特集 2012年9月20日

コウモリの歌を聴け

闇の住人たちの咆哮を聞け!
闇の住人たちの咆哮を聞け!
人には感じる事の出来ないレーダーを駆使して、暗闇の世界を自由自在に飛び回るコウモリ達。そんな彼らの存在を探知できる素晴らしい機械、バットディテクター。

想像以上に楽しくて、ほぼひと夏をこれに捧げる事になった。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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オーナーまでの道のり

今年の春に約1ヶ月、当サイトのクラブ活動に「毒部」を執筆した。
こういった連載っぽい試みは初めての事で、この歳になって、新卒で会社に入って初めてプロジェクトを完遂した時のような達成感を味わう事ができた。

そんなみずみずしい感動の次のステップは何か?
当然、自分へのごほうびである。

というわけで、バットディテクターを入手した。
以前、コウモリを探しに行って、気配すら見つからずに断念した際にその存在を知り、使ってみたいと思っていた。

しかし、決して安い買い物ではないので、いろいろ調べつつも躊躇していたのだ。
決め手となったのはフェイスブックに「欲しい」と書き込んだ時の当サイトWEBマスター、林さんのコメントだった。
言い切った。自信に満ちた提言
言い切った。自信に満ちた提言
ちょっとした圧力までかかった。
ちょっとした圧力までかかった。
こういう時によく引き合いに出される逸話で、トランペットをショーケースごしに見つめる黒人の少年に心やさしい紳士が「ぼうや、これが欲しいのかい」とトランペットをプレゼントするみたいなのがあるが、心理的にはそれに近い。

ひとつ違うのは自分のお金で購入したという事だ(いや、あたり前なんですが)

これがバットディテクター!

来た!コウモリ探知機!なんかデザインかわいい!
来た!コウモリ探知機!なんかデザインかわいい!
こうして数日後、バットディテクターは無事に我が手に届けられた。

そもそもこの機械は主にコウモリの研究・生態調査等に使われるため、たいがいは武骨な風貌をしているのだが、これはデザイン・カラーリング共に妙におしゃれ。コンテンポラリーな感じだ。
ストラップも付いている。
ストラップも付いている。
ストラップやイヤホンジャックまで装備しており、街歩きもバッチリ仕様。バットディテクター業界(なにそれ)が狙う次の市場が垣間見えるモデルである。

ここでもう少しだけちゃんと解説しよう。バットディテクターとはいったい何なのか?

コウモリは夜間、森や街、洞窟などを高速で飛行し、餌を捕らえる。
その際に超音波を発し、その反響によって壁や草木等の障害物や、餌となる虫を探知する。エコロケーションと呼ばれる探知活動である。

この超音波は人間の耳で聞ける周波数の上限(約20KHZ)を超えており、我々は耳にする事ができないが、バットディテクターはこれを探知し、聴こえる音に変換する事ができる。

わかりやすく言えば、普通は聴こえないコウモリの鳴き声を聴くことができるのだ。探知するための音波を探知するという、コウモリ対人間のテクノロジーのぶつかり合いである。

コウモリの種類によって超音波の周波数も違うので、その数値を把握していれば(ある程度は)種類の判別も可能となる。
探知したい周波数を設定。下のグラフには受信している周波数が表示される。
探知したい周波数を設定。下のグラフには受信している周波数が表示される。
百聞は一ディテクトにしかず。とばかりに早速探知を行ってみた。
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いざ、近所!

コウモリといえば夕暮れ時に河川敷や田んぼの上空あたりをせわしく飛び回る姿を見た事がある方も多いのではないだろうか。実家の近くでは、夕暮れになっても家に帰ろうとしない子供を親が「帰らないとコウモリに連れていかれるよ!」とおどかしているのを聞いたものだった。

それは「アブラコウモリ(イエコウモリ)」という種で、唯一都会での生活に適応したコウモリである。家の戸袋や建物のすき間などをすみかとし、夕暮れ時に飛び出し、虫などを食べる。したがって、連れていかれる先は家である。他人の家だが。

都内の住宅街にある公園などでも見る事ができる,かなり身近なコウモリだ。
よく注意してみた事がなかったが、近所の公園にも出現するのではないかと出かけてみた。
身近すぎるとはずかしいな。
身近すぎるとはずかしいな。
アブラコウモリの超音波の周波数は約45KHz。さっそくバットディテクターの電源を入れる。
早速エコロケーション反応が!
早速エコロケーション反応が!
おお、いる!45~47KHzあたりの周波数で超音波を探知!
「チュチュチュ」という甲高いさえずりのような音が素早いリズムを刻む。と書いても全然伝わらないと思うので見られる環境の方は是非動画をご覧いただきたい。
かっこいい!ワイルドテクノ!
見上げると確かに2頭程のアブラコウモリが上空を複雑な軌道で飛行しているのがわかった。
なんか携帯の通話を盗聴してる気分だが…
なんか携帯の通話を盗聴してる気分だが…
ディテクトの調子は上々である。
次のスポットで探索してみよう。

