脱水シートの代わりを探します
食材の脱水といえば、すでにそれ専用のシートがいくつか市販されている。
肉や魚を包むだけでおいしくなるという、それはそれはとても便利なツールなのだが、残念なことに消耗品としては値段がけっこうする。
そのため、我が家では毎日の食事で気軽に使うというよりは、製麺機とかウナギ用包丁のように、いわゆる「男の料理」でたまに使う程度の頻度だ。
もったいなくてなかなか使えず、とうとう箱が黄ばんできた脱水シート。
このタイプは、水あめの力で食材の水分だけを吸収するそうです。
この使い勝手の良さを、何かほかの安価なもので代用できないかと考えていたのだが、とうとういいものを見つけてしまった。ペット用品売り場で。
ペット用トイレシーツを使ってみます
もしかしたら記事のタイトルで予想できたかもしれないが、脱水シートの代用品とは、ペット用のトイレシート(ペットシーツ)のことである。
我が家には水槽に入っているペットしかいなくて縁がなかったのだが、1枚あたり10円程度と値段も安く、大きさも各種揃っていて、使い勝手がよさそうだ。
あとはメンタルの問題だけだな。
とても便利そうではあるが、所詮はトイレのペット用。違った、ペットのトイレ用。
気持ちの問題として、自分でも多々引っかかるところがあるのだが、トイレットペーパーで鼻をかむことだってあるし、とりあえず自己責任で前に進んでみて、心が折れたら素直にやめることとする。
種類が多すぎてどれを買ったらいいのかよくわからなかったのだが(目的を伝えて店員に聞くわけにもいかないし)、とりあえず無香料のものから2種類を適当にセレクトしてみた。
心のケアとして、表記を書き変えてみた。これぞラべリング効果。
豆腐の水切りをしてみよう
まずは小手調べということで、買ってきた2種類のペット用シート、いやお買い得な脱水シートを使って、絹ごし豆腐の水切りをしてみることにした。
豆腐料理のレシピによく出てくる水切りという行程だが、どうにも簡単な方法が見当たらず、かといって高級な脱水シートを使う訳にもいかず、地味に苦手意識があったのだ。
普通サイズとやらで一番安かったシート。サイズはちょうどいいが、ちょっと薄いかな。
高吸水を謳っていたLサイズのシート。青いのがちょっとイヤかも。
大きいシートは切って使えばいいかなと思っていたのだが、説明書きに切ると中身がでてしまうのでダメと書いてあった。トイレ用でダメなら、台所用なんて絶対ダメだ。
心の奥底から湧き上がる違和感を抑え込み、豆腐とシートがしっかりと触れるように包んで、輪ゴムで縛って冷蔵庫で一晩脱水。
くるんでみると、タオルケットと羽毛布団くらい違いますね。
水切り前は、皿の重さを抜いて157グラム。ちなみに3丁で98円だったかな。
キッチンペーパーだと水でビシャビシャになって破れたり、豆腐が崩れたりしがちだが、このシートならそういう不安は一切ないのが素晴らしい。別のメンタル的な不安は多少あるけれど。
抜群の脱水力を発揮
一晩経って冷蔵庫から取り出した豆腐は、見てわかるくらい一回り小さくなっている。ちょっと反省した感じの小さくなりっぷり。
目減りして若干損した気分だが、これこそがしっかりと水切りができた証拠である。豆腐を包んでいたシートもしっかりと重い。
普通サイズのシートでも、しっかりと水切りができたみたい。
測ってみると、ちょうど50グラムも減っていた。約三分の二の重さになったのか。
大きい厚めのシートならさらに豆腐が小さくなったかと思ったら、あまり変わらず。
1グラムだけ軽かったが、誤差の範囲ですね。
普通の吸水力で普通サイズと、高吸収タイプでLサイズの2種類を試してみたが、豆腐1丁程度の水切りなら、その結果に大差はないようだ。
どちらかというと、白と青という色の差の方が大きな問題だろう。やはり台所用は白が無難ですかね。
水切りした豆腐がうまい
しっかりと水切りされた安い絹ごし豆腐、もともとのフニャフニャした崩れやすい豆腐とは、テレスコとステレンキョウくらいに(わからなければ昔話とか落語に詳しい人に聞こう)、まったく別物となっていた。
刺身のように薄く切っても、箸で問題なく掴めるほどのみっちり感である。重さこそ三分の二と減ってしまったが、高級感は軽く倍だ。お得なトレードオフだったといえよう。
これだけで、どっかの温泉旅館に来た気分になれる。
食べてみると、豆腐というよりも湯葉のような大豆の濃さに驚いた。それでいてキメがどこまでも細かく滑らか。
たったひと手間で安い豆腐がここまで化けるか。もともとがちょっと水っぽい豆腐だっただけに、おいしくなる伸びしろがすごい。
でも、もっとおいしい豆腐を使ったら、さらにおいしくなったんだろうな。
そのままフライパンで焼いてもまったく崩れることなく、表面はパリッ、中はフランス、いやフワッと仕上がった。
すばらしいぞ、脱水用シート。これを使った料理の案がどんどんと湧いてくる。世の中にこんな便利で安いものがあったなんて。
今まではどこかでペットのトレイ用ということに違和感があったのだが、この豆腐を食べてそんな思いは吹っ切れた。
よし、もうお前は台所用だ!
