特集 2012年10月21日

スベスベカニマンジュウなら毒は無い

おっさん、はじめてのお菓子作り。
おっさん、はじめてのお菓子作り。
以前、ライターの小野法師丸さんが探していたり、私もクラブ活動「毒部」で紹介したが、スベスベマンジュウガニという、冗談みたいな名前のカニがいる。
冗談にしてもブラックジョークで、このカニは体内にサキシトキシンという、わずかな量で人を死に至らしめる猛毒を持っている。カニの中でもトップクラスで茶菓子っぽいのに、こやつを食べる事はかなわない。「まんじゅうこわい」という落語があるが、まじでこわいまんじゅうなのである。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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倒置法まで使って言うほどの事なのか

ならば無毒化して味わってしまおうではないか。スベスベしたカニのまんじゅうを作って。
「食べられないスベスベマンジュウガニ」から、「食べられるスベスベカニマンジュウ」というコペルニクス的転回からの、おっさんお菓子クッキングがはじまった。コペルニクスさんごめんなさい。

スベスベ感を確認しよう(身をもって)

昔読んだ吉田戦車先生の漫画に「キツネ色になるまで焼くのだ」と言われた娘が実際のキツネ色を自らの眼で確認するために、北海道までキタキツネを見に行くという話があった。あれから20年以上が経過して、自分がその立場におかれるとはゆめ思わなかった。
リアルなスベスベを追求するにはやはり、この目で、この手で、今一度、確認せねばなるまい。そう思い立った私は一路三浦半島へ向かった。
横浜国立大学の植栽文字(道に迷った)
横浜国立大学の植栽文字(道に迷った)

磯あそび堪能

スベスベマンジュウガニは日本では相模湾より南の岩礁に分布している。関東圏で観察しようとすると、房総半島か三浦半島が主なスポットとなる。
私は三浦半島でチャレンジ。数年前に一度、探しに訪れたので土地勘もあり、岩礁の状態も頭に入っていたので探索しやすいと考えたからである。三浦半島の先端、油壺湾付近の磯へ向かう。
後ろの方のやつを出すときとかどうするのだろうか。
後ろの方のやつを出すときとかどうするのだろうか。
自決した三浦一族の血で油のように染まったのが油壺の由来…
自決した三浦一族の血で油のように染まったのが油壺の由来…
磯ヤッホー!
磯ヤッホー!
大潮の干潮時を狙っただけあって見事な潮だまり。潮が満ちて潮だまりが消える前になんとか発見しなければならない。
スベスベマンジュウガニよ出てきておくれ。取って食いやしないから(死ぬし)
イソガニ、ヒライソガニ
イソガニ、ヒライソガニ
早速イワガニ科のカニを捕獲。
オウギガニ
オウギガニ
シワオウギガニ
シワオウギガニ
オウギガニ科のカニ達。スベスベマンジュウガニもここに属し、丸っこく平べったい体、鈍重な動作などの共通した特徴を持つ、「お、スベスベ!」と思ってため息をつくのは 彼らを見つけた時。良い意味でも悪い意味でも「おしい」のだ。


もちろん見つかるのはカニだけではない。
バフンウニ
バフンウニ
クロイソアメフラシかな?
クロイソアメフラシかな?
分不相応なすみかのヤドカリ。
分不相応なすみかのヤドカリ。
ドクターフィッシュのようにエビがやってくる(結構痛い)
ドクターフィッシュのようにエビがやってくる(結構痛い)

荒くれ者参上

唐突に大物をゲット。
でか!先を争うように右に逃れるその他大勢。
でか!先を争うように右に逃れるその他大勢。
イボイワオウギガニ。名前からして常にそこらじゅうの物を殴りつけながら歩いていそうな粗野な印象を受ける。
他のカニが岩だと思って隠れるくらいでかい。
他のカニが岩だと思って隠れるくらいでかい。
ケースから平気で抜け出す登坂力。
ケースから平気で抜け出す登坂力。
体だけでなく、目も真っ赤に充血している。絶対酒癖が悪いと思う。
とにかく暴れて秩序を乱すので、写真を撮ってから早々にリリースした。
「あんた、酒、飲みなはれ」と心の中で言葉をかけながら。

スベスベしてない….

これだけカニが賑やかなのだからそのうちスベスベが現れるだろうとひたすらカニを水揚げしていたが、一向に目的の毒マンジュウが発見できない。
違う!
違う!
違う!
違う!
お、スベスベ!…ってあぶないわ!
お、スベスベ!…ってあぶないわ!
スランプの陶芸家が、思い通りに焼けない茶碗を次々に叩きつけて破壊するように海中からカニを取り出してはリリースを繰り返す。(叩きつけてないですよ念のため)
結局2日間にわたり探索したがスベスベマンジュウガニは発見できなかった。
スベスベとカニ、それぞれの要素は見つかったのだが…無念。
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かくなる上は施設で!

