おっちゃんが作った由緒ない城
世の中には2種類のお城がある。由緒あるお城と、由緒ないお城だ。
由緒ある城・大阪城。まあ、昭和になってから復元されたものなので、微妙な由緒ですが
由緒あるお城っつーのは、まあ要はフツーのお城。日本だったら、少なくとも江戸時代までに戦国武将だか大名だかによって建てられている、歴史的に価値のある、教科書なんかに載せられても恥ずかしくないタイプのお城のこと。
一方、由緒ないお城というのは、たとえばこんなの。
全面からビンビンに放たれる由緒のなさ!
「大宮城」と名付けられた、成人男性のためのウッフンフンなお店だ。
大名も殿様も住んだことのない。万一、歴史の教科書に掲載された日にゃあ、そのページの担当編集はニュートリノの速さで博多あたりに左遷となるであろう、お城の形はしているものの歴史的価値はマイナス、読んで字のごとく「由緒ない」お城である。
こんなところにも由緒ない城
「大宮城」のように成人男性ウッフンフンなお店や、男女が一緒に行ってウッフンフンするホテル、はたまた「由緒ある感じに見せたい!」と思って気合いを入れて天守閣風の店舗を建築した結果「由緒ない城」となってしまったケース……。注意深く見渡せば、世間には結構な数の「由緒ないお城」が存在する。
当然、これらに歴史的な価値はゼロなのだが、現代の建築基準法に準拠させるために、何だかムチャクチャなことになってしまっているお城や、予算の都合上なのか鉄筋コンクリート製なお城。さらには根本的にどーかしてしまっているお城など、由緒ないモンは由緒ないなりに、実に味わい深い鑑賞ポイントが沢山あるのだ。
鉄筋コンクリートなお城
以前、当サイト・デイリーポータルZでも「
由緒ないお城をめぐる」という記事において、東京近郊にある「由緒ない城」を紹介したが、その後も旅先などで「歴史上、明らかにこんなところに城なんてなかったハズ」という場所にズドーンとそびえ立つお城を見つけては写真をバシャバシャ撮っている。
ある程度お金をかけないと、お城の形にしたことによって余計にチープに見えてしまうことも
そして今回、これまで撮影してきた「由緒ない城」の中でも頭ひとつ抜けた「由緒ない城」。まさに「由緒ない城・オブ・由緒ない城」。超ドレッドノート級の「由緒ない城」を訪問したので紹介したいと思う。
四の五の言わず、まずは写真を見て頂こう。
そんじょそこらの「由緒ある城」以上のスケール!
写真全体から漂う壮大感、重厚感……。ヘタな歴史ある城よりも遙かにオーラが満ちているものの、悲しいかなコレは由緒ない城。
……なぜなら、戦国武将や大名じゃなくて、奇特なおっちゃんがひとりで作った城だから!
オレの城……男のロマンですな
予想を超えた規模の「由緒ない城」
「由緒あるよ」と言われたら信じちゃうよ、こんなの
ではこの城は何なのかというと……石田三成を敬愛するおっちゃんが、私財をぶっ込んで、三成がかつて居城としていた「佐和山城」を自らの手で作り上げ、再現したものらしいのだ(ただ、本物の佐和山城は、あった場所も形も全然違うみたいだけど)。こんな規模をたったひとりで! 由緒ないとはいえスゴイ。
しかし、驚くのはまだ早い。実は、そのおっちゃんが作ったのはこの佐和山城だけではないのだ。
五重の塔
き……金閣寺!?
何だかよく分からないけれど、城門的な建物
由緒ない城「佐和山城」をふくむ、ひと目ではちょっと見渡せない感じの巨大施設。それが滋賀県彦根市にある「佐和山遊園」だ。
コレが「佐和山遊園」の全貌だッ!
……って、一枚じゃ写しきれないよ
ひとつひとつの建物は非常に由緒ありそうな建物でありながら、それが一ヶ所にギュッと詰め込まれることにより、まったくもって由緒もクソもなさそうに見えてくるという不思議時空。
「佐和山光成会」とは……?
盆と正月とクリスマスとハロウィンが一気にやって来て、めでたいやら忙しいやらでクルクルパー状態になってしまった……という感じだろうか。
それにしても、これだけの大規模な施設「見学するのもお高いんでしょ~?」と思ってしまうけれど……。
なんと無料公開中!
