欧米の旅行ガイド「ロンリープラネット」
日本人が海外旅行で使用するガイドブックで最も有名なのは、おそらく「地球の歩き方」だろう。カバーしている国が非常に多く、使いやすさもそれなりに良い。
旅行ガイドの定番、「歩き方」
時には掲載されている情報に間違いがあったりして、「地球の迷い方」などと揶揄される事もあったりするが、まぁ、日本で一番メジャーな旅行ガイドブックである事は間違いない。
では、欧米において最もメジャーな旅行ガイドブックは何か。それは、「ロンリープラネット(Lonely Planet)」である。
ロンリープラネット・ジャパン(左は2011年、右は2003年)
当然ながら、著者は皆欧米人
「歩き方」を持って海外を回ると、ホテルやレストランなど、同じく「歩き方」を持った日本人旅行者と一緒になる機会が少なくない。
一方「ロンプラ」を持って海外を回ると、今度は行く先々で欧米人に出会うという。
すなわち「歩き方」には「歩き方」に、「ロンプラ」には「ロンプラ」に、それぞれ違った傾向があるのだろう。「ロンプラ」はより欧米人のツボを押さえたスポットを掲載しているに違いない。
巻頭の見所トップ30。1位は京都の寺と庭園、2位は日本料理、3位は温泉と、まぁよくある感じ
4位は旅館宿泊で、5位は意外にも日本アルプス。他にも新幹線が世界一クールな列車として紹介されている
いわば、”欧米人が見る日本の見所”が詰まったガイドブック、「ロンリープラネット・ジャパン」。
この本を持って観光すれば、新たな視点で日本を見る事ができるんじゃないだろうか。そう思ったのだ。
内容はテキストベースで情報量がとにかく多い
「歩き方」を始めとする日本のガイドブックは写真多めでビジュアル的なのに対し、「ロンプラ」はご覧の通り本文中に写真が無く、基本的に地図とテキストだけのストイックな構成である。
写真で見るよりその目で見ろ、という事だろうか。確かにこの方が想像力を掻き立てられ、実際に行ってみようという気が起こる。
日本全土を網羅しています
四国遍路の88ヶ寺が記された地図まである
今回はこれを持って、実際に日本を観光してみたい。行き先は少し迷ったが、結局は東京にした。
成田空港に降り立った外国人は、やはりまずは東京を目指すと思ったからだ。
それでは、レッツ東京観光
東京観光は東京駅から
というワケで東京駅にやってきた。今回の東京観光、スタートはここにしようと思う。成田空港からバスで今しがた到着した、という設定だ。
ロンプラでも先頭に書かれているのは東京駅のある丸の内エリアだし、まぁ、旅行の始まりにはふさわしい場所であろう。
それでは、東京駅八重洲口からスタート
まず最初に書かれているのは……おぉ、皇居か
とりあえず、ロンプラをペラペラとめくってみる。丸の内エリアの中でもその筆頭に記されているのは「Imperial Parace」、皇居であった。
「TOP Choice」とも記されているし、これは行っておかねばならんだろう。
言わずもがな、東京の中心ですな
おっと、いきなり外国人と遭遇
わ、わ、こちらにも
まだ朝早い時間であるにもかかわらず、皇居を訪れる人は非常に多い。日本人はもちろんの事、そこには外国人の姿も多く見られる。
特に二重橋の付近は相当な数の人々で賑わっていた。
とても絵になる二重橋
その周囲には人たくさん
二重橋を見る外国人は、ツアー客がほとんどのようだ
実のところ、ロンプラにはこの二重橋について記述が無い。ただまぁ、定番のスポットだから寄ってみたのだが、そこでちょっと面白い事に気が付いた。
