大人はキャベツとレタスを間違えてはいけない
かつていわゆるおばかタレントが流行したときに、「こんなことも分からない」の最たるところとして“キャベツとレタスを間違える”というのを取り上げられていたのをどこかで観た。
それくらい大人にとってキャベツとレタスを間違えることはアウトということだろう。が、子どもはこれをかなりカジュアルに間違える。
冷静になれば、確かに間違えても誰も攻められないビジュアルの相似だと思うのだ。緑色の葉が結球した物体。似すぎだ。
しかしあきらかにレタスはレタスであり間違えられない
キャベツとレタスを見間違えるなら、春!
ちなみにキャベツとレタスは生物として根本から違う。
キャベツはアブラナ科でレタスはキク科の植物である。結球した緑色の葉っぱとはいえ、理屈の意味でも食べたときの食感や味も全く違う物体なのだった。
これを今日は間違えたい。できるだろうか。
そうして買ってきた両者だが、並べてみて「あれ」と思った。いつもより、なんだか似ている。
あれ
そうなのだ。季節は春。私が買ってきたのはレタスと、そして春キャベツであった。通年出回るぎゅっときつく結球した寒玉のキャベツと違い、春キャベツは巻きがゆるい。葉も柔らかである。
そう、レタスっぽいのだ!
どれくらい遠くから見たら間違えるだろう
間近で見れば一目瞭然だが、これなら距離を開ければ間違うのではないか。
本日の協力者、ライター地主さんと平坂さん(以下敬称略)に両者を持ってもらうことにした。
なんだろう妙にしっくりきた
「それはレタスですか?」と叫ぶ
撮影場所のタイルをメジャーではかり、おおよその距離をつかんだ。まずは30メートル先に2人に立ってもらおう。
みえない
私の視力は両目1.0~1.5程度。30メートル先だと人が緑の何かを持って立ってるなあくらいしか見えない。
目をこらしてキャベツかレタスかを見定める。うん。なにやってんだ、私は。
それでもとりあえず、当てずっぽうでいってみた。
「地主くんの方が、レタスー?」
遠くの2人に届くようにでかい声を出したが、どうも聞こえないらしい。「え?」というリアクションを地主が取っているのが分かる。
「地主くんが、レータースー?」
と、ここで登場のライター大北さんが中継してくれた「地主くんがレタスかってよー!」
途中からの撮影参加となったライター大北さん(以下敬称略)がここで登場、届かない私の声を中継してくれた。
「地主くんが、レタスかってよー!」
「いえ、僕がキャベツですー!」
30メートル先のレタスとキャベツは(私の視力だと)間違えられることが分かった。
このまま距離を縮めていこう。
15m
6m
5m
3m
私は15mまできたところで明らかにキャベツかレタスかを判別できるようになった。
メガネでの矯正後も視力のそれほど良くない大北は3mのところでようやく判別が自信を持った回答が可能に。
……視力検査か。
持ち係の平坂、地主から「芯の部分が見えると分かりやすい」というアドバイスも
もっと自然に間違えたい
これじゃいかん。これでは「間違えた」というよりも「遠くのものが見えた」だけである。
もっと「あっ! レタスとキャベツ、間違えた! うそでしょ?!」というようなエクスペリエンスが欲しいのだ私は。
ということで、自転車を投入しよう。
カゴにキャベツかレタスを乗せた自転車が前から走ってきたとしよう。あなたはカゴの中の物体がどちらなのか、一瞬で把握できるだろうか。
カゴにどちらかを入れて
前方から走り抜けてもらう
これが結構ちゃんと分かるのだ。
速度をゆるめた1回目も、本気でスピードを上げてもらった2回目も、私はキャベツとレタスを見極めることができた。
……! キャベツ!
遠くからじわじわ近づいてくるので思った以上にじっくり見られる。判別が楽なのだ。
では、前方から来るのではなく前を横切る自転車のカゴの中身だとどうか。分かるのか。
横切る場所から概ね5mほど距離をとって見守った。
キャベツ? レタス!?
またもキャベツ!
