特集 2012年11月18日

植栽文字コレクション`12

人は斜面に字を植えずにはいられない。
人は斜面に字を植えずにはいられない。
施設の入り口や公園等で芝の斜面に横たわる緑の巨大文字。
ほっこりして優しくて、それでいで強くて、なにしろでかい。

時おり見かけても特に話題にのぼることはないが、なんとなく心のどこかに引っかかっている情景なのではないだろうか。

よく注視してみると、タイポグラフィーとしてのプロポーションもさることながら、そこから発信されているやたら局地的な情報も味わい深く、見るものの心をつかんで離さない。あまりにも離さないので集めてみた。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

ユニバーシティで植栽文字

約1ヶ月前、スベスベマンジュウガニを探す道程で迷いこんだ横浜国立大学の入り口斜面に描かれたYNU。
「うわー道まちがえたわー」と慌てる私を諭すように青々と萌え、「あんたここ横国大(YNU)ですよ」と一目ではわからないメッセージを発していた。
まさかの(前回と)同じ写真はじまり。
まさかの(前回と)同じ写真はじまり。
ツツジかキンメツゲの一種だろうか?
カチッと刈り込みいい感じの3Dに仕立てている。
いいねえ、刈ってるねえ。
この唐突な出会いがある記憶を呼び覚ました。

「あんなの実家の近くにあったわ」

神奈川県厚木市の奥地「まつかげ台」
山を削って作られた全体的に斜めっている住宅地の中に
不気味な静けさで地獄の入り口のように広大なくぼみが存在している。
フェンスで囲まれ、立ち入りは不可。
フェンスで囲まれ、立ち入りは不可。
調整池というものらしいが、いったい何のために存在しているスペースなのか皆目わからず、幼い頃は仲間うちで「ここでゴリラが飼われている」というニュータウン伝説がまことしやかにささやかれたものだった。

このゴリラゾーン(いま命名)上部の斜面に巨大な植栽文字が横たわっている。
写真じゃわかりにくいがそうとうでかいです。
写真じゃわかりにくいがそうとうでかいです。
「まつかげ」

一番左は厚木市の市章だ。

ここで育った私が言うのだから間違いないが、ここにはこれといった観光資源はない。
坂道に家が立ち並び、小さな商店街がある、いかにもベッドタウンといった住宅地である。

こんな局地的な情報が草木を使ってやたらでかい文字になっているのが不思議だ。
冬になるとコントラストくっきり。
冬になるとコントラストくっきり。
こちらは昨年の冬に撮影。いつ来てもきちんとメンテナンスされている。

厚木市役所にメールで問い合わせたところ、この地域で作られた「まつかげみどり育成会」が昭和62年の設立時にサツキツツジを文字の形に植樹したもので、年2回ほど、草刈りなどを行っているとの事。
長きにわたって故郷のランドマークを保全している不断の努力にはただ頭が下がるばかりである。
ついでですが、すぐ横の階段もいい階段です。
ついでですが、すぐ横の階段もいい階段です。
書体は角刈り体。カチッと刈ってある。気持ちいい。
アクリル版を切り出したようにエッジがきいた「か」
アクリル版を切り出したようにエッジがきいた「か」
床屋にいったらこの写真を見せて「こんな感じで角刈りしてください」と注文したいものだ。

丸刈り体はかわいい。

実家の近辺にもうひとつスポットがある。鳶尾山のふもとのなだらかな斜面を利用して作られた地形豊かな(ライター大山さん評)団地、鳶尾(とびお)団地である。
)団地ドーン。商店街の2階に「理容ハンサム」
団地ドーン。商店街の2階に「理容ハンサム」
私はこの団地の住人ではなかったが、幼少の頃、この「ハンサム」で散髪をしていた。
子供心に「ハンサム」という店に入るのは恥ずかしかったのを覚えている。

バスのターミナルから団地の真ん中を通る車道を見ると、その先にそれはある。
目立つなしかし。
目立つなしかし。
とびお。さすがに漢字(鳶尾)はむずかしいか。
とびお。さすがに漢字(鳶尾)はむずかしいか。
さきほどの角刈りと対極をなす、丸刈り体。樹木本来の形をよりいかした曲線的な丸タイポである。
「び」がかわいい。
「び」がかわいい。
「まつかげ」と違って間近で鑑賞する事も可能。
ベストビューは車道の上を渡して団地の街区を結ぶ歩道橋の上だろう。
まるみとかわいさをじっくり可能。
まるみとかわいさをじっくり可能。

