特集 2019年11月12日

「神は細部に宿る」コレクション

真のホスピタリティとは、こういうことかもしれない

「神は細部に宿る」と、ある人は言った。作品の本質は、目には見えにくい細やかな部分にこそ現れるのだと。

街を歩いていると、ふとした瞬間にそんな「細部」が見えることがある。意識しないと見過ごされがちな、でも制作者のこだわりが見え隠れする部分。特に気になった風景たちを一挙紹介していきたい。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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こだわりポイントを探す

人工物を作っているのは、言わずもがな人間である。その辺に存在するどんなに些細な物にだって、必ず制作者がいる。街の風景を形づくっているのは、各人が膨大な時間をかけて生み出してきた作品たちなのだ。

そのなかでも、特に制作者の思いが透けてみえる物件がある。私はそういう物件を愛している。

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駐車禁止の看板を、ここまで作り込む必要は全くないだろう。「特に月木曜」という、蛇足にも思える追記が律儀さを加速させている
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穴埋めクイズの正解はストリートビューを見れば分かるが、■と●の塗り分け方に関しては謎のままである
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この形にジャストフィットさせるため、わざわざ扉を作り込んでいる
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分厚いペットボトルの壁と、それらを結束する紐。犬に対する激しい執念を感じる

こんな風に、いろんな風景に隠されている「こだわりや作り込み」に注目していきたい。上手く言葉にできないけれど、制作者が手をかけたであろう部分に目がいくと、理屈を超えた美しさを感じてしまうのだ。きっとそこには、神が宿っているのである、たぶん。

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にじみ出る几帳面さ

細部にこだわるということ、それはすなわち几帳面さと同義である。

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これは大阪メトロの各駅にあって、見るたびに「は~」って思う物件。フタ部分の出っ張りを吸収する台座部分の段差よ。こういう細かな仕事に気付ける自分でありたい
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ユーザビリティを突き詰めた結果、ファミコンの「ウィザードリィ」みたいな表現に行き着いている
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本当に些細な景色なのに、あまりの美しさに見とれてしまった。きっと無意識の産物なんだろうけど、計算され尽くしたような階段状のバケツ配置、そして滝のように涼しげな水の流れよ……
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カメレオンのように、壁に擬態するエアコン配管
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草間彌生テイストの、いわゆる「いけず石」。丁寧な仕事に頭が下がる

物体は放っておくと乱雑な状態になるのだけれど、そこに人間の意思が介在することによって、秩序が築かれる。思うに、物には収まるべき場所があって、ぴったりハマるポイントがある。細部にこだわるということは、きっと無意識にその「ぴったりハマるポイント」を目指して手を動かしているのである。

そう考えると、これまで見た風景が美しいと感じるのも納得できる。物体が本来あるべき形で、あるべき場所に収まったという、そんなピッタリ感を心地よいと感じているのだ。以前に紹介した「ぴたん機」と、本質的には同じかもしれない。

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切り欠きの美学

ぴったりハマるためには、凹と凸が必要である。日常にひそむ凹凸に注目してみた。

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どこか不器用な感じがまたいい
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こっちは切り抜きが上手い。スパっと決まっていて気分爽快
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トタンの隙間からコンニチハ
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何の変哲もない旅館の看板かと思いきや、
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となりの敷地の塀が看板に合わせてくり抜いてあった。そうくるか!
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配線を逃がすための隙間。こんな些細な部分にも、人間の営みが感じられる
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これも相当なこだわりである。隙間があるとゴミを投げ入れられるという、都会の悲しい事情を反映している(たぶん)
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木が人工物を浸食する「もの食う木」というジャンルがあるけど、こちらは浸食される前に人類が下手に出てブロックを撤去している。わざわざ半端な位置で切断しているのがポイント高い
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11番にどんな車が止められるのか考えてはいけない。欠けた部分に無理やりにでも線を引くことによって、こんなにも収まりのいい空間が生まれているのだから

 

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鳥居に対する謎のこだわり

大阪に住んでいると、いたるところに鳥居が置かれている。「小便よけ」のおまじないである。基本的にすべてが手作り品なので、細部を観察してみると面白い。これも制作者が「しっくりくる」形状を模索しての結果であろう。

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赤く塗った棒状のものを組み合わせるだけで、そこに鳥居が生じる。人間の認知能力に身を委ねれば、こんな大雑把さでも十分許されるのだが、
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もう少しディテールの上がった鳥居になると、足下の土台部分が出現する
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そしてこれが、今まで見た中で最高に「鳥居」だった物件。鳥居だけに、まさに神が宿っているという表現がふさわしい作り込みであった。何が人をここまで突き動かすのか
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これ以上にリアルさを突き詰めると、最後は写真になる。鳥居が人格を持って怒り始めた
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かと思うと、リアル路線ではなく抽象化に舵を切った鳥居もあった。その最前線と思われるのが、このタイル画である。8x8のドットに宿る神もいる
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別の意味でこだわりが感じられたのがこちら。小便したら確実に呪われる
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王道をいく配管

細部が美しいものの王道は、配管・配線である。異論は認めない。

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ビシッと揃った配管は美しい
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配管の美しさは、すなわち工事担当者のセンスの現れでもある
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頼りない細さでありながら、「家の形状に沿わせるんだ」という、しっかりとした芯の強さを感じる
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しかしここまで来ると、なにか執念じみたものを感じる

配管・配線とは少し違うけれど、雨樋の形状にも目を見張るものがある。機能性と収まりのよさを両立した、独特なフォルムを堪能したい。 

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家の形に沿った雨樋もまた良し。言ってみればオーダーメイドなわけで、家の数だけ雨樋の形がある
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多段になると、ボールを転がして遊びたくなるような形状に
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庇がくせ者で、それを避けるとどうしても尺取り虫みたいな形状になってしまうようだ

 

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装飾テントも負けてはいない

店舗の軒先にある装飾テント。標識や電柱、室外機といった「他者」との関わりによって、柔軟に形状を変化させている。 

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標識の部分だけ、モーゼが渡るときの海みたいだ
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3Dの描画バグを思わせる突き抜けっぷり。しかし何事もなかったかのように上手く処理してある
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テント周辺に見られる相互作用にも注目したい。右のテントに食い込む左のテント
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庇に食い込むテント
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室外機のために設けられた、出っ張りのあるテント。室外機も建物の一部であるという、許容の心である。やさしさが感じられる

定番の看板系

最後に、細部にこだわった看板を見ていきたい。

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7セグメントディスプレイ風。数字は分かるのだが、その書体をカタカナや漢字に当てはめると、もはや何がなにやらである。でも不思議とハマっている
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平野甲賀を彷彿とさせる強い字体。ミシン仕事にかけて、布とハンガーで構成されるている点が最高
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トリには、かつて関空で見かけた看板を。手前と奥で文言を微妙に変えることにより、立ち入り禁止領域を明確に表現している。あまりの細かさに身震いした

細かすぎて伝わりにくい街のディテール

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壁に意味深な穴があった
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何かと思えば、ガスメータ検針用の穴なのであった。ずれてて全然見えなかったけれど

街を歩きながら、なるべく万遍なく辺りを見渡すようにしている。物体そのものが持つ面白さだけでなく、物体が置かれた状況、周囲との関わり合いの中にも面白さは潜んでいる。そういうのを見つけるのが楽しいのだ。この記事が言いたかったのは、そういうことです。

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