細胞の話はわからないがお菓子ならわかる
iPS細胞というのは、生物から取り出した細胞を、その細胞が体の一部として機能する前の状態に一度リセットしたものなのだとか。リセットしているので新たに培養することによってどんな機能を持つこともできる。
すごいとしかいいようがない。
というかすごいしかいいようがない。車を作るとか橋を架けるとか、そういうなんとなくやり方の想像できる「すごい」をはるかに超えたすごさである。わかんないもの。
しかしわからないなりにその仕組みを身近なもので再現することはできないだろうか。たとえばお菓子はどうか。
いま一気に話が飛んだけど大丈夫か。
つまりこういうことだ。
お菓子はほとんどが小麦粉と砂糖とバターでできていると言っていい。
ということは、だ。
加工の段階を初期化したら、一つのお菓子から別のお菓子を作ることだってできるんじゃないのか。クッキーとして認識されていた細胞(ここでは小麦粉)を初期化し再び加工することで、ケーキになったりビスケットになったりするということだ。
夢のiPSお菓子である。
クローンポッキーを作る
今回、iPSお菓子の目指すところはポッキーと決めた。誰もが知っているお菓子だし、誰もが好きなお菓子でもあるからだ。
今日は別のお菓子を一度初期化して、新たにポッキーに作り変えてみたい。このために代休を取った。
被験者1:チョコチップクッキー。
被験者2:アルフォート。
チョコチップクッキーとアルフォート、どちらも大雑把に言うと小麦粉とチョコレートである。
これらをいったん初期化してポッキーに組み替えられたら僕は山中教授である。
チョコチップクッキーは袋から出してバットに並べると手作りっぽく見える、というコネタを発見。
新聞で読んだが山中教授はランナーらしい。僕だってたまにマラソン大会に出たりしている。
だからどうした、という話ではあるが、なんだか少し親近感わくだろう。例えば僕とマイケルジャクソンとだったら、肺で呼吸してる男性、くらいしか共通項ない。それよりは山中教授の方が近いというわけだ。
お菓子の話に戻る。
クッキーを初期化する
まずはチョコチップクッキーを初期化するところから始めよう。
先の山中教授がノーベル賞を受賞した理由も「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」だという。
その最も大切なプロセスをクッキーでやってみるとこうなる。
クッキーをジップロックに入れて砕く。
それをさらに細かく砕く。
小麦粉がクッキーと呼ばれる理由は丸くて硬いからである。その個性をすべて初期化するのだ。
するとクッキーはただの茶色い粉の山になる。
チョコチップクッキーが初期化された瞬間である。
初期化されたクッキー。
地味な作業は続く
次に初期化された粉の中からチョコ成分を拾い上げる。
クッキー部分の純度を上げると共に、拾い上げたチョコは後にポッキーの表面に塗る用になるのだ。
箸を正しい使い方を教えてくれた親に感謝したい。
話は戻るが、ノーベル賞を受賞した山中教授は人間的にもよくできた人でそのため人望も厚いのだという。
こういう細かい作業は頭の横の方がしびれてくる。
そういう人に、僕もなりたいと思っている(また特に共通項が見つけられなかった)。
初期化されたクッキーに入っていたチョコ。
地味な選別作業が実を結び、クッキーとチョコとを分離することができた。
アルフォートも初期化する
同じようにアルフォートも初期化していく。
アルフォートの場合はチョコレート成分が表面に厚く固着しているため、砕く前にこれを丁寧に外していく必要がある。
手早くやらないと手の熱でどんどん溶けるから注意だ。
ここでアルフォートの2枚おろしについて、経験した立場からそのコツを伝授したい。
1.まずビスケット部分の四辺からはみ出したチョコレートを切り落とす。
たいした話じゃないのでだいたいでいいです。
2.次にビスケットとチョコレートとの間に包丁を立てるように入れて2枚におろす
まっすぐに包丁を入れるのがポイント。
今回の全工程の中で、ここが一番やっていて気持ちよかった。ビスケットとチョコレートとの間に包丁がサクッっと入っていく感覚は永久に続けていたくなるほどの魅力を秘めている。
