有名なのはイサム・ノグチ作品群だが
この こどもの国、なにしろ子どもが喜びそうなものは全部あるのだが大人が思わず「ほほう」とひげをなぜる建造物があることでも実は有名である。
アーティスト、イサム・ノグチの作品がぎゅぎゅっと見られるのだ。
イサム・ノグチといえばここという札幌のモエレ沼公園や香川の庭園美術館にある「オクテトラ」。これが こどもの国にもある
作品群へアプローチするエントランス通路もまた作品のひとつ
トンネルをくぐるとにょきっと1本の木が目の前に現れてかっこいい
そしてその木の隣に「丸山」。人の名前のようであるが遊具でもある作品
これらの作品はこどもの国のホームページでも紹介されている。ただ公園内では特に「これはアート作品です!」といった掲示はないのだった。
ぶらぶら歩いているとなんか変なブロックみたいなやつがあるなーとか、このトンネルかっこいいなあといった具合で目にはいる。
子ども達はもちろん何も知らずにがつがつ作品にぶつかっていって遊ぶのだ。そもそもが子どものための施設である。多くを語らないのが粋だ。
とはいえ、明らかに「これ、なんか作品的なあれだろう」というオーラを出していた
今回ご紹介したいのは「こども動物園」に
さて今回取り上げようというどうにも気になった建造物もイサム・ノグチ作品同様、なんとなーく公園内にあった。
場所はポニー牧場や遊牧場などもある動物とふれあえるコーナーの一角「こども動物園」である。
ウサギやモルモットを抱けたり、ヤギにえさをあげたりできる、鳥類も多い充実のミニ動物園だ。
ヤギさんから「おう、なんか用かい」というお顔いただきました
ここではタイミングがあえばアライグマにもえさをあげることができるのだが、アライグマってばあげたえさを即座にじゃぶじゃぶ洗うのがかわいいのよォ。かわいすぎて文体が急にオネエになってしまい申し訳ない。
なにしろ以前から個人的に注目している施設であった。
と、思ってアライグマのゲージを見てみたら大丈夫かおいという寝かたをしていた(係の方によると心配ないとのことです!)
爆睡
畳み掛けて園内にあった顔ハメの顔の位置感など語りどころの多い施設である
うっかり本稿の本丸をアライグマ(もしくは顔ハメパネル)に取られそうになりそうなので急いで問題の建造物を紹介しよう。
ゆるやかな傾斜になっている園内の、傾斜の上のほう。ヤギとクジャクのゲージの間を抜けたところにそれはあった。
ん? なんだろあれ
と、視線(?)を感じて右を見ると。うわあ、こっちにもなんかある!
うおお、なんなんだなんなんだ
オブジェ? あずまや?
気になってぐるっと見てみる。色合いといい、鉄らしい素材といい左右にたたずむ二つが対になっているのは間違いないだろう。
しかし何なんだろう。両方とも腰掛けるような場所があるからあずまやだろうか。
しかし、内部に入るにはなかなかに狭い隙間を抜けなければならない。やはりオブジェか?
中はこんなかんじ
上をみあげる。ランダムに畳まれたような屋根(?)がかっこいい。
もっとみあげる。かっこいい。
解説のなさ!
あずまやか、オブジェか。分からないが「何かである」ことは確かだ。だってかっこよすぎだろうこの形状。
しかしイサム・ノグチ作品がそうであったようにこちらにも潔すぎるほどなにもこれが何であるかの表記がない。
もういっぽうはこども動物園内でも一番高い場所にある。こちらも何事かという個性的な形状
屋根の曲がり具合が迫ってくる
のぼってみると、あ! 掲示のようなものがあるじゃないか。この作品の解説だろうか
「しか」(右のゲージに鹿がいました)。そっちか!