私も、ともに挑んだ平坂もキャベツで正解だ。
ここへきて、どうもキャベツかレタスかというよりも今回使っている固体について見慣れて識別できるようになってきてしまっているのを感じる。
無駄すぎる能力の習得である。
そろそろ名前をつけてもいいころだ(謎のキメ顔が撮れた)
空を飛ぶのはキャベツかレタスか
固体の同定ができるようになってしまってはもうダメ押しになってしまうが、もうひとつ試したい。
たとえば何かの事情があって台所のお勝手が突然開き、そこからキャベツかレタスが投げ入れられたら、あなたは投げ入れられたのがどちらか見分けがつくだろうか。
どんな事情かはわからないが、飛び出すキャベツとレタスを見分けられるか。実験してみよう。
あ、レタス
これも楽に判別することができた。空を飛んだのはレタスであった。
この日の天気予報は曇り一時小雨のち晴れ。だが、レタスが放り投げられたあたりから急に雨が強まった。
私が「あ、レタスだ」と思ったのと同時に、後ろで投げられたキャベツもしくはレタスを受け取る役割をになっていた平坂が雨ですべってキャッチがギリギリになりしりもちをついた。
執念のキャッチ
衝撃でレタスの葉が2,3枚飛んだ。
雨のなか大人を4人稼働し、一人はしりもちまでついている。それでもなお、私はキャベツとレタスを間違えない。
飛んだ葉を拾い集める。おいしそうだなと思った。早く家に帰って洗って食べたい。しかし帰る前に一度でいいからちゃんとキャベツとレタスを間違えたいのだ。
仕切りなおしです
キャベツとレタスを間違えることは「遠くから見て見えなくて見間違える」以外に方法はないのだろうか。
ここで一旦、仕切りなおそう。
葉が飛んでしまったレタスは食べる用に保護し、新レタスを投入
そして向かった先は、線路脇である
線路脇でキャベツとレタスを持っています
さきほど自転車で通り過ぎるキャベツもしくはレタスを見て私はどちらかを見極めることができた。が、かなりギリギリだったのも確かだ。
もっとスピードが速ければ間違ってしまうかもしれない。
そう思って線路脇にやってきた。ここでまた平坂・地主コンビにキャベツとレタスを持って立ってもらう。
すっかり板についた持ち係
大北・古賀コンビは電車に乗り、地主・平坂の2人のどちらがキャベツを、レタスを持っているかを見ようというのだ。
電車のスピードをもってすればキャベツとレタスを間違えることができるのではないか。
晴れてきた
電車でレタスとキャベツを間違えられるか
先ほどの強い雨はなんだったのか、急に空が明るく晴れだした。変な天気ですねという言葉を交わしながらそれぞれが持ち場につく。
駅についたところで線路脇で待つ平坂に電話を入れた「15:10の電車に乗ります」。
電話先では地主にそのことを伝達するような声がきこえ、しばらくして「わかりました。おまちしてまーす」との返事があった。
レタスとキャベツがお待ちしている。いよいよである。キャベツを、レタスを間違えられるか。
さあ、くるぞくるぞ
間違えたい、というのが趣旨である以上、凝視してまで正解を求める必要はないのだ。が、こうなってしまうともはや勝負である。
すいた車内で窓際も陣取りやすかった。張り付いて2人の待つ線路脇を見つめよう。
!
いた!
思っていたよりも、見える。じっと見て私はレタスを持っていたのが地主、キャベツを持っていたのが平坂だろうとほぼ確信した。
次の駅で下車、あわてて電話する。
「平坂さんがキャベツ?」
正解!
