思い出してほしい、住民票のすごさを
先日、必要があって市役所に住民票をもらいにいってきた。
申請書を書いて待つこと10分ほどだろうか。窓口に呼ばれ「300円です」という軽いトーンで紙を一枚渡された。この紙がいわゆる「住民票の写し」である。
言ってしまえばただの紙一枚だが、その紙には僕ですら忘れているような僕の個人情報が満載されているのだ。こんなすごい書類が300円だなんて。
このシステム、すごくないか。
…。
別に、という人はためしに今あなたが持っているあなたに関する情報を並べてみてほしい。
僕の場合はこんな感じだった。
①パスポート、②名刺、③印鑑、④証明写真、⑤保険証、⑥免許証
家中かきあつめてたったこれだけである。他にもツタヤカードとかJALカードとかあったのだが、それが僕を説明しているかというとそんなことはないので除外する。
どうだろう、皆さんだってこのくらいのものではないか。なのに市役所で300円払うとすごい充実した情報がもらえるのだぞ。ほらすごいね。
こんなこと書くと役所とのコラボ記事かと思われるかもしれないが、考えてみてほしい、行政がデイリーとコラボするわけないだろう。この驚きはステマじゃないのだ。
今回は住民票をはじめ、自分に関する情報を集められるだけ集めてみたいと思う。掘り下げ始めるときりがないので、ルールとしてその日のうちに手に入れられる証明書に限ることとした。
これは手続き上の自分探しの旅である。
個人情報の巣窟、市民窓口センター
僕のことを僕以上に知っている施設である。
地域によって異なると思うが、僕の住む地区ではわざわざ役所まで行かなくても窓口センターという施設が駅前にあって、ここに行けばかなりの証明書類がそろってしまうのだ。いわば個人情報のデパートである。
役所に行かなくてもかなりの種類の証明書がもらえます。
平日の午前中だったからか、お客は僕以外におじいさんが一人しかいなかった。こんなに便利な場所にみんな来ないなんてどうかしている。自分探しにインドとか行ってる場合じゃない、ここに来たら全部わかるのだ。
そういう僕も初めて来たのだが、来てみたら1階がカレー屋で2階が本屋だった。僕の好きなものばかりである。もはや記号化された僕自身なんじゃないかとすら思う。
さっそく自分を知るべく、申請書を書く。
記入台とカウンターのみ、というシンプルな施設でした。
主な申請書はこの3つ。
申請書は「住民票等の請求書」「戸籍証明等の請求書」「印鑑登録証明書交付申請書」この3種類だった。
あまり自分の住所って書かないから正直ちょっと忘れかけていた。あと寝癖がすごい。
全部1通ずつください。
住民票部門には「住民票の写し」と「記載事項証明書」しかないのでどちらも申請しておいたのだが、戸籍部門が難解だった。謄本、抄本からはじまり改製原戸籍、附票、受理証明書、届書記載事項証明書、戸籍記載事項証明書…。
こんなにあるのか。
大部分意味がわからなかったのでとりあえず全部1通ずつとして提出した。
待っている間に窓口センターにおいてあったチラシでも紹介したい。
まずはこちら
中年太り解消セミナー。やせマッチョといってる人が太マッチョである。
テレビの周りに所狭しと置かれた書類は市の職員の採用情報だった。
窓口センターは、各種申請だけでなく、市民の生活をいろんな面でサポートしてくれる施設だった。
僕はこの町に住んで2年以上になるのだが、この日まで来なかったことを悔やんだ。年明けに間違えて捨ててしまったゴミの分別表もここに置かれているではないか。ご近所に借りて白黒コピーしたものを半年以上使っていたのに。
そうこうしているうちに窓口に呼ばれた。でもなにかちょっと様子がおかしいぞ。