「文句あんのか」すみませんないです、鹿さんにもすごく興味あります
問い合わせからの黒川紀章作品判明
気になりながらも一旦は自宅に帰ったのだがやはりちょっとどうしようもなく気になる。
あのう、あれ、一体何なんでしょうか。思い切って聞いてみることにした。
対応してくれたのは企画広報室の三ツ井さん
はじめに言ってしまうと、例の建造物は建築家 黒川紀章の作であった。なんと、思った以上に本気のやつである。
ただ、三ツ井さんはじめ広報室のみなさんも「私達も変ったオブジェがあるなーくらいの認識で…。黒川紀章先生の作品だということもなんとなく知っているくらいでして…」と取材には驚いた様子であった。
イサム・ノグチ作品もそうだがこの変にアートをありがたがる感じのなさがかっこいい。
というわけで今回改めて「こどもの国30年史」という1996年に30周年の記念としてまとめられた園史をひもといていただいた。
こどもの国は1965年開園。30周年を迎え1996年に刊行された本
作品名「花びら休憩舎」
この園史によると例の建造物は開園した1965年にはすでにあったものらしい。「開園直前の建設状況」の欄に以下のような記述があった。
「トンネルを抜けて牧場のみどりに近づくと、二つの大きな花びらが目にとびこむ。シェルターと水のみ場をかねた『花びら休憩舎』で、黒川紀章氏の設計になり、高村光太郎賞に輝く力作であった」(「こどもの国30年史」より)
休憩舎ということは、やはりあずまやだったのか。そしてモチーフは花びらであった。
と、その前に水のみ場? 水が出たの?
この真ん中の3本のポールから水が出ていたのでは、と三ツ井さん。バルブのようなものはなく「噴水のように栓は開放していたのかもしれません」と。なるほど
閉じた花びらの内部から開いたほうの花びらをながめる
さらに別の資料を繰る
この こども動物園を含む「こどもの国牧場」は実はこどもの国本体とは別に株式会社雪印こどもの国牧場という企業が運営に入っている。
そちらの社史もスタッフの高橋さんが確認していてくれた。
高橋さんと社史。この日のすごい日差しに反射して社史が輝きまくってしまった
残念ながら「花びら休憩舎」については特別な記述はなし。
ただ、こどもの国の開園当事にはまだこども動物園はできておらず、花びら休憩舎よりも動物園の方があとに開園したらしいことが分かった。
このように、二つは小高い場所にある(以前冬場に訪れた際に取った写真)
「天極をさす」
思った以上にすごい作品だということが分かって誰に向けてでもなく「見たか!」という思いで胸がすく。
とはいえ、ここまできておいてなんだが建築には疎いため黒川紀章といえば「すごいけんちくか」であり六本木の国立新美術館のあの人でしょうというくらいしか知らないのだった(2007年の都知事選立候補だったり夫人が女優の若尾文子さんであることのイメージが強いということも思い切って告白)。
調べてみると、この作品で受賞した高村光太郎賞というのは、氏がキャリアをスタートさせたころに獲った賞のようだ。1965年というと31歳。若い!
あっ。
そうだ賞に入った作品であるということは賞がらみの本があれば開園当事の作品の写真も見られるのではないか。
調べると高村光太郎賞の作品をあつめた「天極をさす」という本があるらしい。
そして、方々探して見つけた図書館で貸し出してもらえた!
受賞作は「子供の国セントラル・ロッジ」?
図書館で借りた「天極をさす」(すごいタイトルである)によると、黒川紀章受賞作品は「花びら休憩舎」ではなく「子供の国セントラル・ロッジ」となっていた。キャンプに関するフォローアップや研修などを行う施設のようだ。
「花びら休憩舎」は受賞したロッジの一部だったのだろう。
「子供の国セントラル・ロッジ」。かっこよさそう
受賞の子供の国セントラル・ロッジはすでに建て替えられて現存していない。
「天極をさす」では花びら休憩舎のできたてほやほやの写真は見られなかったが、子供の国セントラル・ロッジの痕跡として残っているものがライブで見られるというのはラッキーでしかないのだろう。
残っててくれてありがとな!
昆虫も建造物もかっこいい
今回こどもの国へ取材に訪れたのは7/8。この日は毎年恒例の人気企画「夏休み昆虫教室とかんさつ会」の受付開始日だったそうでお伺いした事務所にはひっきりなしに予約の電話が入っていたようだ。
「動きやすい服装で、水筒、汗拭きタオル、あと虫除けを忘れずにお持ちくださいね」など職員のみなさんが対応に追われていた。
汗拭きタオルに虫除け。そんなリアルな子どもの遊び場にはっとする建造物がある。そのギャップが楽しくて、ただうきうきした気分になった。
取材対応ありがとうございました!
こどもの国
園内に2か所あるトンネルもかっこいいのでおすすめです