綾瀬市に残る木の電柱
私が住む神奈川県綾瀬市は、神奈川県中央部に位置する豚と薔薇と基地のベッドタウンだ。
都会か田舎かといわれれば、どちらかというと田舎より。いや、明らかに田舎より。そんな所である(参考記事「
あなたは綾瀬市をしっていますか?」)。
その我らが綾瀬市にも、木の電柱が残っているのだ。冒頭の心当たりとは、この事である。
何気ない綾瀬市の一風景
あ、これ、木の電柱だ!
奥にあるアレも、木だよね?!
電柱としては、どちらも極めてシンプルなものだ
控えめに立つこれらの電柱は、ビニルハウスで使う電気を確保する為のものだろうか。電力会社の名はどこにもないし、おそらくは個人所有のものなのではないかと思う。
しかし改めて見てみると、木の電柱というのはなかなか良いものだ。木目が美しく、表情豊かなのが素晴らしい。眺めていてもなかなか飽きることがない。
それには風情があり、情緒がある。
この質感、思わず撫で回したくなる
看板の腐食具合が凄い。青木……何店?
こちらは呉服屋か。昔はこの辺にも呉服屋があったんだな……
長年の風雨にさらされ看板は既にボロボロなのに対し、電柱はいまもなお悠然と屹立し続けている。木という素材は偉大だ。
他にも木の電柱はないだろうか、そう思って周囲を見回してみたのだが、立ち並ぶ電柱はコンクリート製のものばかり。
やはり木の電柱はレアなんですな
電灯柱としての木製電柱
いくら綾瀬でも、木の電柱なんてそうそうあるもんじゃないよなぁ、となかば諦めかけていたところ、あっさりまた見つけてしまった。
ただし今度は電線を引く為のものではなく、電灯を取り付ける為の木柱だ。
少々分かりにくいけれど……
コンクリート製電柱に縛られている木の電柱
これは純粋な電柱とはいえないかもしれないが、道端に立ち、何かを支えているという点では共通しているだろう。一応、電柱と連結されているし、電線も引かれているし。
なにより、コンクリート製電柱を立てた際に木の電柱を撤去せず、残してくれたその粋な計らいに敬意を表したい。
車にえぐられたのだろうか、傷が少々痛々しいが、全体的に状態は良い
番号も施され、管理されているようだ
またこの電灯柱の近く、50メートルぐらい離れた地点にも、やはり同じような木の電灯柱が立っていた。
古いモノの側には古いモノが残っている可能性が高い。この法則は電柱にも当てはまるようである。
こちらはコンクリート製電柱から独立して立つ
電柱と比べると、随分と細くて背が低い
この頂上部分がたまりませんなぁ
さっきは「厚木」だったがこちらは「大和」。すぐ近くなのに管轄が違うの?
とまぁ、確かに木の電柱は残っている。残っている……が、特別「多い」という程ではないと思うのだ。あるにはある、というくらいの実感である。
それに正直、これらは電柱というべきかどうかも怪しい。電柱といえば、やはり何本もの電線が渡されているイメージが強いだろう。
こちらは綾瀬市に程近い、藤沢市北部の木柱
これも個人の電灯柱っぽい
高さが足りなかったのか、金具で延長されている
配電箱との組み合わせとか、たたずまいは良いんだけどね
同じく藤沢市北部、企業の工場敷地内
このような私設のものや電灯柱ではなく、もっとたくさんの電線が渡された、公共性の高い木の電柱を見てみたいのだ、私は。
木の電柱が多いと噂の神奈川県。はたして、それはいったいどこにあるというのだろうか。答えは、鎌倉でした。
大船から鎌倉まで、夢の木製電柱街道
もう少ししっかりした木の電柱を探して調べを進めてみると、どうも鎌倉市に多く残っているらしいという事が分かった。
特に大船駅から鎌倉中心部までの県道沿いには、多数の木製電柱があるとの事だ。よし、それじゃぁどれ程のモノが残っているのか、見に行ってみようじゃないか。
来ました、大船駅北口
東海道線ユーザにはおなじみ、大船観音
おぉ、古い家屋が残ってますなぁ
こういう、横路地も見ていかないとね
たくさんの木製電柱があるといっても、おそらく県道上の電柱は道路工事なんかの際に撤去されてしまっているような気がする。
故に狙いは未整備の路地裏だ。木の電柱はそのような所に残っているのではないかと思う。
そんな事を思いながら、キョロキョロ左右を見つつ進むことわずか数分。なんていうか、早くも見つけてしまったのだ。
おぉ、アレは!