存在しないものまで請求していました
窓口では係りの人が赤ペンを手にしながら僕の出した申請を眺めていた。申請書には一つ二つとチェックマークが付けられている。この雰囲気、テストできなかったときに先生に呼ばれるのと同じだ。
一気に申請したから怪しまれているのだろうか。なにか言われる前に言い訳を考える。「会社で必要って言われたから」「どれを取ったらいいのかわからなかったので」「一通り欲しかったから」「言葉がリカイデキナカッタデス」。
「まずひとつ確認させてもらいたいのですが」と始まったので緊張しました。
指摘されたのはやはり戸籍関連の申請についての不備だった。不備というか僕の不理解である。わからなかったので、てきとうに全部1通ずつとして提出したら存在しないものまで混じっていたらしい。以下、今回申請できなかった書類とその理由です。
・除籍謄本、抄本(これは籍を抜いたことを証明するものなので戸籍のある状態では申請できない。あたりまえ)
・改製原戸籍(平成18年の法改正以降に作られた戸籍の場合、これは存在しない。知らなかった)
・受理証明書(特別な理由がないと発行できない。知らなかった)
・届書記載事項証明書(特別な理由がないと発行できない。むしろ特別な理由を知りたい)
・戸籍記載事項証明書(記入すべき別紙が必要。なに?別紙って)
頭が痛い。特別な理由ってなんだろう、そんなのない。
一気に疲れが出たので「今日発行できるものをすべてください」とお願いして申請書を預けなおした。窓口の方も(この人わからずに言ってるな)と見抜いたことだろう。そのとおりです。
結果、この窓口センターで受け取ることができた証明書は以下のとおりである。
・戸籍謄本(全部事項証明)(450円)
・戸籍の附票(300円)
・住民票(300円)
・印鑑登録証明書(300円)
すごい。これでほぼ僕の情報は網羅している。自分探しの旅、しめて1350円である。
まだあるだろう
それにしても37年生きてきた証が1350円と思うと物足りない気もして、まだなにかあるんじゃないかと本丸へ行ってみることにした。役所である。
大本営、市役所。
さすが市役所である。諸届け、申請書類の見本市みたいなことになっている。この中から自分に提出できるもので、僕のことを証明してくれる書類を探すのだ。単純にわくわくするだろう。
ずらりとならぶ諸手続き。目移りするほどである。
住民票、戸籍関係はすでに持っているのでここではパス。
検討を重ねた結果、市役所でもらえそうな自分書類は以下。
・身分証明書(300円)
・課税証明書(300円)
・住民基本台帳カード(500円)
どれも僕を表す大切な証明である。全部もらおう。
独身証明書とか廃棄済証明書とか、条件に合わずもらえないものも多数。
中でも僕がもっとも欲しかったのが住民基本台帳カードである。名前は聞いたことあったが、いったいどんなものなのか、実物を見たことがなかった。それが今すぐ手の届くところにあるのだ。このために証明写真も持ってきている。
こちら本当に作られます?と二度聞かれた。
欲しいから作る、というものではないのかも
意気揚々と申請書を提出すると、窓口の方に「住民基本台帳カードは免許証などお持ちの場合は特に必要ないと思いますが」と二度聞かれた。そ、そうなんですか?
聞くと、お年寄りなどが免許を返上した場合、身分証がなくなってしまうので申請するケースが多いのだという。おまえ免許持ってるじゃん、ならいらないじゃん(意訳)というわけだ。
いや、でも作っちゃいけない決まりはないだろう。なにせ僕自身の証明、アイデンティティである。欲しい!どうしても欲しい!
