きれいに丁寧に石積みされた円形の台座。そのまわりに道がぐるっと(大きな画像は
こちら)。
反対側から。なるほど円形だ(大きな画像は
こちら)。
みんなで地図を見ながら歩いていて「あっ、なんか円形の道があるよ?行ってみよう!」ってなったのだ。最初は「ラウンドアバウト」かと思った。
「ラウンドアバウト」の例。なつかしき我が母校、千葉大学正門近く。このそばにある居酒屋の名物が「すずめの丸焼き」で、新入生はかならず先輩に食べさせられたものだ(
大きな地図で見る)。
ラウンドアバウトとは、上のように交差点がロータリー状になっているもののことで、特徴としては信号機がない。大量の自動車をスムーズに流すことができるとして最近日本でも導入が検討されている(飯田市で新たに導入されたことが
話題になった)。シャルル・ド・ゴール広場が最も有名なラウンドアバウトだろう。
しかしラウンドアバウトにしては小さい。それにこんな閑静な住宅街にラウンドアバウト作る必要もあるまい。一体何だろう。
住宅街にあるキュートな円形道路といえば「クルドサック」が疑われる。
クルドサックとは、三土さんのすてきな記事「
一級の袋小路はどこだ」にも登場した、通過交通をなくすために道路を行き止まりにしたものだ。結果的にUターンしなければいけないので道路が円形になる。
確かにここはクルドサックりそうな住宅街ではある。しかし、前出の地図を見ていただければわかるように、行き止まりではないのだ。むむむ。
鉄塔ラウンド
…と、いろいろ可能性を検討してみたわけです。で、冒頭の写真にもあるように、実際行ってみたら円の中心にはどーんと鉄塔が立ってまして。
つまり、これはラウンドアバウトやクルドサックのように、円形にしたくてしたわけではなくて、鉄塔を避けるためにやむなくこうなってしまったものだったわけです。
へー、こういうことってあるんだねー。
とみんなで納得したけど。いやまてよ、他にもこういう場所あるんじゃないか?それになんでこんな風になっちゃうんだ?別にわざわざ鉄塔に向かって道作らなければこんな風にはならないよね?なんで?
という疑問を解いていこうではないか、と今回はそういう内容です。
ちなみにこの日なんでみんなで地図見ながら歩いていたのかというと、
例によってGPS地上絵を描いていたのでした。今回はサムアップしている熊。かわいい。そのときの様子は
こちらで。
やっぱりいろんなところにあった
ほかにも鉄塔ラウンドがないかと、つらつらと、地図上で鉄塔をたどって道の形を見ていった。こんなときは「
塔MAP」だ。このマップ、ほんとうにすばらしい。
で、やっぱりいくつかみつかった。
加えて、Twitterで「ここにもあるよ!」という情報もいただいた。
インターネットってすてき。
見に行こう
きっと全国にまだまだたくさんあるだろう。もし他の鉄塔ラウンド情報をお持ちの方がいらっしゃったらご連絡ください。
さて、こうなったら実際見に行かなくては!北九州、京都は鉄塔ラウンドを見に行くだけに訪れるには遠すぎるが、横浜だったら行ける。行こう行こう。
というわけで、本ページ冒頭の横浜の鉄ラ。中心部に掲示板や倉庫が置かれたこなれぶりがいい(大きな画像は
こちら)。
おお、確かに鉄ラだ!
植木や倉庫が置かれてて、前ページで見たものより地元密着って感じがする。ぼくにとってはめずらしいものでも、地元の方々にとってはごくあたりまえなのだということが伝わってきて、なんだか、いい。
で、この鉄塔の北にも鉄塔ラウンドがある。でもそれがちょっと変わった形をしているのだ。いや、十分この円形鉄ラもかわってるけど。
ここだ!両側に一方通行の道路が。円形ではないが正真正銘の鉄ラだ!