どうやらこの二重橋付近にやってくる観光客は、ツアーでやってくる人が大多数のようだ。特にアジア系のツアー客が多く、欧米人の場合でも日本人のガイドに案内されていのがほとんど。
要は、この二重橋は日本人が外国人に見せたがっているスポットであって、外国人が自ら見に来る場所ではないんじゃないだろうか。そう思った。
ロンプラに載っているのは皇居東御苑
江戸城の遺構を見るに欠かせないエリアです
入ってみると、あ、いた、個人旅行の欧米人
一方、ロンプラに記載のある皇居東御苑に入ってみると、今度は個人旅行者ばかりとなり、ツアー客は皆無となる。
東御苑はかつての江戸城の中枢を占めるエリア。江戸城の威容を感じる、皇居を訪れたならぜひとも寄って欲しい場所である。
しかし東御苑を見るにはそれなりの時間が必要な為、ツアーでは二重橋だけで済ませてしまうのだろう。時間に余裕のある、個人旅行者だけが来られるのだ。
天守台跡にも欧米人の姿
彼らは何を撮っているのだろう
音楽堂の桃華楽堂(とうかがくどう)だった。なるほど、こういうのがツボなのか
なお、当サイトでは過去にも江戸城について、ライターのT・斉藤さんが「
江戸城探訪」という記事を書かれているが、その時も天守台から桃華楽堂の写真を撮る外国人の姿があった。
それだけ外国人を魅了するデザイン、という事なのだろうか。この桃華楽堂は。
お次は三菱一号館
さて、皇居に次いで記載されているのは「三菱一号館」である。……と言われても、ピンとくる人は少ないのではないだろうか。
「三菱一号館」は、元は明治27年(1894年)に建てられた丸の内最初のオフィスビルだ。歴史的にも建築的にも重要な建物だったが、昭和43年(1968年)に解体され、現在のものは2009年に完成したレプリカである。
こちらもまた「TOP Choice」のお墨付き
確かに立派な建物だけど……
観光客はまったくいない
レプリカとは言え、三菱一号館はたいそう立派な建物である。しかし、見学しにやってくる外国人観光客は皆無であった。
建物の前で30分ほど粘ってみたが、その前を通った外国人はたったの一人。しかもこの建物には全く興味を示さず、あさっての方向の写真を撮っていた。
まぁ、このような洋風建築など母国に帰ったら腐るほどあるのだろうし、欧米人にとってはあまり興味をそそるようなものではないのかもしれない。「TOP Choice」なのはロンプラ著者の趣味……なのだろうか。
通りかかった唯一の欧米人が興味を持ったのは
日本人にとってはありきたりな、この風景だった
両国で力士見学&昼ごはん
さて、東京駅から電車を乗り継いで、今度は両国へとやってきた。
ロンプラには両国について、「駅の周りでは丸々太ったスモウレスラーを見かけるだろう」とある。
実は私は、恥ずかしながら力士を生で見た事がほとんど無い。せっかくの機会なので、お相撲さんをマジマジ見るべく、両国に行ってみようと思った。
スモウスタジアムこと両国国技館
当然のように力士が歩いていて驚いた
ここもまた外国人が多いですな
のぼりや櫓を撮影している人も
うん、両国はなかなかおもしろい町だ。相撲の取り組み自体を見なくても、いたるところに力士がうろうろしていてとても楽しい。
日本的なものに興味のある外国人だったら、間違いなく興奮する町である。私もまた、思う存分お相撲さんが見れて大興奮。大いに満足した。
ところで、時刻はそろそろ正午である。お腹も空いたので、ここらで昼食を取るとしよう。ロンプラでこの付近の食事どころを探してみる。
ここなんか良いんじゃないかな。えーと……ハナ、ノ、マエ?
