絵が下手です
こんにちは、同志の皆さん。何を隠そう、私も絵が下手です。
同記事より
人間の個性にもいろいろあるが、「絵が下手」のわかりやすさはすごい。たとえば「勇敢である」ことをわかってもらうには武勇伝のひとつでも聞かせて勇気を証明する必要があるのだけど、「絵が下手」はこうして見てもらえば一目瞭然である。
言葉なんて必要ない。「絵が下手」は国境を越えるのだ。
美大出身者の「適当」
で、その「絵が下手」をごまかす方法があるのだという。その方法とは何か。「アニメ化する」のだ。
最初に言っていたのは、去年
「初めてでもできるGIFアニメの作り方 全力まとめ」でインタビューをしたerror403さんで、この中で彼は、下手でも適当でも、何コマか描いてアニメーションにすればそれっぽくなりますよ、という旨の発言をしている。
このアニメの足の動きの話をしてたときの発言(
初出)
それから二人目は当サイトのレギュラーライター、べつやくさん。当サイトのPodcastで、先週「アニメにする時は絵が雑な方がいい」と言っていた。「下手でも」とは明言してないが、雑と下手、読み替えても差し支えないだろう。
どちらの話も、そのときは「なるほど、そうだよなー」と思ったのだ。
ところが、である。後で考えてみたら、error403さんは美大生、べつやくさんも美大出身なのだ。エラーくん、「下手でも」の定義を美大レベルで考えていないか?べつやくさん、「雑」っていうけど、美大生の画力を前提にしていないか?
君たち、本当の「下手」を味わったことがあるのか?
話は戻って僕、
この記事で描いた絵。一見頑張って描いているが、よく見ると構造が全然読み取れない
俺が教えてやるよ、本当の下手な絵、雑な絵ってやつを。
なぜか上から目線になりつつ、実際に下手な絵をアニメ化して、それっぽく見えるか検証してみたいと思います。
ペンを握ることすら恥ずかしい
実験をするにあたり、問題があった。
恥ずかしいのだ。描くのが。
描いた絵を見られるのはもちろん、描いているところを見られるのも恥ずかしい。遠くから「アイツ今頃、絵を描いてるのかな」と想像されるだけでも恥ずかしいのだ。コンプレックスが一回転し、下手とかうまいとかじゃなく、もはや絵を描くという行為自体に恥ずかしさを覚えている。
みんなが帰った夜の会社で、会議室に鍵をかけて描いた
あいにく、別の会議室で別件の打ち合わせがあったようで、当サイトのライターたちがワイワイ話していた。好奇心過剰な彼らに、絵を描いているところを見つかったらおしまいである。ササッと部屋の前を横切り、いちばん遠くの会議室にすばやく潜り込んだ。
最初のテーマは「向こうから走ってくる人」。
「向こうから走ってくる人」、「吠える虎」。2つの、あえて難しそうなテーマを選んだ。
1枚目
ちなみに何も資料は見ていない。めざすところが「雑」だからだ。頭の中の3Dモデル人形を動かして描いている。
一応説明すると、上の絵は(向かって)左の足を蹴って、左の手を前に出している。右の手は後ろに下がっているので見えない。
2枚目
3枚目
今となっては何が描きたかったのかよくわからないけど、右足が前に出ている気がする
4枚目
念のため言っておきますが本気です
これで4コマの動きができた。歩きを表現するには、これだけあればひとまず大丈夫。
とりあえず顔を練習してみた
何とも言えない貧相な顔が現われてくると、急に恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が熱くなった。一人しかいない部屋で赤面しながら、急いで本番の4枚を描き上げる。