これで下準備は完了である。
チョコレートを外したアルフォートも、クッキー同様初期化しておこう。
ビスケットを初期化しておく。
同じくチョコチップクッキーもさらに細かく砕いておく。
初期化したクッキーでポッキーを作る
クッキーでポッキーである。
もう自分でもなに言ってるのか分からなくなってきているが、つまりはクッキーをつぶして作った粉でポッキーを作っていくのだ。
粉のままだとまとまりが悪いので生クリームとショートニングを少しだけ加えて練りこんでいくことにした。
バターではなくショートニングを使ったのはできるだけチョコチップクッキー本来の味を変えたくなかったから。
よく練って生地にまとまりがでてきたらラップにつつんで薄く延ばす。
実は僕はかつてお菓子を作って生計を立てていたことがあるのだ。
初期化したチョコチップクッキーからできた生地がこちらである。
どうみてもクッキー生地。
一見普通のクッキー生地に見えるが、逆にクッキーから作っている。
これにチョコチップを混ぜ、丸くして焼いたらまた同じチョコチップクッキーができるだろう。
となると間に費やした労力(砕く、選ぶ、猫を避ける、混ぜる、こねる、など)はどこに消えた、ということになる。
不思議である。2時間ほどかけたおれの作業が無になるのだ。運動量は保存される、という物理法則を習ったことがあるが、中には保存されない運動もあるのだ。
いよいよポッキーになる
生地をなじませるため、冷蔵庫で3時間ほど寝かせてからポッキーの形に切り出した。
長さは揃えたけど、これ以上細くすると切れるので太さは余裕をもって。
アルフォート粉も同じように生地にして切り出す。
そしてこれをオーブンで焼く。
棒状にした生地を220℃のオーブンで10分間焼く。
ここまで作業をしてきて思ったのだけれど、小麦粉というのは実際にiPS細胞的な役割をはたしているではないか。加工の仕方によってクッキーにもパンにも餃子の皮にもなるのだ。世界を作っているものの3割くらいは小麦粉なんじゃないかと思うほどである。四国はうどんがあるから6割くらい小麦粉だろう。
さていい匂いがただよってきた。
きれいに焼けました。
もう最初なんだったか忘れた。
同時に分けておいたチョコレートも温めて溶かしておく。
チョコチップクッキーから出てきたチョコチップは、ちょっとやそっと温めたくらいでは溶けてくれないので、砕いてアルフォートのチョコに強引に混ぜ込んだ。
アルフォートのチョコはオーブンの余熱でも十分溶けます。
そして溶かしたチョコレートをiPSポッキーに塗っていく。
こういう作業をした後に本物の、というかクローンじゃないポッキーを食べるとその完成度の高さに感心してしまう。あの細さで作るのは神業だ。
焼いた生地が温かいうちの方が塗りやすいです。
こうして見ると出来はともかくやりたいことは伝わるだろう。持ち手の部分を残してチョコレートを塗ると、なんとなくポッキーに見えてくるのだ。
少々無骨だが表現するとしたら「ポッキーみたいなお菓子」だ。
あとはこれを冷蔵庫で冷やして出来上がりである。
クローンポッキーの完成
iPS細胞の特徴を真似して、お菓子を一度初期化したあと、そこから別のお菓子を作ってみた。
いわばクローンポッキーである。
クローンポッキー。
実は同じものである。
これも同じ。
さて味はどうなのか。
違いが分かるよう、元の状態のお菓子とクローンポッキーとを交互に食べ比べてみた。
お前、アルフォートだろう。
食べてみるとこれがなんとも不思議なのだ。
形はポッキーっぽいのに、まったくチョコチップクッキーとアルフォートの味がする。
自分で作っておいてあれだが、意外なところから知っている味がすると本当に驚く。一瞬わけがわからなくて笑ってしまうほどだ。
結局僕は休みを取って今日一日何していたんだっけな、と思いながらアルフォートの味がするポッキーを食べた。
iPSお菓子、今後の研究に期待
結局ポッキーの形をしたアルフォートを作って満足してしまったが、iPS細胞のすばらしさをなんとなく感じることができた。この分野、研究が進めばきっともっと完璧なポッキーが出来るのだろう。今後の動向に期待したい。と、なげやりな結論で終わる。