デストロイ状態もまた味わい深い

相模湖駅出口。昨年撮影した写真の背景に明らかに意図的に配置された樹木が見える。これは間違いなく植栽文字。
かっこいいゲートのむこうがわ
かっこいいゲートのむこうがわ
早速現地に向かってみると...
もっさー 野原に同化しかけている。
もっさー 野原に同化しかけている。
ネットで調べると「かんげい さがみこ」と書いてあるらしい。
「さ」がわかりやすいかな。
「さ」がわかりやすいかな。
現状こそデストロイ度が高いが、これからの季節、周りの草が枯れたり刈られたりしてまた力強く復活してゆくのだろう。

まあ、こういうのは「前あったんだけどなー」とか「WEBで調べた時はあったんだけどなー」みたいなきっかけが必要で、ナチュラルに見つけようとすると斜面の樹木を見るたびに疑心暗鬼におちいり、なんか病的になってしまうおそれがあるので注意が必要だ。
これ「い」じゃないか?
これ「い」じゃないか?
「・(ナカグロ)だ!」(ちがいすぎ)
「・(ナカグロ)だ!」(ちがいすぎ)
こんな調子でどしどし集める。
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伊豆 修善寺IC出口「修善寺」

にゅっ、と地面から盛り上がった感じがまたたまらない。
にゅっ、と地面から盛り上がった感じがまたたまらない。
「修善寺」とか結構複雑なつくりの漢字だと思うのだが、軽やかな丸ゴシックできっちり植え込まれている(描き込まれている、みたいな感じで)「静岡県きのこ総合センター」や「伊豆極楽苑」等、
この先に待ち構えているワンダースポットへの期待感を増大させる
ウェルカム植栽である。

茅ヶ崎市 赤羽根中学校「あかばね」

高低差はキャンバスだ。
高低差はキャンバスだ。
中学校の校庭の外側の緩斜面に配置された角刈り体の植栽文字。

フェンス越しとはいえかなり近づいてじっくり鑑賞できる。
「ば」と「ね」のかすれもいい味だしてます。
「ば」と「ね」のかすれもいい味だしてます。
道路を挟んだ小高い空き地からは理想のアングルで鑑賞可能だ。
あんまりじっくり眺めてると怪しまれますが。
あんまりじっくり眺めてると怪しまれますが。
「はばたけ」かな?
「はばたけ」かな?

JR中央線 西国分寺駅 「JR東日本」

ひと筆「JR」のくにゃんとした「曲げ」と、くっていう 「折れ」の組み合わせがいいですね。
ひと筆「JR」のくにゃんとした「曲げ」と、くっていう 「折れ」の組み合わせがいいですね。
駅の下り方面ホームの端あたりから見ることができる。
ホームの端でカメラを構えるのは鉄道の写真を撮影するマニア「撮り鉄」というのが一般的だが、この駅に関しては「撮り栽」がつどうのだ(つどいません)
からまるツタがワイルド&セクシー
からまるツタがワイルド&セクシー

横浜 井土ケ谷「ミナミの丘」

京急井土ケ谷駅周辺の街の景観の隅に侵入してくる植栽文字。
大統領の顔とか彫ってそうな高さ。
大統領の顔とか彫ってそうな高さ。
町を見おろす雄大な丘から、更にななめ上を向いたその目線はもはや人類を相手にしていない。
一体何なのか。
霊園でした。
霊園でした。
ほんとうはこのミナミの丘の後に「メモリアルパーク」と続くのだ。
やすらぎを感じる丸刈り体。これもやはりサツキツツジか。

駆け足で紹介してきたが、次はいよいよ今回いろいろ見に行った中で感動を通りこして衝撃だった2作品「植栽文字コレクション」準グランプリ・グランプリの発表です。なにがいよいよだかわからないが。
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群馬県館林 県立つつじが岡公園

