特集 2011年10月25日

一万匹の中から一匹の煮干しを見つける

あなたは世界でただ一人のあなたなのだ。そう、煮干しと同様に。
あなたは世界でただ一人のあなたなのだ。そう、煮干しと同様に。
あなたは世界で一人だけのあなたであるらしい。

となると、一万人の中からあなたを見つけだすのは親兄弟でなくても簡単だろう。写真一枚あればいい。

だがあなたがモンゴロイド以外の人ならどうだろう。ちょっと自信がない。犬なら牛ならニワトリならどうだろう。

例えばこの煮干しだって世界で一つだけの煮干しだ。なら一万匹の中からたった一匹の煮干しを見つけることができるのだろうか?
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

前の記事:どちらも応援するということ

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

つまり個体差を見分けたい

飼い主は自分のペットがどれかわかるし、競馬ファンはお気に入りの馬がどれかわかるだろう。個体差というやつだ。

この個体差を見分けられるようになりたいと思ったのだ。
たとえばこの煮干し。これを覚えておこう。
たとえばこの煮干し。これを覚えておこう。
何の個体差かはなんでもよかった。身近にあって数がたくさんあるもの、候補は煮干し、それとティッシュ。

早速家にあるティッシュを見分けようとしてみた。そして10分後、10分前と変らない世界がそこにはあった。

時間が止まった。
もう一匹並べてみよう。もちろんどれが最初の煮干しかはわかる。
もう一匹並べてみよう。もちろんどれが最初の煮干しかはわかる。
これはどうだろう。まだまだすぐにわかるだろう。
これはどうだろう。まだまだすぐにわかるだろう。

意外と煮干しは見分けやすい

1匹から2匹、そして5匹の煮干しから1匹を選んだ。簡単である。

5頭の牛から最初の1頭を選べるだろうか?5枚のティッシュから最初の1枚を選べるだろうか?

煮干しは意外と見分けやすいのだ。
それなら100匹ならどうだろうか?
それなら100匹ならどうだろうか?
これはちょっとわからなくなってきたぞ
これはちょっとわからなくなってきたぞ
100匹となると、とたんにわからなくなってきた。これはちょっと対策を練る必要が出てきたぞ。

まず最初の一匹をもっと知ろう。深く知って個体差を把握するのだ。
写真屋に行こう
写真屋に行こう
最初の一匹の写真を現像して、分析をする。気分は捜査班だ。
最初の一匹の写真を現像して、分析をする。気分は捜査班だ。
体の大きさと形と色、特に胸びれの角度が犯人の特徴だ
体の大きさと形と色、特に胸びれの角度が犯人の特徴だ

干され具合がちがう

煮干しの見分けやすさ、それは形の差によるところが大きい。

まず体の形でだいたい見分けがつく。うま味や日持ち以外にも、体の形に差が出るというのは、干物のなま物に対するアドバンテージのひとつだ。
干されて曲がる体の形
干されて曲がる体の形
破損
破損
形の差とは「干され具合」と「破損」の二つからくるもの。考えれば考えるほど、煮干しってボロボロなのだ。もし僕が社長で煮干しが新入社員ならすぐにクビにすることだろう。

しかし煮干しには、煮てさらに干されて破損して見分けられて、とボロボロなのにまだまだこれからの人生がある。

いや、だからといって何も良いことを言うつもりはない。

代わりに、僕が社長なら煮干しをクビにすることだけはもう一度言っておこう。
体の大きさと形で選別をする
体の大きさと形で選別をする
最後の決め手となったのは胸びれと体の色
最後の決め手となったのは胸びれと体の色

煮干しの個体差は簡単だ

今回の決め手となったのは胸びれの形。右下の煮干しの胸びれが右上にきれいに上がっている。

煮干しは顔も体も色も全部微妙にちがうのだ。

たとえばここに48匹の煮干しを写真に撮ってみた。(撮影条件を揃えたので、大きさのばらつきは実物と同じだ。)

パッと見ただけでもこんなにちがう。さあ、あなたはどの子(煮干し)が好みだろう?
ここに48匹の煮干しを集めてアイドルグループ煮干し48を結成した
ここに48匹の煮干しを集めてアイドルグループ煮干し48を結成した

