カタカナ表って、そんなに無い
ひらがな表のイラストを集計した前回は、サンプルのほとんどを書店や100円ショップで入手した。種類も豊富で集めるのにそれほど手間もかからなかった。今回も大丈夫だろうと思ったのだが探してみるとカタカナ表というのはそんなにないのだった。
カタカナはひらがな表に併記されていることも多く、確かに需要もそうないのかなと思う。
このようにひらがなの隣にもう書いてあるのだ。カタカナ表の商売が上がったりになるわけだ
ネットで探してようやく3種類を見つけることができた。
大量のサンプルは、ドリルにあった
うーん。それでも3つか。なかなか集まらない。
だが、困ったなぁどうしよう、と思うか思わないかの間にものすごい鉱脈を見つけたのだ。
子ども向けドリルである。
どんだけカタカナ覚えさせたいんだという量!
どのドリルにも、各文字に対応するイラストがついている。これで集計できるぞ
「ソ」は「ソーセージ」。なるほどカタカナの言葉だ
こういったドリルの存在は知っていたが、ここまで種類があるとは思わなかった。
これだけを買い揃えるのに回った書店はたったの2軒である。勉強嫌いの子ども時代をすごした私としては、本屋で次から次へと色々な種類のドリルが出てくるのが恐ろしくて冗談抜きでちょっと泣きそうになっていた(もうカタカナなんて一応全部書けるよぅ~)。
ちなみに店では母親にプリキュアの本の代わりにひらがなのドリルを買わされた女の子が本当に泣きまくっていたのだった。
そ~れ~じゃ~な~い~!!
とはいえ、ドリルの中は子どもが喜びそうな楽しい作りになっていた
フルカラーのものも多く、イラストもかわいい
付録として表がついているドリルもあった。いたれりつくせりじゃ
本屋ではパズルでカタカナの勉強ができるものも発見。さっきまで探し回っていたのが一転、カタカナ富豪である
ドリルにも個性あり
さて、これだけそろったら各文字にどんな単語が割り振られているかもいよいよ気になるところ。ねじり鉢巻で集計しはじめて、おやと思うことがあった。
なんだか妙に語りかけてくるドリルが2冊あるのだ。ちょっと脱線になるが、先にご紹介して気持ちをすっきりさせてから集計結果の報告へとうつりたい。
成美堂出版「ひらがなかたかなぜんぶ!」
ひらがなとカタカナの練習ができるというもので、印刷のきれいさやイラストのポップさなど、いかにも「最近のドリル」という一冊なのだが、これが妙に食べもので押してくる。
いや、食べものの数自体はそれほどでもないのだが、「ここでそれ?」というイラストを妙に繰り出して来がちなのだ。
「ム」が「ムニエル」という意外
ひらがなだけど「に」は「にくまん」。 イラストにも妙なしずるがある
「ヤ」は「ヤキソバ」かあと思ったら、 見開きで次のページ……
「ユ」が「ユーフォー」だ! 日清焼きそばUFOを示唆している?!
さらにめくって、「ヲ」の項にたどり着いたとき、このドリルが確実に「食いしん坊」だということを確信した。
「を」といえば、ひらがなで最も多かったのは「歯をみがく」であったが、このドリルではこうだ。
なんとパンを焼き始めた
ひらがなの「を」ではおとなしく「歯をみがく」なのに、歯をみがいたあと即座にパンを焼いてどうする。しかしおいしそうだ
競争の厳しい幼児向けドリル界において「食いしん坊」というキャラ付けで生き抜く。そういう手立てもあるということか。
急にニャーと鳴く
続いて気になったのは「100回のテストで、本格的なカタカナの練習を!!」とあり気迫を感じるこちら。
しょうがく社「ハイレベ100 幼児カタカナ」
他のドリルに比べても圧倒的に厚みがある。ぱらぱらと見るとドリルでは当たり前のようについているシールのような付録が一切ない。全ページ2色刷りで文字も小さめと、勉強色がかなり強いまじめな1冊だ。
先ほどのドリルが食いしん坊の子の家にあるドリルだとすれば、こちらは間違いなく学級委員の家にあるドリルだろう。
なにしろ書くところが多い
「キ」は「キャベツ」、「カ」は「カボチャ」とワード選びも実直さがにじむ
しかし、そんな真面目一本やりのようなこのドリルが、「二」の項で急に様子がおかしくなったのだ。
にゃん
急に鳴きはじめた。
まさかの事態だ。
これまで、ひらがな表、かたかな表と各文字の単語を色々と見てきた私にとってはかなり衝撃度の高い「にゃん」であった。言うなれば完全な反則技を繰り出してきた形だ。
さらにこちら。
「シ」も「ワ」も、「シャワー」ですませるというまさかの方針
まさかこんなことがあるとは思わずスルーするところだった。あいうえお界においてはこれもなかなかに反則技だろう。
学級委員風だと思っていたこのドリル、意外な一面を見て一気に親近感が沸いたのだった。
集計、終わりました
さて、こうしておしゃべりしている間に50音に割り振られたイラストの集計結果も出たようです(おしゃべりしているのも集計したのも私だけどもね)。
いよいよカタカナの50音を代表する言葉が何なのか、見ていこうじゃないですか。
カタカナの「ア」を、「イ」を、「ウ」を代表する言葉とは?