残念ながら自然下のスベスベを確認するのはかなわなかったが、このままおめおめと帰るわけにはいかない。せめて実物の姿をこの目に焼き付けていかねばと近くにある水族館「油壺マリンパーク」にやって来た。
スベスベに一番近い水族館(推定)
スベスベに一番近い水族館(推定)
検索したら展示しているような情報も散見されたし、地理的にも可能性は高いだろう。スベスベマンジュウガニを求め館内を巡る。
違う。
違う。
おしい。
おしい。
アカマンジュウガニ。いいかなこれで(ゆらぐ意志)
アカマンジュウガニ。いいかなこれで(ゆらぐ意志)
ちょっとはずかしいが飼育員さんに聞いてみる。
「あー今は展示してないんですよ。かわりといってはなんですがアカマンジュウガニならいますよ」
「いや、スベスベじゃないと困るんです。ちょっと一緒に海まで来てください」
などと食い下がるわけにもいかず、放心状態で園内をうろつく。カワウソがかわいかったがおそらく私の表情は憂鬱だったことだろう。

あの人間はなぜかわいい我々を見ているのに哀しげなのだ。
あの人間はなぜかわいい我々を見ているのに哀しげなのだ。

結局中華街で観察

「こうなったらあそこしかない」三浦半島から一転、横浜中華街へ向かう。
よしもとおもしろ水族館!
よしもとおもしろ水族館!
ここの一角で、彼は息を殺すようにして静かに鎮座している。
「毒部」の時の写真もここで撮影したものだ。
泳ぐ寿司ネタ達
泳ぐ寿司ネタ達
いた!食べたらやばいですが
いた!食べたらやばいですが
さあ、しげしげと見よう。
さあ、しげしげと見よう。
穴のあくほど見つめる。おまえをまんじゅうにしてやろうか!と心の中で叫びながら。

三浦海岸から油壺マリンペーク、そして横浜中華街へとスベスベを求めて効率よく3スポットを回ったが、本当は磯で自然下の個体を見つけて、すべすべしたかわいい甲羅をさすりたかったのだ。
この効率の良さに名前をつけるとすれば「かなしみ」である。
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栗まんじゅうですべすべ

気をとり直して、いよいよ、というかようやくまんじゅうづくりがスタートする。ひとくちにまんじゅうといっても様々な種類があるが、あの甲羅の光沢から連想できるまんじゅうはやはりこれ。
栗まんじゅう。ミッフィーの耳ぐさり。
栗まんじゅう。ミッフィーの耳ぐさり。
この栗まんじゅうの風合いにカニ感をプラスすればそれっぽくなるのではないだろうか。そういえば「さるかに合戦」に栗が出てきた。猿への復讐作戦で、囲炉裏端の火でパンとはじけて猿を驚かせるという、重要な先兵の役割を果たしたのが栗ではなかったか。
栗とカニが、猿のようなおっさんによって一体となる。歴史に残る猿とカニ、栗の講和である。感慨深い。ピース。

そんなピースな気持ちで、はじめてのお菓子作り、スタート。
栗を下ごしらえ。
栗を下ごしらえ。
あんで包む。
あんで包む。
なんせ初めてなもので,普通にたしなむ人にはどうでもいい事でもいちいち新鮮で楽しい。こしあんの袋をあけてにゅっと中身を出すだけで、なんか、こう、「行きまーす」みたいな高揚感を味わえる。
さらに生地で包んで。
さらに生地で包んで。
さあカニになれ。
さあカニになれ。
ここからカニ化の工程がはじまる。
ハサミ装着。あんこがはみ出してしまった…
ハサミ装着。あんこがはみ出してしまった…
足をつける。
足をつける。
まあカニだな。
まあカニだな。
足が2本足りないが、私の技術ではこれが限界だ。実際、広い甲羅の下に足が隠れて見にくい場合もあるのでそういう事にしておいてほしい。
卵黄を塗る。スベ感のポイントなので懇切丁寧に。
卵黄を塗る。スベ感のポイントなので懇切丁寧に。
アラザンで目を入れる。なんかそれっぽくなってきた!
アラザンで目を入れる。なんかそれっぽくなってきた!
2匹ほど作ったところですっかりいっぱしの菓子職人気取りである。
卵黄を塗りながら「いいか、すべすべかにまんじゅうはな、こね8年、塗り10年っていってな」みたいな軽口がついて出る。
いい光沢だ!(結局本見てるのかよ)
いい光沢だ!(結局本見てるのかよ)
いよいよオーブンで焼きを入れる。
ちゃんと焼けるかな。「ザ・フライ」みたいにえらいことにならないかな…
ちゃんと焼けるかな。「ザ・フライ」みたいにえらいことにならないかな…
チーン。ぐわあ、裂けた!
チーン。ぐわあ、裂けた!
結構ふくらむものだなあ生地。
目が膨張によりずれてスプラッターな感じになってしまった。
きもかわいい!(むりやり)
きもかわいい!(むりやり)
反省をふまえて、目を焼いた後に入れたり、生地がさけるのを防ぐ為にもうちょっとデフォルメして、カニよりも少しまんじゅう寄りに作って見た。
よりおみやげっぽくなった。
よりおみやげっぽくなった。
これはこれでかわいい。あとすごくすべすべ(右はあまった生地で作ったフジツボ)
これはこれでかわいい。あとすごくすべすべ(右はあまった生地で作ったフジツボ)
いちおう、カテゴリー的には「栗まんじゅう」である。味の方はどうか。
食べてみよう。
ざん。一刀両断。
ざん。一刀両断。
パッサパサだな….
パッサパサだな….
……まずい。皮が厚すぎてなんていうかしっとり感がなくパサパサ。
食べ進める度に身体が水分を要求してつらい。灼熱の砂漠をさまよい歩いている様だ。
味だけでいえばパサパサかにまんじゅうである。聞くだけでのどをかきむしるつらいネーミングだ。
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チョコまんじゅうでスベスベ。

