熊鈴、いろとりどり
アウトドアショップに行くといろいろな種類の熊鈴が売られている。いろんな色に塗られかわいいストラップがついていたりして、ほとんどアクセサリーのようだ。
これ全部熊鈴。山に入らなくても欲しくなるかわいさである。
手にとって揺らしてみるとカランカランと高く澄んだ音色がして心地よい。こんないい音、僕が熊なら寄っていくだろう。熊鈴としての機能は大丈夫なのだろうか。売り場にいた店員さんに聞いてみた。
・熊は本来臆病なので、人間の気配を感じると逃げていく
・でも出会いがしらに遭遇すると熊も驚いてつい襲っちゃうことがある
・だから熊鈴を鳴らしてあらかじめ存在をアピールするのだ
とのこと。
原理的に熊が鈴の音を嫌うわけではないのだ。しかしこんないい音である、熊は本当に逃げてくれるのだろうか。
気になったので一つ買ってみた。
ストラップに磁石が付いていて鳴らしたくないときは中の玉を固定することができる。機能的!
熊で試す
熊鈴が本当に熊に効くのかどうか、つまり鈴の音を熊が敏感に察するのかどうか、それは熊に試すのが一番だろう。
というわけで熊鈴つけてやってきました動物園。
やってきたのは動物園である。熊に熊鈴を聞かせてその反応を見ようというわけだ。本当ならば野生の熊で試したいところだが、もしも効き目がなかった場合にしゃれにならないのでまずは飼われている熊で試す。
遠くから鳴らして気づくようであれば、効き目があると判断したい。
熊が寝ている時間がいいかと思ったのだが早く来すぎた(開園前)。
夏休みの動物園は家族連れやカップルでいっぱいだった。熊鈴つけたリュックを背負っている中年男性一人客はかなり珍しい部類に入る。少しでも場に溶け込もうとアイスクリームを買って食べていたのだが、山帰りのおじさん飛び入り参加!みたいな雰囲気になり、余計奇異に見えたかもしれない。
そんな僕のセンシティブをよそに、開園と同時に走りこむお客さんたち。
僕も開園と同時に熊のもとへ走った。走るとマグネット式のストッパーが外れ、熊鈴がカラカラと鳴る。かなり大きな音である。
熊!
開園直後ということもあり、熊の前にはまだ誰も来ていなかった。いいぞ、人の気配に気づく前の熊に鈴の音を聞いてもらうのだ。そーっと、そーっと、近づいてみた。
すると熊は
起きてた。
熊、起きてた。毛づくろいしてる。
ばれないように、と熊のおりのかなり手前から熊鈴が鳴らないよう手で覆って歩いてきたのだが、そんな僕の努力もむなしく、熊は思いっきり起きてくつろいでいた。
それにしてもくつろぐ姿がとてもかわいい。
足の先なめてる。すごいかわいい。
でもたまに見せる目つきは本気。
お客(僕)が来たからだろうか、熊はおもむろに立ち上がっておりの中をぐるぐる回りだした。もしかしたらすでに何かを察知して警戒しているのかもしれない。動物的カン、というが動物だから鋭いカンが働いて当然だろう。
でも鳴らす。そのためにきたのだから。
いよいよ熊鈴を鳴らす。
鈴を握り締めていた手を開き、熊の前で揺らした。
カランカランカラン…
どうだ、熊。これが熊鈴の音だ。
どうだ!
ど、どうですか?
見てのとおりである、熊はまったく熊鈴に反応を見せなかった。
熊。
高い音で鳴る熊鈴の音色の後ろで、熊はハアハアいいながらおりの中をぐるぐる回っていた。近くにあった掲示板の説明によると、これは熊の常同行動といって、ごく普通にみられるしぐさらしい。つまり熊鈴に興奮したわけではなく、特に鈴が鳴らなくても熊はおりの中を回るものなのだ。どうしたらいいのか。といってもどうしようもないのだけれど。
せっかくなので他の動物にも試してみた
せっかく動物園に来たので熊以外の動物にも熊鈴を聞いてもらうことにした。あわよくば何か反応を見せて欲しいものである。
ここは横浜市の野毛山動物園なのだが、この動物園のいいところはクジャクが放し飼いにされているところだ。以前記事にも書いたが、ほんとそのへんをうろちょろ歩いている。
そのクジャクに熊鈴は効くのか。試した。
無視。
予想はしていたが無視された。他に鴨っぽい鳥にも聞かせてみたのだが、特に嫌がるでも寄ってくるでもなくじっとしていた。いい音ね、という感じである。たぶん人に聞かせても同じ反応だろう。
でも熊鈴は700円したのでもうちょっと試す。
ライオンは発情期とのことで、鈴どころではない様子だった。
メスを追っかけまわすオス。この後こっちに向かって吼えて怖かった。
キリンは。
チラッと見た?
キリンがチラッとこちらを見たような気がしたのは、もしかしたら鈴の音に反応したんじゃなくて、僕が何かを掲げていたのでエサと思ったのかもしれない。ものすごくおなかがすいていたらしく、鈴に一瞥くれた後は網の外の木をむしゃむしゃと食べていた。これは反応があったと言えるのだろうか。言えないですよね。
反応を見せたのは霊長類
試した多くの動物たちに無視され続ける中、チンパンジーには反応があったので見てほしい。
ちょうどエサの時間だったらしく、チンパンジーはおいしそうにバナナを食べていた。
ん?何の音?
ああ、鈴ね。
チンパンジーはバナナから目を離し、おもむろに鈴の鳴る方へ向き直った。このとき、確実に僕とチンパンジーとの間に意思の疎通があったと思う。ああ鈴ね、というくらい平熱の目線だったが、それでもうれしい。さすがは霊長類である、僕らはきっと分かり合える。
この後、他にもペンギン、ウサギ、ハゲタカなどにも試してみたが、熊同様とくに反応を感じられるほどのものではなかった。動物園という安全な環境下では彼らも神経を緩めているのだろうか。機会があれば自然の中で試してみたいものである。
熊鈴に反応する動物、それはチンパンジー
動物園の熊は熊鈴に特に反応を示さなかった。これ、ぜひ野生の熊で試してみたいものだが、そんな機会あってほしくはないので、熊かチンパンジーの出そうな山に入るときには今回買った熊鈴をつけて入りたいと思います。