そろえたアイウエオは全部で12種類
そういえば忘れていたが、今回はカタカナ表3種類、パズル1種類、ドリル7種類のほか本も1種類加えた。
とだこうしろう著「カタカナえほん」
かわいいんですこれが
作家性の高いものは単語の選びが独自なのでサンプルには入れない方針だったのだが、こちらは一般的な言葉が選ばれていたので採用した次第であります。
合計12種類のカタカナ50音。それぞれにあてられたイラストは何だったのか見ていきましょう。
順当、ア行
アイスクリーム、インク、ウサギ、エプロン、オルガン。突っ込みどころもなくきれいにまとまった。
事前の予想では「イ」は圧倒的に「イルカ」だろうと思っていたので「インク」の人気が意外だったくらいだろうか。まずは順調な滑り出しといったところか。
ポップなイラストで、インク
インターネットはイラストとして書きにくいだけに、ここもインクで
ケーキ VS ケムシ、カ行
カ行も言葉選びについて困っている様子はまったくない。余裕である。特に「キ」など、キリンやキツネといった動物から、野菜(キャベツ)、子どもの好きなお菓子(キャラメル、キャンディ)など選び放題である。
感慨深かったのは「ケ」だろうか。ケーキとケムシの一騎打ちになっている。こんなカードでのぶつかり合いが見られるのは胸を張ってこの土俵だけだろう。
安定感あふれるケーキ
ケーキ並みのかわいらしさで上位を狙うケムシ
まさかの大逆転、サ行
サ行で驚いたのはなんといっても「ソ」だ。
ソフトクリームで決まりだろうと思っていたがまさかのソースが次々と得票し、あれよあれよと単独首位を獲得、そのまま逃げ切った。ソーセージもソーダも押さえてここまで健闘するとは。
「サ」は上位がもつれる戦国時代の様相、どれも決め手にかけているのが見て取れる。現在下位に甘んじているサンドイッチあたりが猛攻をかければ統治できるのではないか。
静かなイラストが味わい深い、ソース
サンドイッチにはチャンスありと見た
ちなみに、「セ」のセイザが意外ですが、ドリルではなく表のタイプで、こういった通常ひらがなで表記するようなワードが多く登用されていた
ツはバケツのツ・タ行
さて、ここまではまずまず順当だったが、タ行へきて一気に雲行きが怪しくなってきた。
「ツ」だ。なんとバケツが首位なのだ。「バ」でも「ハ」でもない「ツ」でバケツ。どういうことなのか。
あいうえお表では「る」のイラスト首位が「かえる」であったが、そういった事件が起こったのは「る」でだけだ。
それと同じことがカタカナ業界では「ツ」で起こっている、ということだろうか。
では「る」は? ほかの文字の安否は。先へ急ごう。
「ツ」、バケツ
こちらは「ツ」、パンツ!
「二」も「ヌ」も大変なことに・ナ行
「ツ」で早くも「頭文字のイラストを添える」ルールが崩壊した波乱の展開の今回だが、ナ行でさらにその傾向が加速した。
「二」はテニスが、「ヌ」はカヌーが堂々の首位をとったのだ。
カヌーに至ってはなんと7票を得た。約60%を占める、圧倒的トップシェアだ。
このシェア率、いま調べたらはっさくにおける和歌山県の全国シェアと同じ割合であった。ああ、もう、カヌーがすごいのか和歌山がすごいのか何がすごいのか分からなくなっちゃったじゃないか。
「ヌ」のカヌーはほぼ当然のような流れ
あっちでもこっちでも「ヌ」といえばカヌーなのである
怒涛の後半戦へ
あいうえお表において、頭文字以外のイラストをそえることについて私はかつて「パンドラの箱を開ける」行為であると書いた。それくらい、脅威で特異なできごとだと思ったのだ。
それがカタカナ界においてはいまやパンドラの箱を開けるという行為のハードルが下がりまくりである。トイレの便座くらい気軽に開け閉めされる、そんなパンドラの箱があっていいものか。
ハ行から先はどうなっているのか。そこは平和な大地なのか、それとも。行ってみましょう。
テニス、カヌーのおかげで存在が薄くなってしまったが、「ナ」のナミダも意外だった
ひとときの平和、そして「ホース」・ハ行
大荒れのナ行の嵐は去り、ハ行では台風一過の平和が訪れていた。よかった。ハーモニカ、ヒヤシンス、フライパン、ヘリコプターと収まりがいい。
そしてホースである。
「ホはホースのホ~♪」歌ってみても味わいの深さが分かる。ここはぜひ、ホットケーキに負けずにがんばってもらいたい。
がんばれ、ホース!
