正月に正月らしさをさがすのは難しい
散歩を済ませて数時間、再び中国に行くため国境へ。ベトナム側にも中国側にも観光客がいた。特に商売人とは明らかに違う若いベトナム人観光客がたくさんいて、列を作って中国に旅行に行こうとしていた。
今回見つけた一番正月らしい光景は、両国とも正月だからこそ、国境にいる海外旅行客の多さだった。国境の街でもというべきか、国境の街だからこそというべきか、正月といえば海外旅行なのだ。
「国境の街で年を越すとどうなるだろう」
そんな疑問がふとよぎり、中国とベトナムの国境の街にやってきた。
中国側の街は「河口」、ベトナム側の街は「ラオカイ」。ほぼ同じ場所なのに、河口は中国のよくある光景が広がる一方、ラオカイはベトナムの光景が広がるまるで別世界だ。新年の祝い方は2つの街で違うのだろうか。
「河口」と「ラオカイ」の国境を選んだ理由はいくつかある。
ひとつは時差があるということ。このあたりの東南アジアの国どうしは時差がないが、中国との間には時差がある。
中国と日本の時差は1時間、ベトナムと日本は2時間ある。つまり河口とラオカイで時差が1時間あり、カウントダウンも1時間差があるわけだ。とすると年越し花火も国境をまたいで1時間ずれて打ち上げられるのだろうか。
もう一つの理由は、何度か来たことがある国境なので土地勘がわかって楽ということだ。河口の街にあるクールすぎるカフェを以前記事にしたことがあるがこの店は残念ながら閉店してしまった。
河口に12月30日夜到着。中越国境の間には川が流れていて、中国側は川に沿ってずらーっと建物が並び輝く。その中でも国境から一番近い高層のホテルに宿をとった。
祝日の雰囲気のない大晦日だった。朝食として中国側に住んでいるベトナム人があつまる一角でフォーを食べる。ベトナムの老若男女がフォーを食べベトナムコーヒーを飲んでいるが、決済は人民元である。キャッシュレスはまだない。
荷物を運ぶ自転車は、自転車に見えるが自転車ではない。ハンドルが左側だけ長くのび、車体は鉄でガードされ屈強だ。レバーを押すだけの人力二輪車となっている。魔改造っぷりがなんともエモい。うちに1台ほしい。
中越国境を線路も繋いでいてそこを貨物列車が走っている。ときどき機関車が走る時汽笛を鳴らす。大晦日も正月も変わらない1日だった。
まだ明るいので国境を離れ、タクシーのおじさんいわく、河口で1番人が集まるという体育公園(スポーツ公園)に行く。ちょっとしたハイキングコースがあるが、ごくごくどこにでもありそうな公園である。
丘に登るハイキングコースのようなものがあり、公園もまたベトナム人のグループがいっぱい楽しんでいる。むしろベトナム人しかいない。河口で働くベトナム人と違い、公園で遊ぶベトナム人には人生を背負った感じが見えない。ベトナムから旅行者がやってきて、スポーツ公園で満足するというのか…!
中国人不在の中国の公園でまったりしているうちに夜になって、空高く飛ばす「孔明灯」を飛ばすベトナム人を見るようになった。
買うと紙がもらえ、広げると四角柱の灯篭になる。灯篭の底にあたる蝋に火をつけてしばらくすると、中の空気が温まって熱気球のようにふわっと上がっていく。1つ10元(160円)という電車の初乗り価格の安さで、相応のチープで大衆的な商品だから、気を付けないと紙はすぐに破れてしまう。なので丁寧に慎重に紙を広げて、蝋をセットし空気を温めて飛ばした。ふわっとふわっと。空には幾つも天上に向かう孔明灯が小さくも輝いてた。
中国側の国境ではもっと盛り上がってた。ベトナム人の若者たちがバーで飲んだくれベトナム語で盛り上がり、打ち上げ花火をときどき真上に、どきどき川向こうの母国ベトナムに向かって打ち上げて喜んでいた。
まるで敵の領土に打ち込むかのような彼らだが、川向こうまでは届かないけれど、それでいいのか。
部屋に戻って見下ろすと、中国側だけがベトナム人により盛り上がっていた。日本時間の午前1時、中国は年越しだが何もなく、日本時間の午前2時まで待ったが、川向こうのベトナムも何もなかった。川向こうも国境も花火のひとつをあげたり電飾でキラキラしたりをあげることもなかった。国境の新年はそんなものか、ちょっと拍子抜けした。
元旦。朝から国境まで散歩してみる。まだ朝早かったので人はいなかったが、国境を警備する人の服が2019年からのきまりで緑から紺に変わっていた。この国境は24時間オープンではなく、朝から夜まで決まった時間だけオープンするという。
この日、国境が開くと、ベトナム側からの商売人と思しき人たちが猛ダッシュで走って国境を越えようとやってくる。「福男」を決める境内ダッシュで有名な西宮神社のイベントのようだ。特に中国側で福袋を売ってるわけでなし、単に国境で時間をかけたくないのだろう。
中国側からは、新年だろうと関係なく、体を張ったベトナムの人々が荷物を載せた改造自転車を押していく。また年始ということで、中国人老人グループがゆっくりとベトナムに向かう。
ベトナムから猛ダッシュで国境ラン
僕もベトナムに入国し、ベトナムのラオカイという街に入った。なぜこのタイミングで入国するかというと、簡単に言うとルール上、日本人は両国ともビザという書類なしで入国できるけれど、頻繁に行き来することはできないからだ。そのため滞在最終日の元旦の1日で全部見てみようというわけだ。
たかだか数百メートル違う場所であるだけで、全く街が違う。すべてが違う。何度きても不思議な体験だ。せっかくベトナムに入るのだからと、ラオカイスーパーに向かい、ベトナムコーヒーやベトナムのカップ麺もお土産に買うことにした。中国ではネットが特殊な状況で見られないサイトもあったため、ついでにラオカイの無線LANがあるカフェでコーヒーを飲みながらSNSなどのネットを更新した。
そんな目的をもってベトナム側の街を歩いたら、ベトナム側はちょっと正月気分があることに気づいた。各商店にベトナム国旗がたってた。時々この町にくるけれど、今までなかった。
散歩を済ませて数時間、再び中国に行くため国境へ。ベトナム側にも中国側にも観光客がいた。特に商売人とは明らかに違う若いベトナム人観光客がたくさんいて、列を作って中国に旅行に行こうとしていた。
今回見つけた一番正月らしい光景は、両国とも正月だからこそ、国境にいる海外旅行客の多さだった。国境の街でもというべきか、国境の街だからこそというべきか、正月といえば海外旅行なのだ。
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