煮干し48

AKB48をもじって煮干しだからNBS48だ、そんなことを言おうと思って48枚撮ったがやめた。

知らんおっさんにもじられたりする女の子の気持ちをちょっと考えてしまったのだ。

私は、自分が自然とAKB(煮干し)側の視点に立っていることに気づいた。
100匹の重さを計って10倍の煮干し。1000匹の煮干しである。
100匹の重さを計って10倍の煮干し。1000匹の煮干しである。
間近で見ると面倒の二文字。私の頭上に、面倒の花がパカッと咲く。
間近で見ると面倒の二文字。私の頭上に、面倒の花がパカッと咲く。
広げてみると一気にただよう業者の香り
広げてみると一気にただよう業者の香り

煮干し1/1000

今度は1000匹の中から最初の1匹を見つける。 1000匹の山はこんなものかと思う程度だったが、山をくずして広げるたびにただよう絶望感と煮干し臭。

わが家が絶望の水産物加工場になった。
100匹のときと同様に大雑把にめぼしいものを。だが見つからない。
100匹のときと同様に大雑把にめぼしいものを。だが見つからない。
これかな?と思ってもちがう。それを数十回繰り返す。
これかな?と思ってもちがう。それを数十回繰り返す。

さすがに手強い

家族が寝静まり、こっそりと煮干しを探す夜。

深夜にさしかかり目もかすんできた。目薬をさしたり帽子をかぶって髪をまとめたりする。1000匹ともなると、人間にも変化が出てくる。

文筆家のペンだこのように、私が煮干しのプロ化していく。さて、煮干しは見つからない。
目薬をさす煮干しのプロ
目薬をさす煮干しのプロ
端から順に見ていくが見つからない‥‥本当に入れたっけ?
端から順に見ていくが見つからない‥‥本当に入れたっけ?

そもそも混ぜてなかったのでは?

おかしい。端から端まで見たのに見つからない。本当に入れたっけ‥‥?

誰しもがもつ「泣きながら探した」思い出。私は小学校四年生の時、図書館の本が見つからず泣きながら探しました。

記事のことなど置いておいて、ちょっと今それを思い出してみませんか?

それです、そのときの気持ちが今まさにやってきました。
あきらめかけたその時、「これは惜しい」コーナーの一匹をよく見ると
あきらめかけたその時、「これは惜しい」コーナーの一匹をよく見ると
よかった‥‥心配したんだからという親心さえ芽生えた
よかった‥‥心配したんだからという親心さえ芽生えた

1000匹の中から1匹を見つけるのに90分

長めの休憩(いやになった)などもありつつ、見つかるまでに90分。屈み込んで腰が痛くなりはじめた頃だった。

見つかった。うれしいと同時に、大きくホッとした。心配かけやがって、という親心のような気持ちさえ芽生えた。

さて次は10000匹だ。1000匹探すのも10000匹探すのも変らない。「見つかるのは見つかる、ただし90分×10回で」だ。

時間もわかって見つける確信もあって、10000匹の中から探す必要があるのだろうか?
さあ、一万匹の中から一匹を見つけようか
さあ、一万匹の中から一匹を見つけようか

戦いははじまったばかりだ

煮干し一万匹は、この原稿を書くまでにはおわらなかったので、大きな缶に保存している。果たしてこの中から最初のあいつはいつか見つかるのだろうか?

今日は一万匹の煮干しの中から百匹程度を三杯酢に和えて食べた。もしかしたらその中にあいつがいたかもしれない。

見つかるのが先か、食べるのが先か。食べてしまっては後悔だけが残る。しかし煮干しの甘酢漬けもうまい。もっともっと食べたい。これは理性と欲望との戦いだ。

残り9900匹、戦いはつづく。(了)

以下、他人の告知
(次ページには巻末特別付録もあり)
11/26・27 栩秋太洋展「あなたとわたしの間で」 (クリックでイベントページへ)
11/26・27 栩秋太洋展「あなたとわたしの間で」 (クリックでイベントページへ)
実はそもそもの発端は別にある。デイリーポータルZustreamで舞踏を教えてくれた栩秋さん(※『踊ってみた(舞踏を)の回)が「煮干しを見つめる」展示を今度やるらしい。

そんなことを知って、へ~、と気になってたら煮干しの個体差を見分けられるのかが気になった。

しれっと煮干しアイデアを借りてきて黙っているのも居心地が悪いので、代わりにイベントの告知だけしておきます。
次ページは巻末特別付録『これがNBS48だ!』
▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

デイリーポータルZを

 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ

↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