特集 2012年11月22日

長い!リュウグウノツカイ・マフラー

こうやって添うのが夢でした。
こうやって添うのが夢でした。
リュウグウノツカイ。「龍宮の使い」という高い身分にも関わらず、うっかり海岸に打ち上げられた日には「災害の前兆か」と怖れられてしまう。
しかしその風貌はいかにも神の使いにふさわしく、鷹揚にして華やかである。
怖れられ、あがめられ。そんな哀しみ深い魚を、マフラーにして暖めてあげたい。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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編み図も当然長い

もちろんこの魚の実物にはお目にかかったことはない。昔訪問したサンシャイン水族館に展示してあったはず、と画像を探したが、ホルマリン漬けの白けた標本があるばかりだ。
白くて長かったです。
白くて長かったです。
仕方がないので、ネットでいくつか参考になりそうな写真を探し、見本とする。ヒレの形や本数、模様の入り方など、生前の姿を推測した図や模型がある一方、着岸してしまったあとの何だかよくわからない姿のもあり、それらを脳内で組み合わせ補完しつつ進めていかねばならない。しかも長い。

そして見るべきポイントがいくつもある。ヒレ、模様、色…どこから始めていいのやら途方に暮れる。
右下のオヤジたちみたいなこともやってみたいね。
右下のオヤジたちみたいなこともやってみたいね。
そういうときはまず材料を買いにいけばいい。形から入るとやる気も出る。というわけで、リュウちゃん(名前が長いので以下こう呼びます)の体の大部分を占めるあの銀色、それを再現できるような毛糸を探しに出かけた。

だがピカピカの銀色の毛糸はほとんどなかった。ここが東京だからだろうか。大阪にいけば、銀のヒョウを編みたいねん、と望むおばちゃんたちによって銀色毛糸の一大市場がある、のかどうかはわからないが、お店にあるのはマフラーに向かないような細い糸だったり固い糸だったり暗い色だったりする。

なんとか、イメージに最も近くてマフラー向きの毛糸を見つけた。明るいグレーに銀の細いラメが入った、なんとも上品なものである。東京のおばちゃんにはこれで十分だろう。
銀ヒョウも編めるで、おかあちゃん。
銀ヒョウも編めるで、おかあちゃん。
まずは5個、買ってみた。いや、これから何個必要になるのか、想像するのも恐ろしい。

リュウちゃんの体長は約3mくらいだという。長い。その長さを編むのだから、少しの誤差も最後には大変な違いになりかねない。慎重に行かねばならん。

試しに少し編んでみてから10cm×10cmのゲージで測って目数を把握。この数字を元に、編み図を作成していこう。
15目×22段が10cm、ということは…
15目×22段が10cm、ということは…
こうなる。長すぎてエクセルの横スクロールを使い切ってしまったので、3つに分けた。
こうなる。長すぎてエクセルの横スクロールを使い切ってしまったので、3つに分けた。
本当にこの形でいいか、プリントしてつなげてみた。まあ、こんな感じだな。
本当にこの形でいいか、プリントしてつなげてみた。まあ、こんな感じだな。
エクセルで編み図を作ったところ、3mだと600段になることがわかった。うげー。いや、待てよ。最初のほう(頭から胸)こそ目数は多いが、尾のほうに行くに従いかなり細くなっていく。途中からグッと楽になるはずだ。毛糸の玉数も、お財布にやさしいかもしれない。

図さえできあがればもうあとは編むだけだ。こうなると俄然またやる気が出てくる。このやる気が雲散霧消してしまわないうちに、すぐ始めよう。
けっこう早く進む。
けっこう早く進む。
いつの間にか足元でとぐろを巻いていた。
いつの間にか足元でとぐろを巻いていた。
メリヤス編みという、ごく普通のシンプルな編み方で、4~5日で編み上がった。玉数も6玉ほどで済んだ。どうも楽勝のようだ。