リア充の巣窟にも彼らはいた。

東京都吉祥寺にある井の頭恩寵公園。休日には若いカップルで溢れかえる都内有数の「リア充」スポットである。
みんな家帰ってDVDとか観なくていいのか。
みんな家帰ってDVDとか観なくていいのか。
ここにもコウモリはいるのではないか。よし、人の少ない頃合いにと、平日の23時頃,会社帰りに立ち寄ってみたのだが、池の周りのほぼ全てのベンチに肩を寄せ合うカップル達。リア充は眠らないのか。

池に向かってディテクターをかざすとやはり反応がある。
先の(45~47KHZ)より周波数が高い。結構個体差があるのだろうか。
家の近所よりも遥かに多い数のアブラコウモリが飛び回っていた。

平気で目の前まで飛んでくるし、周波数も50KHz以上と通常よりも高い。なんとなくテンションが高く、青春を謳歌している感じだ。
撮影にも協力的。生活が充実している証拠である。
撮影にも協力的。生活が充実している証拠である。
リア充スポットではそこに集うコウモリもまた、リア充なのだろう。

ちなみに一番大きく響いた声は人類の
「ちがうも~~~ん、わたし甘えた事なんてないも~~~ん」
という言ってるそばからそれどうなんだという声だった。
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エコロケーション・ハンターへの道

こうしてすっかりその魅力に取りつかれた私は、
当然の成り行きとしてアブラコウモリだけでは飽き足らず、他のコウモリの超音波を求めさまよう事となるのだった。エコロケーション依存症のはじまりである。

しかし、アブラコウモリ以外となると一転、コウモリ達のすみかは市街地を遠く離れ、人通りの少ない山の中や、洞窟、隧道などとなる。
こんな所で日暮れを待つ
こんな所で日暮れを待つ
やっぱりこうなる(こわい)
やっぱりこうなる(こわい)
山の中腹で1人、コウモリの出現を待つ。

辺りは街灯もないので、日が落ちると少し先も見えない程に真っ暗になる。そんな死にそうな静寂の中でカタカタとディテクターが鳴りだした時の嬉しさというか安堵感といったらない。そうだ、僕はひとりじゃないんだ。
友だちはモモジロコウモリ!(たぶん)
池の水面近くを飛び回っていた。
池の水面近くを飛び回っていた。
モモジロコウモリは洞穴性と呼ばれ、自然の洞窟や人工の隧道、防空壕などを寝ぐらとしているコウモリで、周波数は50~60kHz。コツコツ叩くような硬質なドラミングが特徴。かっこいい。

もし今私がバンドを始めるなら、ドラム募集の貼り紙に「モモジロコウモリのように叩ける人、一緒にやりませんか」とか書くに違いない。

コキクガシラはサイケデリック

ある時は小さな洞穴を探索する。

洞穴に住むコウモリは神経質なので、少し観察したらさっと退散する迅速さが肝要だ。あまりストレスを与えるとその洞穴を使わなくなってしまう可能性があるからだ。
暗い写真ばかりになってしまったので載せておこう。
暗い写真ばかりになってしまったので載せておこう。
ここで出会ったコキクガシラコウモリのエコロケーションは前の2種とは一線を画す味わいである。
なんと前衛的な!
100kHz以上の高い周波数でなんともいえない不思議な音を奏でる。
円谷プロの特撮物みたいなUFOがこれをバックにふんやふんや飛んで来そうな感じだ。うまく表現できなくて申し訳ない。

ちなみにコキクガシラコウモリはものすごくかわいい。
もっふもっふ!
もっふもっふ!

なんだかよくわからないものも

暗闇の中、山道を歩いていると、突然バット反応を示す事もある。
近くを調べてもコウモリの姿は見えない。
なんかアブラと違う気が..
周波数からアブラコウモリかと思ったが、かなり分布が少ないとされる地域であり、このとぎれ具合から、通常彼らが飛ぶ位置よりもかなり上空を飛んでいるイメージがある。

ユビナガコウモリとかだったらうれしいのだが…

こういった姿なき声から類推するのもまた楽しい。
そして、コウモリ以外にも、というかむしろコウモリが嫌いでも、バットディテクターは素敵なアイテムなのだ。
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街はエコロケーションしている。

