特集 2012年11月19日

深海からサメとイカが上がってきた

深海から上がってきましてん。
深海から上がってきましてん。
このところ立て続けに2件、深海から上がってきた生き物が捕まって水族館に展示された。

サメとイカである。

別々の水族館に同じタイミングで、だ。どうしてそんな次々と海の底から上がってくるのか。

どちらも見に行ってきたのでレポートしたい。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

まずは八景島シーパラダイス

こちらの水族館に深海ザメが展示されていると聞いてやってきた。

地元の猟師さんが網に変な魚がかかったから、と水族館にもちこんだのだとか。しかし深海ザメはこれまでに飼育の例がないため、展示はするもののおそらく短期の展示となってしまうだろう、とのこと。
水族館の公式ツイッターには「早く見に来てください!」と書かれていた。
水族館の公式ツイッターには「早く見に来てください!」と書かれていた。
だから急いでやってきた。
だから急いでやってきた。
深海サメが捕まったのが10日である。僕が見に行ったのが13日。

「おそらく数日の展示になります」と書かれていたのが正しければ、もうきっとギリギリである。
正式名称「ミツクリザメ」。ポスター貼ってあるってことはまだ展示中なのだろう。間に合った!
正式名称「ミツクリザメ」。ポスター貼ってあるってことはまだ展示中なのだろう。間に合った!
こういう素敵な水槽もありますが、今日はパスしてもっと暗いゾーンへ急ぐ。
こういう素敵な水槽もありますが、今日はパスしてもっと暗いゾーンへ急ぐ。
八景島の水族館は、入るとすぐにジンベイザメの水槽があって大人気だった。

せっかくなのでいろいろ見たいのはやまやまだけれど、なにしろ深海ザメは一刻を争う。ここは他の展示をすべて無視して深海ゾーンへと急いだ。
ひときわ暗い深海ゾーン。
ひときわ暗い深海ゾーン。
すごい人だかりである。

深海ゾーンは展示水槽自体が狭いので押し寄せる人の多さが際立つ。きっとこんなに人が来ることを想定していないのだろう。薄暗くちょっと湿度の高い空間はざわざわとした熱気に包まれていた。

それもこれもみんな深海ザメが見たいからである。
緊急展示!
緊急展示!
それではさっそくだが貴重な深海ザメの姿をご覧いただこう。
深海!
深海!
サメ!
サメ!
しっぽ?
しっぽ?
そう、しっぽのみなのである。
降りてこないんだもん。
降りてこないんだもん。
深海サメは水槽の上端、つまり水面に鼻先を出す形でゆらゆらと浮かんでいた。水槽の外からだと尻尾の一部しか見えない。これはじらす。

だってサメの展示と聞くと普通こういうの想像するじゃないか。
そうそう、こういうのこういうの。
そうそう、こういうのこういうの。
それをこうやって見るじゃん、普通。
それをこうやって見るじゃん、普通。
しかし深海ザメの場合、こうだ。
じーん。
じーん。
あと特徴的だったのが、みんな短期の展示と知っているからか、かわす言葉が重いのだ。

「あら、もう浮かんじゃってるのね」

「こりゃあれだな、ギリギリだな」

「今日来ておいてよかったわね」
「もう次会えるとは限らんからな」
「もう次会えるとは限らんからな」
なんというか、お見舞いみたいなのだ。

中にはガラス越しに尻尾をさすって帰っていったおばちゃんもいた。水族館でこういうしみじみとした展示も珍しい。

これはこれで貴重ではあるが、やはり顔が見たいだろう。20分くらい水槽の前で粘ってみた。

すると
動き出した!
動き出した!
深海ザメは鼻先を水面に出したまま、ゆらゆらと移動し始めた。もしかしたら水槽の上で飼育員さんが動かしているんじゃないかと思ったが、そうではなく自分の意思である。
おお、動けるじゃないか。
おお、動けるじゃないか。
その動きには静かな中にもしっかりとした生命力を感じた。どういう理由かはわからないが、わざわざ深海から上がってきたからこうして展示されているわけで。少ない動きからも何か読み取れるものがないかと、必死で見た。

サメはその後水槽をぐるりと一周して、我々に一通りその顔を見せた後、また水面に浮かんでいって止まった。
ミツクリザメ、そのご尊顔。
ミツクリザメ、そのご尊顔。
このあとこのサメ氏はやはり死んでしまうことになる(写真を撮りに行った日のの2日後のことです)。とても悲しい。

見に行かなければこんな気持ちにもならずにすんだわけだけれど、それでもやっぱり見に行ってよかったと思う。あの日、一生懸命水槽の中を回ってくれた姿を今でも思い出す。
お土産のサメぬいぐるみコーナーにも登場する前の出来事でした。
お土産のサメぬいぐるみコーナーにも登場する前の出来事でした。
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続いては江ノ島

次はイカである。こちらも深海から上がってきたものが水族館で展示中だと聞いてやってきた。

場所は新江ノ島水族館である。
新江ノ島水族館。イルカショーがおすすめ。
新江ノ島水族館。イルカショーがおすすめ。
実は深海イカ、先週末にも別の固体が同じ水族館で展示されていたのだ。

そのときは見に行く前に死んでしまった。深海イカもサメ同様、これまでに長期飼育に成功した例がないのだとか。まさに一期一会である。

残念に思っていたところ、どこかの釣り人がたまたま数日後に深海イカを釣ったらしく、またこの水族館に持ち込んでくれたのだという。某スポーツ新聞には「奇跡の再展示」とまで書かれていた。今度こそ見に行くしかあるまい。

