雪山では、おにぎりが凍ってしまう
山で食べるおにぎりはやたらと美味い。具を入れたご飯を海苔で巻いただけなのに、しびれる程に美味い。が、おにぎり、というかご飯には弱点がある。
ご飯は長時間低温に晒すとでん粉が「老化(でん粉が変化してボソボソになる)」してしまうのだ。冬でも朝作ってその日のお昼に食べるくらいなら大丈夫な事が多いが、山小屋などに一泊して次の日のお昼くらいになると老化してたり、寒さが厳しい場合は凍ってしまうこともある(夜の山小屋は寒い)。凍ったおにぎりはしびれる程に不味い。
おにぎりは雪山にはむかない食べ物である。
これは朝作って昼に食べたのでまだ美味しいが、もっと時間が経つと凍る。
カツサンドは美味いが気軽に食べられない
先日の登山で、余ったから食べてくれといってまい泉のカツサンドをいただいた。これがやたらと美味かった。
パンはご飯と比べて老化しづらく、凍りにくいし凍ってもご飯ほどガチガチにならないので食べられる。-10℃の世界で5時間ザックに入れていたのでカツがちょっと凍ってたけど、噛んでいるうちに融けて美味しくなった。まい泉バンザイ、カツサンドバンザイ。
しかし、今回はもっと気軽に食べられる行動食を考えていきたい。
雪山で食べるまい泉のカツサンドは無類であった。今度は自分で買って持っていこう。
肉入りのクッキーを食べたいのだ
まい泉のカツサンドは美味いし美味すぎるのだが、携帯性や保存性の点は弱い。パッケージを開けちゃったら食べ切らなきゃならない。
僕は行動食としてよくカロリーメイトを食べている。あれは携帯性が良い。2本組で1パックなので使いやすい。だったら、カロリーメイト的なものを、材料に肉を混ぜて作ってみればいいんじゃないだろうか?
という事で、棒状の肉入りクッキーを作ればいいのでは?というアイディアに至るわけである。以上、ここまで発端の説明。
挽き肉とか混ぜてクッキー作っちゃえばいいんじゃないかと。
次のページでは肉入りのクッキーを作ってみる悪戦と苦闘をお送りします。
鶏の挽き肉ッキー
まずは鶏の挽き肉を混ぜ込んでみる事にした。ちょっと量が多いかなと思いつつ、オリーブオイル、バター、砂糖を混ぜたところに挽き肉を投入する。砂糖の量は普通のクッキーより少なめにした。肉を入れる以上はあまり甘くしすぎない方が美味しそうだから。
果たして美味い物が出来るのだろうか。
あと、味付けで黒胡椒、コンソメを入れて繋ぎに玉子1個、小麦粉200gくらいを混ぜ合わせた。分量は、どうせ誰も作らないだろうから細かくは書かない。
肉に合わせて味付けしてみた。
生地が完成。なんかピンク色。
焼けたらクッキーでないものが出来た
焼き上がったそれは、なんかフワフワしててクッキーっぽい硬さはなかった。多分、クッキーみたいに硬くなるには砂糖が足らないし、鶏肉に水分が多すぎたのだ。
焼けたがクッキーではない。パン?でもない。なんだ、これは。
これを食べきるのに1ヶ月掛かった。
食べてみるとなんか美味しくない。硬めのパンで、胡椒と鶏肉の香りがして、でも薄甘くてしょっぱいという、全ての素材と味が大げんかしたような味だ。
こりゃ失敗した、と思ったけど、ちょうど次の日奥多摩の大岳山に登ったので妻の友人(女性)に食べさせてみた。
食べたあと笑ってた。美味しいとは一言も言ってなかったので多分美味しくなかったのだろう。僕も美味しいとは思わない。むしろ不味い。
僕の知り合いは変な物を食べさせられる事が多い。
どうも、工夫しすぎるとダメなのらしい
鶏肉で失敗したので今度は肉をスパムにした。スパムは水分が少ないからだ。あと、トマトの缶詰を使ったり、バターとオリーブオイルの割合を変えたり、味付けを変えたり工夫したものを何パターンか作ったが、どれもいまいちだった。
どうも、スパムはクッキーに合いそうだと判ってきた。
色々作って気がついたのだが、まずクッキーとして美味しくないと、そこに肉を混ぜ込んでも美味しくならないのだ。美味しいクッキーの生地を作って、そこに肉を混ぜ込む事にした。
だから、バターや砂糖の分量は基本に忠実に、コンソメや黒胡椒など余計な味付けは無しという事にした。
次のページでは最新バージョンの肉ッキーを作ります。
大量の砂糖とバターを混ぜる
クッキーは以前
「お菓子で可視化したら意味がわからなくなった」という記事を書いたときに、そのバターと砂糖の分量に驚いた。
今回も分量はあの時のレシピを基本とする。まず、バター60g。と思ったら65g入っちゃったので、砂糖は80gより多くして84gとした。「お菓子作りはキッチリ計ってレシピ通り」という基本をガン無視の愚行である。こまけぇこたぁいいんだよ。
普段、バターを60gも一気に使う事はない。
砂糖84gってティースプーン何杯分ですか。
砂糖とバターを混ぜてたらなんか良い匂いがしてきた。ハイカロリーな美味しさの匂いである。こりゃたまらん、と思ってちょっとつまんで食べてみたら、これが滅法美味いのだ。バターと砂糖を混ぜると神の食べ物が出来上がる。
