麦茶は麦茶。麦茶の個性を大事にしたい

当初は「コーヒーに負けない麦茶を!」と意気込んでいたものの、麦茶の素朴な美味さを知るにつけ、麦茶はは麦茶、コーヒーはコーヒー。みんな違って、みんないい。という金子みすゞのような心境になってきた。麦茶と真剣に向き合い続ければ、なにか悟りが啓けるかもしれない
ただ、濃く煮出した麦茶を牛乳でわった麦茶ラテは本当に美味しかった。興味のある方はぜひやってみていただきたいと思う。
近年、手軽に飲めるペットボトル入りの緑茶やウーロン茶などの出現で、麦茶の「身近な飲み物」としてのポジションが、相対的に落ちてきている感じは否めない。
コンビニの売り場を見てみても麦茶はかなり肩身の狭い状態だ。
しかし、麦茶ってそんなに出来ない子だったかなぁ。 いや、もっと出来る子のはずだ。
麦茶のポテンシャルを最大限に引き出してやりたいと思う。
※2011年2月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
麦茶の潜在性を引き出すにあたり、まず麦茶について考えてみた。 ウィキペディアによると、麦茶は茶葉を使用しないので厳密に言えば「お茶」ではないらしい。さらに麦茶は、カフェインを含まないため、妊婦や幼児の飲み物として最適なのだという。
自らを「お茶」と偽る欺瞞の裏には、妊婦や幼児への優しさが隠されいたのだ。たぶんこの原稿を書くのが1ヶ月ぐらい早ければ伊達直人に例えてたはずだ。
欺瞞に満ちた優しい飲み物・麦茶。あれ、なんかちょっとカッコイイ。
いやいや、しかしながら、麦茶の生活臭は凄まじいものがある。いくら欺瞞とかさからしげな言葉を並べ立てて語ったとしても、麦茶からにじみ出るびんぼうくささは隠しきれない。
そんな麦茶をもうちょっとおしゃれにしてやることは出来ないだろうか?
ところで、ぼくはコーヒーがあまり好きではない。飲めないこともないのだけど、自ら進んで飲むことはあまりない。昨年、コーヒーを飲んだのは2、3回しかない。
代わりに麦茶は浴びるほど飲んだ。 飲んでいて気づいたのだけど、麦茶の匂がコーヒーの匂いに似ているということだ。 味も、数少ないコーヒー体験の記憶に照らし合わせれば、似ているような気がする。 コーヒーも麦茶も同じように焙煎して作るわけだから、味が似ていてもおかしくはないはず。
麦茶は濃く煮出せばコーヒーにそっくりになるのではないだろうか? あの、びんぼうくさい麦茶を、コーヒーそっくりに濃く煮出せば、もうすこしおしゃれでカッコイイ飲み物としてF1層あたりに人気がでてくるのではないだろうか?
麦茶コーヒー(濃く煮出した麦茶)を作るための材料を買いに、スーパーに向かった。
しかし、コーヒーに近い麦茶はどんなものなのか、皆目見当がつかない。 扱いやすいティーパックの麦茶でつくろうかと思ったのだが、せっかくなので、見た目で一番色が濃かった「はだか麦 麦茶」を買った。よく分からないけど、400円ぐらいしたのでたぶん本格的だ。
しかし、コーヒー味に一番近い麦茶の濃度っていくらぐらいだろう? 歴史上、そんなことを考えて麦茶を煮出したのは数えるほどしかいないと思う。 この「はだか麦」は1リットル約30グラムで煮出すべしと書いてある。
まったくの勘で、とりあえず3倍の90グラムぐらいで煮出してみることにした。
沸騰したお湯に、麦茶をザラザラーと一気に投入。
しばらくすると、あたり一面に香ばしい匂いが立ち込めてきた。 これが、驚くことにコーヒーの匂いそのままなのだ。 言葉でどう上手く伝えたらいいのか、悩むところなのだけど、コーヒーを売ってる店でコーヒーを淹れて貰う時の匂い、そう、その時の匂い。要するに、ほぼコーヒーの匂い。予想以上の出来ばえ(匂いは)に、ぼくは勝利を確信したのだけども、横で見ていた妻(わりとコーヒー好き)は「麦茶の匂いしかしない」といってきかない。洒落っ気のないやつだ。今に完成させたら飲ませてギャフンと言わせてやる。
そうこうしているうち、やかんの麦茶が吹きこぼれてしまった。吹きこぼれた汁を見てみると、どうだろう。まさにコーヒーの色。これ、コーヒーだわ! もしかして、これはスゴイ物発明しちゃったんじゃなかろうか? カフェインを含まないコーヒー。麦茶コーヒー。 世の中にあまたある代用コーヒーの頂点を極めることができるかもしれない。まだ味見してないけど。
匂いと色は完璧なコーヒーとなった麦茶コーヒー。味は一体どうなのか?