特急りょうもうに乗り、やってきたのは群馬県館林。
wikipediaに「今から約2万年前に館林に最初に人々が住み始めた」 とか書いてあってなんかすごい。
wikipediaに「今から約2万年前に館林に最初に人々が住み始めた」 とか書いてあってなんかすごい。
いろいろあって、茶釜から手足を出したたぬきが活躍する分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)という昔話のルーツとなっている茂林寺がある事から、駅を一歩でるとたぬき推しの嵐である。
駅前のロータリーから …
駅前のロータリーから …
要所要所でタヌキ。
要所要所でタヌキ。
市役所の入口前にもタヌキが跋扈。
市役所の入口前にもタヌキが跋扈。
オビ=ワン・ケノービ!
オビ=ワン・ケノービ!
人類は少ないかわりにインパクトがつよい。
人類は少ないかわりにインパクトがつよい。
30分程歩き、すれ違う人や物は実はみんなポンポコリンが化けているのではないかと猜疑心もマックスを迎える頃、目的地に到着。
ツツジの名称
ツツジの名称
関東を代表するツツジの名所、群馬県立つつじが岡公園。
その由緒は江戸時代にまでさかのぼり、樹齢800年と言われるヤマツツジの古木や、宇宙飛行士の向井千秋さん(館林市出身)と共にスペースシャトルで宇宙へ飛んだ「宇宙ツツジ」など、数々の稀少なツツジが保護育成されている。
ツツジの古木ロード。
ツツジの古木ロード。
あんまりスペーシーじゃないけど宇宙ツツジ。
あんまりスペーシーじゃないけど宇宙ツツジ。
ツツジの開花期間の4月上旬からゴールデンウイークにかけて、咲き誇る色とりどりのツツジの花を楽しみに、全国から40~50万人もの人が
訪れるという。

今はオフシーズン中で、そんな賑わいなど嘘の様に閑散としているが、そもそも花が目的ではない私にとってはかえって好都合というもの。

目的の植栽文字は、現在は閉鎖している温室の入口付近にあるという。
温室だ。寒いし入りたい(無理)
温室だ。寒いし入りたい(無理)
なんか見えてきた!
なんか見えてきた!
これです!つつじが岡公園でつつじで書かれた「つつ字」
これです!つつじが岡公園でつつじで書かれた「つつ字」
写真に写る事に慣れていない筆者のポーズがひたすら無粋だが、それはともかくつつじで「つつじ」と書くという、1回転した切り口が私の琴線にハードヒットした。
申し分ない盛り上がり。
申し分ない盛り上がり。
問い合わせた所、サツキツツジの一種を使用しているとの事。
丈夫でせん定(形を整える)もしやすいのが理由らしい。ツツジ総本山だけあって仕上がりも美しい。
誰かフォント作りませんか。
誰かフォント作りませんか。
樹齢800年のヤマツツジに負けず、長きに渡ってこの地につつ字を伝承してほしいものだ。

つつじがシーズンオフとはいえ、公園そばの城沼湖畔には白鳥がいたりゆるキャラがいたり楽しめますよつつじが岡。
歩道脇に唐突に白鳥があらわれる。
歩道脇に唐突に白鳥があらわれる。
そこに顔をはめるのか。
そこに顔をはめるのか。
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グランプリ:三重県多気町 天啓池ふれあいパーク

ネットで調べてからいてもたってもいられなくなった植栽文字が西にあった。
名古屋で新幹線から乗り換えて伊勢方面を目指す。
車窓が素晴らしい。
車窓が素晴らしい。
こんなのを見るとつい文字を探してしまう。
こんなのを見るとつい文字を探してしまう。
歓迎!多気町
歓迎!多気町
反対側が「歓送」になっているという芸の細かさ。
反対側が「歓送」になっているという芸の細かさ。
さらにローカル線を乗り継ぎ、相可(おうか)駅から田園の中をひたすら歩く。
「何をやっているのだ俺は」とか思わずに無心で。
「何をやっているのだ俺は」とか思わずに無心で。
種撒きゃカラスがほじくる。
種撒きゃカラスがほじくる。
日本に住む代表的な2種のカラスのうち、都会に住み、残飯の肉や魚を食べ散らかしているのがハシブトガラスで、人里に住み、木の実などの植物性植物を好んで食べるのがハシボソガラスであり、民話で権兵衛がせっかく撒いた種をほじくってしまうカラスはその食性から見てハシボソガラスの可能性が高いそうである。

