特集 2018年11月29日

リピーターが何十回も泊まる宿が山形にある

夜はあったかく楽しくわいわいがやがや

山形市にすごい人気の変わったゲストハウスがあると聞いた。

 名前は「ミンタロハット(Mintaro Hut)」。 ニュージーランドの山の名前だ。

京都の人気の宿ならわかる。山形である。山形は仙台に電車で1時間ちょっとで行けて通勤通学できるほど仙台に近い。蔵王があり冬は仙台よりも雪が見られるとはいえ、便利な仙台が近いのだ。それでもこのゲストハウスに宿に泊まりたくてわざわざ人が来る。なぜなのか。気になって行ってみた。

変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

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謎の「ゆんたく」でリピーターを呼ぶ宿

山形駅。そこから地図アプリを使って向かう。駅前は人が少ない。そこからミンタロハットまでは住宅地と雑居ビルが入り混じる通りを歩いて13分。歩く道沿いにコンビニはなかったけど、駅ビルで山形牛の牛丼を買って、行く途中でなぜか焼き芋屋が2件あって、そこで焼き芋を買って、ミンタロハットまで歩いていく。

地図アプリが指示するとおりに曲がって、細い道に入った住宅地の中にミンタロハットはあった。いまどきの普通の一軒家のような外観だ。

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入口のライトで、ここがその宿だとわかる。

ドアチャイムを鳴らすと、男性が出てきた。「今、オーナーいないですよ」。小嶋さんといい、ここの常連客だという。

「山形ですか。なんもないですね(笑)麺の消費量日本一なんですよ。蕎麦屋にラーメンメニューがあって意外とおいしいんですよ、山形」

「国籍問わず来る。日本中から日本人もくるし、香港人や韓国人や台湾人のヘルパーさん(後述)たちと仲良くなった」

「普通なら一期一会で終わるようないろいろな人たちと、この宿にきてたくさん繋がった」

「ゆんたくのために1週間泊まってるんです」

ゆんたく…?「夜になればわかりますよ(笑)」

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玄関で見たホテル評価。すごい評価が高いようだ
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部屋は4部屋。3部屋がツインベッドで、1部屋がシングルベッドだ。
小嶋さんはシングルベッドの部屋に滞在する。
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猫のなっちゃん。オス。

外観は普通の家だけど、中に吹き抜けがあって暖炉が置かれていたり、ゲスト向けに洗面所とトイレが2つずつ用意されていたりとゲストハウスなデザインとなっている。

また居間には、冷蔵庫を含めてたくさんの食材や飲み物が用意されている。これらは1個100円で、自主的に代金箱に100円を投じるという仕組み。今のご時世、100円ショップの商品も税込み108円なわけで、だいたいが店で買うよりも安く赤字なんだとか。

ガスレンジには鍋が置かれていて、カレーのような何かが入っている。「山形名物、醤油ベースの芋煮ですよ」と小嶋さんはいう。

「山形と宮城で芋煮論争があるんですけどね

「チョコ菓子のきのこたけのこ論争みたいに(笑)」

「芋煮って河原でやるものなんですよ、知ってます?鍋用意して火をつけて囲んでお酒飲むっていう。最近知ったばかりなんですけど、はまりました」

「しょうゆベースの芋煮にカレーを入れてうどんをいれてしめたものが反則的にうまい!」

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必要なものがなんでもありそうな居間
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赤字覚悟の100円コーナー。お菓子や飲料が充実しているから何か買おうとコンビニによらなくてよかった

ところで居間もほとんど英語表記はない。それなのに外国人にも人気のこのゲストハウス、夜が待ち遠しい!