ホース!
ホットケーキを差し置いてやったぜホース!
大判の絵本でもホース!
ハム、ガム・マ行
ホースの喜びもつかのま、「ム」でまた頭文字ではない言葉が選ばれる事件が発生だ。首位独走は「ハム」。
確かに、ハムという言葉が「ハ」っぽいか「ム」っぽいかと言われたら「ム」っぽいのは分かる。「ム」の要素が強い言葉だ(それは「カヌー」のときにも感じたことだ)。
しかしそれを置いてもやはり頭文字にこだわってほしかったのだ。
3位に食い込んでいるのも「ガム」と否頭文字一派で間にはさまれている「ムシメガネ」が今にもつぶされそうである。
今は関係ないことなのですが、
ハムの描かれ方がどこも、
ペロンとしていて
おいしそうだった
がんばれヤギ!・ヤ行
ヤ行は「ユ」がユニホーム、「ヨ」がヨットと安定の大物をたずさえる一方、「ヤ」はギリギリでヤギがダイヤとダイヤモンドという否頭文字一派をかわした格好だ。
ひらがなのあいうえお表について書いたとき、ライター西村さんが「カタカナ界では『ヤ』が苦戦してますよ」と教えてくれたが、確かにヤギがいなかったら大変だった。
今後万が一ダイヤがダイヤモンドと合併すればヤギの地盤も危うい。がんばれヤギ! 今はただ、祈るばかりだ。
ヤギのイラストがまた性格がよさそうで応援を誘う
がんばってくれ、ヤギ!
カタカナの楽園・ラ行
各行でなかなかに厳しいせめぎあいが起こるなか、ラ行は生き生きとしたラインナップでほっとした。
ラ行といえば、ひらがなの世界では「る」で大苦戦するなどちょっとした鬼門であった。それがどうだろう。カタカナではひらがなの敵をとるようにお得意のルビーがここぞとばかりに発動、次点のルーレットもしっくりきている。
そして「ロ」だ。ロケットとロボットという豪華すぎる2枚看板が華々しい。カタカナ表の醍醐味はラ行と言ってもいいかもしれない。
ロボットは表紙にもなる勢い
パン!・ワ、ヲ、ン
カタカナ表の場合、ヲについては特にイラストを入れないケースが多かった。確かに、人名など以外ではあまり使わない文字だ。
そういうこともあって、やはりワ、ヲ、ンのなかでは見どころは「ン」だろう。
「ン」はもともと頭文字として使うのが難しい文字のため、「ン」が入っている全ての言葉にチャンスが与えられている。つまり、かなり競争率が高いはずだ。ひらがなの場合も「えほん」や「きりん」など大きく票が割れていた。が、今回は「パン」が首位独走の一人旅状態なのだ。
カタカナで「ン」といえば、迷わずパン。言われてみれば説得力もある。パンはおいしいし、いいと思います。
このイラストもおいしそう
偶然なのか、ワインと並んでいい布陣
違うぞ、カタカナ表とひらがな表
思った以上の混戦ぶりにかなり興奮してしまった。
カタカナ界ではひらがな界では考えられないほど否頭文字一派の勢力が強い。あてる言葉があるかないかに限らず、なんだかカジュアルに頭文字でない言葉を入れてくるのだ。
「ぼくらカタカナだし、ひらがなに比べたら語数も少ないし仕方がないよねー」「そうだよねー」
そんな風にカヌーとハムが共謀しているのを想像した。
よく見たら、このパズルが頭文字ルール無視しまくっていた
個人的には「ヌ」はヌガー
ホースやカヌーといった、日ごろそんなにイラストとして見ないイラストをたくさん見られた。「だから満足だ」と言ってもいい。
そんなホースやカヌーのイラストを見ながら、今日も小さな子どもが一生懸命「ホ」や「ヌ」の書き取りを練習しているのだ。
常日頃そんなに出番のない言葉だが、知らない間にこういう場所でスポットを浴びていたと思うと言葉の運命もなかなか一筋縄ではいかないものだと思う。
ちなみに個人的には「ヌ」といえば「ヌガー」です。イラストには描きにくそうですな。