ラジオ体操は軌跡がかっこいいのではないか
と、急にラジオ体操を光らせたいなどと めんどくさいようなことを言い出してしまって大変に恐縮である。
これには訳があるんだ。たのむ聞いてくれ。
実は先日、せっかく毎日やっているのだからとラジオ体操について調べているうちにかんぽ生命ホームページのラジオ体操のオフィシャルサイトにある「
ラジオ体操の動きの解説」というページにたどりついた。
この解説が、手足の動きを紙のように折れた矢印で表現しておりかっこよかったのである。
たとえばラジオ体操第二「腕と脚を曲げ伸ばす運動」は、こう。矢印が折れるように書かれていてかっこいい
これを見て、ラジオ体操の「軌跡」ってもしかしてかっこいいのではと思いついたのだ。改めて思い出せばラジオ体操は動きのひとつひとつがなかなかに独自である。
重ねて軌跡といえば、昨今すっかり写真の表現のひとつとして定着した光の軌跡の写真、ライト・グラフィティとかライト・ペインティングだろう。当サイトでも
尻で文字を書いたり、
花火で数字を書いたりしてきたあれだ。
適当に撮ってもわりと書けたがふすまが怖い感じに
どうだろうか、意外にもラジオ体操(の軌跡)を光らせたいという願いがまっとうな願いであることがお分かりいただけたのではないか。自信をもって先に進みたい。
撮影は厨房で
さて、光の残像を写真におさめるにはカメラに疎い私でも暗い場所に行かねばならないことは分かる。いろいろと検討したのだが、事情があって外はできるだけやめておきたい(この事情、というのは後ほど改めて説明しますね)。
そこでトークライブハウスの東京カルチャーカルチャーを借りることにした。
平日昼、営業時間外の無人の店内
ただ、夜は営業があるため借りられたのは昼間。遮光カーテンがあるものの当然光は入ってきてしまう。
ためしにラジオ体操第一の前半、深呼吸の後に出てくる「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」を撮ってみたら一番ハッキリ写ったのがトイレの案内だった
でも大丈夫。奥にある厨房なら光の入るすきまがないのだ。
厨房は照明さえ消せば
まっくらだい!
暗闇の厨房は計器的なものの光がちかちかついていて逆にちょっとかっこいいじゃないか。
おお、いいね! と思ったが気づけば私はそうか、この暗闇の厨房で照明を両手に持ったままラジオ体操をするのか。
しかも手に持つライト代わりに用意したのは光るうちわである。ちょうど家にあって、光もきれいだったので持ってきたのだ。
両手に光るうちわ(動物の形!)
厨房と暗闇と浮かれたうちわ。なにがなにやらという状況であることには間違いない。
気持ちは静かになるが、光るラジオ体操はやっぱり見たい。暗闇の中でその強い気持ちだけが今は頼りだ。
暗闇の厨房でラジオ体操する
気を確かに撮影をスタートさせる。真っ暗闇の厨房とあって、カメラと自分の位置取りに苦労した。ガツンと腰にシンクがあたって、ふらふらする間も手のうちわは光っている。
滑稽というのでは片付かないほどの奇妙さが誇らしい。
手に持つうちわの光でシンクがかすかに照らされる。その前で、元気一杯のラジオ体操。厨房で光がうなる。
写真はラジオ体操全編ではなく各動きごとに区切って撮影した。やっていることの妙さとはうらはらに、いい写真は撮れた。
特にラジオ体操らしい特徴的な動きの見どころのあったものをかいつまみ、明るい場所で撮影したラジオ体操の動きとあわせて確認していこう。
ラジオ体操第二「腕と脚を曲げ伸ばす運動」
光るラジオ体操第二「腕と脚を曲げ伸ばす運動」
ラジオ体操第二「腕を前から開き、回す運動」
光るラジオ体操第二「腕を前から開き、回す運動」
ラジオ体操第一「体を回す運動」
光るラジオ体操第一「体を回す運動」
私としては急な荒ぶりを見せた「体を回す運動」にはっとした。毎朝こんな動きをしていたのか。こんな、とれたての魚のような動きを。自分よ。
確かに、「体を回す運動」は暗闇の厨房で行うにあたってもここ一番の違和感であった。何を私は上半身をぐいんぐいん回しているのか。真っ暗闇で。うちわ両手に持ってと。
日々ラジオ体操の動きのなかでは他を差し置いてエキサイティングな動きだなとは薄々感づいていたのだが、今回暗闇の厨房で改めてそのダイナミックさを思い知った。
全身を光らせよう
さて実はなんとここまではまだ企画の序盤なのだ。
先に外での撮影はできるだけ避けたいと書いたが、その理由は全身を光らせての撮影をしたかったからなのである。
手だけの軌跡ではなく、全身の軌跡を撮影したい。そこまでやらずして「ラジオ体操を光らせた」とは言えないだろう。
で、どうやって全身を光らせるかというと、こうするのである。
全身が光る衣装を借りた。なぞのドヤ顔
折りよく、弊社 ISP事業部の井田という者から上の写真のようなとんでもなく酔狂な全身が光る衣装を借りることができたのだ。
以前「
ネットで送ると走って届ける、どっちがはやい?」という記事に登場し@niftyのEMOBILE LTEサービスがいかに高速かを宣伝しようとしてなんと編集部安藤のランニングの速度に負けた、あの井田である。
「ネットで送ると走って届ける、どっちがはやい?」より、左が井田
今頃どうしているかと思っていたら今はこの衣装を使った
広告キャンペーンを担当しているという。どこへ行こうとしている、井田。
光らせるとこうなる。かっこいい!