一枚目。どことなく西岸良平(三丁目の夕日とか)のマンガっぽい。
キツネっぽくなった
この口の開き方に、「絵が下手」のエッセンスがぎっしり詰まっている気がする
赤ずきんちゃんに出てくるオオカミっぽい表情
オオカミっぽいと言えばそうなのだが、買った絵本にこのオオカミが出てきたら返品する。
人間の時はそこまで思わなかったのだが、動物を描いたら急に自分の画力を思い知らされた気がして、一刻も早くこの部屋から逃げ出したくなった。
とにかく、今描いたこの紙は最重要機密書類である。絶対に外部に漏らすわけにはいかない。うっかり落として誰かに拾われたりしたらおしまいだ。確実に自分の手でシュレッダーに入れなければ。
逃避行
これから誰にも見つからないようにこの絵をスキャンしたうえで、シュレッダーにかける。一億円入りのアタッシェケースでも運んでるような緊張感だ。気分は、スパイ映画のワンシーン…なんて愉快なものじゃない。捕食者におびえる草食動物のそれである。
自分の席に戻ろうと、会議室のドアに手をかけたとき、廊下から声がした。
ドアの向こうを談笑しながら歩いていくのが聞こえる。
別室で打ち合わせをしていたライターたちが帰るところなのだ。
危なかった…。あと10秒出て行くのが早かったら、鉢合わせしていただろう。そしてあの虎の絵が白日の下に…。
考えただけで呼吸が速く浅くなる。
誰もいなくなったのを確認してから会議室を出る。
そのあとコピー機に行ってこの絵をスキャンする。誰にも見られないように…。
スキャナに絵をセットしようとしている時、次のピンチがやってきた。
「石川くん」
急に後ろから声をかけられて思わず飛び上がった。
ふりかえると、ウェブマスターの林さんがいた。
通りすがりに一言二言、他愛もない雑談を交わしただけだと思うが、もはや内容は良く覚えていない。完全に上の空だったからだ。
ここでも、あと10秒早かったら、スキャナの天板にセットしたイラストを見られていただろう。危なかった…。
スキャナの宛先(データはメールで送られるんです)をものすごい何回も確認した
いよいよアニメにする
なんとか、誰にも現場を見られることなく、絵をスキャンできた。これで極秘ミッションは終了。
ちなみに僕の場合、絵は一旦デジタルデータになってしまえば、あんまり見られても恥ずかしくないのだ。何だろう、この思春期の女子中学生みたいな、ツボのわかりづらい繊細さ。
4コマを並べてみます
これを位置を合わせたり
傾きを調整したりして
うっ、微妙…。
ぱっと見で「走ってる!」ってかんじではない。でも「走ってるんだよ」っていわれれば「そうかー」って感じではないだろうか。……いや、どうかな……(弱気)
そこで、背景をつけて、ちゃんとこっちに走ってきているように動かしてみる。
あ、これ、けっこう走ってない?走ってるよね??いや、どうかな…(弱気(再))
なんていうか、一応走ってるんだけど、「人間以外のヒューマノイド(宇宙人とか妖怪とか)が人間の動きを真似てこっちに迫ってくる」みたいな不穏さがある。
こっちの背景の方がしっくりくる
不気味の谷という現象がある。人型ロボットを作るときに、人間に近づければ近づけるほど、本物の人間との微妙な違和感が引き立ってしまい不気味に見える、というものだ。
きっとこれが不気味の谷なのだろう。そうなのだろう。だとしたら、不気味の谷現象が発生する程度にはそこそこ描写できてる、と言ってもいいはずだ(ポジティブな解釈)
並べたのがこれ
お、こっちは割と吠えてる。
吠えてるんだけど、…下手な絵が下手なまま吠えてる。
動きはそれっぽく見える。ただ、今回のテーマである「下手な絵をうまく見せる」という方向には全く効いていない!!