だがしかし、一番面積の広い、銀の地の部分が終わったはずなのに、まだまだ序の口もいいところだったのである。

いちいち工程が長い

それでもまあ、ここまで済んでしまえばかなり楽に思える。あとは頭とエラ、そして体の模様とヒレあたりが大きな工程となるはずだ。

最初から頭を入れて編まずに今頃付け足すことにしたのは、企画が始まってからも口やあごの構造に悩んでいて、とりあえず諸問題を先送りにしたからである。これ、私の悪い癖。

そしてこの時点でまだ、体の模様をどう作業するかは決まっていない。ひとつひとつ霧が晴れてからでないとなかなか動きだせない性分である。
頭とエラ。自分だけにはわかるようになっている編み図。
頭とエラ。自分だけにはわかるようになっている編み図。
ところで上の編み図で、頭の部分(左側)の、斜めに切れ込みが入っているところ。あれが「口」になる。

リュウちゃんの写真を見ると、どうも超受け口というか、こんな風にほぼ上向きで口が開くようになっているらしい。口のあたりはくしゃくしゃっとなっているので、わかりづらい。

難儀な作業になるかもしれない。なぜかというと、この口がパクパク開くようにしたいからだ。こんな角度で開閉しても大丈夫だろうか。まだ先送りにする問題が増えた。
編み終わったあと。丸まって「ラオコーン像」みたいになってる。
編み終わったあと。丸まって「ラオコーン像」みたいになってる。
いったんお湯で洗って整える。
いったんお湯で洗って整える。
洗ったものを乾かし、ここから体の模様を適当に入れていく。編むときから黒い糸を交えてメリヤス編み、という手もあったが、このほうが裏側もきれいにまとまるんじゃないかと、あとから刺繍していくことにしたのだ。どっちが楽だっただろうか。

資料を見ながら、模様を入れたいところにマスキングテープで目印をつけていく。
でも何せ長いので、どれくらいの間隔でいいかがわかりづらい。
でも何せ長いので、どれくらいの間隔でいいかがわかりづらい。
同シリーズの黒目の毛糸で、ものすごく適当に刺繍していく。
同シリーズの黒目の毛糸で、ものすごく適当に刺繍していく。
中学の家庭科の時間に○○ステッチなどの刺繍技法を習ったものだが、もうすっかり忘れている。ネットで検索して知識を切り張りし、実に適当に刺繍らしきものを施していった。

いくつか模様を刺し終え、ふと前を見ると、ロングアンドワインディングロードが開けていた。
このはてしなく遠い リュウグウ坂をよ…。
このはてしなく遠い リュウグウ坂をよ…。

予測より実はもっと長い

さてお口の部分であるが、ここはぜひともあの方式にしたいのです。私が小学生の頃に流行った「キツネマフラー」のように、キツネ顔の口の部分にクリップが仕込んであって、巻いてそれで留めるというアレ。当時欲しくて欲しくて、やっと買ってもらったときはものすごく嬉しかったものだが、どうも今はあまり見かけないようだ。

あのクリップ、どんな名前でどこで売ってるのかわからなかったが、「マフラー+クリップ」で検索したら、あっさり手芸店にありました。

そのクリップを、あの超受け口にピタッと取り付けたく思う。
上・キツネマフラーの図。下・そのクリップ。これまた実に適当に縫い付ける。
上・キツネマフラーの図。下・そのクリップ。これまた実に適当に縫い付ける。
裏からみたらクリップがボコッとでっぱって、存在感を放ってしまってはいるが、なんとか機能するようだ。

さてクリップの出来は置いといて、問題はフリンジだ。フリンジ。マフラーの両端に付いている房のことだが、普通は数本~数十本を束にしてざっくりと付けていく。が、リュウちゃんの場合、背側にずらっと(つまり3mに渡って)、しかも薄く均等につけていきたいところなのである。