バットディテクターとは要するに、「超音波を探知する機械」である。

コウモリなんて興味ないよという方は「超音波ディテクター」と置き換えてみよう、我々が普段生活を営んでいる空間に、ひそかに飛び交っている超音波を顕在化させ、聴き取ることができるのだ。

ほら、これを持って街に出たくなってきたでしょう。きましたよね…

デジカメもエコロケーション

ピピッと反応。
33kHzの超音波を探知。シャッターチャンスは同時にエコロケーションチャンスでもある。

ストリートでもエコロケーション

昼間の商店街で探知。
ビルの空調か何かだろうか、25kHzでパタパタと存在感を発揮。
ハトが出してるのかな(全然違うし逃げられた)
ハトが出してるのかな(全然違うし逃げられた)

自転車もエコロケーション

26~30kHz。いちいちレンタサイクルを借りた。
完全に人間に乗りこなされ、その支配下にあるはずの自転車までもが我々の聴こえないところでメッセージを発していた。きっとものすごい陰口を叩かれているのだろうと思うと心中穏やかでない。

セミもエコロケーション

17kHz。やかましさが大増幅された。
セミはただ交尾の為に鳴いているのではなく、何か人類に伝えたい事があってあんなに必死になっているに違いない。

というのが私の持説だが、この超音波に秘密が隠されているのではないだろうか。あとの解読はまかせた!

メガネの超音波洗浄機もエコロケーション

超音波っていってるんだから当たり前だろう。
しかし、40kHz~100kHzまで均質の、いかにも人工的な周波数帯の分布(までグラフ参照)が味わえるのはディテクターならではだ。

エコロケーションといえばイルカ

他にエコロケーションを行う代表的な動物といえばイルカである。
彼らは主に水中でのコミュニケーションに様々な種類の超音波を活用している。

水族館では水槽はぶ厚い強化ガラスで作られており、泳ぐイルカ達のエコロケーションをキャッチするのは難しそうだが、彼らは常に水中にいるわけではない。

ジャンプをして空中に華麗に飛び上がった時に、気持ちよさのあまり「ひゃっほーい」とか「ラッセンだよーん」とか超音波で叫んだりしてるのではないか。私がイルカなら、叫ぶ。
反応なし…
反応なし…
残念ながら測定できなかった。私の想像などより遥かに彼らは寡黙で、理知的だった。
タッチプールでオオグソクムシには触れた(関係なし)
タッチプールでオオグソクムシには触れた(関係なし)

やはりコウモリがすごい。

ここまでコウモリをはじめ多種多様なエコロケーションを採取してきたがグラミー賞に最優秀エコロケーション賞があったら、私は迷わずこのコウモリにアワードを授けるだろう。

キクガシラコウモリである。
やはりかわいい。顔の真ん中のごちゃごちゃから怪音波を放つ。
やはりかわいい。顔の真ん中のごちゃごちゃから怪音波を放つ。
前述のコキクガシラコウモリと類似種であり、エコロケーションの波長も似ているが身体が大きく、周波数も66~67kHzと低い。(コキクガシラは105kHz)
これだけ聞いたら完全にUMAですよ。ベストヒットUMA(すいません)
声量豊かで、力強い音声。それでいてこの世のものとは思えぬ浮遊感。
おそろしくてかっこいい。まさにキング・オブ・エコロケーション。
すばらしい音波をありがとう。
すばらしい音波をありがとう。

エコロケーションハンティングは続く

こうして夏の休日のほとんどをバットディテクターと一緒に山や街を
徘徊して費やした。きっと秋には秋の、冬には冬のエコロケーションが私を待っているに違いない。エコロケーションの国だもの。

今度はあなたの街に、エコロケーション・ハンターがやって来るかもしれない。
たぶん気付かないと思いますが。

オナガとコーディネートしてみた。いい色だ(超音波は出しません)
オナガとコーディネートしてみた。いい色だ(超音波は出しません)

ちょっとだけ告知

「毒書の秋」やってます。
「毒書の秋」やってます。
「毒」に関連した専門書、図鑑やミステリー、SF,コミックなど合法(あたりまえ)毒本を取り揃えたフェアで、私は選書及び登場する「毒」の解説、写真提供などを担当させていただきました。

また、よせばいいのに有毒生物のイラストを描いた「毒Tシャツ」「毒づくしてぬぐい」そしてはやくも大人気の「毒ボトル」などオリジナルグッズも販売中。お暇な時にでもお立寄りいただければ幸いです。

■ 期間:2012年9/11(火)~10/10(水)
■場所:ジュンク堂書店池袋本店 7階
(豊島区南池袋2 TEL 03-5956-6111)
詳しくはこちら
http://blog.livedoor.jp/r2koba/archives/67678944.html
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