あいうえお表、例えばこういうの
調査のきっかけは「まじょ」
上のあいうえお表は100円ショップで買った風呂用ポスター。お風呂の壁にピタッとはれるというものだ。
今回の調査は、この表の「ま」の欄がきっかけになった。「ま」の代表として選ばれているのが「まじょ」なのである。
あたりさわりのないイラストに混じり
唐突に「まじょ」
ほかになにかなかったのか、という思い
魔女……。
確かに魔女っ子は女の子向けアニメの頻出テーマである。魔女というワードは子どもとの親和性は高いのかもしれない。
しかし、他になんかなかったのかという思いはどうも残る。「まじょ」という言葉に唐突さと意外性を感じたのだ。
他の表では「ま」は何が当てられているのだろう。ひらがなにイラストが対応しているおもちゃを見てみよう。
積み木にひらがなとそれに対応したイラストが描いてある。「ま」は……
まど
そうか、「まど」か。そうか。
感覚でしかないが「まじょ」よりは納得がいく、気が、する……。
できるだけ当たり障りのない語を
基本的にこういったあいうえお表のイラストというものは
1.子どもになじみのあるものを
2.できるだけ唐突でない形で提示する
そういうものだと思う。たとえば急に「ま」で「マカッサル(※)」のイラストがついていても「え?」だろう。
(※インドネシア、スラウェシ島の都市、ウジュン‐パンダンの旧称)
おなじみで、イラストとして描かれて不自然でないもの。子どもや、いざ子どもにひらがなを教えんとして脇に立つ大人の心をかき乱さないように当たり障りの無いイラストを選定する。それがあいうえお表だと思うのだ。
「お」は「おにぎり」。「わ」は「わに」。若干色彩にスパイスが効いている気もするが、違和感なくスッと入ってくる言葉選び
そういう意味で「マカッサル」ほどではないものの「まじょ」は私にとっては唐突だったし、「まど」はぎりぎり納得がいったのだ。
「む」は「むぎ」?
さて、さきほどの積み木。「ま」が「まど」だったことで私の心は平穏であったのだが、「む」に惑わされた。
むぎ
むぎ。
なんだろう。じんわり心が静かになっていく。
さきほどの「まじょ」が言葉としてちょっと派手な印象だったとすれば、「むぎ」はあからさまに地味だ。
銀シャリという漫才コンビの「ドレミの歌」をネタにした漫才で「ソーは青い空」に対し「ソー、はソバのソではどうか」というようなくだりがあった。そういえば漫才ではこういったズラしみたいなものはよく取り上げられる。
「む」は「むぎ」の「む」、というのもちょっとそれに近いと思うと急に立派におもしろい。ちょっとシュールにも感じる。
そして「そ」の「そうじき」はイラストが太鼓っぽい(今はどうでもいい)
どうやら、あいうえお表とはいえ、無難な言葉が選びづらい文字というのがあるようだ。
「ま」で「まじょ」を選んだのも、「む」で「むぎ」を選んだのも、手ごろな単語がなかったからだろう。
あいうえおのイラストのシェアを知りたい
そうなると、気になってくるのは選ばれる単語だ。
ほかの あいうえお表にも「まじょ」や「むぎ」がいたしかたなく登場するのだろうか。
あいうえお表を集めて調べてみよう。
自宅にあった3種に合わせ、新規に6種類をゲット 表だけではなく、イラストとひらがながセットになっている練習帳も仲間に加えた
友人宅で発見したものも、メモ撮影!
こうして、なんとか11種類のあいうえお表を集めた。
思ったより数が集まらなかったのは、集計するうえで除外したほうがよさそうなタイプのものがいくつかあったからだ。
作家性の高いものは除外
まず、作家性の高いものは今回は除外した。通常のあいうえお表とは、単語選びの説得力のようなものがまるで違うのだ。
たとえば、画家で絵本作家でもある安野光雅「あいうえおの本」。
安野光雅「あいうえおの本」。見開きで各文字とそれにそったイラストが描いてある
「ま」のメインのイラストは「まわりどうろう」。唐突だが説得力があって黙らされる
読めば読むほどイラストの唐突さや意外性を作家性がっちりと吸収している。
なにか、集計しておもしろがる対象ではないと感じた。畏怖である。
アンパンマンのキャラだけで50音
さらに、対応させるイラストにテーマのある あいうえお表というのも見かけたがこれも除外した。
たとえば、乗り物しばりでイラストが割り振られていたり、「アンパンマン」のキャラクターが割り振られているようなものだ。
乗り物やアンパンマンのキャラクターだけで50音そろえるというのはすごいが、集計にあまり意味がなさそうだ。
ライターT・斎藤さんから教えてもらった「ひらがないろは」は、昔ながらの色の名前しばりで50音に割り振られている
「メロンイエロー」が釈然としない、と斎藤さん。こういう あいうえお表もあるのか!
