英会話が100語でできるなら
昔NHKで、「100語でスタート!英会話」という番組がやっていた。
その名の通り、英会話の頻出単語100語を使って会話をするといった内容だ。
当時浪人生で受験勉強真っただ中だった僕は、日々山のように単語を暗記している英語が、実は100語でいけるということに衝撃を受けた覚えがある。
一方で食レポ。テレビで見ない日はないというぐらいよくやっているが、どうもみんな同じことを言っている気がする。
いつだってエビはプリプリだし、肉汁はあふれているし、スイーツは甘すぎない。
パターンをつかめば僕にもできるのではないだろうか。
世界の何十億人と通じ合うことができる英会話が100語でできるのだ。
食レポは、10語でどうだろう。
食レポ頻出ワード ベスト10
ということで、まずは食レポによく使われている言葉のベスト10を調べてみることにした。
ある1週間、食レポをよくやっていそうな番組を録画。
全部で50件の食レポが集まったので、それを聞き起こして単語に分解し、Excelにまとめて集計した。
その結果がこちら。
食レポの基本は「うん、おいしい!」
まず注目したいのが1位と2位。
先ほども書いたが、この数字は50件の食レポの中での登場回数だ。ほとんどのもので、「う~ん!おいしい!」と言っていたことになる。
「宝石箱」や「まいう~!」など、何かオリジナルの表現を求めらるイメージもあった食レポだが、実はその基本は素直に「おいしい!」と言うことだった。
昔、若手の芸人さんが食レポで「うん!おいしい!」と言ったところ、「もっと表現ないんかい!」といじられているのを見たことがあったが、あれで良かったのだ。
もし人生で1度だけタイムマシーンが使えるとしたら、あの時に戻って彼にこの情報を伝えてあげたい。
意外な組み合わせ系の食べ物に便利な「バランスがいい」
3位以下は、これぞ食レポ!というおなじみのワードが並んでいる。
どれもけっこうな頻度で使われていて、これほどまでとは思わなかった。
中でも3位の「甘い・甘み」は4分の1以上の食レポで使われている万能っぷりだ。
そんな中で、9位に入っている「〇〇と××のバランスがいい」という言葉にはあまりなじみがなかった。
この言葉、「いかすみまん」や「チャイニーズチキンバーガー」など、ちょっと変わった組み合わせの食べ物で多く使われていた。
食材単位で見ると他のワードでも表現できるが、こういった料理のポイントはあれとそれを組み合わせたというところなので、「バランスがいい」という表現が重宝されるのだ。
10語でできそう
次に、これら10個の言葉でどれだけの食レポがカバーできているのかを集計してみた。
すると、今回見た50件の食レポ全てで、先ほどのトップ10ワードが1つ以上使われていた。
「おいしい」や「うん!」を除いた3位から10位のワードだけで見ても、約7割の食レポで使われている。
「10語で食レポ」がかなり現実味をおびてきた。
食レポをマニュアル化する
50件の食レポを見ていて、他にもいくつか気づいたことがある。
・「う〜ん!おいしい!」→「形容詞一言」→「”◯◯で××”という文章」の流れ。
・「うん!」や「う〜ん!」を言うときは、目を閉じたり見開いたりする。
・「おいしい」「うまい」は冒頭の1回で終わらず、その後もちょこちょこ言う。
これらもふまえて、「10語で食レポ」をマニュアル化したのがこちら。
食レポを4つのステップに分けて、それぞれのステップで選択肢の中から言葉を選んでもらうようにした。
できる。もうこの少ないワードで食レポができている未来しか見えない。マニュアルが完成に近づくにつれて、早くやってみたい気持ちでいっぱいになった僕は、鼻息荒く家を飛び出した。
食レポは準備が大事
マニュアルを印刷し、肩をブルンブルンまわしながらやって来たのは魚民。
全方位の食べ物を網羅していると言っていいチェーン店居酒屋メニューに対して、この「10語で食レポマニュアル」がどこまで通用するか試してみたい。