暗闇の厨房で全身を光らせながらラジオ体操
ともあれ、全身を光らせることができるツールを貸してもらえたのは渡りに船であった。
一旦店のフロアで全身からじゃらじゃらぶら下がるコードを接続し、電源を確保しとわたわた作業しそして再度厨房へ向かう。
途中でコードが一部はずれわたわた
中腰で作業し頭をぶつける
接触が悪いらしく上手く点等しない事件も発生。あーもーお母さんこういうの苦手なのよもう
衣装はかなり酷使されたものらしく、一部接触が悪くなっている箇所があって慌てたのだが、汗をだらだらかきながら(衣装はかなり熱い)ああだこうだやっているうちに全身が点灯した。
日常であるラジオ体操と、全身が光るという大いなる非日常の邂逅である。ピカピカピカピカ。
真っ暗ではなく薄明かりにしてリハーサル
さあ、いよいよもってして何がなにやらという事態だが現場でこのとき私は「やった、これでいよいよラジオ体操の軌跡の全貌が撮影できるぞ」というその思いひとつであった。
改めて告白するが、この日の撮影はひとりである。ひとり期待に胸を膨らませ、しかしひとりなので真顔で暗闇で変な服来て全身光ってラジオ体操である。
明らかに要素過多だが負けない。
ラジオ体操第一「体を横に曲げる運動」
光るラジオ体操第一「体を横に曲げる運動」
ラジオ体操第一「体を回す運動」
光るラジオ体操第一「体を回す運動」
ラジオ体操第一「腕を上下に伸ばす運動」
光るラジオ体操第一「腕を上下に伸ばす運動」
虫か
どうだろう……。確かに全身は光っているのだが、思った以上に胴体の発光ばかりが目立ってしまった。
思い切って言うと、虫っぽい。
いや、虫はここまで光らないと思うのだが、特にすぐ上の写真「腕を上下に伸ばす運動」などは伸びる手足が思った以上に感じられず、昆虫がわしゃわしゃともがいているような写真になってしまった。
確かに手足の光源が胴体より少ない
動きによっては手足に隠れてしまっている(と真面目に言っている場合かという写真である)
衣装はそっとたたんだ
これはもしや、衣装を着るよりも両手足にペンライトをくくりつけて撮影したほうがよかったのではないか。頭にはヘッドライトをつければいい。
そんなことを思う間も頭からはもわもわしたオレンジ色のものが垂れ、体はピカピカ光っている。わたし、ひとり。なんなんだこの状態は。
なんなんだ。そう思いながらも充実感があるのが輪をかけて妙である。
とりあえず、光るラジオ体操の第一部は虫になったここで完としたい。第二部ではかならずや蝶になろう。
……妙にうまくまとまってしまった今もなお、変な衣装を着ている。脱ごう。
ラジオ体操ブームに乗って光れ体
ラジオ体操、実は去年ブームになっていたらしい。
なんとなく小耳には挟んでいたが、ラジオ体操を体の隅々まで使ってしっかりやるとちゃんとエクササイズになりますよ、といった女性向けの解説本が大ヒットしたそうだ。
ブームから少し時は経ってしまったが、ラジオ体操を光らせるというこの企画でもしかしたらブームの一端に乗れるのではないかなどと夢想していたのだが、虫っぽいようでは無理だろうか。
体操を始めようと思ったとたんに接触不良で光が切れたときの1枚。真っ暗闇に呆然と立ち尽くす