それにしても植え込みがすごい(大きな画像は
こちら)
横から見たところ。まるで船のようだ(大きな画像は
こちら)。
反対側はこんな。ほんと、戦艦のよう。そしてきれいに手入れされている植え込みは庭になっていて、中を行くことができるではないか。
そしてさらに北側にもう一つの戦艦が。
2つの鉄塔の間でぐるっと見上げてみる。
「戦艦」に鉄ラの秘密が
こちらの戦艦は先頭にポストが。キュート!(大きな画像は
こちら)
円形の「ラウンド」を求めてやってきたが、この戦艦っぷりには心惹かれた。
それにしても、なんでこんなに戦艦なのか。いやつまり、なんでこんなに「盛り土」されているのか。
その答えに鉄ラの秘密があったのだ。
地形図でみると、この菱形鉄ラの「盛り土」とまわりとの関係がわかる(「
横濱時層地図」の5mメッシュ地形図表示をキャプチャ)
わかるだろうか。わかりづらいよね。えーと、こういうことだ↓
稚拙な図解で申し訳ない
つまり戦艦状に「盛り土」されてると思った方が、実は元の丘陵の形だったのだ!
住宅地になる前の時代の同じ範囲の地形図(同じく「
横濱時層地図」より。1948~57年の地図をキャプチャ)
南側から見ると、この通り!すごい斜面っぷり!
そう気がついて本記事一番最初の鉄ラを地形図で確かめてみると、確かにここも丘陵の端っこ、斜面だった。
ますかに丸く見えるのが鉄ラ。半島状に突き出た丘陵の斜面に位置している。
最初の鉄ラ。西側から見たところ。北に向かって落ち込んでいる。そして鉄塔の足元は水平を保っている(大きな画像は
こちら)
どうやら丘陵地の住宅街にある鉄塔に「鉄ラ」が多いようだ。それはつまり、鉄塔が先で住宅が後、ということを意味している。
こことか、すごくわかりやすく鉄塔の足元に元の地形が温存されているのがわかる。
宅地開発された後の現在見ると、一見鉄塔が闖入者のように見えるが、実は鉄塔の足元にこそ元の地形が保存されているのだ。これはすごくおもしろい!
面白いよね?
南下すると、別の崖っぷちにまた鉄塔が!これは来るぞ!
ほらやっぱり!鉄ラ!右に向かって急な坂道(大きな画像は
こちら)
と思ったら、半分は住宅に飲み込まれていた。完全な円ではなくて、半分鉄塔ラウンド「半ラ」だ。これはこれでかわいらしい。いいぞ、半ラ。
しかし、あとから住宅ができたのなら、どうして道を鉄塔に向かってひいたのか。鉄塔の脇から伸ばせば、こんなふうにぐるりと鉄塔のまわりを迂回する必要はなかったのに。
送電、それは唯一の空を飛ぶインフラ
送電線の下を伸びゆく道路。こうして鉄塔の下を歩くと、まるで自分が電気のように感じる。
単体の鉄塔は巨大な送電ネットワークのごく一部だ。しかしたまたま鉄塔を建てるのに必要となる敷地が戸建て住宅のスケールに近いため、街のスケールで見るといままで見てきたような奇妙な折り合いが発生する。
なに言ってるかわかりづらいだろうか。わかりづらいよね。
えーと、同じインフラ施設でもたとえばガスタンクぐらいの大きさになると、住宅のスケールではなくなるので、こういうふうに融通を利かせた折り合い方ができない。もっと思い切った敷地の区分けになる。
つまり、鉄塔は高さがすごく高いものの、平面サイズが「ヒューマンサイズ」なため、おもしろいことが起こりがち、というわけだ。
しかし送電線含めてみると話が違ってくる。
前出の横須賀の鉄ラの周辺。赤い線で囲った部分が「送電線転写」現象。地図で見てもそれとわかるぐらい送電線が走っている下の敷地の利用が特徴的。こういう場所は日本中の至るところにある(
大きな地図で表示)
