特集 2012年8月13日

トウモロコシのヒゲを白髪染めした

こんな不気味になるとは思っていなかった。
こんな不気味になるとは思っていなかった。
普段ならば皮をむくときに捨ててしまって気にもとめないトウモロコシのヒゲだが、よく見るとあれ金髪である。トウモロコシ、夏野菜とはいえちょっと開放的になりすぎではないか。

気にしだすと気になるもので、そういう目で見ると普段なにげなく使っているものの中にも茶髪が多いことに気づく。けしからん、みんなまとめて染め直してやる。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

金髪野菜、トウモロコシ

よく見てみるとトウモロコシって変わった形状をしている。列を成す黄色い粒、それを包む緑、生える金髪。ほとんどなぞなぞみたいな野菜である。
どうしてそこから毛が生えたのか
どうしてそこから毛が生えたのか
よく見ると茶髪を通り越して金髪である。
よく見ると茶髪を通り越して金髪である。

モロコシ先輩の髪を染める

中学校の頃、髪を脱色していた先輩が生活指導の先生に連れて行かれ、しばらくして黒髪になって戻ってきたことがあった。染め直されたのだ。今では考えられないだろうが、僕らの時代は教師が絶対的な権力を持っていたものである。僕はプールのある日に隠れて持って行った整髪剤を没収されて卒業するときに返してもらった。

それが今はどうだろう。中学生だってみんなかっこいい髪型しているじゃないか。うらやましい。いや、けしからん。

思い出話から強引に舵を切ってトウモロコシに戻るが、数々の思い出を胸に、今日はこの金髪を黒く染めてみたい。
というわけで買ってきましたメンズビゲン。
というわけで買ってきましたメンズビゲン。
今のところ僕は必要に駆られて白髪染めを買ったことがなかったのだが、最近のものは塗って5分でオッケーだったり、生え際用の櫛まで付いていたりして、すごく親切だった。これならばものぐさな父にも薦められる。

と思ったが僕の父も僕同様ほとんど白髪がないのだ、髪もほとんどないけど。
なにからなにまで揃っていて親切。
なにからなにまで揃っていて親切。
トウモロコシは葉と実の間の部分から毛がわっさーと生えてきているので、これをきれいに染めるためには、ある程度まわりの葉をカットする必要がある。
まずは染めるのにじゃまになりそうな葉をカットする。
まずは染めるのにじゃまになりそうな葉をカットする。
作業中に思い出話を挟んで恐縮だが、葉をカットしていたら中学の頃の頭髪検査を思い出した。

頭髪が校則に違反していないか、廊下に全員並ばされ、それを教師がチェックしてまわるのだ。前髪が眉毛にかかっているという理由で切られた女子が泣いていたりした。修羅場である。フリーダムな髪型をしている生徒は検査の日には学校を休んだ。
これは種の垣根を越えた生徒指導である。
これは種の垣根を越えた生徒指導である。
整髪剤すら許されなかった時代から比べ、今の学生さんたちはかなりおしゃれの自由度が増していてうらやましい。とはいえ当時の僕がこの環境に放り込まれたら過剰な自意識が暴走してうわーってなってやっぱり坊主にしていたかもしれない。自由というのはセンスあってのアドバンテージなのだ。

トウモロコシの毛染めに戻る。染めるための液は1剤と2剤に分かれていて、必要な分を同量ずつ混ぜて使うようになっていた。混ぜるためのトレイも付いていて本当に至れり尽くせりである。
二つの液体を混ぜ合わせて使うのだ。しかし黒染めなのに両方とも白いのはなぜか。
二つの液体を混ぜ合わせて使うのだ。しかし黒染めなのに両方とも白いのはなぜか。
混ぜても白い。大丈夫だろうか。
混ぜても白い。大丈夫だろうか。
毛染め液は予想に反して白かった(イカ墨濃縮版みたいなものを想像していたので)。もしかして人の髪の中にあるなにか色素的な成分と反応してはじめて黒くなるのだろうか。だとしたらトウモロコシのヒゲは染まらないかもしれない。
これでまったく黒くならなかったらこの記事なしだな。
これでまったく黒くならなかったらこの記事なしだな。