大人向けっぽいのも除外
子どもの勉強用に作られたのとはちょっと違うのかなという あいうえお表にもめぐり合った。
雑貨屋にあったこちらは1枚のシートではなく別々に窓に貼れるようになっている。
ひらがなではなく、カタカナ表か。なにしろカラフルでかわいい
「ヒ」が「ヒヒィ~ン」
単語の選定もおしゃれだったり、ちょっとユニークさを入れているようだ(そういえば、ネットでは「大人のあいうえお」表」というのも流行しましたね)。
おもしろいが、今回はウケ狙いで作っていない子ども向けのあいうえお表だけに焦点を絞った。できるだけ100円ショップで売られているような、軽いタイプのものに重点を置いている。
そうして明らかになってきたあいうえお表のシェア
さて、こうして集められた あいうえお表。文字ごとのイラストを50音で集計してみた。
思った以上に各文字でのシェア争いは熾烈なものであった……!
「も」では「もも」がとんでもない強さを見せた!
あいうえお表で、泣いた!
さあ集計結果だ。
本当だったら見どころの濃い部分からピックアップしていきたいのだが、集計するについれてどの文字にも妙な思い入れが沸いてしまいどこから語ればいいのかわからない。
今ならあいうえお表の頭文字イラストだけで泣ける、そう思う。それくらいドラマがあったのだ。本当ですって!
語りつくせぬ思いを込め、ここは素直に あ行から順番に紹介したい。
集計は、サンプル数が11と少なかったこともありそれほど時間はかからなかったことを告白します
王様も鬼もいる、あ行
しょっぱなの「あ」からしてビール会社のシェア争い並みの熾烈な戦いが繰り広げられている あ行。「え」にしても「お」にしても、実力は5分の勝負が繰り広げられている。
見どころとしてはなんといっても「お」だろう。
王様と鬼が2票づつでにらみ合っているところをおにぎりが絶対的な力で圧しているのだ。
権力も妖力も、食欲の前に屈した。
昔話界、和の重鎮である鬼
洋の重鎮である王様
しかし勝者はまさかのおにぎり!
また、「あ」に1票を入れた「アフロ」は意外すぎる意外である。
これを掲載した表は少し対象年齢が上だったのか、同じ子ども向けでもちょっとウケを狙うようなところがあった。現代的だ。
現代的あいうえお表(厳密に言うと、ひらがな&カタカナ表だったのだな)
他にも「あ」では「あかちゃん」が滑り込んでくるなど波乱含み
50音きっての人気者ひしめく、か行
あ行もそうだが、頭文字とする単語選びに余裕があるのが か行の5文字だ。
「か」「き」「く」。どの字も頭文字として大人気である。イラスト化する単語にも事欠いていないのがわかる。
いたしかたなく「るすばん」をイラスト化しなければならない「る」から見れば(後述するが、本当に「る」は大変なのだ)、「くま」と「くじら」と「くるま」でどれにするか迷える、というのは豊かすぎるほど豊かであるといっていいと思う。
それにしても「こ」だったら他にいろいろあるだろうにどうして「こたつ」か
「け」のトップシェアが「けむし」というのはやや意外といえば意外か。ライター玉置さんちのカードはイラストも独自
夏、さ行
さ行は夏だ。
「す」で「すいか」、「せ」で「せみ」の勢いが強い。そう思うと、「さしすせそ」と声に出して読んだときのイメージは冬というよりは夏な気もする(冬だったら「まみむめも」あたりだろうか)。
個人的には「そ」が興味深い。「そうじき」の独走にしても「そば」の渋さにしても、どこか仕方なく選ばれたような風情を感じる。