こうなってくると、ホントに何のためにやっているのやらまったく理解不能ではあるけれど、まあせっかく「無料」って言ってくれてるんだから、ありがたく見学させてもらうことに。
近づくと見えてくるガッカリ感
ちょっとバランスがおかしいような……
門をくぐると、まず目に飛び込んでくるのが五重の塔。
なかなかご立派な感じの塔だけど、よく見ると1階部分が妙にデカイわりに2~5階は小さくて、高さ的にはフツーの3階建て程度しかなさそうだ。
一階部分の扉が開いていて、中をのぞくことができるのですが……
ブ……ブロック!?
コンクリートブロックを積み上げてできてるのかよ!? 五重の塔。
このように、佐和山遊園にある建造物は遠目で見るとすごくよく出来ているけど、近くで見ると……というケースが多いのだ。
超・弱そうな金剛力士像
「城下町入口・山門」と書かれた門
こちらもかなり重厚感あふれる山門。左右には金剛力士像が立っているし!
しかし、この金剛力士像の造型がまた、ちょっこしユルイんだ。
阿形!
吽形!
うーん、小学生が紙粘土か何かで作った人形といった感じが……。
門の裏側にも像が立っている。
ものすごく頭でっかちなSTYLE!
足、短いね
こちらはポーズと衣装の感じから予想するに、奈良県の新薬師寺などにある十二神将のうちの2体かなと。
招杜羅(ショウトラ)大将!?
伐折羅(バサラ)大将……
コレ、本物と見較べるとものすごく面白いので、是非とも「
十二神将」でググッてみて欲しい。
さらに、門に取り付けられた狛犬(?)も実に趣深いルックスをしておられる。コレはコレでかわいいからキャラクターとしてアリな気もするねぇ。
時空を超えた世界観
門を抜けると、このような小道が続いている。さっき「城下町入口」と書かれていたのに城下町感はゼロ(花壇とかあるし)。
道の脇には仏像が並べられている。
ま、こんな感じの
フツーの仏様や
カッチョイイ仏像が立ち並んでいます
……しかし、そんな「和」の世界観をたった一体でブチ壊す像が。
バイオリンを弾く少女……と、室外機
しかも、なんちゅうユルイ造型! 角材でバイオリンをぶっ叩いているようにしか見えません
他の仏像たちは、どっかから買って来たか、ちゃんとした造型師に作ってもらったんじゃないかと予想されるけど、このバイオリン少女とさっきの金剛力士像は間違いなく同じ作者!
それにしても何でここに置いた、この像!?
そうそう、金剛力士像はこっちにもありました
阿形!
吽形!
こんなにカッコイイ金剛力士像があるんだったら、さっきの山門にコレを設置すればよかったのに……と思わざるを得ない。
それではここで、先ほどの金剛力士像と見較べてみよう。
阿形……
吽形!……
う、ううーん……同じジャンルの像とは思えないねぇ。
アイデア金閣寺
やはり日本人の心を打つルックス!
それではつづいて、遠目からもキラキラしていてキレイな金閣寺を見に行こう。
実はコレ、金閣寺ではなく、石田三成が亡き母を弔うために建立した「瑞岳寺」(かつて、本物の佐和山城の近くにあったらしい)ということらしいのだが、質素倹約に努めていたことで知られる石田三成が、こんな金ピカな寺を作ったとはちょっと思えないけどなぁ。
どー考えても、石田三成をダシにして金閣寺を作りたかっただけなんじゃないかと……。
それにしてもこの金閣寺(瑞岳寺?)、近くで見るとものすごく金ピカテカテカなんですよ
写真撮ってると自分の姿が写っちゃうくらい
さすがに本物の金で作っているとは思えないけれど、この輝き、どんな素材を使用しているのだろうか。
ピカピカしているように見えるけど、部分部分が朽ち果てててボロッちいの
謎の素材の正体は、ボロッと崩れ落ちている部分から判明した。
意外と工作っぽい素材というか……
あ、茶色のアクリル板にアルミホイル的なものを貼り付けてるんだ!
こんなものなのに、ホントに金なんじゃないかと思わせるようなピカピカ感が出ており、金を使うよりは遙かに安価で作れるだろうし、なかなかのアイデア素材なのだ。
そして、本堂に設置されている仏像もまた味わい深い
何だか立体感が変!
ゴチャッとしてますが、インパクトのある顔がポイント
そしてこの像は、槍らしきものが落っこちちゃってますが……
あ、指が崩れて落ちちゃったんだね……
ところでこの金閣寺(瑞岳寺)、ところどころボロくなっているのはいいとして、明らかに経年劣化ではなく、焼け焦げちゃったんじゃないかと思われる部分があってすごく気になるのだ。
ほら、こことか……
コレなんかも……焦げてるでしょ?
