ファーストコンタクトは楽屋
体験してきた、とか書いたが、実は今回は別件の撮影仕事で、とあるアイドルグループのライブ会場におじゃましたのだ(
この動画です)。動画の撮影も終わり、せっかくだからライブも見ていかないかと、プロデューサーの方に誘っていただいた。
そのプロデューサーさんにつれられて入った部屋がいきなりアイドルの控え室だった。
アイドルどーん。自然体過ぎるがちゃんと撮影許可取ってます。
一部屋にアイドルが20人くらいいるのだ。みんな昼からステージをこなしているらしく、今はその幕間なのだとか。それぞれ携帯をいじったりお菓子食べたり寝たりしている。なんだろう、女子校の体育祭が終わってその打上げ待ちみたいな感じだろうか。若さとけだるさが同居している。
でも業者さんが通るとちゃんと立ってあいさつするのだ。えらい。
それにしてもなにも知らずにヌーディストビーチに入り込んでしまったみたいな居場所のなさである。目のやり場が部屋の上の角くらいしかない。すがる思いでプロデューサーの池田さんにお話しを聞いた。
プロデューサーの池田さん。この若さでアイドル事務所の社長である。
--まったく初心者(というか初めて)なんですが、アイドルのライブってどんなものなんでしょう
「この子たちは地下なんです。でもファンの方々はより熱狂的ですね。」
--地下?
「あ、地下アイドルです。ようするにインディーズ、メジャーデビュー前ってことですね」
ライブハウスが地下にあるってことじゃない。
「ファンの方については見てもらった方が話が早いんですが、そうですね、あとでTOの方を紹介しますよ。」
--てぃ、TO?
「トップ(T)、オタ(O)の略です。親衛隊というか、各アイドルを支えるファンの集まりを仕切っている人物ですね。」
--やはりファンは大勢の中から一人、自分の好きなアイドルを決めて応援するわけですか?
「そういう場合もありますが、DDの方もいます。」
--いちいちすみません、DDって?
「誰でも(D)、大好き(D)ってことですね。広くうちの所属のユニットが好き、というか。」
…深い。
はるか彼方、遠く他岸へは細い綱一本しか渡っていないような気がする。しかもその綱いまにも切れそう。僕はこの状態でライブを見てついて行けるのだろうか。不安になって目を泳がせると後ろではアイドル達が一斉にメイクを始めていてまた部屋の隅を見る。
冷静と情熱の間
アイドルの楽屋でうっかり女子高に配属されてしまった中年教師の苦悩を体験させてもらった後、ライブ会場へ入るとすでにライブが始まっていた。いま歌っているのはどうも今回お世話になっているのとは別の事務所のアイドルらしい。プロデューサーの池田さんは最後にこうも言っていた
「完全実力主義ですから、アイドルは。パフォーマンスがよくないとファンがついてこないですよ。」と
僕が見るに、今歌っているアイドルたちはなかなか人気があるのではないだろうか。前の方でファンの人たちがかなりヒートアップしている。
決まったタイミングで拳を突き出すのだが、そのタイミングがぜんぜんわかんないのだ。
誰か会社帰りの人がいる(と思っていたが、これらの使い道は後からわかります)。
ライブ会場はおそらく300~400人くらい入りそうな大きな場所だった。そうなると後ろの方まで熱が伝わりきらないのも仕方がないのか。
後ろの方はまあなんとなくファン、くらい。いたって冷静。
しかしこのあと、僕は会場でプロデューサー池田さんの言っていたことを体感することになる。次のユニットが出てきた瞬間に会場のボルテージが3倍くらいに跳ね上がるのだ。パフォーマンスが全て。僕は撮影用の高イスから転げ落ちそうになった。
アイドルよりもファンに見入ってしまう
いかんせん他のアイドルのライブを見たことがないのであまり適当なことは言えないのだが、「地下」アイドルというのは相当数いて、それぞれが草の根の活動をしているらしい。プロデューサー池田さんは「完全に薄利多売です」と言っていた。アイドルたちはこなせるだけライブをこなし、体力の続く限りファンにアピールするらしい。そうやって地上への階段を一段ずつ上る。
そんなアイドルの懸命さにファンはちゃんとついてくるのだろう。いま歌っている彼女らに対する情熱的な応援を見るに、明らかにさっき歌っていたアイドルよりもファンが熱い。
そんなファンのパフォーマンスは一見に値する。写真で伝えるには限界があるが、雰囲気だけでも感じてほしい。
ものすごく統制のとれた動きで声援を送るファンだが。
あるタイミングで規制がかかる。どうした、何があった。
ファンをアイドルから遠ざけていく。しかし客を制しているのもまた客のように見えるのだ。
ステージから3メートルほど離れたところで一同みなしゃがみこむ。
(なんだ、疲れたから座るのか?曲の途中に?)と思ってみていると
曲の区切りのタイミングで一斉に飛び出したぞ!