マイ・フェア・レディのヒギンズ教授にでもなった気分で(観たことないのでイメージだけで言っています)、この魅力的なシートと台所というステージで一緒にひとあばれしてみようじゃないか。
人としてどこか一つステージを降りてしまったような気もするが、もう後悔はしない。
チャレンジ!サバの干物!
脱水シートを使った料理といえば、やはり干物作りは欠かせないだろう。居酒屋に入って「とりあえず生ビール」ぐらいのド定番だ。とりあえず干物だ。干さない干物だ。
作り方は超簡単。近所のスーパーで既に開かれた魚を買ってきて、軽く全体に塩を振って、引っ越しのときの瀬戸物気分でシートにくるんで一晩置くだけ。
静岡産のサバ198円でチャレンジ。
くるくるっと巻いて、冷蔵庫へ。
翌日、シートからサバを取り出してみると、若干のスプラッタになっていて目が泳ぐ。
ほどよく干された、というか脱水されたサバの身はいいとして、シートに染みた血が怖い。
犯行現場みたいな写真になってしまった。
ただ、これはサバの身から生臭さの原因となる血が抜けたということなので、歓迎するべき事態なのである。おいしくなった証拠のはずだ。
しかし男は血に弱いのよね。
脱水しただけでサバがうまくなった
程良く水分の抜けたサバをグリルで炙ってみたところ、生のサバを焼いたような水っぽさや生臭さがなく(それはそれで好きですが)、旨みが凝縮された立派な干物になっていた。
塩気が若干薄かったので、醤油をひと垂らしして食べたら最高。
水分が程良く抜けているので、焼く時間が生のモノより短く済むのもポイント。
198円の半分だから1切れ99円のサバだが、1枚10円くらいのシートで脱水することで、たとえこれが480円だったとしても感激するくらいうまくなった。
季節や産地によって当たり外れの激しいサバの中で、脂が適度に乗った大当たりのサバであったというのもあるのだが、脱水だけでここまでおいしくなるものなのかとビックリ。
もちろんちゃんとした脱水シートでも同じ効果、あるいはこれ以上の効果があるのだろうけれど、兼業主夫目線としては、コストパフォーマンスの高さが感動に拍車を掛けるのである。
チャレンジ!イカの塩辛!