バッチテストで確かめる

毛染め剤にはだいたいバッチテストというのが推奨されている。肌に合わないとトラブルになりかねないので、あらかじめ少しだけ塗ってみて様子を見るのだ。

トウモロコシのヒゲを染める前にもやはりバッチテストで試してみた。いきなり全部塗って変なガスとか出たらやばいとも思ったのだ。
恐る恐るちょっとだけ塗ってみる。
恐る恐るちょっとだけ塗ってみる。
するとものの数分で黒くなってきた。
するとものの数分で黒くなってきた。
心配をよそに結果は良好であった。塗って2~3分で見る見るうちに黒くなっていく。いったいどういう仕組みなのだろうか。毛染め液が反応すべき成分が毛髪にもトウモロコシのヒゲにも含まれているのか。トウモロコシのヒゲは毛髪なのか。まったくわからない。

だがこれでヒゲを黒染めすることができることがわかった。ていねいに全体に塗っていこう。
付いていたコーム(くし)で塗っていくのは無理があったので、付属の手袋をつけてそのまま塗りこんでいくことにした。
付いていたコーム(くし)で塗っていくのは無理があったので、付属の手袋をつけてそのまま塗りこんでいくことにした。
塗ったはしから次々と黒くなっていくヒゲ。
塗ったはしから次々と黒くなっていくヒゲ。
それにしても夜中に一人でトウモロコシのヒゲを染めていると、いろいろ思うところがあった。

美容室の匂い、滴る汗、染まりゆくトウモロコシ。なんだろうかこの狂気。なついている猫も部屋に入ってこなかった。

…。

塗り終えたらこのまま10分ほど待つ。
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他も染める

トウモロコシのヒゲを染めてもなお毛染め液が残っていたので(あと染めるのがちょっと楽しくなってきたので)、待っている間に他に染めるものがないか探してみた。するとあるわあるわ、他にも茶髪のものがいくつか見つかった。勢い、片っ端から染め直してやろうと思う。

まずはこちら、おなじみのタワシである。
この不良が。
この不良が。
タワシも見方を変えると茶髪の坊主である。現代風でかっこいいが、やはり坊主頭は黒髪が似合うだろう。タワシなんて出汁の効いた名前しながらチャラチャラしやがって。いま染め直してやる。

まだある
ゆるふわ系ナチュラルブラウン。
ゆるふわ系ナチュラルブラウン。
水彩絵の具の筆である。

水彩絵の具の筆は自然なブラウンであった。普段は黒髪にも見えるが、光が当たるとばれるレベル。急に染めすぎると先生にばれると思ったのか。

これも染めてやろう。

歯ブラシはどうだ。
髪も脱色しすぎると痛んで色が入りにくくなると聞いたことがある。
髪も脱色しすぎると痛んで色が入りにくくなると聞いたことがある。
歯ブラシいたっては完全に白髪であった。白髪染め、というくらいだから一番目的に合っているともいえるが、今回染める中で唯一の人工物(ポリエステル)である。果たして通用するのか。

最後に大物、番長クラスの登場である。

ホウキだ。
メッシュ入れてるの?
メッシュ入れてるの?
ホウキはかなりの直毛ゴワゴワだが、どうしたことか茶髪で二色に分かれていた。若者が頭を半分ずつ違う色に染めていたりするとおしゃれだなーとも思うが、ホウキの場合なにか機能的なオプションがあるんじゃないかと期待してしまう。

しかし実際には特になにもなく、ただ材料の色の違いであった。

一気に染める

残りの染め剤を一気に投入して全部黒髪に染め直すことにした。不良を一網打尽である。
水彩筆には液剤を混ぜるところから協力してもらった。
水彩筆には液剤を混ぜるところから協力してもらった。
トウモロコシのヒゲが黒く染まったくらいだから、植物由来であるタワシとホウキ、それに馬の毛でできた筆も無理なく染まるのではないかと思っている。
今回はバッチテストもそこそこに全体に塗りこんでいく。
今回はバッチテストもそこそこに全体に塗りこんでいく。
この量の茶髪を染めるのはなかなかやりがいがあった。
この量の茶髪を染めるのはなかなかやりがいがあった。
僕は旅先で髪を切ったり染めたりするのが好きだ。一人で海外に行くと着いて早いうちに現地で髪を切るか染めるかする。

その場所で髪を切ることでその土地とコミットできる気がするのだ。実際、おなじ坊主にするにしろ海外でやるとなんとなくその土地の坊主になるから不思議である。髪型を変えるというのは表面的な変化以上に気持ちを切り替えられる行為でもあるのだ。

いまタワシを黒く染めることに正当性を求めようとしたのだが無理そうなのでやめる。
ある程度塗り込んだら手袋をつけて毛根までもみこんでいく。
ある程度塗り込んだら手袋をつけて毛根までもみこんでいく。
不良ホウキも同様に。
不良ホウキも同様に。
歯ブラシにもよく塗りこんだ。この時点ではほとんど変化が見られなかった。
歯ブラシにもよく塗りこんだ。この時点ではほとんど変化が見られなかった。

