それは台湾で出会った
「忘れられない食べもの」とか大きく構えてみたが、つい2年くらい前の話である。
台湾旅行に行ったとき、市場で食べたのがこれだ。
「盛り」というより「塊」と呼びたい、かき氷
台湾風のかき氷といえば、日本ではマンゴーのかき氷や、きめの細かいサラサラしたかき氷が人気だ。でも僕が食べたのは違う。南国テイストでもないし、氷もガリッとしている。では、なにがそんなに印象的だったのか。答えはこれだ。
いも。
いもだ。芋。イモ。
かき氷にイモが入っているのだ。
こんなところに掲載するとは思ってなかったので、イモの露出が少ない写真しか残っていないのが惜しい。実物は皿の中いっぱいにイモ。その上に氷。フルーツなら「惜しげもなくふんだんに盛られた」と表現すべき量である。ただし、全部イモ。
イモが好きだ
急な告白に面食らっていたらごめん。好きなのである。イモが。フライドポテトも焼き芋も、とろろも。幅広くイモが好きなのだ。もちろん、かき氷とて例外ではない。
いつかまた台湾に行ったら必ず食べよう!と思っていたのだが、別にイモなら台湾まで行かずとも徒歩10分のスーパーにある。自分で作ってしまえばいいのだ。DIY!(Do Imo Yourself)
和イモ集合
調べてみると台湾のイモはタロイモというものらしく、残念ながら徒歩10分のスーパーでは手に入らないことが分かった。仕方がないので手に入るイモを4種類買ってきた。どうせジャガイモもサツマイモも好きなのだ。台湾のアレを忠実に再現しなくても、自分なりの「イモ入りかき氷」を追求できれば成功としたい。
皮を剥き、細かく切られたイモ達
定番のサツマイモ、ジャガイモに加え、タロイモに近い種類との情報を得て里芋も購入。あとイモじゃないけど甘いデンプン系の野菜ということでカボチャも追加した。
シリコンスチーマーで蒸す
Taroが名前というガラパゴス
実はこのイモかき氷、前々から作ってみたいと思っていたのだが、レシピが全然見つからなかったのだ。今回ふと思い立って英語で検索したところ、
台湾の料理を英語圏の人向けに紹介したサイトでようやく見つけた。
検索キーワードは「taro shaved ice」。Taroはタロイモのこと。日本でTaroといえば迷うことなく太郎さんだが、国際的にはTaroといえばイモなのである。もう小野妹子のことを笑えない。
皿の上で回転するイモ
簡単に手順を説明すると、(1)皮を剥いて適当に切る、(2)水に浸したまま蒸す、(3)砂糖を入れて、水を補充してさらに蒸す、の3ステップ。ポイントは蒸すときに水を入れた器ごと蒸し器に入れる点。これをすることにより「イモが灼熱になるのを防ぐ」(google翻訳による)効果があるらしい。灼熱か。確かにキッチンで灼熱は避けたい。
いったん蒸し終わり。ホクホクに
ジャガイモに塩をかけて試食。思わずキモ顔になるうまさ。
どことなく我流
一応上記のポイントは踏まえて調理しているつもりだが、勝手に蒸し器→シリコンスチーマーとアレンジしているので、ポイントのふまえ方も正しいのかどうかわからない。(一応スチーマーいっぱいに水を張った。)
ジャガイモのホクホクさだけを心の支えにして、作業を継続。
イモの半分の重量の砂糖を追加
お菓子は滅多に作らないのだが、ごくたまに作るたびにその砂糖の量の多さにおののく。むかし家庭科の授業で、コーラ1缶に角砂糖10個分もの砂糖が!!とか習った。角砂糖の10個くらい、これに比べたら些細な量である。
砂糖を入れたあとまた水を足して
蒸す
噴火した!