続いて挑戦するのは、スルメイカの塩辛だ。一見脱水と関係ないように思うかもしれないが、塩辛をおいしく作るコツは、イカの水分量を減らすことなのである。たぶん。
いつもはイカの身と肝に結構な量の塩をまぶしてキッチンペーパーにくるんで脱水するのだが、塩味がきつくなりすぎたり、キッチンペーパーがイカにへばりついてイライラしたりしがち。
そこでこの脱水シートの出番なのである。
イカの身にごく薄く塩をして、シートで挟む。
肝にはちょっと多めの塩をして、シートでくるむ。ちょっと多めの塩といっても、普段塩辛を作る時よりは全然少ない。
今回は生のスルメイカが売っておらず、冷凍の刺身用スルメイカを使ってみた。
どうしても水っぽくなりがちな冷凍イカだが、一晩シートで脱水したイカは、適度に水分が抜けて、塩辛作りに最適の状態となっている。
バットで挟むようにすると、しっかりと脱水できますね。
墨袋はつけたままで問題なし。シートが食材にへばりつかないのが素晴らしい。
やはり塩辛のポイントは脱水だ
身と肝は適当な大きさに切ってよく混ぜ、容器に入れて一日冷蔵庫で熟成させる。
出来上がったのは、余計な水分のないねっとりとした塩辛。冷凍のイカを使ったのに生臭さが皆無なのは、やはりシートの手柄だろう。
このうす塩の塩辛に、お好みで醤油をちょっと掛けて食べるのがうまいのだ。
ここから日を追うごとに、さらに熟成しておいしくなっていくのだ。
この塩辛ももちろんおいしいが、脱水したイカをただ焼いただけのものも、またシンプルでおいしかった。
これにはマヨネーズ七味醤油がベスト。
脱水したイカを天麩羅にしてもうまかったかも。
チャレンジ!パンチェッタ!
続いては、豚肉。バラ肉に塩と適当なスパイスを塗り込み、脱水シートでくるんで、途中でシートを交換しながら冷蔵庫でじっくりと熟成させる。
イタリアが誇る塩漬け肉、パンチェッタ的なものを作るのだ。
そういえば、私がちゃんとした脱水シートをはじめて買ったのは、六年前にパンチェッタを作った時だったかな。そうかー、あれから六年も経ったのか。
個人サイトに書かれた記録が初々しいぜ。
塩は目分量で全体にまぶせるくらい。スパイスは家にあるものを適当に。
もうこれがペット用トイレシートであるということなど、すっかり忘れて生活に馴染んでいる。
本当は3週間くらい熟成させたいところだけれど、とりあえず一週間で味見してみることにする。シートは途中で二回変えておいた。
まだちょっと早いかなと思いつつ、熟成を楽しみながら毎日少しずつ食べるのが好き。
贅沢な食パンの出来上がり
5ミリほどに切ったお手軽パンチェッタを、油をひかずにフライパンでよく焼き、トーストに乗せて、胡椒をガリガリと振って食べてみた。
フライパンに残った脂も掛けました。
この日の昼食はこのパンチェッタを乗せたトーストと牛乳だけだったのだが、食パン一枚ともいえる食事に大満足。
豚の脂がうますぎる。塩加減もばっちり。とかいって、なんにでも醤油を掛けたくなるタチなので、これにも一滴だけ醤油を掛けてしまった。最高だ。
なんだろう、このシートで水分を抜いた食材がもたらす共通の充実感は。高吸収だけに高級感か。今年の花見のつまみは、このパンチェッタで決まりだな。
チャレンジ!ベーコン!
パンチェッタの半分は、1時間程水につけて軽く塩抜きをしてから、新しいシートに包んでしばらく水切りをして、スモークをかけてベーコンにしてみた。
スモークをかけるといっても、スモーカーは持っていないので、使っていない中華鍋でお手軽に。
家の中でやると、しばらく煙くさくなるので、実体験として外でやることをお勧めします。奥は初チャレンジのスモークチキン。
パンチェッタもうまかったが、煙を浴びせるという、もうひと手間を掛けた肉はやっぱりうまい。
完全に火が通っておらず、まだうっすら生っぽいベーコンを、さっとフライパンで温めて食べるという贅沢。
このベーコンでポトフつくると、うまいんだよな。
このシートを使って、まだまだ作りたい料理はあるのだが、とりあえずはこの辺でどっとはらい。
シメサバとか絶対うまいはず。
便利だけど、お勧めはしません
このシートを料理に使うという行為、とても便利なのですが、あくまで本来の使い方ではないので、お勧めはしません。なんていってみたりして。
どこかのメーカーから、ちゃんと料理用として出してもらえるとうれしいところですね。私が知らないだけで、すでにどっかで売っているのかもしれませんが。
マグロの解凍実験もやってみた。左がそのまま、右がシート使用。身のしまりが全然違った。