特集 2012年1月16日

割れた石畳は世界だ

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私事で恐縮だが、会社のオフィスが引っ越した。大森から西新宿へ。

西新宿にきて同僚はランチの開拓がどうのとか通勤時間が伸びただの縮んだだの盛り上がっているのだが、お昼は弁当、通勤時間も前と変わらない僕は、いまいちその波に乗れないでいる。僕が気になっていることといえば、唯一このくらいなのだ。

西新宿、石畳がよく割れているなあ…。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。(動画インタビュー)

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石畳、割れているよね…。

割れてる
割れてる
割れてる
割れてる
とはいえ、奇景として自然遺産に登録されたりとか、そういうレベルで割れてるわけじゃない。他の街と比べたわけじゃないので、西新宿だけ特に、とわけでもないのかもしれない。でも、うっかり気になり始めてしまったのだ。あ、また割れてる。
割れてる
割れてる

割れは日々の積み重ね

石畳って石だ。石は硬い。そう簡単に割れないのだ。でも毎日毎日たくさんの人がその上を歩くことによって、いつしか割れてしまう。
わ、割れてる…
わ、割れてる…
石畳が割れるまでの道程、それはコツコツとした日々の積み重ねである。長い長い年月をかけて、雨垂れ石をも穿つ、雑踏石畳を割る。そう考えると、あの「割れ」も、なんだか趣深いものに見えてこないか。

石畳は自然の縮図

都心の地面はだいたい3つの素材で成り立っている。コンクリート、アスファルト、そして、石畳。

古くなるとモノはいつか壊れるのだけど、この3つはなんだか壊れ方が違う。
コンクリートはパリッパリに砕ける
コンクリートはパリッパリに砕ける
アスファルトは修繕を重ねパッチワーク状に
アスファルトは修繕を重ねパッチワーク状に
石畳は割れる、欠ける
石畳は割れる、欠ける
どれもそれなりに味があるのだが、先ほど書いたように、コツコツとした日々の積み重ねの中で「ちょっと割れてきたな…」という侘び寂びがあるのは石畳である。一言で「割れる」といっても、たくさんの割れ方があるのだ。
ナイル川を思い起こさせる長い亀裂。BC3000年、ここにエジプト文明が起こった。
ナイル川を思い起こさせる長い亀裂。BC3000年、ここにエジプト文明が起こった。
このえぐるような形は氷河の跡か。かつてこの上をマンモスが闊歩していたのか。
このえぐるような形は氷河の跡か。かつてこの上をマンモスが闊歩していたのか。
かつて直角に切り立っていた崖。獅子はこの崖から我が子を落としたというが、長いあいだ風雨にさらされ、今ではすっかり丸くなってしまった。
かつて直角に切り立っていた崖。獅子はこの崖から我が子を落としたというが、長いあいだ風雨にさらされ、今ではすっかり丸くなってしまった。
目地にあわせて三角形に取り残された陸地。これが三角州(デルタ)と呼ばれる地形だ。肥沃な土地は古くから農地などに利用されてきた
目地にあわせて三角形に取り残された陸地。これが三角州(デルタ)と呼ばれる地形だ。肥沃な土地は古くから農地などに利用されてきた
そこには大自然の縮図があった。経年劣化した石畳、これらは小さな大地なのだ。いわば、都会のgoogle earth。

2012年に生きる僕らは海外旅行に行かなくてもgoogle earthを見ていれば一日つぶせるし、google earthもない場合、石畳を見ていれば一日つぶせる。なんだかかわいそうな一日の過ごし方ではあるが、僕はそれをやったからこんな記事を書いているわけで、あまりはっきりと悪く言うのはお願いだからやめてほしい。

先ず角よりはじめよ

たいていの石畳は、まず角から欠ける。
チマっと欠けたり
チマっと欠けたり
大きく欠けたり
大きく欠けたり
欠け方は様々、しかし共通して言えるのは、角だということ。河原の石も下流になるほど角が落ちていく。物理のことはよくわからないけど、石ってのは角から欠けるものらしいのだ。
中学校数学の図形問題でこういう図を見たことがある。角Aの角度を求めよ
中学校数学の図形問題でこういう図を見たことがある。角Aの角度を求めよ
ガッツリ欠けてしまった例。欠けたものを見るときは自分の歯を意識すると急に緊張感が増す。
ガッツリ欠けてしまった例。欠けたものを見るときは自分の歯を意識すると急に緊張感が増す。
こうやって少しずつフェードアウトするように途切れ、そして離島となってしまう角も切ない
こうやって少しずつフェードアウトするように途切れ、そして離島となってしまう角も切ない
そういえば人間も年をとると角が取れて丸くなる。中学生当時なんだか苦手だった同級生も、同窓会で久しぶりに会ってみたらすっかりいい奴になっていたりするだろう。
というのは同窓会に呼ばれたことのない僕の想像でしかないが。

中には割れたことでかえって尖ってしまう人もいる。
角が欠け落ちたことでかえって武器としては攻撃力が増した感じがする
角が欠け落ちたことでかえって武器としては攻撃力が増した感じがする
これは迫力。岩山のようになってしまった…
これは迫力。岩山のようになってしまった…
横から。険しい…
横から。険しい…
角が落ちて段差が生まれ、新たに険しい崖ができた
角が落ちて段差が生まれ、新たに険しい崖ができた
これらも割れ/欠けを繰り返してどんどん細かくなっていけば、いつかは平らに近くなっていく。
依然尖ってる、というより、丸くなる途上の姿なのだろう。
割れた角はときに持ち手となる
割れた角はときに持ち手となる
ダンゴムシでもいるかと思ったけど何もなかった
ダンゴムシでもいるかと思ったけど何もなかった