「す」の「すし」は「おすし」が語としてメジャーなのが影響して2票に甘んじたのではないか
「そうじき」7票に対し、家電界でのライバル「せんたくき」は「せみ」に押され2票にとどまった
あいうえお表のアメリカ、た行
た行は自由だ。
ぱっと一覧を見ていただければわかるとおり、一党独裁の文字はほとんどなく、非常に分散している。
「ち」を例にとってみよう。
「ちず」が他をぎりぎりで抑えながら、「ちくわ」だ、「ちきゅう」だ、いや「ちきゅう」じゃなくて「ちきゅうぎ」だ、「ちゃわん」はどうだ、「ちりがみ」を忘れているぞと騒々しい。
かと思えば、「つくし」「つる」など妙に静かな「つ」、「てるてるぼうず」や「てつぼう」など朴訥さが魅力の「て」など個性豊かである。
個性と自由の交錯。た行はそう、国でたとえるならアメリカだろう。
自由と個性が行き来する
あこがれのアメリカ
シェア90%の「ねこ」を擁する、な行
な行は集計がスリリングだった。
「ね」はあと一歩で「ねこ」の全制覇かというところを、皮肉にも捕食対象である「ねずみ」に阻害された形であり感慨深い。
また「の」の「のこぎり」、「な」の「なす」と、そこ? と思うような意外な単語がトップを独走し票を集める様子は手に汗を握った。
「に」の「にく」や、
「ぬ」の「ぬの」など、しみてくる単語もあるのが な行の魅力である
興奮してアメリカだとか言い出してる
平和だ、豊かだ、アメリカだと好き勝手言っておりますが、ぺらんとした紙一枚のあいうえお表がなにか立体のように立ち上がってキラキラ輝き出したということはなんとなく伝わったのではないか。
後半戦は、はひふへほ から。「は」で「はにわ」が嵐を呼ぶ予感です。
嵐の予感、は行
は行はどの文字でも上位1名が安定して得票をしている行だといえる。
しかし「は」だ。
一見5票をとった「はさみ」がしっかり幅をきかせているように見える。が、下位で「はと」や「はんかち」に紛れ存在感を消している「はにわ」が見逃せない。
「はにわ」が混乱を起こそうと目を光らせているように見えてならないのだ。
「はにわ」……!
また「へ」は申し合わせたように「へび」が多く登用されているのだが、現在3位タイに甘んじる「へそ」に大きなポテンシャルを感じるのは私だけだろうか。
「へそ」には「へび」と拮抗する「へ」の代表としての適性があるように思うのだ。
嵐の予感である。
「へそ」時代も近い
ドラマティック、ま行
「ま」といえば今回のきっかけともなった「まじょ」だ。
全体を見ると「まくら」と「まめ」が仲良くも手堅く他を押さえているようである。が、「まんとひひ」、「まんぼう」と迷走している感じはやはり否めない。
※「みみりん」はキャラクターの名前。
「ま」は自由キャラ。「まんぼう」に
「まんとひひ」も生息
そして、ドラマは「む」でおきた。
「む」は、得票数で「むし」を「むしめがね」が抑え、その下でまた「むぎ」を「むぎわらぼうし」が抑ええているのだ。
この子が親を食う展開、昼メロなみのえぐさではないか。
偶然とはいえ、なんという皮肉
また、ここでは「もも」のパーフェクトが「もぐら」によって止められた。
集計しながらも「もも」の強さにはうならされていたが、対抗馬として登場した「もぐら」にも子ども向けイラストとしてはまずまずの説得力がある。
これが、あいうえお表イラスト界の厳しさなのだ。
王者「もも」へまさかの刺客、「もぐら」。そして隣の「よ」は「ようかん」?!
