巣探訪
この時期のお楽しみ、巣探しに出かけよう。読み方は「スサガシ」か。まあなんでもいい。背の高い樹の上なんかに、ひっそりと丸見えになっている巣があるはずだ。
見えるだろう、真ん中よりちょっと上方に、しゅわっとした枝の塊が。
しゅわっ。
これのほうがわかりやすいか。これも真ん中上方に、しゅわっと見えるはず。
しゅわっ(解像度低い写真で面目ない)。
ああいうものを撮るのに望遠レンズが欲しいが、うちに望遠レンズが全くないので、本屋に行ってカラスの本を探してこよう。すると、今回の企画に誠におあつらえの写真集があった。
宮崎学氏「カラスのお宅拝見!」(新樹社)。猛烈な勢いでレジに持っていく。
おお、あるある、ハンガー。
これこれ。よく探してよく組み込むなあ。
さっきの街路樹の上に乗っかっているものがカラスの巣かどうかはわからないが、たぶんカラスであるということにして進めたい。そしてカラスは針金ハンガーを建材として使いがちだ。
その針金ハンガーを、べらぼうに集め、人ひとり入れるほどの巣を作ってみたいのだ。
600本のハンガーで巣は作れるか
だけど、うちの針金ハンガーだけでは全く足りない。というわけで先頃、当サイトにてハンガー募集の告知をさせていただいたところ、30名ほどの方々からけっこうな量の針金ハンガーが集まってしまったようなのだ!ありがとうございました!
そして編集部から送られてきた全ハンガー。
お?上の写真で見れば、それほど多くないように見える。まあこれを使わせてもらい、もし足りなくなったら市内のクリーニング屋さんを回ったり、100円ショップでハンガー買い占めたらいいか、なんて思っていた。ところが。
大量のハンガー、ご開陳。
これの壁紙、あったら使う?
数を数えるのも一仕事だ。
広げてみれば、652本ものハンガー。そして袋詰めの段階では想像できないほどのボリューム感。これだけでなんとかいけそうな気がする。いやどうだろう、全くわからない。
ハンガー編み職人への道
全部のハンガーを出してみたものの、さてどうやって巣作りをすればいいのか。鳥たちはこういう迷いもなく、誰から教わったわけでもなく編み上げてしまうからすごい。しかも足とくちばしだけでだ。
うーん・・・手が止まる。
とりあえずハンガーの写真を。これはクリスマス用のリボンをかけられていた。沁みるねえ・・・
こんなきれいな色のオシャレハンガーもあるんだなあ。他、見たことない色がけっこうある。
幸い、ベランダが広いので、ここで編んでいくことにした。しかし猛烈な寒気が上空にやってきている頃で、それがまた着手を鈍らせる。全身ヒートテック&ダウン、考えられる最大の防寒着でベランダに出た。
カゴなど一度くらい編んだことはあるので、まあじゃあ最初はこんな感じかと、小さい四角を作った。でかくなって転がってしまうといけない、と底面を平らにする所存だ。
互い違いに挟んで、と。
間違ってUFO呼んじゃったらどうしよう。
こう、お互いに挟んでいくわけです。
非常に試行錯誤中。
ハンガーが、組み上げるのにいかに向いてないかを知った。ひっかけるところといえば、「?」マークのようなフック状の突起しかない。両肩どうしを挟んだとしても、強制力がない。挿したはいいが、いつの間にかゆるくなってぶら下がっていたり。
考え出すと本当にわからなくなる。自分の今つかんだハンガーを、どう入れていったらいいのか、真っ白になるときが多いのだ。
でもやがて、「とにかくひっかかるとこにひっかければいいや」と諦めがついたとたん、とてもやりやすくなった。下手の考え休むに似たり、この諺を生まれてはじめて書いてみたい。
今度の1周は、向きを変えたりなんかして。どれくらい有効かはわからない。
次の1周は、縦にぶっ挿す。何も考えず、ぱぱっとやると案外うまくいく。
組みあがるものですな。
と、ここらで用事があるのでいったん撤収だ。今思えば、これくらいの大きさまでは室内でやればよかった。なんとなく、鳥の気持ちになって、全部戸外でやってみたかったのだ。鳥の気持ちに想いをはせる暇などなかったけども。
強風が吹いても飛ばされないんだが、念のため室外機に係留。
カラスに狙われないよう、材料のハンガーをぴっちり覆う。巣作りの季節じゃないだろうから大丈夫とは思うが。
だんだん巣作りが楽しくなってきた。思わず「今、巣作り中」なんてツイートしたくなってくるが、説明が面倒なので我慢だ。
さて、明日の朝を待とう。
無心にハンガーをつなぐ
2日目。昼過ぎから今日も巣作りだ。やはり制作のコツがわかって完成までの見通しが立つと、作業はとたんに楽しくなる。頭真っ白にして手だけ動かすのがいい。
単調な作業の連続により、たまに「巣作ったからって、どうだっていうんだ」とローテンションになることもあるが、「完成したらこの中に入って初日の出を見るんだ!」と自分を鼓舞して続ける。カップ麺食べながらテントで迎える初日の出、夢だったのです。例えハンガーでできたテントであったとしても。