上の航空写真見ると、送電線のルートに沿って、その下に住宅が建っていないのがよくわかる。道路、駐車場、テニスコート、プールなどだ。
送電線の電圧にもよるのだが、17万ボルト以上の高圧線の場合、その下には建築物を建設することができない。なので、電線自体は空を飛んでいるにもかかわらず、地面にそのルートが隙間として表現される。これを「送電線転写現象」と呼ぼう。
だから道を歩いていて「見上げると、送電線」ということがよく起こる。見上げませんか、送電線、ぼくだけですか。
前ページ最後の疑問「なんでわざわざ鉄塔に向かって道路をひいたのか」という答えは、すなわちそういうことだ。新しく宅地開発をする際、なるべくたくさんの住宅を建てようとすると、おのずと高圧線の下を道路にせざるを得ない。
そしてそういう送電線転写道路は、当然ながら鉄塔にぶつかってしまう。しょうがないからぐるりと迂回する。でも鉄塔のサイズってほどよく小さいので、四角にすると車がカーブを切れなくなる。結果的にラウンドする。そういうわけだ。なるほどー!(ここらへんの興味深い話は石川さんとのやりとりで
明らかになりました。いつもありがとうございます!>石川さん)
鉄塔が「勝つ」場合、「負ける」場合
丘陵地に鉄ラが多いのは、比較的最近の宅地開発だからだ。
なんか話が難しいですか。というか、退屈ですか。いやー、ぼくはこれら一連の送電線と鉄塔と住宅との共存方法がわかってすごく面白かったんだけど!面白いよねえ?面白いと言ってよ。
さて、読者ニーズにかまわずもうちょっと続けます。
さっき「鉄塔の方が住宅より先だったので鉄塔が足元ごと残ったのだ!」と書いたけど、それが見てきたように丘陵地に多いのは、平坦な土地は昔から開発されているからだろう。
だからもっと都心の場合、鉄塔の方が「負ける」場合がある。いわゆる(いわゆる?)「股くぐり鉄塔」なんかはそのひとつだろう。
練馬区の「股くぐり鉄塔」。ラウンドすることなく、真下を道路が(
大きな地図で表示)
こちらはびっくり!「マイ鉄塔」!鉄塔の下がガレージ&庭!うらやましい!(大きな画像は
こちら)
さらに言うなら、完全な都心に鉄塔はない。完全に鉄塔が「負けて」、地中化されちゃっているからだ。
で、なにが「御神木」なのか
さて、で、タイトルの「鉄塔が御神木みたいになっている」の話だ。
こうやって鉄塔見ている間じゅう、ずっと何かに似てるなー、と思っていた。で、戦艦の鉄ラを見た帰り道、京急の弘明寺駅前を通った時に「ああ!これだ!」とわかったのだ。運命の出会いだ。きっと鉄塔の神様の計らいに違いない。
これだ↓
お寺の脇の樹を遠慮して階段がラウンド!
そうそう、御神木!ときどき道の真ん中に切り倒せずに樹木が残ってたりするけど、「先にあった」鉄塔をどけることができずに道がラウンドしているさまも同じではないか、と思ったのだ。まるで御神木のようだ、と。
たとえば現人類が滅んで、後の文明人が日本の各所にラウンドして残った鉄塔の遺跡を見たら、きっとなにかの信仰の対象にするんじゃないかな。
引き続き「鉄ラ」探していきます
なんか理屈っぽい記事になってしまった(そうでもない?)。この面白さが伝わってるといいのだが。
引き続き見て回ろうと思ってるので、鉄ラ情報お持ちの方は教えてください!
町内会看板にかわいらしく鉄塔が描かれているのを見つけた。やっぱりなんか愛着感じちゃったりするよねえ、鉄塔にも。
【告知:5月18日、19日、東工大で写真展やります!】
以前デイリーでもその
すったもんだを記事にした、ぼくの写真展
、こりずにまたやります!今度はなんと東工大で!大学の先生方をトークセッションもやっちゃったりなんかします!
詳しくは→
こちら