「やかん」や「ようかん」が元気、や行
や行にはチャンスが眠っているといっていい。
なにしろ「や」のトップは「やかん」だ。「よ」には次点でなんと「ようかん」がランクイン。
これはつまり、「やかん」や「ようかん」のイラストが、ことによると家庭の風呂とかトイレに張り出されているということだ(あいうえお表だから)。
一般家庭に絵が掲示される。「やかん」や「ようかん」にとって、あいうえお表を逃したらチャンスは2度とやってこないだろう。
堂々と、「やかん」
そしてこちらは「ようかん」の、なんとぬりえである
パンドラの箱、オープン! ら行
文字によってはなにをイラスト化するか選択肢が少なく苦戦する、というのがこの あいうえお表。それが如実なのが ら行だ。
「ら」「り」「れ」は安泰だが「ろ」は「ろうそく」の存在で間一髪助かっている状態。
「れ」は「れいぞうこ」が健闘するもののピンときにくい単語としては今回ピカ一だった「れんげそう」を持ち出すなど気が抜けない。
「ろうそく」が停電時並の大活躍
そして、なにはなくてもこの あいうえお表鑑賞にとってのクライマックスであり一番の問題が「る」であろう。
得票4で1位につけたのはなんと「かえる」。それ「る」じゃなくて「か」じゃないか。
そう、「る」は頭文字のイラストを選ぶのをあきらめたのだ。パンドラの箱、いたしかたなくオープンである。
あきらめず「る」を頭文字にとこだわった表では「るすばん」ががんばった。しかし「るすばん」だ。苦渋が伝わってくる。
「る」としての自信さえうかがえる「かえる」
ハムスターが寂しそうにしているという貴重な画像
ちなみにしりとりで「る」といえばまず「ルビー」であるが、子どもに受け入れられづらいのか「ルビー」の得票は1にとどまった。
「ルビー」に対して一矢報いた気持ちになったのはなぜだろう。
子どもははをみがこう、わをん
先ほどの「る」とは違い、もともと頭文字としての機能を果たすことができないのが「ん」だ。
勢い、どこでもいいから「ん」が入っている単語が選らばれていた。
そんな「ん」の上位は「えほん」「きりん」など、それぞれ「え」や「き」でも高い得票を得ていた単語ばかりだ。
「え」では入れなかったけれど、「ん」で入れてよかったね! そんな補欠合格枠のような「ん」である。
そう思うと、「だいこん」は頭文字が濁点であるというハンデを乗り越えて あいうえお表に登用されたのがすごい。おめでとう! 「だいこん」!
「だいこん」に幸あれ! ついでに「わかめ」も!
「を」については「○○を▲▲」と文にしなければいけないた、選択肢はほとんど無限だ。そんななか奇跡的に3票の得票があるひとつの文に集まった。
「はをみがく」だ。
ドリフの「歯、みがけよ!」にもあるように、大人が考える子どもに向けて投げかけるセリフといえば、歯をみがけ、なのかもしれない。
虫歯は痛いもんね。
はをみがく!
はをみがく!
重ね重ね、はをみがく!(そして「ろば」の顔のなさけなさよ)
それぞれの表に個性
やいのやいのいいながらひととおりざっと眺めた。
まだまだ語りしろはあるし、もうあと5枚別のあいうえお表を集められたら結果もがらっと変わったかもしれない。
表はそれぞれ、表立たない程度に個性もあった。家電をちょいちょい入れてくる表、「さくら」や「ほたる」など叙情的なものを好む表。本来カタカナで書くべき単語(「かれー」「へりこぷたー」など)を入れるかどうかも分かれた。
単語選びには時代によっての違いも感じた。発行年代ごとに整理すればもっと見えてくるものもありそうだ。現代版との比較をするのもおもしろいかもしれない。
さらにさらに、ライター西村さんからは、カタカナ練習帳が結構なことになっているという情報も入ったのだ。
パンドラの箱を開けたのは、「る」じゃなくて私なのか……。
「イ」のイルカはいいとしてもその次が「インターネット」って
「ヤ」からはじまるカタカナ語はなかなか無い(西村さん談)
みなさんのお宅の表の「る」は何ですか
表ごとにぼんやりと個性もあった、頭文字イラスト付きあいうえお表。みなさんのお宅にもありませんでしょうか。
もしあったら表のなかから「る」のイラストを教えていただけませんか。投稿コーナー「
文章ヒルズ」で募集しています。投稿おまちしています!
「も」の「もも」を食べてる。こうやって子ども(写真は玉置さんちの子)は字を覚えるのだ