新規購入の李錦記のナンプラー。
ナンプラーにも色々ある
今時はその辺のスーパーでも普通にナンプラーを買える。という事で1本買ってきた。醤油より色が薄くて瓶の向こう側が見える。関西の薄口醤油っぽい。
これは李錦記のナンプラーだが、実はうちの冷蔵庫には他にもナンプラーがある。まず数年前にタイフェスティバル(以下タイフェス)で買ったナンプラーだ。
うっかり買ったが、なかなか減らない。
ナンプラーってなかなか使い切らないよね
2005年のタイフェスで買った。もう6年前だ。タイフェスは物産展が安いのでつい買ってしまったのだろう。6年経ってもまだまだ半分以上残っている。冷蔵庫に入れてあったのだが、買った当時より黒くなった気がする。東幹久みたいな色だ。
そして実は、まだ他にもナンプラーがある。長くデイリーポータルZをお読みの読者さまにおかれましてはもしかしたら覚えてるかも知れない。
そう、あれだ。地獄だ。
まったくそのまま残っている。
仲間内では地獄ナンプラーと呼ばれてます
記事での初登場は2006年。僕がデイリーポータルZで書いた記事の7本目
「腐るか否か、手作りナンプラー」だ。1年後に書いた
「手作りナンプラーはどうなった?」では盛大な失敗が発覚した。
友人にはテロとか地獄ナンプラーとか言われたし、未だに恨み言を言われる。「あれは本当に酷かった」と。
あれ以来、地獄ナンプラーはずっと冷蔵庫にしまわれていた。下水に流すのもためらわれたのだ。
味を表現するなら、「しょっぱくて臭くて苦くて舌がピリピリする」である。飲み下すのを脳が全力で拒否する味だ。人はそういうものを「毒」と呼ぶ。
醤油の代わりになるか試す前に、まずはこれらを味見してみよう。地獄ナンプラーもあれから4年、少しはマイルドになっているかも知れない。
それぞれ色が違うんですな。地獄ナンプラーが一番醤油っぽい色をしている。タイフェスのは妙に黒い。
嫌な事は先にやれ
まずは地獄ナンプラーからはじめる。友人に「サワディーカッ。4年ぶりに地獄ナンプラーの味見をするんだけど」って電話したら「ツー、ツー、ツー・・・」って返ってきた。日本語忘れちゃったらしい。
気を取り直して、皿にあけた時点で凄く臭い。どう臭いかというと、普通のナンプラーを10倍くらいに濃縮して、それを大鍋で煮込んでるみたいな匂いだ。すごく濃厚にナンプラーが香ってくる。
これをナンプラーじゃないもので例えるなら、真夏の三角コーナーである。
なんかすごい匂い。
だが、落ち着いてよく嗅いでみると遠くに旨味やナンプラーの匂いも混じっており一抹の希望を感じさせるのだ。その辺の演出がニクイ。もしや?!と思わされつつ、口に含んだ。
生きてる!って感じがした。逆に言えば生命の危機を感じた。
「相変わらずだね」って言いたい。悪い意味で。あの頃とまったく変わらない地獄っぷり。地獄も色々あるけれど、ナンプラーの地獄ってのもあるのだ。
地獄にとって4年なんて時間は一瞬に等しいのだろう。これ、あと50年経ってもこのままだと思う。すぐ洗面所に行って吐き出した。これを飲み下せる人類はいないと思う。
いたとしたら、それは鬼だ。なにかの鬼。
普通のナンプラーだ。
6年前に買ったナンプラーは普通
正直、地獄ナンプラーのあとではどんなクセのある食べ物でもマイルドに感じてしまう。今なら鮒鮨だってグイグイ食えると思う(僕が地獄ナンプラー以外で唯一苦手な食べ物)。
冷静に味わえば、そこそこクセを感じる。6年の歳月を経て、元々の味より大分クセが強くなった気がする。東幹久色だし。
でも今はそんなクセも全然平気。だって地獄の後だし。ちょっとだけ生臭いけど普通のナンプラーですよ。具体的に言うなら、夏の魚市場みたいな匂いかな。
スッキリしたナンプラーだ。
李錦記のナンプラーはスッキリ味
さすが李錦記である。スッキリした旨味と香り。ナンプラーのクセもかなりマイルドだ。
これなら醤油の代わりにも使えるかなという事で、今回は李錦記のナンプラーで記事を書こうと思う。
地獄ナンプラーとタイフェスナンプラーは冷蔵庫にお引き取り願った。地獄ナンプラーで肉じゃがなんて作った日には換気扇からの異臭騒ぎで通報されかねない。第一、あれで料理作っても食べるの無理。
前置きが長かったが、これからようやく本題だ。
醤油の代わりにナンプラーで刺身を
最初は刺身。醤油の代わりにナンプラーで食べてみようという試みだ。
刺身の味なんて半分以上醤油の味だ。その醤油がナンプラーに変わったとしたら?