すべてに毛染め液を塗りこむのに結構時間がかかってしまった。

このまま待つことさらに10分。あとは液剤を洗い流してシャンプーとリンスで仕上げるだけである。

どこで流すのが正解なのか

しかしこの期に及んで洗い流す場所に悩んだ。トウモロコシは食べ物なのでキッチンで洗うのが正解な気がするし、対してホウキはベランダか玄関だろう。

でもこれは毛染めなんだから、と納得して一律風呂場で流すことにした。リンスはしなかったが人間用のシャンプーですべて2度洗いしている。
トウモロコシのヒゲが大量に抜けてあせりました。
トウモロコシのヒゲが大量に抜けてあせりました。
洗髪完了。あとは乾燥させるのみである。
洗髪完了。あとは乾燥させるのみである。
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きもちわるい

次の朝、白髪染めを終えて黒々した髪になった元不良たちがそこにあった。

まずはトウモロコシから見ていこう。
怖い。
怖い。
朝、風呂場で黒髪になったトウモロコシを見て一歩後ずさった。家族が先に見つけなくてよかったと思う。
ほとんどホラーの域である。テレビから出てきたら失神する。
ほとんどホラーの域である。冷蔵庫から転がり出てきたら失神する。
普段食べない部分であるトウモロコシのヒゲを白髪染めしただけなのになんだろうこのお化け感。黒の縮れ毛が妙に生々しい。
よく見ると染まりにムラがある。しかしそんなこと言ってる場合じゃないくらいきもちわるい。
よく見ると染まりにムラがある。しかしそんなこと言ってる場合じゃないくらいきもちわるい。
強引に黒染めしたのが間違いだったことを痛感させられる。すまなかった、君はやっぱり金髪がいいよ。なにしろ手に取るのがはばかられるくらいの人毛っぽさである。

直毛系はかっこよくなった

トウモロコシが怖くなってしまったことで若干の戸惑いはあったが、気を取り直して他のものも見ていきたい。茶髪坊主だったタワシはどうなったか。
黒光りしていた。
黒光りしていた。
逆側と比べるとその差は歴然。
逆側と比べるとその差は歴然。
短髪ゆえ染めにくかったタワシだが、仕上がりはムラもなくかなりきれいだった。これならば生活指導の先生にも頭なでられるレベルであろう。裏は茶色いから出かける時だけひっくり返せ。

筆はどうか。
ツヤツヤだ。
ツヤツヤだ。
水彩筆も見事に染まっていた。高級馬毛使用、とかかれていたので馬の毛も白髪染めで染まるということがわかった。やらないけど。

人工物はどうなっただろう。歯ブラシだ。
うっすら、ロマンスグレー。
うっすら、ロマンスグレー。
完全に白髪だった歯ブラシは薄ぼんやりと灰色になっていた。やはりポリエステルは染め成分がしみこまなかったか。

それにしてもトウモロコシのきもちわるさに比べ、直毛短髪系のものは黒染めしてもさほど気持ち悪くならないことがわかった。やはり人っぽくないからだろうか。

あの大物はどうなった。ホウキ番長である。
高級感すら漂う漆黒。
高級感すら漂う漆黒。
毛の一本一本まで完全に染まりきっている。
毛の一本一本まで完全に染まりきっている。
ホウキはパーフェクトに黒くなっていた。黒くしたことで高級感が増したように見える。成功だ。これがきっと長毛種のホウキだったらトウモロコシ側に流されていたかもしれない。
ホウキのパッケージ。シダも白髪染めで染まることが判明しました。
ホウキのパッケージ。シダも白髪染めで染まることが判明しました。

黒染めするなら直毛種

トウモロコシのヒゲが黒染めして怖くなってしまったのは、毛の長さよりもウェイブがかかっていたのが原因だと思われる。今度やるときはストレートパーマをかけてから染めるか、そもそもやらないかどちらかがいいだろう。

黒く染めると印象が変わる

毛を染めると印象が変わるのは人間だけでないことがわかった。ホウキもタワシも黒染めしたことでなんだかわからないけど実直な感じになった。トウモロコシがきもちわるくなってしまったのは予定外だったが、印象が変わったという点ではインパクトのある効果を得られたと言えよう。

白髪染め、夏の自由研究や肝試しの準備などにもお勧めですよ。
最後もう一回怖いの出してお別れです。
最後もう一回怖いの出してお別れです。
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