そして2秒くらいでこの布陣になる。精度高い。
いちど下がるところからすでにパフォーマンスなのだ。これらすべてがファン主体で動いている。繰り返される組体操的な立体的布陣はかなり体力的にも負荷が高いものと思われる。
異論はあるかもしれないが、アイドルファンたちの動きはプロレスに似ている。常に人に見られている、そういう意識で動いているのだ。
パフォーマンス(ファンの)はさらにヒートアップ
アイドルのライブなのにさっきからアイドルの写真が少なくてもうしわけない。しかし実際ファンばかり見ていてアイドルを撮っていられなかったのだ。そのくらいアイドルのライブではファンがすごいことになっている。
アイドルを撮った数少ない写真の中から。
先ほどファンに完璧なスタートダッシュからの立体的布陣を披露させたユニットがライブを終え、次はソロの女の子が入ってきた。それと同時にまた会場の空気が変る。
なにやら会場脇に場所を取り、ペンライトを準備しだしているファンが10名ほど。そうか、ここで準備して曲が始まったらそれ持ってステージ前に出て行くのだな。
そう思って横から見ていたのだが、彼らこのままステージではなく壁に向かって踊り出した。
こっちには僕とカメラマン他スタッフ数名、あと壁しかない。
彼らが見ている風景。完全に壁である。イスに立っているのはカメラマンさん。
壁を見つめながらも踊りは徐々にエキサイトしていく。動きが速すぎてペンライトがレーザービームみたいに見えるほどだ。そしてみな動きが完璧に合っている。
さきほどのYシャツとネクタイはこのときの踊りのコスチュームだった。始まる前にみんな着替えてネクタイまで締めていた。理由は謎。
完全にシンクロした動き、速さ、情熱、そんな彼らの目の前には
もの言わぬ壁。
うおおおー、ひゅんひゅんひゅん(ペンライトが空を切る音)。
…ぜい、ぜい。曲が終わり倒れ込む彼ら。肩で息をしていた。
好きなのにライブ見てない
完全に横を向いた状態でスーパーパフォーマンスを繰り広げる彼ら、曲が終わると黙々と次の曲に向けてペンライトを交換している。そして曲が始まるとまた横向いて踊る。しかしファンじゃないかというとそんなことはない、たぶんものすごい好きなのだ。ならなぜ前見て踊らないのか、そんな疑問は無粋だといわんばかりに彼らのパフォーマンスは純粋に熱く、儚い。
圧倒的である。初めて来て混じれるものではまったくないが、きっとあの中に入ったら壁にも花が見えるのだろう。
このあとサイドデスクの下にイルカの風船が集められた。何に使うのかは後で。
あがり続けるテンション、そしてダイブ
ステージ上のユニットが変る度にファンのパフォーマンスも変る。曲毎に決められた動きがあるのだ。プロデューサー池田さんがライブ前に言っていたが、ファン達はライブが始まるよりかなり前に会場入りして綿密にミーティングを行なうのだとか。どうやったら彼女たちがよりよいパフォーマンスを見せられるのか、それから絶対にケガさせないように、と。
ん?ケガ?アイドルが?なんで?