サンマとアジとまぐろの3点盛り。生姜ナンプラーとわさびナンプラーで食べてみる。
わさびじゃナンプラーに勝てない。
生臭さ特盛り
刺身本来の生臭さとナンプラーの生臭さがシナジーを生んでお互いに高め合い、端的に言ってエライ食べにくい。
地獄ナンプラーで訓練(または麻痺)された僕の鼻をしても生臭いって思うので大したもんだと思う。
わさびもしょうがも、ナンプラーと刺身のシナジーに勝てる力は持ってなかった。
突然タイフェスコーナー1。初めて行ったタイフェス。一人で二日酔いの朝、フラフラしながら行った。
肉じゃがをナンプラーで
生がダメなら煮てみよう。豚肉とジャガイモ、玉葱、人参を煮て、ナンプラーとみりんと砂糖で甘辛く味付けした。食べる前から結構なナンプラー臭であり、どうにも肉じゃがに思えないですけどー。
容赦なくナンプラーを投入。
色が薄めな肉じゃがが出来た。匂いはなんだかタイフェスだ(※断っておくが、僕はタイ料理もタイフェスもそれなりに好きです)。
色が薄めで、見た目は上品。
不味い事もないが、知ってる肉じゃがとは違う。
アジアな肉じゃが
甘辛くて、じゃがいもはホクホク。豚肉の旨味と脂身の甘みが渾然一体となり、そして香りはアジアン。わぁ、タイ料理っぽい。
甘辛い感じとか旨味とかは醤油の肉じゃがに近いんだけど、やっぱり匂いがタイ感を醸してしまう。料理において匂いはかくも重要なのだなぁ。
突然タイフェスコーナー2。タイフェスで食べたカオマンガイ美味かったなぁ。
醤油みたいに美味しそうな色にならない。
焼いた餅にナンプラーを2,3回塗って焼いた。でも醤油の様には色づかない。僕の好みだと、もうちょい色づいてくれた方が食欲が湧くね。
色が薄めで、見た目は上品。そういえば「上品=色が薄い」ってなんでだろう。
さて味だが、どうも物足りない。磯辺焼きってのは醤油の香ばしさがあって初めて美味しいものの様だ。ナンプラーは焼いても香ばしくならない。
だが、それは地獄ナンプラーのせいで僕の鼻がおかしくなっただけかも知れない。部屋全体がナンプラーくさいと妻が文句を言っている。ワタシニハワカリマセン。
突然タイフェスコーナー3。2005年のタイフェス。大混雑だった。
ナンプラーうどん
シンプルにナンプラーを味わうためにうどんを食べる事にした。もう結構お腹いっぱいなんだけど。
「本だし」を小さじ1とナンプラー大さじ2、砂糖小さじ2でうどんのつゆを作った。具は肉じゃがの肉を流用。
見た目は関西風のうどんっぽい。
超美味いがうどんとは違うものを食べてる気になる。
うどんなのにフォーを食べてる気分
これは完全にフォーだ。麺はうどんだけど。ナンプラーはとことん醤油の代わりにはならない。どうしたって目の前にタイフェスが広がってしまう。
ナンプラー、恐ろしい子・・・・ッ。
突然タイフェスコーナー4。なぜかちょっと甘い焼き鳥。
玉子かけご飯withナンプラー
まだ悪あがきである。もう散々ナンプラーでタイフェスを味わったというのに、更に痛い目をみようってことだ。なんだ、僕はマゾか。はい、どっちかっていうとMです。
玉子かけご飯にナンプラーは使えるのか。
ここで予想外の化学反応が起きた。ナンプラーと生玉子の匂いが混ざったら蟹の匂いになったのだ。
なぜか蟹のにおいの玉子かけご飯になって、でも味はご飯と玉子となんかしょっぱいのだ。混乱した。
え?蟹?蟹どこ?って探した。椅子の下も探した。嘘だけど。
嘘告白ついでにもう一つ嘘を告白すると、地獄ナンプラーの味見で友人に電話して切られた話、あれも嘘。でも玉子とナンプラーで蟹風味になったのは本当です。
なんか足らない
というわけで色々試した結果、ナンプラーは醤油の代わりにならない事が判明した。ナンプラーを使った時点で、どうしたってタイフェスになってしまう。
しかしタイフェスっぽいと言ってもなんか味付けが中途半端であり、ひと味足らない。なにが足らないのか?
