぐにビッグイベントが待っていた。
目の前に大河!(早くも方向感覚を失って地図をひっくりかえしています)
渡河である。いや、これまでも野川等の河川を渡ってきたのだがやはり多摩川、セレモニー感が抜きん出ている。
是政橋を威風堂々と闊歩。
右手にいい感じの崖が。
府中街道から多摩川を渡ると自分の意識的にすごく神奈川感に満たされるがまだ東京です稲城市に侵入。
稲城長沼駅商店街のゲート。最上部にキリンという高さのインフレ状態。
稲城長沼駅商店街のゲート。最上部にキリンという高さのインフレ状態。
鶴川街道に沿って南下し、東京よみりカントリークラブ沿いに丘陵地を行く。
ガードレールを飲み込む勢いのガーデニング。
それもビズでくくるか。
雨に降られたので稲城市の南に広がる平尾団地の商店街でビバーク。
屋根がかわいい
南端には緩やかな尾根道が東西に走り、ここを越えると川崎市麻生区、つまりここが東京と神奈川の県境である。
赤い部分が平尾団地。下の点線が神奈川との県境。
さらば稲城。
これか!なんかこの場に来てこそわかる感慨がありますね県境。
またなんとも微妙な位置にあるのだけれど。
いいのか稲城市、ここは県境ではないのか。
ひょっとして川崎側が秘かに蓋を取り替えて領土を…ひっそりとした県境で大いなる陰謀の胎動を感じながら(注:妄想です)川崎へと移動。
こんな緊張感あふれる政争地域に足を向けて寝ていたとは…
(無理矢理テーマに引きもどす)
さらに今度は町田との県境が複雑な事になっており、思わず県境を追っかけてしまった。
ジグソーパズルのように入りくんでうひゃー。
地元の人におすすめされた県境。萩原さんも同じ写真を撮っていた。
県境のために。ものすごく丹念に。なんなんですかねDPZ、いや、県境の魅力おそろしや。
この日は結構歩いたなー。下の方でぐじゃぐじゃなってるのが県境遊びです。
ワープか!っていうぐらいダイジェスト
さらに日を変えて、若葉台から小田急戦沿いに柿生・鶴川方面へ
なんだこの周到に開けられた穴は。
あーこういうことか!
チューブみたいな受話器かわいい。
ラスコー洞窟の壁画のようなひかれ方。
日も傾いた頃、ついに小田急線相模大野駅に到達。
ここの商店街「大野銀座」の入口には私が大好きなゲートがある。
2010年に撮影。照れるぐらい鮮やかなレインボーゲート。
積み木の街とあるのは産業としてさかんというわけではなくて、様々な形や色をした積み木のように個性的なお店が集まった商店街という意味である。
反対側から見た所。デッキの階段を降りた所に建っていた。
現在、再開発で駅前はがらりと様相を変じていた。
あのシンボリックな積み木ゲートはまさか、いや、そんなわけないよねソウルだもんねと建っていた場所に向かうと….
うわー撤去されてる!
足を向けて寝ていたもの(追加)
・本棚 ・境浄水場 ・すきっぷ通り
・武蔵境駅・ゴマダラカミキリ・ルテール学院大学
・国際基督大学 ・「大沢の里水車経営農家」
・近藤勇の墓所 ・調布飛行場・横穴墓
・佐清(すけきよ)みたいな車 ・武蔵野台駅
・是政橋 ・畳ビズ ・平尾団地
・緊張感あふれる県境 ・大野銀座のゲート(跡地)
町田から相模大野へ。小田急的越境。
あれ?これ何の記事だっけという思いがたまらなく増幅しながらもまだ行く。まだ行きます。
友人にこの企画の事を話したら「へー、まあでもずーっと行ったら地球は丸いから結局自分の頭だよね」とか言われてモチベーションが大暴落しても私は行きます。そんなにしてまで。
右手のフェンスがものすごく立ち入り禁止を醸し出しています。
軍用犬…マルチーズみたいなのだったら嫌だな。
排水溝?をのぞいたら遺棄されてる感満点でおどろいた。
田園風景をくねくねしながら国道へ。
相模川を渡ると生まれ故郷の厚木市。
神奈川のガンジス(嘘)相模川を渡り、国道129号線にぶつかった時、既視感とともにそれはあらわれた。
ここに出るのか!開店前につき入店できず。
今年の正月に帰省した際に「こねったー」にアップした「日本そば屋居抜きインド料理店」の前に出た。
神奈川のガンジス(しつこいが嘘)の近隣で日印の友愛を象徴するかのように鎮座している。ナイス。ベリーナイス。
地図を見ずに歩きだす。
いっちょうまえにGPSロガー持っている割には地図オンチな私はこのインド料理店と出会った事で自分のポジショニングを理解した。それにさからわないように進んで行く。
彼方に見える赤いタワーはRICOHの…進めば進むほど増す既視感。
ピングセンターが黒塗り。これも既視感。
僕だったらまず君を職質するけどね。
夜露死苦。ああ、近づいてきたなあ(なにが)
この植栽文字。しかしいつ来ても手入れがバッチリだなあ。
うだるような暑さの中、調整池の横を通り、碁盤の目のように区画整理された住宅街をしばらく歩くとついにたどり着いてしまった。
実家に。あいかわらず傘が刺さりすぎだ。
本日の徒歩行軍の果てが実家になろうとは思っていなかったので鍵を持っておらず、チャイムを押したが誰も出なかった。
駐車場に車も停まっていないので恐らく留守なのだろう。
何となく少し安堵して実家を後にした。
「どうした突然」とか言われても「いや、いつもこっちに足を向けて寝ててさー」
みたいな話をして脳が溶解したかと心配されてもアレだし。僻地ゆえ、たまたま近くを通りかかるような所でもないし。
というわけで基本的に一番足を向けて寝られない所に向けていてすいませんでした。まあ、これからも足向けて寝るんですけどね…
足を向けて寝ていたもの(とりあえず最終)
・本棚 ・境浄水場 ・すきっぷ通り
・武蔵境駅・ゴマダラカミキリ・ルテール学院大学
・国際基督大学 ・「大沢の里水車経営農家」
・近藤勇の墓所 ・調布飛行場・横穴墓
・佐清(すけきよ)みたいな車 ・武蔵野台駅
・是政橋 ・畳ビズ ・平尾団地
・緊張感あふれる県境 ・大野銀座のゲート(跡地)
・キャンプ座間・ 相模川
・日本そば屋居抜きのインド料理店
・夜露死苦 ・植栽文字 ・実家
実家マグネットで少し西にそれた。
「いや?僕はふだん境浄水場とかすきっぷ通りとかゴマダラカミキリとか水車経営農家とか近藤勇、畳ビズ、相模川、植栽文字、ついには親にすら足を向けて寝ている人間なんですけど、そんな僕ですら●●さんには足を向けて寝られないっすよ~」
どうだろうか。ああ、こいつはちゃんとエビデンスを出して誠実に感謝しているんだなという印象を相手に与える事ができるのではないだろうか。
武蔵野から厚木までの道のりを歩いた甲斐があったというものだ。
おいそれと部屋の配置換えができなくなったが。
炎天下のアスファルトに這いつくばって捕まえたトカゲの子がかわいかった。