なんてどうでもいい事を思い出しながら歩いているうちに、ついに目的地が見えて来た。
入口の階段を肉厚の刈り込みが覆っている。なんかこの手のものに造詣というか、理解が深そうだ。
なんか期待できそうな刈り込み装飾!
なんか期待できそうな刈り込み装飾!
のびのび看板。
のびのび看板。

「のびのびパーク天啓」

農業用水確保の為につくられた「天啓池」の周辺が地域福祉センターの竣工にあわせて整備され、親水公園となった。
このどこかに植栽タイポが…
このどこかに植栽タイポが…
この池の遊歩道沿いの岸に探し求めている植栽タイポがある..はず。とどんどん進むと…
あれだ!…
あれだ!…
やばい、でかい!
やばい、でかい!
ビオトープ!
ビオトープ!
!
!
!
!
テンションの高いおっさんスケールで大きさを実感してください。
テンションの高いおっさんスケールで大きさを実感してください。

「ビオトープ」

ビオトープとはもともとドイツで生まれた概念であり、ひらたく言えば「生き物が生息する場所」という意味で、最近では郊外の公園などに水辺や草地を作り、生物の生息環境を生み出す試みもビオトープと呼ばれる。

この公園にはビオトープが存在しているのででかく誇示するのはもちろん問題ないのだが、なんていうか、そう来たか感に打ちのめされる。これだけでかい文字を作るならもっと他になかったのか。のびのびパークの看板あんな小さいのに。
池の対岸から。相当視力悪くても読めるのではないか。
池の対岸から。相当視力悪くても読めるのではないか。
かなり肉厚の丸刈り体。地元の商店街で評判のメンチカツのように、ジューシーでボリュームたっぷり。それでいて「プ」のなにこれどう書いたらいいのかわからない、プをプたらしめている右上の丸はちゃんとくりぬいてあるという繊細さ。
まさにグランプリにふさわしい風格とクオリティであると言えるのではないか。

そして、これだけの存在感をはなっておきながら施設上のビオトープは植栽文字の手前ではなく向こう側にあるのだ。
手前の水辺は天啓池。施設上のビオトープは反対側にあるのだ。
手前の水辺は天啓池。施設上のビオトープは反対側にあるのだ。
まあ、とにかくいい植栽文字だった。せっかくだからビオトープにでも寄っていこうかと植栽文字の横をのぼり、土手に出てみると…
!もう1個ある!iPS細胞か!(ちがう)
!もう1個ある!iPS細胞か!(ちがう)
まさかのセカンドビオトープが眼前に姿をあらわした。
これはちゃんと手前のビオトープを案内している。所定の位置である。
これはちゃんと手前のビオトープを案内している。所定の位置である。
先ほどのファースト・ビオトープにくらべると大ざっぱなつくりだがちゃんとビオトープのところにあるので、むしろしっくりくる。
ビだけほそい。
ビだけほそい。
蝶が飛んできた。
蝶が飛んできた。
一匹の蝶がひらひらと植栽文字へと飛んできた。
きっとこの文字を見てビオトープへやってきたに違いない。
これだけでかい文字だ。今に蝶などではなくもっと大きな、得体のしれない何かが飛来してくる日がくるかもしれない。
そんな夢想を抱きながら天啓池を後にした。
パノラマで撮影したら無駄にダイナミックになった。
パノラマで撮影したら無駄にダイナミックになった。

い出よ、植栽文字の強者たち

看板や印刷物等、日頃、目にする中でも最大級の文字、植栽文字。
まさにキングオブタイポといえる部門のグランプリの栄冠は天啓池「ビオトープ」の字上に輝いた(独断で)
今後、これを上回るインパクトのものがあらわれるのか?注視してゆきたい。
三重でもうひとつ採集した「ニコニコゴルフ」看板と一緒に見ると その拡大率の大きさに、なるほど、そりゃ文字植えるわってなる。
三重でもうひとつ採集した「ニコニコゴルフ」看板と一緒に見ると その拡大率の大きさに、なるほど、そりゃ文字植えるわってなる。
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