ポクポクポク、チーン。わははは、甘いわ士郎!パクチー無くしてなにがタイ料理か!なにぃ!謀ったな遊山(※)!
ああ、パクチーか。
パクチーを買ってきた。
※…美味しんぼって漫画はみんな知ってるよね?
パクチーだ。当サイトのライターはパクチー好きが多い気がする。僕もパクチー好きだ。
パクチーの投入で、我が家はタイになった
パクチーを刻んでナンプラーと並べた瞬間、僕は完全に敗北した。だってもう、ナンプラーを醤油として扱うの諦めてる。ナンプラーをナンプラーとして扱う覚悟の象徴がパクチーである。そう、もう和食の食卓ではない。
ここはタイだ。
緑色の白旗。
サンマの刺身にナンプラーとパクチー。うん、タイだわ、ここ。
まぐろの刺身にパクチー。超美味い。
魚本来の生臭さが際立つばかりだった刺身が、一気呵成にタイ料理になった。パクチーのこの豪腕ぶりと来たら。全てをひっくり返しやがった。
ナンプラー、レモン汁、パクチー、砂糖少々、刺身の残りを和えたらもう完全にタイ料理っぽい。醤油の代わりになるか?うん、ならないね、ナンプラーはナンプラーだ
小洒落ダイニングバーで出てきそう。
突然タイフェスコーナー5。干しオキアミとか砕いたピーナッツとか乗ってる焼きそば。これも若干甘かった気がする。
これ知らない、肉じゃがじゃない
ナンプラー肉じゃがにパクチーを乗せたらば、完全に肉じゃがを逸脱した。肉じゃがって言うかムー・トム・マンファランだ。
ムー・トム・マンファランは「煮た肉とじゃがいも」って意味。多分。きっとまたちょっと間違っててツイッターとかはてなブックマークとかで突っ込まれるんだろう。いいさ、それもCGMだ。
新メニュー「ムー・トム・マンファラン」。
うどんにもパクチー。食べたら笑う。美味い。超アロイ。うどんじゃないなにかのタイ料理だ。
ナンプラーとパクチーで味付けして焼きうどんでもアリだな。
これも美味い。
ナンプラーと酢とラー油で餃子のつけダレを作って、それにパクチーを入れてみた。タイで餃子食べたらこんな味かしら、って感じになった。これはある意味新しい。
タイ風餃子。
要するに、ナンプラーで美味い料理を作るにはパクチーが欠かせないって事だ。ナンプラーの風味が強くても、パクチーさえあれば一気に味がまとまる。立派にタイ料理になる。
もしかしたら、パクチーの力を借りれば地獄ナンプラーも・・・・。いや、奴の事は忘れよう。あれはなんていうか、次元が違うんだ。生物学的に、あれはちょっと無理。僕の業として一生冷蔵庫に保管しておこうと思う(これを読んだ時の妻の苦々しい顔が目に浮かぶ)。
ナンプラーとパクチーで和食を作るとタイ料理になる
今回判ったのは、ナンプラーは醤油の代わりにならないって事。味わいがアジア過ぎてどうしたって違う料理になってしまう。日常的に醤油の代わりにナンプラーを使ってる人もいるだろうけど、それは好みの問題だろう。醤油とナンプラーは違うものだ。
そして、ナンプラーとパクチーを使えば大体タイ料理っぽくなるという事。タイ料理を食べたくなったら適当なレシピでこれらを合わせてみよう。大体タイフェスっぽくなる。え、それ甘いの?みたいな料理もあるので甘くしてみるのも大事だ。きつねうどんなんかはタイ料理ポテンシャルが高そうだ。
最後、地獄ナンプラーはどうしても飲み下せない事。体を張れば面白い記事なるかって言ったらそんな事はないので、体は大事にしていきたい。
グリーンカレーのペーストもタイフェスで買って余ってる。久しぶりに作って食べてみた。超アロイ(うまい)。