真っ二つ

丸くなったとかならないとか言ってられるのも本体が無事なうちだけだ。中には真っ二つにひびが入ってしまうケースもある。
右下から左上方向に向かって、いくつもの石をまたがった長い亀裂
右下から左上方向に向かって、いくつもの石をまたがった長い亀裂
ひとつの石の中で網目状になることも
ひとつの石の中で網目状になることも
細い部分はもろい
細い部分はもろい
階段にまたがっての超立体割れ目
階段にまたがっての超立体割れ目
このままヒビがエスカレートすると真っ二つ、割れた石畳はそのうちはがれてどこかに消える。
となりあう5兄弟はもう瀬戸際。すでに一人は脱落、あと4人もいつまで持つかという状況
となりあう5兄弟はもう瀬戸際。すでに一人は脱落、あと4人もいつまで持つかという状況
ところで、いまさら言うことでもないと思うけど、この記事、地味だ。だって写真が全部地面。あえて言わなかっただけで、さすがに僕も気づいていた。ちょっと地味すぎる。

でも、待ってほしい。こうしたひびは、ローアングルから眺めると急に迫力が増すのだ。
太い割れ目はまるでグランドキャニオンのように
太い割れ目はまるでグランドキャニオンのように
細いひびは地平線まで延びる長大なナイル川のように(これさっきも言ったな…)
細いひびは地平線まで延びる長大なナイル川のように(これさっきも言ったな…)
光沢のある石材、そして横に走る金属のレーンがなんだか未来的
光沢のある石材、そして横に走る金属のレーンがなんだか未来的
上から見るとこの地味さ
上から見るとこの地味さ
白と黒のコントラストが目を引くパンダ割れ目
白と黒のコントラストが目を引くパンダ割れ目
ひびではないけど、端の一列が陥没してしまったこちらの現場
ひびではないけど、端の一列が陥没してしまったこちらの現場
こうしてみるとちょっとした遊歩道のようではないか
こうしてみるとちょっとした遊歩道のようではないか

ただの壊れた石畳、近くに寄るだけで、こんなに豊かな景色が広がっている。やはり世界だ、石畳は世界だ。そう熱くならずにはいられない!

…しかし僕が一日中、石畳の割れ目を見続けたせいでノイローゼになっているだけ、という可能性は否めない。はたしてどちらなのか、あなたの頭の中にはすでに答えがあるのではないかと思う。答えはこちらのリンク先に投票してください

修繕いろいろ

アンケートの結果は執筆時点で知る由もないが、もし僕の精神状態についてみなさんに心配をおかけしていると忍びないので、急に話のスケール感を人間サイズに戻す。

割れた石畳、良く言えば趣き深いが、悪く言えばボロい。基本的に「割れ」の味方の僕だが、修繕したくなる人の気持ちもわからないではない。
こうやって裂け目をセメントで埋めるのがポピュラー
こうやって裂け目をセメントで埋めるのがポピュラー
中でもこれはすごく丁寧に整形されている
中でもこれはすごく丁寧に整形されている
これも平らにならしてあって仕事が丁寧
これも平らにならしてあって仕事が丁寧
本当は似たような石畳を張りなおすのが一番いいんだけど、それにしたって色が合わなかったり
本当は似たような石畳を張りなおすのが一番いいんだけど、それにしたって色が合わなかったり
時間のたった石と新しい石はやっぱり色が違う
時間のたった石と新しい石はやっぱり色が違う
アスファルトを流し込んでしまうという手もあり
アスファルトを流し込んでしまうという手もあり
一番豪快なのがこれですね、板+ガムテ
一番豪快なのがこれですね、板+ガムテ
板、板、板
板、板、板
しかし木はもろく、せっかく補修してもすでに穴が開いてるのであった。
しかし木はもろく、せっかく補修してもすでに穴が開いてるのであった。

無敵の石畳

取材を続けるうち、われわれ取材班は、割れに対する耐性を備えた、究極とも言える石畳に遭遇した。
たばこ屋の店頭、店のたたずまいに似合わぬ、妙にヨーロピアンな石畳
たばこ屋の店頭、店のたたずまいに似合わぬ、妙にヨーロピアンな石畳
と思ったらなんかふちのところが妙にまっすぐ
と思ったらなんかふちのところが妙にまっすぐ
よく見るとjpeg画像特有の色にじみが…
よく見るとjpeg画像特有の色にじみが…
印刷物であった。汚れたり破れてもすぐ新しいのに交換可能。散々割れた石ばかり見てきた僕には、「もう印刷でいいじゃん」と思うタバコ屋店主の気持ちは手に取るようにわかった。
灰は本物、石は印刷。けっこうリアル
灰は本物、石は印刷。けっこうリアル

もはやなんでも趣がある

石畳の割れ目でも枯れたツツジでもポイ捨てされた空き缶でも、うっかり一日中見てしまうと、なんでも趣があるように思えてくるのだ。そして興奮気味で何百枚も写真を撮ってしまったりする。
それをポジティブに人生を楽しんでいるととるか、それともノイローゼととるか。あなたがこの記事を読み終える頃、きっとその結果は出ているのでしょう。
下を向いて歩いていたので落し物をたくさん見つけた
下を向いて歩いていたので落し物をたくさん見つけた
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