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ゆんたくの夜

夕方になりオーナーの佐藤さんが帰ってきた。とても優しそうな人だ。40代のときに思いきってゲストハウスを建てたという。

ゲストハウス運営の秘訣について聞くと「うーん、ゲストと深く関わるのが大事なのかな」とにこやかに応えてくれる。佐藤さんの思い付きでゲストハウス名物「ゆんたく」をはじめたのだという。そのあと僕が身の上話をしはじめたけど、それをうんうんと聞いている。すごく聞き上手な不思議な感じがする。

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オーナーの佐藤さん。50代と聞くけれど、とても若く見える。

気づけば居間で、佐藤さんとヘルパーの高橋さん(ブンさん)が暖炉に火をくべて、蜂谷さん(ハチさん)が居間で料理の仕込みを行っていた。

ヘルパーさんはオーナーの代わりに業務をこなしていく役だ。だからといってせわしなくすることもなく、皆がゆったりと動く中で、いつの間にか談笑するスペースへと変わっていく。僕もそこに自然と加わることができた。

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ハチさん「ここではおもてなしを学びました。オーナーからはベッドメーキングは教わりましたけど、それくらいで」
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ブンさん「佐藤さんがいて、サポートがいて、そのバランスがいいと思うんです。あと清潔なのがいいですね。大事だと思います」

佐藤さん不在でも宿はヘルパーにより運用される。あくまで佐藤さんがオーナーの宿なので、佐藤さんと同じようにヘルパーさんがご飯を作って皿を洗い、時に宿泊客も共に参加する。リピーターが声をかけ、初めての人が輪に加わり、みながお父さんお母さんのように話をきく。

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近所のスーパーに買い出しへ。山形独自の商品は漬物系に多かった

夜がきた。ゆんたくの時間だ。

仕込んだ料理がつぎつぎに出され、オーナーの佐藤さんも、ヘルパーのブンさんもハチさんも、常連客も、初めての客も、机を囲んでご飯を食べる。

猫のなっちゃんも時に加わる。外国人客がいれば加わるし、地元の人がゆんたくの時間にお邪魔して一緒に談笑することもある。

僕もお酒を一瓶カンパした。そうしてカンパで集まったお酒を飲み比べて談笑する。初めてなのにすうっと入っていける、のんびりとした空間でくつろいだ。

外国人のレビューに「暖かくて人情味があっていい」と高評価のものがあったけれど、なるほどゆんたくを体験すると納得だ。

リピーターのお客さんに聞くと、もう何十回と泊まりに来ているとのこと。すごい常連客だ。それでいて常連客が偉そうにすることもなく、騒がしくなることもなく、ゆったりした談笑の場ができあがっている。

佐藤さんやサポーターのほどよい会話の加減がいいのだという。

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ゆんたくで夜が更ける

オーナーの佐藤さんがいなくなったと思ったら、趣味の合唱を聞いてくれとばかりに地元の合唱仲間を連れて戻ってきて、即席のコンサートがはじまった。

旅行者が集まって夜食べて飲んで談笑するコワーキングスペースのような場所と思っていたが、公民館のような場でもあるらしい。

この日の朝も地元のおばさんらが集まって英会話教室をやっていたとか。もちろん客がそれに参加するのも歓迎なのがこの宿だ。

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突然プチコンサートへと雰囲気は変わる

つながりのないお客さん同士でも、分け隔てなくしっかり親戚のようにフォローしてくれる。そんな空間をオーナーの佐藤さんが作り出した。

佐藤さんはヘルパーさんや常連客に対して「特になにかお願いしていることはなくて、よろしくね。気が付いたらなんかやってくれると嬉しいな」と笑顔で答えてくれた。

雰囲気がいい宿が人をひきつけ、ネットでの評価で高得点を確保し、リピーターを増やし、ヘルパー志望の人がやってきて、カンパ金でまわる。


ゲストハウスのオーナーになり有名人になりたい

佐藤さんに長くゲストハウスをやっていて飽きは来ないのかと聞いた。「いろんな人と出会えるのででまだまだ飽きがこないですね」。簡単に人と人とをつなぐなんてまるでアルファブロガーだ。むしろリアルアルファブロガーだ。

歳をとって友人が減ったりいろいろ飽きたりする人がいる中で、ゲストハウスをやりくりする佐藤さんがすごくうらやましく思えた。

お金はないのでまずは人柄から鍛えたい。

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芋煮うまい
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