【下手な絵をアニメにすると…】
・そこそこ良く見えるけど人間を描くとキモイ
・似てないのはアニメーションではカバーできない
仕切り直し:怠けすぎた
さすがにさっきの絵は適当すぎたのではないか。エラーくんは「下手だったり適当だったりしても」とは言ったが、「下手な上に適当でも」とは言ってない。拡大解釈しすぎだ。
僕は小さい頃から字も汚くて、小学校の先生によく「下手でもいいから丁寧に書け」と言われた。
今度は丁寧に描いてみようと思います。
で、また会議室にこもる
テーマは前と同じ。まずは走ってる人。自分が走ってるところを動画で撮影して、それをコマ送りで見ながら描いてみた。
1コマ目
2コマ目
3コマ目
4コマ目
さすがに前回よりそうとう写実的に描けている。
あくまで前回と比べて、の話であって、お世辞にもうまい絵とは言いづらいが…。
(うまくなっちゃったら企画が成り立たないのでそれでいいのだが)
だってこれとかどう見ても下半身裸
あれ…
長髪でちょっとずんぐりした男性の不機嫌顔みたいになった。虎の模様が、顔と髪型の境目に見えるのだ。
おや…
これはまあまあかな…
うん…
最初の方に貼った過去記事のイラストと同じく、一見下手ではないけどよく見ると構造がよくわからない系のやつだ。
これ、大丈夫かな…。
とにかくアニメ化してみよう。
今度こそ、下手な絵はうまく見えるか
もう夜も更けてきて、社内に誰もいない。もうビクビクしなくていい。下手な絵も堂々とスキャンし放題である。
のびのびとした気分でデータ化したものが、こちら。
走るわ、これ。間違いない。ひとり露出狂の人がいるが。
あの人に引っ張られて、全体に「露出狂が走ってるアニメ」にならないことを祈るばかりだ。
動かしてみると。
後半、移動の具合が悪くて足下が空回りしてる感はあるが、動きだけ見れば完全に走ってる。
これ、個々の絵で見たときより、すごく完成度が高く見えないだろうか。5割増しくらいで写実的に見える。アニメ化によって絵がそれっぽくなったぞ!
調子に乗って、つづいて虎も。
アニメというより違う動物が4匹いるように見えるが
動かしてみると意外に吠えてるのではないか。
こっちも背景をつけて、色も塗ってみた。
あ、虎だ!
我ながら色を塗ったのはちょっとずるいのでは、という気もしないではないのだが、それを差し引いてもアニメ化による「それっぽく」効果は大きいはず。
言い出しっぺに評価してもらおう
とまあ、自分の主観なら何とでも言えるのだ。それでは実験として不十分だ。他人の目で、客観的に評価してもらおう。
先入観を与えないために、実験の趣旨は伝えずに、各アニメについてコメントしてもらった。評価をおねがいしたのは、もちろんこの人たちだ。
走っている人:
「前に向かって走る姿というのは描くのが難しいのに、ちゃんと描けていて良いと思います。ちょうど床にタイルがあるので、それと足を合わせてキャラクターをうまく配置すると遠近感がグッと出てくると思います。内容としては、手前に近づいたところで奥から同じ人が同じように走りだしていると、ループの良さが出て少し面白くなるかもしれないです。」
虎:
「シンボリックな雰囲気が漂っていて良いと思います。絵のテイストや音の情報が無いことも相まって、吠えているのかアクビをしているのかわからないところが動物の怖さと可愛さを同時に感じさせます。より可愛くするなら、"TORA"等という文字を添えると良いかもしれません。より怖くするなら、ガオーという瞬間に背景を横にグラグラと揺らすと良いかもしれません。」
走っている人:
「はじめに見たとき不思議な感覚にとらわれて、「何だろう」と思って何度も何度もみてしまいました。
地面に足がついてるようなついてないような走りで、さらにフラフラして
いるところが「不思議」なのかもしれません。
あと、電車から降りてきてもないし、電車に乗るわけでもないところも
「君はいったいどうしたいんだ!」と思いました。
虎:
生首が浮いているところがすごくいいと思いました。
地面に影があってもよかったかもしれませんが、ないほうがミステリアス
という見方もできます(影のできないなぞの物質でできたトラ、みたいな)。
4匹のトラが次々とあらわれていると思って見てもおもしろいです。
個人的には、2番目と4番目のトラの顔が好きです。
動きが情報を補完する
ちょっときいた!?エラーくんに絵を褒められている。べつやくさんも、何枚かのトラの顔が好き、と言ってくれている。たぶんアニメ化することによって、絵の魅力が引き出されたのではないか。
で、思うにですね、絵が動くと情報が増えるんですよ。一見ネコに見える絵でも、ほえる動作をしたら、あ、大型の肉食獣なんだな、って思うじゃないですか。トラか、と。下手な絵の情報量の少なさを、動きでカバーできるので、それっぽく見える、ということだと思います。
以上、本日の記事「ちゃんと資料を見て描くとうまく描ける」をお送りいたしました。
あとで見たらスキャナに紙を1枚置き忘れていて血が凍った。誰にも見られてませんように…