前の2列につけいる隙はない。
渦巻く熱気。もはや祭りである。
ファンのひとりが担がれたかと思うと。
一行はそのまま会場を練り歩く。もちろんステージではお気に入りのアイドルが歌っている。
アイドルがステージに海を模した幕を張ると客席にイルカが飛ぶようになる。さきほど準備されていたあのイルカである。アイテムはもちろんファン自身が用意する(この後みんなでしぼませていた)。
ファンたちの統制のとれたパフォーマンスには、やはり場を仕切るリーダー的存在が大きな役割をはたす。見たところ常にフロアの動きを気にしながら指示を出している人たちが数人いた。
かけ声を統制するため、ユニットメンバーの名前をカンペに書いてファンに伝える役。間違えるとアイドルがかわいそうだから大切な仕事である。
思わず拍手を送りたくなる(ファンに)。
盆踊りみたいなものなのだろうか。やぐらの上がアイドル、下で踊るのがファン。これはみんなで作り上げるお祭りなのだ。
そしてここからライブは一つの山場を迎える。
アイドルがとある配列をなすとそれに正確に反応したファン達はすみやかにラグビーのスクラムのような布陣を組む。
腕を井形にしっかりと組む。これからなにが起きるかわかるだろうか。
アイドルが飛んでくるのだ。
シンジラレナイネー。
この「
ぴゅあふる」というアイドルユニット、実は日本初、会場にダイブするアイドルとして有名なのだとか。そりゃあ初だろうよ、そんなの聞いたことないもん。もはや予想の範疇をはるかに超えている。
しかしいくら紳士的なファンとはいえ、女の子が飛び込むにあたっていろいろマズイことはないのだろうか。池田さんに聞くと
「彼ら、絶対に手のひらでは受け止めないんです」と。
間違っても彼女たちがケガをしないように、確実に「手の甲」で受け止めるのだとか。その手が触れるのは体ではなく愛なのだ。
アイドルが飛んできたことで僕が放心していると、ファン達がステージから距離を置きだした。
そしてクラウチングスタートの体勢に。知ってるよ、これ。このあと
いっせいに飛び出すんだよね。
盛り上がりが再びピークを迎えるとスクラムが組まれそして
アイドルが飛んでくる。
分からないなりにもわかってきた
アイドルはファンにパフォーマンスを見せるのだが、同時にファンはフロアからアイドルに自らを披露しているのだ。その証拠にファンの動きにアイドルはちゃんと呼応して手を振ったり声をかけたりしてくれる。そこには一朝一夕には入り込めない絆みたいなものを感じる。
鉄柵に立った男を後ろでハッピを引っ張って支えているのがわかるだろうか。ファン同士にも揺るぎない信頼関係がある。
そしてなにより感動的なのは、やはりアイドルたちの礼儀正しさである。曲が終わると深々とお辞儀をしてお礼を言いながら去っていく。高校球児でもいまここまでしない。
この間もファンは統制の取れたかけ声をかけ続けてくれる。
アイドルが礼儀正しければやはりファンも礼儀正しい。僕は撮影用に高イスを借りていたのだが、脱いでおいた靴を誰かがそろえておいてくれていた。
誰だ、おれの靴そろえてくれたの。
一度行ってみるといいです
なかなかハードルが高いと思っていたアイドルライブだが、素人が行ってもまったく問題なく楽しめた。アイドルは分け隔てなく笑顔をくれるし、ファン達は自分たちのパフォーマンスに必死だから素人がまぎれていても気にしない。あの会場には悪い人なんて一人もいない。
しかし物販コーナーで売られていた飴は一個500円した。