焦げて変形してしまったアクリル板が集められた一角
「金閣を焼かねばならぬ!」(三島由紀夫『金閣寺』より)ごっこを誰かがやったということではないと思うけど……。
こんな火の気のなさそうなところで、どーしてこんなことになってしまったのか!? 謎は深まるばかりである。
いざ、天守閣へ
金閣寺から、ゆるやかなスロープを下っていくと……。
いよいよ、佐和山城天守閣の最上階部分に到着!
さすがに迫力あります
いやあ、やっぱりサイズ的にも作りの細かさ的にも、これまで見てきた「由緒ない城」とは段違いだ。コレを個人で作ったというのはスゴイぞ。
でも、よーく見ると……あっ!
この柱も木製ではなく、コンクリートに模様をつけたもの
石垣も当然、石を積み上げているわけではなく、コンクリートをこういう形にしているだけ……結構スキありますね
ちなみにこの天守閣、中に入れるようになっているのですが
おそるおそる扉を開けてみると……
ワーオッ!
これは……
ここまで「外観だけ立派で中身は空っぽ」という物件も珍しい!
一生懸命建築したお城の中身がそのまま資材置き場になっているという、合理的なのか何なのか……といった感じ。
ところでこの壁に使われている素材、パッと見、トタンのように見えるのだが、実は無数の鉄の棒を並べて作られている謎の素材なのだ……なんだこりゃ。
さて、外に出て正面に回ってみると……うーん、やっぱりご立派!
なぜか「ミロのヴィーナス」があるけど……に、日本の城ですよね?
さらに下の階層には「ヴィーナスの誕生」が。ホント、どんな城だよ!?
この人が城を作ったおっちゃん!
ところで、さっきから気になっているんだけど、……地べたに座り込んで何かやってる人がいるのだ。
「佐和山遊園」内は人気がまったくなく、いるのはボクとその人くらい。で、お城とかを見学しているのなら分かるんだけど、ボクが来た時からずーっと地べたに座り込んでいるのだ。
一体、何をやってるんだろうか?
「見たら分かるでしょぉ。草むしりやってるんだにぃ~」
あ、そ……そうっすか。ということは、ここの管理人さんか何かで?
「ワタシがここ、作ったんだよぉ~」
なんとこの人が、この「佐和山遊園」をひとりで作り上げたおっちゃん・泉さんだったのだ。
若い頃に事業で成功し、財を成したおっちゃんが「石田三成テーマパークを作ろう!」と思い立ち、 ほぼ個人の力で「佐和山遊園」を作ってきたのだという。
しかし、個人の力でこの規模を……相当な時間がかかったんじゃないだろうか。
箱庭感覚でコツコツと長時間かけて……というのはうらやましいような、うらやましくないような
ちなみに、完成してから結構な時が過ぎて、ちょっと朽ち果てはじめているようにも見えるのだが、実はこの「佐和山遊園」まだ完成していないのだという。
ちゃんと完成したら入場料を取って正式オープンさせたいという構想はずーっとあるものの、作るのに時間がかかり過ぎて、ちゃんと完成する前に壊れてきちゃって、それも直さなきゃならないで……いつまで経っても完成しそうにないとのこと。うーん、日本の「サグラダ・ファミリア」だ!
別れ際に、おっちゃんから
「城の中の美術館も見ていったらいいよぉ~」
と声をかけてもらった。え、美術館?
ああ、ここから中に入れるのか
こ……コレは……
お城の正面扉から中に入ると、もはや廃墟状態となっている西洋風美術館に、ちょろちょろっと彫刻(?)と絵が飾られていた。
この彫刻……というか粘土像がまたイイ味出してます
「ヴィーナスの誕生」……かな? この美術品たちは完全におっちゃん作だろうな
個人で家一軒建てるだけでも、ものすごい労力がかかるであろうことは容易に想像出来るが、それがお城……さらには金閣寺や五重の塔までとなると、完全に想像の範囲外! そりゃあ40年もかかりますよ。
おそらく誰からも望まれることなく、儲かることもなく、こんな壮大な事業をコツコツとやり続け、おまけにワケの分からない美術品まで作ってしまうおっちゃんの創作意欲。ホント、見習いたいところです。ボクも将来、こんな城作りたいよ!
ちなみにこの佐和山城、地元・彦根市の観光協会からは完全無視状態らしく、ガイドブック等にも載せてもらっていないらしい(まあ、由緒ないから……)。もったいない! こんなスゴイ場所、もっと観光資源として活用すればいいのにッ!
ちなみに今回、日光の当たり具合などの関係で2日間に分けて取材したんですが、別日にもおっちゃんはずーっと草むしりしてました……同じ服で!