冬の海は隠れる場所がない
誰かに追われているとする。その場合、僕らはきっと隠れるという行動を取るだろう。街中ならば物陰に隠れてもいいし、行きかう多くの人に紛れてもいいかもしれない。とにかく街中には多くの隠れる場所が存在している。
街中だったら物陰に隠れることができる
これが浜辺ならどうだろう。浜辺で追われているのだ。隠れようと思っても浜辺には物陰というものが存在しない。夏の賑わう浜辺なら話は別だけれど、冬の海となると、物陰ひとつ存在しないのだ。
夏の海は隠れることができそうだけれど、
冬の海は隠れる場所が皆無
そんな時に僕らはどうすればいいのか。走って逃げても浜辺は走り難くすぐに捕まってしまうだろう。相手はプロだ。隠れるしか手はない。しかし、隠れる場所はない。唯一あるとすれば、それは海の中だ。
こんな状況で追われたら、もう海の中にしか隠れる場所はない
ただ普通に海の中に潜っても息は続かずせいぜい1分。ブハ~と海から息をするために顔を出した時点でバレて捕まってしまう。忍者はこれを回避するために竹筒を使った。水遁の術というもので、竹筒をくわえ潜り先端を水面に出すのだ。これで呼吸ができる。
現代ではシュノーケルという道具が竹筒に当たると思う
しかし、僕らの人生を振り返ってみると竹筒を持って外出していたことがいったい何回あるだろうか。僕はおそらく一度もない。もちろんシュノーケルでもいい。しかし、夏場ならともかく、日常生活に於いて冬場にシュノーケルを持って外出することがあるだろうか。おそらくない。
もう捕まるしか方法はないのか!
シュノーケルもない。竹筒もない。でも、隠れなければ捕まる。そんな時に役立つのが「チクワ」だ。竹筒やシュノーケルと比べるとチクワは格段に持って歩いている可能性が高い。買い物帰りならほぼ確実に持っていると思う。鍋の具にもなる。
買い物に行ったらチクワって絶対に買っちゃうよね
チクワを竹筒やシュノーケルの代わりとして使うのである。漢字で書くと竹輪と竹筒は似ている。それにどれも筒という共通点があるので、チクワはもうほぼシュノーケルや竹筒と言って問題ないと思う。
こんな感じで使います(水から先端が出ているので呼吸できる)
またチクワはかさばらないし、食べてもいいので、もしシュノーケルの代わりになるのならば、いつ誰に追われてもいいように浜辺に行く際は常備しておいてもいいかもしれない。これで追っ手に捕まらないのならば安いものだ。
というこで、チクワがシュノーケルになるか実験します(長い前フリでした)
普通のチクワ
この日の海は波が高くサーファーには嬉しい一日だった。ただ水温は驚く程に低く、この水温の海に潜るくらいなら追っ手に捕まってもいい気がした。しかしチクワがシュノーケルになるという明るい未来のために潜る。
まずは普通のちくわ
冬の海に入る心の準備に約1時間を要した。その1時間にカラスにチクワを一部食べられるという事件も発生した。カラスからチクワも守れない僕が追ってから逃げられるのかという疑問も生じたけれど、今はチクワの可能性だけを追求することにした。
チクワをくわえて海に潜る
さらに潜ります
ムリ!
前日の脳内ではチクワはシュノーケルの代わりになる、という結論が出ていた。ただ実際にやってみるとこのチクワが短いからなのか、潜ってチクワを吸うと、空気というまじりっけがない100%の海水が口の中にやって来た。
愛情100%の何かは嬉しい気がするけれど、海水100%はシャッターを押したら、SDカードの要領がいっぱいだった、というような不幸しか感じない。
死ぬかと思ったので急いで陸に戻る
焼きチクワ
こっちは空気が来ると思っているところにやって来た海水。海の中でむせた。蒸せるなら暖かそうだけれど、咳き込む方のむせるなので、寒い上に苦しい。チクワが短かったのが敗因だろう。
ということで、長い焼きチクワで実験します
焼きチクワをくわえて沖に向かう
チクワをくわえ沖に向かう後姿は、捕まったあとの罰みたいな感じだ。濡れた服がピッタと体に張り付き、僕の熱をどんどんと奪っていく。くわえているのがチクワではなくチワワなら、彼はこの冷たさに静かにその人生の幕を閉じたと思う。
イケる気がしたけれど、
波に飲まれ
よく分からない走法で陸に戻る
先のチクワより長かったので、行ける気がしたのだけれど、高い波に僕がチクワごと飲まれてしまい、結局口の中にやって来たのは空気ではなく海水だった。普通のチクワに続き2回目の海水。もしもこれが男と女なら運命を感じ交際に発展するかもしれない。
本当はこんな感じでチクワだけ海面に出て呼吸できるはずだった
上の写真はこんな感じで撮影しました
チーズ入りチクワ
常識というものに僕は捕らわれているのかもしれない。時には常識を捨てた逆転の発想というものが大切で、今回の実験の答えもそこにあるのかもしれない。何事も挑戦である。
ということで、次はチーズ入りチクワ(カラスに一部取られた)
短い
焼きチクワまでは長い方がいい! と思っていた。誰しもそう思うことだろう。しかし、失敗に終わっている。
そこで長い方がいいという常識を捨て短い、しかもチーズが入っているチクワをチョイスした。短いことはもちろんだけれど、チーズが入ることで、成功につながるかもしれない。
つながりませんでした
全く呼吸ができなかった。寒くて呼吸ができなくなってきているところを頑張って吸うと、もれなく海水。しかも力が入りすぎてチクワを食いちぎってしまった。
そこで気が付いたのは美味しい! ということだった。チクワとチーズの相性はやはり抜群なのだ。しかし、シュノーケルの代わりにはならなかった。
ゴジラの上陸のような感じで陸に戻る
ちくわぶ
やはり常識に捕らわれようと思う。そこで最後の望みを「ちくわぶ」に託すことにした。彼は何と言っても長いのだ。もっともちくわぶはチクワではない。しかし、名前が似ているのでチョイスした。
ちくわぶ
沖へと向かう
僕はちくわぶが嫌いだ。九州出身だから食べる習慣がなかったのがその要因だろう。しかし、ちくわぶがシュノーケルの代わりになるのならば、好きになる気がした。だって今こうして冬の海に一緒に向かっているのだ。好きになる理由は揃っている。
今度こそイケる気がする
ムリでした
もう何がなんだか
全然ちくわぶはシュノーケルの代わりにならなかった。息をしようとすると女性ファッション誌に必ずポーチが付いてくるように、海水が口の中にやって来る。
そして波に飲まれ、急いで陸に戻ることになる。やはりシュノーケルはよくできた道具なのだと思う。チクワでは酸素は一切送り込まれず絶えず海水だけであった。
ちくわぶが短くなっていた
よっぽど力強くちくわぶを握ってしまったのか、陸に戻るとちくわぶが短くなっていた。「オレのちくわぶが」と嘆いたのを覚えている。嫌いなちくわぶなのに、「オレのちくわぶ」。ちくわぶを仲間と認めた瞬間だったと思う。
その後、温かいおでんを食べた(もちろんちくわぶも、口に合わなかったけれど)
チクワはシュノーケルではない
以上のような実験結果から、チクワ及びちくわぶは、シュノーケル又は忍者にとっての竹筒にならないことが分かった。波があるので、どうしてもチクワを通してやってくるのは空気ではなく海水ということになってしまう。浜辺ではなるべく誰かに追われないように生活して行こうと思う。