あてずっぽうではない。やはり決め手は色だろうか。平坂の持っていた方が色が薄いように見えたのだ。
電車から路上を眺めてなお、大人はレタスとキャベツを間違えないのである。
ホームの上でキャベツとレタスを持って立つ
勝因は線路脇に立つ2人を眺めていられる時間の長さだったように思う。
それほど遠くなければ勝負は距離以上に時間、なのかもしれない。
ビュンッと通りすぎて一瞬で見えなくなるレタスとキャベツ。そんなシチュエーションならさすがに間違えるのではないか。
急行の通り過ぎるホーム上のレタスとキャベツならどうだ
平坂・地主コンビには各駅停車の駅ホームのすいている場所に、例によってキャベツとレタスを持って立ってもらう。
大北・古賀は急行に乗って通り過ぎるホームにたたずむ2人の持つキャベツとレタスを見極めよう。これが最後のチャレンジだ。
大北は撮影に注力
ここで大北は撮影に専念、古賀が肉眼で確実に2人の手元を捕らえる作戦を取ることに。
え?どこ
うわ、ぜんぜん
しかしこれが、思った以上であった。急行が速いのだ。まず、レタスかキャベツか以前に2人の姿をとらえることができない。あっという間に通り過ぎる。
事前にホームのどの当たりにいるかは電話で打ち合わせをしていたのだが、3回のうち1回は人影をつかむことすらできなかった。「見間違う」どころか「見る」ことすらできない。
このままではまずいと緊張も高まった4回目。大北がこのままでは無理だと使い慣れた自分のカメラを使用することに(ここまでは古賀カメラのみを使っていた)。設定を細かくいじって望む。
そして。
いた! キャベツとレタス!
実はここで、急行の通過ではあまりにも見えないため、電車を各駅停車に切り替えたのだ。
平坂・地主の2人には電車の進行方向に対して一番後ろのホームに立ってもらい、大北・古賀は電車の先頭に乗る。
減速する車中からぎりぎり間違えるレベルでキャベツとレタスが捕らえられるのではと思ったが、これが絶妙なわからなさで大正解であった。
大北のがんばりにより写真にはかなり鮮明に写ったが、肉眼ではギリギリ緑の丸いものが捉えられたにとどまった
上の写真では鮮明に写っているが、肉眼ではいい塩梅で分からなかった。
キャベツか、レタスか、分からない! 1日かけていよいよこの状況を私は手にすることができたのだ。
分からないながらに、しかし回答しよう。やはり決め手は色の濃さだ。地主の持っていた方がキャベツではなかったか。
停車した電車から降り、ホームの端と端から集合する。
さあ、どっちだ
「地主くんがキャベツだと思う」
そういいながら近づくと、果たして地主はキャベツを持っていた。うん、そうか。やはり間違えることはできなかった。残念だが、ここまでの分からなさを体験できたのだ。本望である。
やはり地主がキャベツを持っている
しかし。私のリアクションを見て地主が笑った。
そして「実は、さっきまでこれ逆にもってたんです。僕が持っていたのはレタスでした。古賀さん不正解です」というじゃないか。
えっ?
確かに地主はレタスを持っていた…!(そしてまさかのカメラ目線である)
おいおい、まじかよ
「えっ、ちょっ、まっ、え?」である。何をカマをかけているのだ地主。
驚く私、笑う地主、平坂も笑う。カメラを持った大北もにやにやしている。私も「ええっ」っと戸惑いながら笑ってしまった。
なんだこの良い雰囲気は。なにかの青春物語か!
各人からさわやかな笑いが!
そして、解散した
ともあれ、最終的に私はキャベツとレタスを間違えることができた。
途中で雨が降り、最後には晴れたこの撮影。かかった時間はしめて2時間であった。2時間かけてキャベツとレタスを間違えたのだ。映画を1本見られる時間をかけた。
悔いはない。
平坂、地主、大北には本当に世話になったので終了後コーラでもおごるといったが「いや、いいです」と全員すぐに帰っていった。
不動産情報には熱心だった
キャベツとレタスはそんなに似てない
キャベツとレタスを間違える。実はそこそこ簡単なことなのではと思っていた。
が、今回は大人3人の手を借りてようやく間違えられたありさまである。最後に書いたが2時間かかった。大人がキャベツとレタスを間違えるには高いコストがかかることが分かった。キャベツとレタスはそんなに似ていないのだ。
きっとこの後の人生、もう二度とキャベツとレタスを間違えることはないだろう。そう思うと、よい体験をさせてもらえたとしか思えない。
レタスとキャベツを混ぜて食べてみた。改めてぜんぜん違う食べ物ですな