という情熱はひたかくしにして「もしかしたら必要になることもあるかと思うので」とお願いして作ってもらうことにした。
興奮さめやらぬ待機時間。
さらにどうでもいい話だが、同時に身分証明書の発行を申請したところ「なにか身分を証明するものをお持ちですか」と聞かれた。
それをいまから取るんだろう
そう思ったが、ここで面倒な話をしても困らせるだけだと思い、素直に運転免許証を提示した。
そうこうしているうちに住民基本台帳カードができてきた。
僕はこの厚みと硬さを一生忘れない。
住民基本台帳カードは予想通りいいものだった。厚みもしっかりしているしICチップらしきものも入っている。なにしろ住所氏名、そして顔写真が入っていて、身分証明としても使えるらしいので、これさえあればもはや免許証いらずである。
は!そういうことか(免許証持っていればあまり必要ないです、といわれたのを思い出した)。
ここまでで入手できた証明書はファイルにとじておくことにした。
住民票に戸籍附票。
身分証明書、そして所得証明。
印鑑登録証明書のアップ。やばい、萌える。
証明書が集まってくると、自分という存在が確かなものに見えてくる。ただの紙である。だけどそこには僕の歴史がすべて書かれているのだ。
それにしても証明書はさすが一枚300円以上するだけあって、印刷されている紙も上等である。市のロゴがプリントされていたり透かしが入っていたりする。コピーすると「複製です」と浮かび上がるような工夫もされているようだ。
茅ヶ崎市の鳥、シジュウカラがモチーフ。
斜めから見るとぼんやりと「複製」というすかしが見える。たぶんコピーすると浮かんでくるのだろう。
これでほぼ僕という人物を表す書類が出そろったような気がする。後は僕の人生を取り巻く環境を証明する書類を取り寄せたい。
自分に附属するものも知りたい
僕個人のことはここまでの証明書でほぼつかめたといえる。戸籍謄本には僕の出生届けが出された場所まで記載されていて改めて感動した(僕は隣町の病院で生まれたので実家とは別の市に届けられていたのだ。知らなかった)。
この自分探しの旅、あとはなんだろう、と考えたとき、やはり金ではないかと思うのだ。
やはりお金ではないか。
銀行に行くと貯金通帳の残高証明というのが発行してもらえるのだという。正直通帳の記帳すら半年に一度くらいしかしないのだが、せっかくの機会である。僕の資産を証明してもらおう。
我が家のメインバンクへ行ってきた。
「残高証明を」というと2階へ通された。すでに緊張している。
しかもまさかの「もらえず」。
もらえなかった
いや、もらえなかったのは僕自身の問題である。口座を作った銀行でないと証明書は即日発行できないというのだ。僕はこの口座を前に住んでいた水戸で作っていた。他行でも申請は受け付けてもらえるのだが、作った銀行へ郵送したりして時間がかかるのだとか。
しかたなく別に給料口座を持っている東京の支店へと移動した。
業務が終わるギリギリの時間である。間に合ってよかった。
こちらは大丈夫だった!残高ほとんどないと思うけど!
緊張。
申請書類を持って窓口に向かう。通帳と届出印を渡し一息ついたところでここでも申請理由を聞かれた。
「どこかに提出されるものですか」
「いえ、単に確認したくて」
僕が窓口の人だったら階下のATMという便利な機械を紹介しただろう。ただで記帳できる。
でも僕は証明書がほしかったのだ。
残高証明書の発行は735円だった。戸籍謄本とほぼ同じ金額である。正直ちょっと高いと感じたが、そこは民と官の違いであろう。
内容は通帳記載額とまったく一緒だった。まあそうだろう。
残高を知りたければATMで記帳したらただである。それでも証明書を作るというメニューがあるからには申請する人がいるのだろう。僕のような単なる証明書好きか、それともどこかに提出するためか。これからもたまに申請して愛好家がいることをアピールしておきたい。
行動の記録も証明できるぞ
これで僕の出生からの戸籍情報、それに金の流れまでがはっきりした。あとは最近の僕の行動を証明できたら完璧である。
行動の証明、できるのだ
これで。
あまり知られていないかもしれないが、Suicaはどの駅で乗ってどの駅で降りたのか、最近Suicaを使った履歴を印字してくれるのだ。
こういうメニューがあったことすら知らなかった。
直近の50件まで印字されて出てきます。
Suicaの記録を見ながら「こんなところ行ったっけな」という記録がかなりあった。やはり自分の行動というのは記憶に残っていないものなのだ。厳密に証明書ではないが、自分を表すライフログとして、これは同列の意味をなすと言っていい。
自分ファイル、できました
今日集めた証明書類を一つのファイルにまとめてみた。もうこれはほとんど僕と言っても過言ではないのではないか。
おれ特集だ。
アイデンティティが崩壊しそうになったらトイレに篭ってこれを眺めたいと思う。
証明書萌え
普段、必要に駆られないと手にすることがない証明書だが、あえて集めてみると自分を見つめなおすいいきっかけに…。
なりました、と書こうとしたが正直特にそういうこともなく、ただ収集欲みたいなものが満たされただけでした。でも楽しかったのは確かです。