花粉症歴26年です
ぼくが花粉症になったのは中学校一年生のときなので、かれこれ26年(!)ちかくも花粉症だ。
花粉症に悩む若き日のわたくし、ロマンチックが止まらないひとではない
ちょうど卒業式のシーズンが花粉症のいちばんひどい時期にあたる。
卒業式の思い出といえば、式場でエンドレスに出続ける鼻水を、ティッシュだとおっつかないのでハンカチをつかってぬぐっていた記憶しかない。
ぼくは、卒業式で涙ではなく、鼻水をぬぐうためにハンカチが必須だった。
さいきんはもう何も対策しない
以前は医者に薬を処方してもらったり、マスクをしたりなど、人並みの花粉症対策はしていたものの、そういうのも面倒くさくなってきた。
薬も効果がそんなにないわりに眠くなるし、マスクはメガネがくもるし耳のつけ根が痛くなる。
なのでここ数年は何の対策もせず、なされるがまま、という悟りにも似た境地にたっしていた。
いまのおれ、腐海の森でマスク外したナウシカだ!
だから、ぼくはこの時期外出するといつも目が充血しており、鼻の下が赤い(鼻水のぬぐいすぎで)。
風の谷のナウシカで、ナウシカが腐海の森の中で一瞬マスクを外すシーンがあるけれど、あのシーンのナウシカにシンパシーを感じてしまう。
そんなスギ花粉を見に行きたい
スギ花粉がモワ~ンと出ているところはどこに行ったら見られるのか?
おそらく、杉林があるところであればどこでも見られるものだとは思うけれど、埼玉県日高市で実際に「モワ~ンなってるところを見た」という情報を入手したので、行ってみた。
武蔵台ニュータウンのある高麗駅
西武秩父線高麗駅。こま武蔵台ニュータウンの最寄り駅だ。このニュータウンの中にある中学校の近くの杉林で花粉がモワ~ンのなってるらしいのだ。
なにもない高麗駅
ずいぶん思いきった形と色づかいのオブジェ
「高麗」という駅名からもわかるとおり、朝鮮半島からの渡来人が住んでいたという伝説がある場所だ。
駅前には朝鮮半島の道祖神「将軍標」がそびえ立っている。
駅前の食堂も閉店していた
駅前でなにか食事しようかと思っていたのだけど、駅前に唯一あったとおぼしき食堂は閉店していた。
ほんとうに何にもない
ここでの食事はあきらめ、とりあえず、近くに杉林があるという中学校に向いたい。そのうちなにかあるだろう。
ショッピングセンターを発見
駅から伸びるメインストリートは山に向かって緩やかな登り坂になっている。
その坂道の両脇にはいろんな形の住宅が整然と並んでいる。
家しか無い
見渡す限り家しかない。
コンビニとか、雑居ビルみたいなものがあるかと思っていたけど、そんなものは一切ない。ずーっと家だ。砂漠に砂しか無いように、ニュータウンには家しか無い。
途中、すき家や松屋みたいなものがあるだろうというのは甘い考えだった。
ちょっとした遭難にちかいものがある。
これはいよいよあぶないと思っていると「こま武蔵台ショッピングセンター」という場所を見つけた。
砂漠でオアシス!
ここにもあの道祖神があった
なにか食べられるものを……と思い、入ってみたものの、ほとんど店のシャッターが閉まっていた。
かろうじて、営業していた肉屋でコロッケを買って食べる。
100円のコロッケ
ソースはかけ放題
誰もいない……
閑散としたショッピングセンター内には陽気なFMラジオが響き渡り、風が強かった。
コロッケを食べるぼく以外に客はおらず、腰の曲がった老婆がコンクリートブロックのすき間から生えている雑草を鎌で刈り取っていた。
そしてぼくはくしゃみを3回して鼻水をぬぐい、目をこすった。
しばらく休憩したのち、ぼくは再び杉林のある中学校に向かって歩きはじめた。
手すりでスギ花粉?
中学校のある場所まで少しずつ段差を登っていく
ショッピングセンターのあった場所から中学校のある場所まではけっこうな高低差があり、いくつかの階段を登って行かなければいけない。
このニュータウンは階段が多い
手すりをツーっとしてみる
これってもしかして!?
匂ってみる
匂いは……ない。そもそも、鼻づまりしてるのでよくわからないし、スギ花粉に匂いがあるのかどうかわからない。
ミツバチなら喜ぶところだが、この粉に過去26年そしてたぶんこれからも苦しめられると思うとなんとも言えない気分になってくる。
すこし見晴らしのいい場所で山並みを眺めてみる。
杉林の山
もやがかかっているようにみえるけど……
白っぽくもやがかかっているようにみえるけれど、これが花粉なのかPM2.5なのか黄砂なのかはちょっとわからない。
もう少し近くに寄ってみてみたい。
杉の木が見えてきた
住宅街をウロウロしていると、杉の木が近くなってきた。
杉林だ!