たまにこうやって、たわめて整えながら作っていると、本当に職人気分だ。
少しづつ密になると、差し込むのも楽になったり、かえって難しくなったり。
トレイ状のハンガーカゴができた。ここからどうするか。
夢中で編みつつ、球状になるよう一応は意識しながら進めているのだが、ハンガー同士の密着度をこれ以上なかなか高められないため、ぼやーんと平らに広がってきてしまう。このまま何も考えないで進めていったら、巨大な球体が屋上に出現してしまうぞ。その前にハンガーが足りなくなる。軌道修正だ。
もう日も暮れる。屋根まで完成するのはたぶん明日だろう。思ったより簡単なようでいて、時間のかかる巣作りだ。
ちょっとだけ曲げて進行方向を変える。
右下がいびつなのは、ここ入り口だから。
特撮みたいな空の下、作業は続く
3日目。雨こそ降らないが、今週からは全国的に厳しい冬の気圧配置とかで、格段に寒い。そんな中でハンガー巣作りとは、どうなってるんだ世の中。酔狂この上ない。
さて昨日、端っこを立ち上げて球へと向かう準備をしたが、ここはビニール紐も補助的に使っちゃうことにする。本当はハンガーだけで仕上げたいが、仕方がない。
ものすごい雲の下、新たな作業。
なんとかなっていくのだろうか。中心点もずれてきた。
だいいち本物のカラスの巣だって、ハンガーだけじゃなくて枝や紐、ゴミなど混入している。ビニール紐使ってもいいはずだが、そうなると本物志向でいろいろゴミも使いたくなる。でもこの大きさで大量の家庭ゴミを挟み込むことは、見栄え上、そして世間の手前、やはり避けたい。ハンガーだけで仕上げてみたい。
入り口のアーチを、まずつなげていくことにした。
ふと見ると、向かいのマンションのてっぺんにカラスが止まってカーカー鳴いている。ハンガー狙っているのか、仲間に「豪邸建設中!」と知らせているのか。どちらにしてもあまり目をつけられたくないものだ。側で見ててくれるならいいよ。
カメラを急いで向けたが、うっかりセルフタイマーモードのままだったので撮り逃した。それ以来、カラスはやってこない。
興が乗ってきて、暗くなるまで残業。
4日目。少しの天井を残して終えた昨夜の建設作業。その続きをやって、今日で完成だ。
テンションを持たせるため、引っ掛けて引っ張って対角線で留める。
内側からの補修・・・は、首がしんどいので止めた。
テープカット。
組み上げて最後、ビニール紐を切ってみた。おお、形は保たれている。
最近いつも思うんだが、かわいい鳥も、動物も、野生のものは皆、野宿なのだ。当たり前だけど。
寒い日も、真夜中も、ずっと戸外で雨ざらし。かわいい顔して、自分なんかよりすごくタフなんだなあ。私ゃ、数時間ずつの戸外作業でも冷え切ってしまって、屋根のある家があってよかったよ。と、コーヒーと甘モノを口にしながら思うのだった。
完成!ドリーム巣
多少スカスカではあるが、人間用のハンガー巣が何とかできあがった。
ハンガーだけではなかなか密にはできないものだ。
ここが入り口。危なくないよう、フック部分を避けて設計されています。
にじり口からにじり入る。
意外と中は天井が低かった。
テントが好きなのは、程よい狭さがあるからだ。その点では、ハンガー巣は要件を満たしている。
が、テントの長所とは、雨風をしのげるところなのだ。その点ではハンガー巣は全然向いてない。雨も風も入り放題である。編みタイツがなぜか暖かく感じるように、ハンガー巣ももうちょっと暖かいかと思ったが、そんなことは全くありませんでした。
でもいいのだ。この、戸外にいながら個室の感じ。なかなかどうして、本当にワクワクしてきた。ここはオレの巣だ!
巣の中から見た空。何か文明を皮肉っているように見えないこともない。
寝るとけっこうサイコー。
ただし、ところどころ先っちょが出ていて危ないので、本気でくつろごうとすると痛い目に合う。入るときはクッションなど敷いて、破れてもいい服を着て、軍手をつけ、壁には寄りかからないように。五右衛門風呂みたいなテントだ。
それにしても、カラスどもはこれと同じようなことを、くちばしと足だけでやってしまうからすごい。ハンガーなんかももっと変形させて、完全に資材として使いこなしていたりする。どれだけ頭がいいのだ。人間社会をうまく利用しているわけで、そこが、カラスが気になる所以だ。
初日の出はこの中から見るとして、しばらく巣はこのままベランダに置いておくことになると思う。カラス本人が住み始めたらどうしようか。不安と期待が入り混じる。
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ハンガーご提供いただいた方々、暮れの忙しい時期に、送料とお手間をいただき誠にありがとうございました!拙いものですが年賀状お送りしていますので、ご笑納くだされば幸いです。
ではよいお年を!