んー、これかな?レトロな建物がカッコいい
思っていたよりちゃんとした店だ
そのお店は両国駅前、昔の駅舎を利用した料理屋だった。ロンプラには「Hana no Mae」とあるが、実際には「花の舞」である。
食堂と書かれていたのでもっとローカルな定食屋みたいなのを想像したが、それよりも遥かにしっかりしたお店であった。
英語メニュー、中国語メニューも完備らしい
やはり外国人も結構入ってる
店内は仕切りが多く、居酒屋風
天丼をいただきました
店の入口には相撲中継のディスプレイがあり、また店内には「ドッコイドッコイ」という感じの和風BGMがかかっている。私が通された席からは見えなかったが、どうやら店内には土俵もあるらしい。
相撲的な雰囲気を手軽に楽しむ事ができるお店、という事だろうか。うん、確かに外国人にウケそうな感じである。
岩ゴロゴロの清澄庭園
せっかく両国に来たのだから、この界隈の観光スポットも見ておきたい。
そう思ってロンプラを眺めていると「Kiyosumi-teien」の文字が目に留まった。
キヨスミテイエン……あ、清澄庭園か
ほぉ、日本庭園とな。いいじゃないですか、いいじゃないですか。
両国から地下鉄で二駅の距離だし、何よりマーベラス・ガーデンと書かれているほどの庭園だ。見に行かない手はないだろう。
というワケで、両国から清澄庭園へ
結構人は多いが……外国人の姿は無し
おぉ、いいですなぁ
しかし、結局確認できた外国人は一家族だけ
明治時代、三菱の創始者である岩崎弥太郎によって築かれた清澄庭園。
さすがに立派な庭園なだけあって訪れる人は多いものの、意外にも外国人は少ないようだ。
う~ん、両国からも近いのに、なぜだろう。お相撲さん見た後は庭園へ、という流れにはならないのだろうか。
”岩”崎さんが作った為か、この庭園は岩が凄い
日本中から岩をかき集めたとの事
この佐渡赤玉石なんて、今は採集禁止だそうだ
浅草の温泉でひとっ風呂
さて、もうだいぶ日が暮れてきた。そろそろ夕食の時間だが……その前に、風呂で汗を流そうじゃないか。
ロンプラではアクティビティとして銭湯が紹介されている。浅草の浅草寺から程近い所にも、どうやら銭湯があるらしい。
人でごった返す浅草寺はあえてスルー
目指すはこの「Jakotsu-yu」
薄暗い裏通りの奥にある
へー、「蛇骨湯」って書くのか
私の前に白人女性が入っていった
券売機も多言語表示
不安になるくらい細くて暗い道をくねくね曲がり、蛇骨湯に到着。
こんな立地にも関わらず人は多く、券売機にも英語、韓国語、中国語の表記。やっぱり多いんだな、外国人観光客。
ちなみにこの蛇骨湯、普通の銭湯と同じ値段なのにも関わらず、れっきとした天然温泉。お湯の色は黒めで、ちょっとしょっぱかった。
夕食は「思い出横丁」
夕食はどこにしようか迷ったが、新宿の「思い出横丁」に行こうと決めた。
浅草からわざわざ新宿まで出るのはちょっとコトだが、「yakitori and cold beers」の文字にやられてしまったのだ。
昔は「しょんべん横丁」と呼ばれていたよね
ちゃんと「しょんべん横丁」とその意味も記されている
相変わらず、素晴らしいたたずまいの一角だ
外国人もかなり多い
そりゃ惹かれるよね、魅力的な通りだもの
私が座った席の隣は台湾人グループだった
焼くのを見るのもアトラクション
焼き鳥うめぇ、ビールうめぇ
宿泊はゲストハウス
生中4杯かっくらって、だいぶ酔っ払ってしまった。そろそろ宿に入って寝ようじゃないか。
宿は浅草のゲストハウスに取ってある。ゲストハウスとは、いわゆるバックパッカー向けの安宿の事。
2300円とあるけど、実際は2000円だった
駅から少し離れた住宅街にある
客は9割外国人。宿内では英語が飛び交う
意外に快適な二段ベッド
東京のゲストハウスに泊まったのは初めてだったが、これがまた、なかなか面白かった。
他の客との距離が物凄く近いので、必然的にコミュニケーションを取る事になる。このようなゲストハウスに長期滞在したら、英語がうまくなるに違いない。下手な英会話スクールに通うより、ずっと良いんじゃないだろうか。
ただ、夜中に突然扉が開き、酔っ払った白人が「ホゥァハアァワアァユウウウ!」とやってきた時には少々びっくりしたが。
外国のガイドブックで海外気分
翌朝、宿を出て家に帰った時、なんとなく海外旅行から戻ってきたような感覚になった。東京観光でありながら外国人を追っかけ続けた事で、結果的に海外気分に浸っていたらしい。
とりあえず今回の一泊旅行で分かったのは、外国人がいそうな場所には確かに外国人がいるし、そのような場所はたいてい海外のガイドブックにも載っているという事。またそういう場所を巡ってみる事で、改めて外国人が日本の何に魅力を感じているか、何となく感じることができるという事だ。
現在、日本は円高とか震災の影響で外国人観光客が少なくなっているそうだが、これがまた元に戻れば、今回巡ったスポットの外国人比率もさらに上がって、もっと楽しくなるんじゃないかな、なんて思ってみたり。
あー、そういえば築地市場にも行ったこと無いな。ツナ・オークション、見たい