よって、1本ずつを隙間なく、このように進めていくことになる。外科医の練習メニューかこれは。
一針一針、丹念に刺させてもろうとります。
一針一針、丹念に刺させてもろうとります。
フリンジは、iPadに巻いてから切るとちょうどいい長さだった。
フリンジは、iPadに巻いてから切るとちょうどいい長さだった。
暮れも押し迫り、リュウグウマフラーのフリンジ付けも最盛期を迎えています。
暮れも押し迫り、リュウグウマフラーのフリンジ付けも最盛期を迎えています。
計算してみた。10cm分のフリンジを付けるのに、約10分。お、意外と進んでる?
ということは、3mで5時間。がんばればなんとか…

しかし、これは出来上がってみてからわかったのだが、編んでるうちに体長がなんだかどんどん伸びたらしく、最終的に4mになっていたのだ。知らないうちにまた長くなりやがって!どうりでフリンジ付けがなかなか終わらないはずだよ。
腹ビレ、本当は2本らしいが、1本つけ忘れた(今気付いた)。
腹ビレ、本当は2本らしいが、1本つけ忘れた(今気付いた)。
目は白と藍色のボタンを重ねて。
目は白と藍色のボタンを重ねて。
フ、フリンジめ…。いや、この長さ自体を恨むべきか。すっかり夜が明けてしまったじゃないか。

とにかくやれるだけのことは全てやった。一度やってみたかったあのポジションを求め、でかけることにしよう。
巻けば割とコンパクトに。リュウちゃん…
巻けば割とコンパクトに。リュウちゃん…

うん、長い

とにかく「長い」というのが第一印象です。
とにかく「長い」というのが第一印象です。
ヒレのように見えるのがたぶんエラ。口はきゅっと引き締めて。
ヒレのように見えるのがたぶんエラ。口はきゅっと引き締めて。
比べてみる(乙幡は161cm)。ビル何階分とかで喩えたくなる長さ。
比べてみる(乙幡は161cm)。ビル何階分とかで喩えたくなる長さ。
この日編集部に伺って、撮影に協力していただいた。全てはあのワンショットのためである。

はい、やっと今朝できました。広げてみましょうか。
そっち持ってください。
そっち持ってください。
行くよー。まだまだ行くよー。
行くよー。まだまだ行くよー。
はいはいはい、まだまだ伸びるよー。
はいはいはい、まだまだ伸びるよー。
打ち上げ記念の写真。やはり本物でない、マフラーレベルの皆の笑顔である。
打ち上げ記念の写真。やはり本物でない、マフラーレベルの皆の笑顔である。
ほらほら、口も開けるよー。
ほらほら、口も開けるよー。
かぱぁ。
かぱぁ。
マフラーは自力で鏡無しで付けるのは非常に困難を伴う。お相撲さんの弟子的な役目を橋田さんに任命する。
マフラーは自力で鏡無しで付けるのは非常に困難を伴う。お相撲さんの弟子的な役目を橋田さんに任命する。
うっかりトライバルなテイストに。
うっかりトライバルなテイストに。
適当に着るとだいたい逆さになる。逆さながらも、自分の尾をしっかりくわえております!
適当に着るとだいたい逆さになる。逆さながらも、自分の尾をしっかりくわえております!

とにかく長いため、首にぐるぐる巻くとモビルスーツみたいに自分が巨大化してしまうんじゃないかと想像していたが、付けてみたら普通にファッションに溶け込んだ気がする。目や長いヒレなど、謎の多いデザインではあるけれど。

つまり「巻いてしまえば何だかわからない」のである。この調子で、アナコンダやボア、うなぎもいけそうだ。それこそ何だかわからない。

【告知】
・23日(金)13時から18時まで、東急ハンズ新宿店7Fにて「ほっケース」ガチャサイン会をいたします。
サインするかしないかどちらでもいいので、ガチャガチャしにいらしてください!そして声をかけてください!たぶん手持ち無沙汰で死にそうなので。
よろしくお願いいたします。

・「TRANS ARTS TOKYO」に出展中ですが、それも今週末で終了です。
最終日(25日)の14時くらいから、私も在廊予定です。
10月21日~11月25日
http://www.kanda-tat.com/

針金ハンガーの巣」も移築してますので、中に入ってカラス気分?を味わってみてください
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