この木目、この配線、紛う事無き木製電柱
タグもしっかり付いてる
見つけてやるぞ!と意気込んで電柱探しに臨んだものの、それは当たり前のようにアパートの横に鎮座していて、ある意味拍子抜けであった。
それも綾瀬市で見たようなものではなく、様々な種類の電線を引き込んだ、まさに電柱というべき立派なものだ。
おぉ、これが本場というものなのか。
湘南モノレールの高架をくぐってさらに進む
左奥に見えるのは……木の電柱か?!
やっぱり木の電柱!しかも手前と奥で二本もある
こちらは色白
こちらは色黒
防腐加工の方法が違うのか、並んでいながらも片方は白っぽく、もう片方は黒っぽい。天然素材なので全てがまっすぐというワケではなく、微妙に曲がっていたりするのも見ていて楽しい。
他にも、その電柱に引かれている電線、所属が記されたプレート、電灯などの付属オプション、左右に互い違いに打ち込まれた足場なども見所だろう。
廃線を横目で見つつ
このような、川と併走する場所に出た
この川沿いのエリアが凄かった。対岸に木の電柱が4本連続して立ち並んでいるのだ。
木製電柱ニョキニョキ。まさに雨後のタケノコのごとく豊作である。
まずはあそこに一本
民家に挟まれるように二本目
これで三本目……いや、奥にもある。計四本
腕みたいなの付けちゃって、電線の引き方も多様ですな
電線の絶縁体である碍子(ガイシ)も良い感じ
いやはや、評判通りの多さというか、想像以上の多さというか。なんなんだこの県道は。木の電柱がありすぎだろう。いっその事、木製電柱街道と名付けてしまいたいくらいだ。
しかし驚くのはまだ早かった。大船から鎌倉に近付くにつれ、木の電柱はより立派に、そしてカッコよくなっていったのだ。
北鎌倉の木製電柱は芸術だ
大船からだいぶ進み、北鎌倉駅の周辺にまでやってきた。北鎌倉は円覚寺や建長寺などの有名寺院が存在する観光地エリアである。
まだその少し手前というべき場所なので観光客の姿はまばらだが、それでも町の雰囲気はなかなかのものだ。
こういう風情ある横路地が多くなる
そのような中、木の電柱を発見
天を貫く白木の柱
くねっと腰をひねったその具合が見事だ
これは凄い。これまでのものより規模が大きく配線が複雑であるという点もあるが、それよりも柱の形状に目を見張る。
わずかにひねった腰がなんとも色っぽい、艶のある電柱ではないか。仏像でいえば観音菩薩である。
同じものが二つと無い、柱ごとに異なる豊かな形状表現、それが木製電柱の醍醐味だ。まさに芸術の域と言えよう。
引き続き見つけた木の電柱
縦横に電線が張り巡らされている
あ、USENまであるし
うん、これもなかなかだが、さっきの観音電柱に比べると少々見劣りしてしまうかもしれない。
しかし心配御無用。この電柱の近くに立つ電柱が、その物足りなさを完全に解消してくれたのだ。
それがこの一本。一見すると普通だが……
トップに付く金具の角度は複雑だし
それになにより、トランスが乗っている!
耳をつけると、ちゃんとブーンとトランスの唸りが聞こえましたよ
まさか木の電柱がここまでやるとは思わなかった。コンクリートの電柱と同等の機能を完全に有している。トランスまで乗っけちゃって、いやぁ、凄い。
ここまで重装な電柱と比べてしまったら、1ページ、2ページ目の電柱など、まるでひのきの棒のようではないか。さすがは鎌倉、脱帽である。
木の電柱はまだまだ続く
高台の上とかにもあったりして
絵になりすぎるから困る
これが最後の一本。鎌倉の地力を見せ付けられた感じだ
神奈川県、特に鎌倉には木の電柱が多い
大船から鎌倉の鶴岡八幡宮までの県道沿いを行き、全部で14本の木製電柱を見つける事ができた。
これは県道沿いから発見できたものの数なので、路地裏などをくまなく探せばもっと増えるに違いない。それこそ鎌倉全土を対象とすれば……って、キリが無いな。まぁ、ともかく鎌倉に木製電柱が多い事は間違いなさそうだ。
実を言うと、取材に先立ち神奈川県内の木製電柱情報をtwitterで募集したりもしました。結果はまぁ、お察し下さい(リツイートして下さった皆さん、ありがとうございます!)。
そのような中、唯一情報をお寄せ頂いたやみらさん(
@yamiramira)の写真をご紹介させていただき、当記事の締めとさせていただきます。
厚木市内で見かけたというこの一本。周囲の雰囲気といい、傾き具合といい、良い感じ
電線も通っているし、綾瀬市のものよりちゃんと電柱してますな。やっぱり鎌倉以外でも、神奈川県には木の電柱が多いのかな?