感想をもらうために、友人にも集まってもらった。
まずは、この貝の刺身でトライしてみる。
最後のドヤ!はマニュアルにはなかったが、満足感から思わず出てしまった。
けっこう上手くできたんじゃないだろうか。そう思って友人に感想を聞いてみると、
まさかの審議。「だいたいは合ってるけど何かちょっと違う」とのこと。
安易にドヤ顔をしてしまった自分が恥ずかしくて、しばらく黙っていた。「うかつにドヤ顔をしない」という吹き出しをマニュアルの最後に加えよう。
その後、これ本物のテレビに流すやつだったのかな?と思うぐらいのしっかりした振り返りが行われ、
「”クリーミー”に違和感がある」という結論にいたった。
そこで、撮ってもらっていた食レポ中の写真を見てみると、
口に入れた後もちらちらマニュアルを見ていた。
各ステップごとに場あたり的に言葉を探していたことから、焦って貝のイメージに対して遠い言葉を選んでしまっていた。
10語にまで絞り込んだマニュアルではあるが、その中の言葉なら何でもいいという訳ではなかったのだ。
準備不足。サッカー選手がよく、次の試合に向けて「いい準備をしたい」と言っているが、食レポも全く一緒だった。
大切なのは違和感のない言葉えらび
その点をふまえて、もう一度やってみよう。
食べる前にじっくり言葉を吟味しておくことで、全く違和感のない食レポになった。
よく聞くと、「野菜とドレッシングのバランスがいい」は食べ物本体をほめていないし、「新鮮でフレッシュ」は同じことを言っている。でもそんなことは全く問題ではない。とにかくその食べ物のイメージに合う言葉が並んでいればOKなのだ。
我々は食レポをマスターした。
止まらないPDCA
ひとしきり実践を終えて、「いや~、食レポできたできた!」とホクホク顔で飲み会に突入しようとしていたところ、1人遅れて参加者がやってきた。
ちょうどいい、我々がマスターした食レポを披露してさしあげよう。
先輩風を吹かせる気まんまんでの食レポ披露だったが、その反応はまさかの「胡散臭い」。
またしても同じ恥を重ねてしまった。先輩風もマニュアルで禁止しておきたい。
そしてまた長い審議に入った。
社会人になってもうすぐ11年になるが、こんなにも「PDCAまわしてるな~」と感じたのは初めてだ。
そしてその結果、「やわらかい」「濃厚」「プリプリ」といった言葉が何をほめているかが曖昧なのでは?という仮説にいたった。
今までレポートしてきたものと違って、餃子は肉・野菜・皮・ニンニクなどいくつかの要素が混ざった食べ物だ。なので、ただ形容詞を並べるだけでは餃子のどの部分のことを言っているのかがボンヤリしてしまい、頭に入ってきにくいのかもしれない。
そんな考察をふまえ、改めて餃子にチャレンジ。
自然と全員から拍手が起こった。餃子のどの部分についてほめているかをはっきりさせることで、今度はスッと頭に入ってきて素晴らしい食レポになった。
隣の個室にいた人は、突然の拍手喝采にこの部屋で何かおめでたい発表があったと思ったかもしれないが、その通りだ。ここに、食レポは10語でできることが証明されたのだ。
【やってみて分かったノウハウ】
・その食べ物のイメージに近い言葉を、食べる前に選んでおく。
・同じ意味の形容詞を重ねてもOK。
・いくつかの要素がある食べ物の場合は、どの部分をほめているのかはっきりさせる。
使われている言葉の分析とマニュアル化、そして実際にやってみてのブラッシュアップによって、思っていた以上にそれらしい食レポができるようになった。
飲み会などでみんなでやってみるときっと盛り上がるので、ぜひ試してみてほしい。
仕事の基本は「標準化」だと聞いたことがある。
特定の人しかできない仕事を誰でもできるようにして、リスクを減らしたり効率化したりすることだ。
今まで食レポはタレントさんにしかできない仕事だったが、今回の「10語で食レポマニュアル」によって我々一般人でも手軽にできるものになった。まさに標準化。食レポの、働き方改革や!