それにしてもサメに続いてのイカである。どうしてそんなに深海魚が上がってきているのか。
まあ江ノ島水族館は最寄り駅からして深海っぽいからしかたがないような気もするが。
まあ江ノ島水族館は最寄り駅からして深海っぽいからしかたがないような気もするが。
この水族館はもちろん深海魚専門ではない。巨大な水槽にはキラキラしたイワシの群れや優雅に泳ぐエイなんかもいて、ちゃんとデートにも使える。
水槽の中でエサをあげる係に昔憧れていた。
水槽の中でエサをあげる係に昔憧れていた。
しかし今日の目的は深海イカである。

イワシもエイも今日はパスして、赤暗い深海ゾーンへと急いだ。イカはサメよりもさらに弱いだろうから一刻を争うのだ。

熱気の深海ゾーン

深海ゾーンは全体的に暗いこともあり、言ってしまえば地味なのだが、想像を超えた形の魚とか怖いくらいにでかいカニなんかも展示されていて見ると絶対おもしろい。

そんな深海ゾーンに、ひときわ周囲より活気のある水槽があった。
それが今回の主役、深海イカの水槽である。
それが今回の主役、深海イカの水槽である。
今回展示されている深海イカは普段は水深200~600メートルの深さに住んでいるのだとか。単純にその距離をどうしてわざわざ上がってきてまで釣られたのかが疑問である。
深海から上がってきたイカ、その名もユウレイイカ。
深海から上がってきたイカ、その名もユウレイイカ。
深海イカは本名「ユウレイイカ」。エンペラをひらひらさせながら幽霊みたいに漂うからユウレイイカである。しかも目が光るそうだ。やばい。これは見てみたい。

暗い水槽に目を慣らす。
どこ?
どこ?
水槽には全体にビニールが張られていてちょっとただならぬ雰囲気が漂っていた。

でもイカはいない。どこ?もしかしてもう展示終わってしまったのか。

あわてて周囲を見渡す。すると
いた!
いた!
水槽のぎりぎり上の端に浮いていた。ポジションとしては先日の深海ザメと同じ場所である。体長は足まで入れて50センチくらいだろうか。

説明どおりエンペラをゆらゆら動かしながら浮かんではいるものの、ちょっと心配な体勢である。イカ、大丈夫か。
「え?これ?」とか「弱ってるの?」とか、サメの時同様に心配そうな声が聞こえる。
「え?これ?」とか「弱ってるの?」とか、サメの時同様に心配そうな声が聞こえる。
深海ではない「普通のイカ」は他の大きな水槽にもいて、体全体をひらひらさせながら気持ちのいいスピードで泳いでいた。それに比べてユウレイイカの動きたるや、ほぼ静止である。
見てて不安になるほどに。
見てて不安になるほどに。

専門家に聞く

ここではイカを見守る水族館の方に話を聞くことができた。

このイカ、今の状態はどうなんですか?

「見たところ元気一杯ですね」

え?

「深海調査でたまに見かけることがあるんですが、たいていこうしてふらふらと漂っているだけですから。」

そうなのか、これで元気なのか。ただならぬ様子に見えるのは住む環境が違うからか。そういえば僕は一度だけ富士山に登ったことがあるのだが、山頂ではふざけられないくらい苦しかったのを覚えている。きっと深海もふざけられないのでそのクセがついているのだろう。

やっぱり長く飼育するのは難しいんでしょうか?

「そうですね、これまでどこの水族館でも飼育例がないので手探りでやっていますが、まずエサを食べてくれるかって問題があります。今日は初めてサクラエビを食べたんですよ。」

どうしてこのところ深海魚がちょくちょく上がってくるんですか?

「冬になって海水温が下がってくると深いところから上がってくることがあるんです。で、網や釣りでたまたまとれてしまうんですね。浮き袋を持っている生物、たとえば深海魚なんかは上がってくる段階で内臓出ちゃったりして死んじゃうことも多いんですが、イカみたいな骨のない生き物は比較的大丈夫だったりしますね。」
岩にビニール袋をかぶせたのは即席エアーバッグらしい。
岩にビニール袋をかぶせたのは即席エアーバッグらしい。
「水族館でイカが長生きしないのは水槽内の岩とかガラスにぶつかって頭の部分が傷ついてしまうからなんです。だからこうして岩にビニールをかぶせたりして工夫しているんですけど、ちょっと見た目悪いですよね。」

しかし見た目の問題ではない。イカにとって最適な環境を優先すべきである。

ちなみに先週僕が間に合わなかった先代ユウレイイカはすでに標本として展示されていた。
先代ユウレイイカ。標本になっているためじっくり観察できる。
先代ユウレイイカ。標本になっているためじっくり観察できる。
イカである。
イカである。
不思議だったのはサメに比べ、イカには情がわかなかったことである。形の問題だろうか、それとも何かサメからだけ伝わるものがあったのか。もしかしたら先代ユウレイイカも、生きている間に会えていたならば、こうして標本を見たときに感情があふれ出ていたかもしれないが。

深海から上がってきていいことあるのか

深海魚にとって決して安全ではない上の方に上がっていくということは、もしかして我々人類が宇宙を目指すのと同じ志なのかもしれない。そう考えると上がってきたやつらには敬意を示さないわけにはいかないのである。
深海ゾーンにはおなじみグソクムシもいました。安定のきもちわるさ。
深海ゾーンにはおなじみグソクムシもいました。安定のきもちわるさ。
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