くしゃみと鼻水はそれなりに続いている。ただスギの木の近くにきたからひどくなったかというと、そういうわけでもなかった。
都内で普通に外出したときとそんなに変わらない印象だ。
カメラのレンズを望遠にして杉の花をよーく観察してみる。
あれ? モワ~ンとして……ない
見るからに凶暴そうなスギの花。だけど、モワ~ンとはしていない。
この日は風がかなり強くて杉の枝もぐわんぐわん揺れていたものの、花粉は出ていないようだ。
こちらは決死の覚悟でやってきているというのに、と針葉樹林にたいし憤慨してしまう。
しかし、逆に考えると杉の木に接近するチャンスでもある。逆ってよくわからないけれど。
やさぐれた感じの杉木立に近づいてみる
近くでみるとその凶暴さがあらわに
おっかなびっくりスギに近づく
かなり近づいてみたものの、スギの花は何かを出してる様子もなく、風に揺られている。
近くで見るとかなりグロテスクな形だ
これだけ近くでじっくり杉の花を観察したのは花粉症になって26年たつが、始めてだ。
先っぽの雄花の部分がイガイガしてて、いかにも体に悪そうである。花としての可愛さが一切ない。
せっかくなので、記念写真を撮っておこう。
はいチーズ
これだけ近づいても、くしゃみ、鼻水は普通どおりだ。杉の木に近づいたからひどくなったという程でもなかったが、しばらくすると、くしゃみが連発してこのありさま。
びゃーくしょん。
杉林に近いところは花粉症もひどいのか?
しかし、こんなに杉林が多いニュータウンにももちろん花粉症のひとはいるはずだ。
地元の人は杉林のない都心に住んでいる人たちよりも花粉症の症状がひどかったりするのだろうか?
帰りにもう一度立ち寄った武蔵台ショッピングセンターの八百屋の人に話を聞いてみた。
シャッターの閉まった店が多い中、貴重な店舗
--花粉がモワ~ンとなってる所を見にきたんですけど……、今日は風が強いわりにはまったく見えなかったです
「今日は確かにあんまりとんでなかったねえ。でも、煙霧の日(3月10日)あったでしょう? あの日はすごかったですよ」
--煙霧の日は花粉とんでました?
「まあ、花粉なのかどうかわからないけど、白っぽくはなってたね。だいたい花粉は3月のはじめぐらいなんじゃないかな」
どうやら、花粉モワ~ンにも時期があり、桜の開花よりもすこし早めの3月上旬がシーズンらしい。遅すぎた。
たしかに写真に撮ったスギの花はみんな開ききったような形をしてた。
「花粉の時期は車なんかもざらざらになるぐらいだから、花粉がとんでるのはわかるね」
車の表面に花粉がついてザラザラする、というのはすごい。
車に付着するぐらいなら、やはりあの手すりをこすって指についた黄色い粉はたぶん花粉だ。
--お父さんは花粉大丈夫なんですか?
「おかげさまで私は大丈夫なんだけどねえ、うちのがダメでね、山梨からこっちに嫁にきたら花粉症がでて、前は日高や飯能から出ると症状が軽くなってたけど、今はどこ行ってもひどいね」
昔はこの辺りを離れると症状が軽くなってたというのが驚きだ。スギ花粉の量じたいが昔にくらべて増えているということだろう。
ノーガード戦法、破れたり
そろそろ目の痒みが、げんかいにたっしてきた。
目がかゆくなってきた
最近は自宅にこもって仕事をすることが増えたのでノーガード戦法でもなんとかやっていたけれど、こうやって外出するとさすがにつらい。
花粉症じゃないひとはわからないかもしれないけれど、鼻づまりの状態でくしゃみを5,6回つづけてすると軽い酸欠状態になって目の前に星がとぶ。
これはある種の気持ちよさがあるものの、さすがにそれがいくどもつづくと、もどしそうになることがある。
目のかゆみも同じで、目をこすっているときに軽い快感を覚えることがある。しかしその後に待ち構えるのは結膜炎という名の地獄だ。
ノーガード戦法もいいのだが、ここは素直に薬を買って飲むことにする。駅前に薬局が一軒だけ営業していたので、そこで薬を買った。
駅前で営業している唯一の店舗
薬屋のおばちゃんにも花粉について聞いてみたところ「花粉は風の強い日よりも、ちょっと弱いぐらいの日のほうがモワ~ンってするんじゃないの?」とアドバイスされた。
ほー、なるほど、こりゃ目からウロコですわい。と、心のなかで思ったけど、口には出さなかった。
薬屋のおばちゃんおすすめのアレグラ。
あらがいがたい「こわいもの見たさの魅力」
スギ花粉はもちろんこわい。
こわいけど、モワ~ンとなってるところは水墨画みたいできれいかもしれないと思って見に行ったのだが、残念ながらシーズンを過ぎていたようだった。
こうやって「忌み嫌われるものに美しさや楽しさををあえて見出す」というのは、ヤンキー漫画やヤクザ映画を楽しむ感覚に近いのではないだろうか。
今回は見られなかったものの、来年こそは、花粉を吹き出す水墨画みたいな杉林を見に行きたい。