特集 2011年9月5日

母62歳、武道館の舞台に立つ!

い、いた!
い、いた!
母が武道館の舞台に立つという。

剣道や柔道の大会に出るのではない。踊るのだそうだ。武道館の舞台で。

つまり、武道よりもアイドルのコンサートに近い意味で武道館に出るのだ。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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突然体操の先生になった母

母はちょっと前まで専業主婦だった。それが、あれは何年前だったか急に体操の講師の免状を取得するといって猛烈に勉強と稽古を始めた。

きっかけは、実家の近くの公民館で参加していた「3B体操(スリービーではなく、さんビー、と読む)」という体操のクラス。
母(左)
母(左)
この「3B体操」、体操といっても音楽に合わせて踊る要素が多い。

振りに合わせて踊ったり、ときには掛け声をかけるこの体操に母はすっかりほれ込んでしまった。そうして、いまや方々の公民館や地域センターで教室を持つ講師になったのだった。
なんと実は私、武道館に入るの初めてなんです。初武道館がまさかの事態
なんと実は私、武道館に入るの初めてなんです。初武道館がまさかの事態
母が話題に出すことで家族内では有名な「3B体操」の文字が確かにかかげられている
母が話題に出すことで家族内では有名な「3B体操」の文字が確かにかかげられている

それでなんで武道館なのか

体操の講師になったからといっても、ふつうのおばさんである母だ。ゆめゆめ武道館の舞台になど立てようかと思う。

それがなんでも、この体操の40周年記念大会がまさに武道館で行われ、関東一円の、母のような講師(「指導者」って呼ばれてた)が一同に会するというのだ。

母にとってはラッキーな出演だったわけだ。

出演者の数、600人だそうである。
ということはつまり、600人の母が踊るということだ!
ということはつまり、600人の母が踊るということだ!

600人の母

そうなのだ。この「3B体操」というのは、そもそも主婦のサークルが主婦の健康づくり活動として始めたもの。

今では子どもから老人まで男女問わずに広がっているそうだが、発祥ゆえにやはり取り組んでいるメインの層は主婦なのだ。

この日武道館の舞台に立った指導の免状を持つ人となるとそのほとんどが40代~60代の主婦のみなさん(さらにポツリポツリと70代、近年は30代も増えている!)が多いようだった。

いわゆる、日本のお母さん、である。

AKB48の総選挙の会場と同じ武道館に立つ、OKN600(OKN=おかあさん)なのだ。
で、もうとにかくこのお母さんたちの輝きがハンパなかったのである
で、もうとにかくこのお母さんたちの輝きがハンパなかったのである

爆発する母パワー

これまで、私はこの体操に自分の母が熱烈に取り組んでいても魅力についていまひとつピンときていなかった。

今回、完全にそれを見せ付けられた思いだ。とにかくすごいのだ。

「やりたい放題」言っても言いすぎではないと思う。とにかく弾けまくる母、母、母。
母たちが踊り
母たちが踊り
そしてところ狭しとかけ回る!
そしてところ狭しとかけ回る!
この日は開場が9時半(早い!)で開演が10時。それからなんと2時間半、途中20分の休憩をのぞけばノンストップで22曲の乱れうちである。

しかも12時30分の終演のあと午後の回が13時30分からまた始まるのだ。

まさかの2回まわしである。昼と夜ではなく朝と昼、というのがまた主婦目線の時間帯だ。

母、トランスで踊る

しかもすごいのが踊られる22曲の曲目だ。
日光和楽のお囃子にあわせて華麗に舞うかと思ったら (ちなみに、手に持っているのが「3B体操」の「3B」の由来である「BELL」という道具)
日光和楽のお囃子にあわせて華麗に舞うかと思ったら (ちなみに、手に持っているのが「3B体操」の「3B」の由来である「BELL」という道具)
いきものがかりの「じょいふる」でステップ。 ポッキーのCMで忽那汐里ちゃんが踊ってたやつ! (で、この持ってるゴム状の道具が「Belter」というもの)
いきものがかりの「じょいふる」でステップ。 ポッキーのCMで忽那汐里ちゃんが踊ってたやつ! (で、この持ってるゴム状の道具が「Belter」というもの)
さらに四つ打ちトランスでも踊る! GIRL NEXT DOOR の「インフィニティ 」という曲だそうで、私でも知らない曲を母は知っているのか (「3B」の最後の「B」は黄色い「Ball」)
さらに四つ打ちトランスでも踊る! GIRL NEXT DOOR の「インフィニティ 」という曲だそうで、私でも知らない曲を母は知っているのか (「3B」の最後の「B」は黄色い「Ball」)
さらにKARA「ミスター」、レディ・ガガの「ポーカーフェイス」(!)とその勢いは止まらない。

しかも、流行曲の間あいだに容赦なく「よさこいソーラン」や「アメイジング・グレイス」「星空のピアニスト」といった曲が入ってくるのだ。

息をもつかせぬとはこういうことを言うんじゃないか。

サカナクションの「アルクアラウンド」が出たときはいよいよこの体操の奥深さに喉からかすれた声がでた。

※「アルクアラウンド」はPVがすごくかっこいいことで話題になった曲ですな。まだ見ていない方はぜひ検索してみながら、踊る母を想像してください。
こちらはマイケル・ジャクソン「Beat It」
こちらはマイケル・ジャクソン「Beat It」
サカナクションで踊る母たち。そして見守る満席の観客
サカナクションで踊る母たち。そして見守る満席の観客

客席は満席

で、何がすごいって母だけじゃない。観客もすごいぞ。なにしろ武道館はアリーナから2階席、3階席までびっしり満席だ。
9時半という早い開場時間にも九段下駅から押し寄せる観客達
9時半という早い開場時間にも九段下駅から押し寄せる観客達
びっしり満席!
びっしり満席!