罪悪感すら感じる美味さである。罪の味がしたのでつまみ食いは封印し、作業を進めなくてはならない。
バターと砂糖を混ぜると神の食べ物が出来上がる。
スパムを混ぜると味が重くもっさりするので、無農薬レモンの皮をハチミツとレモン果汁で煮たものを混ぜた。これを混ぜたときに匂いがまた犯罪級であったが、ぐっと堪えた。エライ。
更に、小麦粉200gと生玉子1個をサックリ混ぜた。クッキーを作るときは、小麦粉を混ぜたら練っちゃダメだと教えられたので出来るだけ守った。
神越えの瞬間。
もう、どう足掻いても美味しくなるでしょ、という生地が出来上がりつつある。そこに肉を混ぜ込むのだ。神への冒涜なんじゃないかという気もするが、単に美味しいクッキーを焼いただけじゃほっこり主婦のお料理ブログである。
容赦なく肉類を投入。
スパム。適度な塩味が良いアクセントになるはず。
ビーフジャーキーも入れてみることにした。
生地を三等分して、それぞれにスパムとビーフジャーキーを混ぜた。一応ノーマルとして、肉を混ぜないバージョンも作った。
ちょっと多いかな?ってくらいスパムを入れるのが肝要です。
ビーフジャーキーはハサミで刻んで入れました。
生地を寝かして整形して焼く
生地が出来たらビニール袋に入れて薄く延ばし、冷蔵庫で寝かせる。後に、冷凍庫に入れて硬くする。硬い方が切ったり型を抜いたりする時に都合が良いのだ。
カロリーメイトみたいに食べたいので棒状に整形した。
ノーマルクッキーは見分けが付くように花型にした。
180℃のオーブンで18分焼いた。
ちょっと焦げたけど完成。肉ッキーです。
ほら、多少レシピと分量が違っても出来上がるのだ。すごい美味しそうな匂いが家中に漂っている。その中にスパムの匂いが混じってたりする不思議。
一見すると、チョコ入りとかオレンジピール入りのクッキーに見えるが、実は肉だ。
ようやく出来上がったので、実際に雪山で食べてみます。
厳冬期の北八ヶ岳に行ってきました
ちょうど雪山に行く予定があったので、肉ッキーを持っていった。2月の北八ヶ岳としては非常に暖かい日だったのだが、それでも最低気温は-10℃で、ザック(リュックサック)の外ポケットに入れた水が凍ったり、中に霜が下りてたりした。その程度には寒かった。
北横岳山頂からの眺め。右のプリンみたいな山が蓼科山。遠くには北アルプス、乗鞍、御嶽山などが見える。
風上に向かって伸びる氷。「エビの尻尾」と呼ばれる。
北横岳は標高2,200mまでロープウェイで登れて、あと300mの標高差を登るだけで山頂に立てるお手軽な雪山である。
と言っても、12本爪のアイゼンとかそれなりの雪山装備が必要だし一応雪山なので未経験者だけでいきなり行っていい場所ではない。
暖かくてあんまり育ってないけど、「モンスター」と呼ばれる樹氷。
山頂は風が強く、吹かれていると顔になにか刺さってるんじゃないかと思うほど痛い。凍る。
冬山はこんな格好で登っております。
という環境で食べてみた
さて、そんな感じの山登り中に肉ッキーを食べてみた。硬めに焼けていて、汁など出ないので扱いやすい。
水分が少ないから凍らないし、塩気が唾液を誘うのか、カロリーメイトよりは水なしでも食べやすい。
行動食はジップロックに入れるのが定番。
スパムの方は食べるとスパムっぽい脂の匂いと、缶詰肉の味がする。ほっくりしてて食べやすい。
ビーフジャーキーの方が硬めに焼けた。ビーフジャーキーとスパムの水分量が違うからと思われる。よく噛むと肉の味と塩味が広がる。登山は汗をかいて塩分を失うので、塩分補給にちょうどいい。
手袋で触っても平気。べたついたりしないし、粉が付いたりもしない。
美味しいっす。これは良い物を作った。
結構たくさん作ったので、一緒に山に登った人たちにも食べてもらった。実は、東京都山岳連盟の初心者向けトレッキングスクールに生徒として参加していて、その実技講習で北八ヶ岳に行ったのだ(他に縞枯山と茶臼山にも登ったよ)。
スパムの肉ッキーを食べてもらった。わりと好評。
こちらはビーフジャーキー入り。売れると言われた。
男性はスパムの肉ッキーが好きだという人が多い気がした。僕もスパム味が好きだ。女性はビーフジャーキーの方を支持した。基本的にはクッキーなんだけど、よく噛むと肉味と塩味が広がって美味しい、意外に合うと評価された。
これから僕の行動食は肉ッキーが定番化しそうです。
今後も研究します
実は、2ヶ月くらい試行錯誤してようやく出来た。結果として、その試行錯誤は全て無駄で、単にクッキーの生地に肉を混ぜ込むだけという簡単なレシピに落ち着いた。なんだろう、この徒労感。
でも、「試行錯誤はいらない」という結論を出すための試行錯誤だったのだから無駄ではなかったと思いたい。
今後も、もっと肉々しくてもっと美味しい肉ッキーを作れるように肉の種類や分量を工夫していきたいと思います。