噴きこぼれてシロップがなくなり、再度砂糖と水を足してはまた噴きこぼれ…。
これを幾度となく繰り返した。たいそう手間暇のかかる料理に見えるが、そうじゃなくて単に僕が温度管理に失敗しているだけだ。
とにかく、ここはたっぷり甘く、かつ柔らかくするのがポイントです。蒸し工程はしばらくかかるので、その間にもう一つのイモを準備する。
切ったイモを茹でて
それぞれ潰す
イモ100gあたり、タピオカ粉大さじ3、片栗粉大さじ1、砂糖大さじ1を混ぜる
堂々
余った分はどうしたらいいのか。調べてみると、ポンデケージョというブラジルパンが作れると書いてある。というか他にそれくらいしかレシピが出てこない。台湾からエキゾチックな食材がやってきたぞ、と思ったらなぜかブラジル料理作りを強要される。エスニック料理の世界は振り幅が広すぎて、ときに理不尽。
イモもいろいろ
里芋、水分が多い
うまく丸まらず個性派過剰な仕上がりに
ジャガイモ、サツマイモは水分が少なく、このあと水を足した。柔らかめにするのがポイントっぽい
同じイモの仲間で、同じ工程を経ているのにぜんぜん仕上がりが違う。イモも色々なんだな、と思う。すると途端に自分の発言「イモならなんでも好きです!」がバカみたいに思えてくるのだが、まあ好きなんだから仕方がないよね…。
で、どう見ても作りすぎ
イモが好きな気持ちが炸裂して、とうてい食べきれない量の団子ができてしまった。
要はイモ入り白玉団子みたいなもの。ほんとは4つくらいで良いのだ。
食べられる量だけ茹でて、
浮いてきたらすくって冷やす
そうめんでもゆで卵でもそうだけど、火を通した後のこの冷やす作業が好きだ。熱い物にガンガン水をかけて冷やすの、なんかこう、パワーとパワーのぶつかり合いという感じで興奮する。
こうして2つのイモ料理が完成した。
イモ氷、実現
4つのイモをとりわけ
かき氷を乗せる
黒蜜と練乳で味付け
4つのイモのかき氷が完成!
上から見ると、まあ普通にかき氷ですよね。でも、横から見ると…。
氷の下にはイモ!
永久凍土の下から発見されるのはマンモス、かき氷の下にあるのはイモ。もう、鼻血が出そうである。
あふれるイモリティ
料理スキルの未熟さからイモが意外にペーストにならず、本家とはちょっと違った感じになってしまった。団子も全体に予定より固い。にも関わらず、このイモ感。イモ好きを満足させるには充分なクオリティ、いや、イモリティであった。
以下、イモの種類別に感想を紹介していこう。
里芋
コロコロした形状、そしてちょっと堅めに仕上がったこともあり、ファースト食感は、里芋が栗のようである。でも噛みしめるとイモ。確かなイモ感。うまい。もう少し柔らかくしたら里芋のねっとり感をさらに楽しめたかも知れない。
団子は水分の多さゆえに食感がよく、おいしい。台湾で食べたものに一番近かった。
新しいスイーツとして、もっともエキゾチックな味を楽しめるのがこれだった。
イモ最高!!
カボチャ
とにかく柔らかくて、かき氷とよくなじむ。カボチャプリンの例を挙げるまでもなく、スイーツの素質はある野菜だ。普通においしい。
ただ惜しむらくは、(自分で入れておいてこう言うのはなんだが)カボチャってカボチャだな。イモじゃなかった。
まあ、いいんじゃないかな、こういうのも。(冷たい)
じゃがいも
甘いジャガイモ、なんだか未体験の味なのだが、それをエキゾチックと表現するにはジャガイモはなじみ深すぎ、なんだか複雑な心境。たとえるなら、オカマバーに行ったら隣に住んでるおっちゃんが働いてた、みたいな感じである。場は非日常なんだけど、視界の端に濃厚な日常が主張してくる。
ところがイモ感という点では実はかなり良好。食感面ではジャガイモはキング・オブ・イモ。氷のシャキシャキとイモのモソモソが混じり合い、王の風格を感じさせる食感であった。イモ最高!!
ただし単純にスイーツとして見た場合、極端なイモ好き以外の人にアピールするかは不明。
サツマイモ
これは良くも悪くも、普通にアリ。完全に和スイーツである。
サツマイモと黒蜜の相性もよく、鎌倉あたりで人気が出そうなメニューだ。
そのぶんエキゾチックな面白みはなくて、変わった物を期待すると肩すかし。
でもイモ感は充分楽しめるし、完成度は高い。むしろイモ好き以外にもおすすめできる食べ方だ。
イモを冷やせ
考えてみると、イモ料理は甘いもの(たとえばスイートポテト)から辛いもの(煮物とか)まで幅広くあるが、温度の面では高温~常温に集中しており、冷たいイモ料理の登場は待望されていたのではないか。イモ氷なら、暑い夏にも、存分にイモを楽しむことができる。
しかし最もお勧めなのは、秋に突入したがなお残暑の残る、今の時期だ。
里芋もサツマイモも旬は秋。美味しい芋と暑い気温で、イモのかき氷を存分に楽しもうではないか!諸君!
小分けで冷凍したので当分はめくるめくイモ天国が待っている