お母さんを応援しにくるさらなるお母さん

どういう方々がこの席を埋めているかというと、出演する600人の先生達の教え子さんが多いようだった。

平日の昼間ということもあり(大会は8/30(水)に行われた)、観客の多くもまた熟練の主婦のみなさんという印象。

母を観にまた母が来る。こんな倍々ゲームもあるのだ。
大量のバスで乗り付ける!
大量のバスで乗り付ける!
バスは関東だけでなく新潟や長野といった各地から続々と到着していた。海老名パーキングエリアかという大量のバス達が向こうの向こうまで並ぶ。

自分の母がかかわっている世界の底知れなさに真後ろに倒れそうになって持ちこたえた。
「ゆかりー!」とか、会場から下の名前を呼ぶ歓声が飛ぶ。近所の女子高の文化祭でみたチアの発表と同じだ
「ゆかりー!」とか、会場から下の名前を呼ぶ歓声が飛ぶ。近所の女子高の文化祭でみたチアの発表と同じだ

動きは、実は結構じっくり、ゆっくり

さて、ここまでガーっと母のパワフルぶりを紹介したわけだが、実はダンス自体の振り付けはゆっくりだったりする。やはり基本は体操、なのだ。

四つ打ちが鳴っても、母が身を任せるのは重低音の方じゃなくてあくまでもメロディーの方。

派手な衣装と照明の下で行われているのは実はしっかりとした体操だという事実がまたこちらを翻弄するのだった。
開場が一気に一体となったKARA「ミスター」。アップテンポな曲も実はゆっくりした無理ない動きで筋がしっかり延びる
開場が一気に一体となったKARA「ミスター」。アップテンポな曲も実はゆっくりした無理ない動きで筋がしっかり延びる

なんかもう、超楽しそう

会場の熱気にあてられて、バックヤードで一旦休憩させてもらったのだが、ここでも母たちは元気いっぱい、むちゃくちゃ楽しそうである。

舞台の上でも下でもどうかと思うほどイキイキしているのだ。
演技を終えたお母さんと次に出演するお母さんが「おつかれー!」 で全員見事にハイタッチ
演技を終えたお母さんと次に出演するお母さんが「おつかれー!」 で全員見事にハイタッチ
出演者が600人とあって、武道館の控え室は全室が出演者で埋め尽くされていた。控え室は「東京」「埼玉南」など地域ごとに分かれているのだが、どこも母でひしめきあっている。

あふれる母とあふれる元気。このエネルギーで武道館が1メートルくらい動かせるんじゃないか。
東京から参加の皆さんの控え室。カメラを向けると一瞬でポーズしてくれる
東京から参加の皆さんの控え室。カメラを向けると一瞬でポーズしてくれる
左から3番目のお母さん、手の甲を見せるピースは10代のそれだ!
左から3番目のお母さん、手の甲を見せるピースは10代のそれだ!

そして私は「いいカメラが欲しい」

とにかく怒涛のパワフルに押され、自分の母どころではなくなってしまったのだが、600分の1として、私の母も頑張っていました。
「おぼろ月夜」で踊る母。どうでもいいですが、黄色いボールが始終卵の黄身に見えて仕方がなかった
「おぼろ月夜」で踊る母。どうでもいいですが、黄色いボールが始終卵の黄身に見えて仕方がなかった
群舞の中の母をカメラでとらえきれず、ああ、そうか「いいカメラが欲しい」ってこういう気持ちか、と初めて気づいたのだった。

息子の運動会のときも娘が生まれたときも感じなかった「いいカメラが欲しい」という感情をまさか母に揺さぶられるとは。
か、かっこいい!
か、かっこいい!

次は駒沢オリンピック公園総合運動場体育館に、立つ!

今しきりに「日本を元気に」といわれているわけだが、ものすごい元気な日本を見つけてしまった。

手に負えないほど元気でどう記事をまとめたらいいか分からない。

武道館を制したいま、次はどうなってしまうのかと思ったら、母、こんどは駒沢オリンピック公園の体育館で踊るそうだ(10/8)。

東京オリンピックで女子バレーボールの試合が行われ「東洋の魔女」が戦った場所である。もう私としては応援するしかない気持ちです。というか、私もやろう。 もうちょっと大きくなったら。

社団法人日本3B体操協会
踊るわよ! (いちおう、左から2番目が私の母です。しかしみなさんいい笑顔)
踊るわよ! (いちおう、左から2番目が私の母です。しかしみなさんいい笑顔)
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