スベスベと言えばやはりチョココーティングは外せないのではないか。
「毒部」でも書いたように「かにぱんチョコ味」のスベスベは素晴らしいものがある。
ただ、カニのプロポーションをマンジュウガニらしくカスタマイズする必要がある。あと、やっぱり「パン」じゃだめだ。
いや、かにぱんは別にそこ目指してないからいいんだけど。
ココアパウダー入りで生地作り
ココアパウダー入りで生地作り
なんかいろいろスキルアップしてる気がする。なんせ小麦粉をこねる行為に抵抗がなくなった。随分な進歩である。
造形がうまくなっている!
造形がうまくなっている!
焼いている間にコーティングチョコに食紅で色付け。
焼いている間にコーティングチョコに食紅で色付け。
おお!なんかもうこれでいいんじゃないのか。
おお!なんかもうこれでいいんじゃないのか。
ベースのチョココーティング いい感じでスベスベ!
ベースのチョココーティング いい感じでスベスベ!
着色したホワイトチョコで地紋のような模様を書いていく。
…これやらないほうがよかったかな…
…これやらないほうがよかったかな…
完成!模様がイマイチだがとにかくスベスベ!
完成!模様がイマイチだがとにかくスベスベ!
これはまごうことなきすべすべかにまんじゅう
これはまごうことなきすべすべかにまんじゅう
むやみに喜んでいよいよ実食である。
ざくり。親指が赤いのは血ではなく食紅。
ざくり。親指が赤いのは血ではなく食紅。
あ、ありだ。(あんはパンプキンあん)
あ、ありだ。(あんはパンプキンあん)
生焼けなのかわからないがしっとりとしていて心地よい食感。
なんだろう、ファーストフード店で時折、しんなりしてるポテトが混ざっていて、あ、でもこれいいじゃん、みたいな「計算できない良さ」が醸し出された気がする。レシピ的にはたぶん成功してないのだろうけど、素人調理の醍醐味というやつか。こうなるものだったらすいません。

中華まんで「す」

まんじゅうで考えると、デザート系だけではなく、中華まんという切り口もあるのではないか。今まで表面をスベスベさせる事で表現してきたが中華まんでまず脳裏に浮かんだのは「新江ノ島水族館」で食べた「えのしまん」だった。
江ノ島だから「え」水族館でかつお味という微妙なフレーバー。
江ノ島だから「え」水族館でかつお味という微妙なフレーバー。
書きゃいいのだ。すべすべなんだから「す」って。
というわけで早速生地作り。
ドライイーストで発酵して膨らむというあたりまえの現象が新鮮。
ドライイーストで発酵して膨らむというあたりまえの現象が新鮮。
カニのほぐしみとカニ味噌を具に。
カニのほぐしみとカニ味噌を具に。
具はもうちょっと何かくわえた方がよいだろうかとも思ったが、せっかくのカニなので純カニでいく事にした。なんで突然そんな事にこだわるのかと聞かれたら、気まぐれとしか答え様がない。
よし、蒸し上がった。ここからだ。
よし、蒸し上がった。ここからだ。
皮に「す」を書かねばならないが、焼きごてを自作する技術も時間もないので、
針金を熱して焼き印をする事にした。「書きゃいいのだ」なんて軽く言っていたが
結構試行錯誤。一発ではうまくいきそうにないのでパーツをわけることにした。
針金をこうして。
針金をこうして。
こうして「す」。
こうして「す」。
焼き印は瞬間技なので撮影ができなかった。想像してください。
「す」の形に針金を2回。ジュー、ジュー。
なんかそぼくになった。
なんかそぼくになった。
なんだかよくわからないが、出来た瞬間、笑いが止まらなかった。
深夜に針金をラジオペンチでくねくねまげてまんじゅうの皮に書いた「す」
目の前に褐色の、よわよわしい「す」

今、私は、なにと対峙しているのだろう。
味ないなー。
味ないなー。
そして、食べた時の「ゼロさ」にも笑った。

いや、ないわ味。これまでの人生で一番「無味乾燥」という言葉にふさわしい物体に出会った気がする。

まんじゅうは無毒が一番

結局おっさんがぶきっちょに菓子や不気味な点心を作る様を長々と見せるだけになってしまった。これを見て、我こそはというスベスベマンジュウガニ好きのパティシエが名乗りをあげたりして、かにまんじゅう文化を発展させる一助になれば幸いである。
箱が一番うまくいった気がする。
箱が一番うまくいった気がする。
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