あ、コーヒーだこれ。 少なくともぼくの舌ではコーヒーと見分けがつかない。横山光輝三国志の登場人物の顔ぐらい見分けがつかない。かなりいける。 さきほどから、このぼくの発明した麦茶コーヒーの匂いを「濃い麦茶の匂い」といってきかない妻に少し味見させてみた。
妻は微妙な顔で「濃い麦茶だとは思うけど、コーヒーとは全然違う」という。 んもう。こいつ、わかってない。コーヒーだと思って飲んでみ? と、もう一度味見させてみると「確かに似てるけど、濃い麦茶だ。コーヒーとは違う」と一歩も譲らない。
わかった、では出るところに出て白黒つけようじゃないか。
というわけで、コーヒー好きの人たちに集まってもらい、コーヒー麦茶とコーヒーを見分けてもらうことにした。
今回、集まってもらったのは、カフェの店長を務める久間さん、コーヒー好きの友人ナガイくん、会場を提供して頂いたコーヒー好きの高橋さんご夫妻だ。
もちろん、集まってもらったこれらの方々は全員、コーヒーを毎日飲んでいる強者だ。相手にとって不足はない。
ではまず、濃く煮出した「麦茶コーヒー」と「普通のコーヒー」を飲み比べて貰う。
どうだろう。 家で煮出した麦茶コーヒーと、コンビニで買ったインスタントコーヒー。見た目では見分けがつかない。 これなら分かるまい。
どちらが麦茶でどちらがコーヒーか。 紙コップに◯印を書いたほうが麦茶コーヒー、×印を書いたほうがインスタントコーヒーなのだが、それぞれを飲んでもらい判定してもらった。 が、結果はご覧のとおり……。
コーヒー好きの舌をごまかすことはできなかった。ぼくの味覚のほうがどうかしていたのだ。家で「とんでもないものを作ってしまった……」などと勝手に興奮してたぼくは一体なんだったのだろう。今考えると噴飯ものである
しかし、麦茶コーヒーの感想を聞いてみると、なかなか面白い事実が浮かび上がってきた。
「思ったより似ている。水がないとどっちがどっちだかわからないかもしれない」(久間さん)
「中学生ならわからないかもしれない」(ナガイくん)
と、味に似ている部分を指摘する感想があった。 やはり似ているのだ。「似ている」という事実は、カフェの店長お墨付きを貰ったと言えるかもしれない。ただ
「香りはやっぱり全然違う」(久間さん)
らしい。
他にも
「(このコーヒーと比べると)麦茶コーヒーの方がうまい」(高橋さん)
「牛乳を入れるとうまいかも」(高橋さん奥様)
と、麦茶コーヒーの意外なうまさを認めてくれる発言が続く。
で、やっぱり、牛乳を入れてみたくなってしまう。だって、ほうじ茶ラテがあるならば、麦茶ラテだってあってもいいはずだ。果たして麦茶ラテの味はどうなのか?
左がカフェオレ、右が麦茶オレ
「ふつうに飲める」(久間さん)
「牛乳をいれるとコーヒーに近づいたかも」(ナガイくん)
「ちょっと美味しい」(高橋さん奥様)
など、評価は上々だ。
さらに
「大資本が本気を出して売れば売れるかも」(ナガイくん)
「可能性はありそう」(久間さん)
「トクホで出せば売れるかも」(高橋さん奥様)
と、美味しさが意外だったのか、感想の規模がだんだんふくらんできて、商品化のの検討まで始まるほど評判はよかった。
さて、麦茶コーヒーを作るくだりで一瞬ゼラチンの箱が写っていたことを思い出していただきたい。
実は、麦茶コーヒーを作るにあたって、麦茶コーヒーゼリーも一緒に作っておいたのだ。
麦茶ゼリーは、コーヒーを、濃く煮出した麦茶に変えただけで通常のコーヒーゼリーのレシピ通りに作った。もちろん砂糖入りだ。念のため、比較用に普通のコーヒーゼリーも作っておいた。
結果から言うと
「美味い!」(高橋さん)
「鼻に抜けると麦茶の香りがするが、ちょっとうれしい美味しさ」(久間さん)
など、かなり好評だった。比較用に作ったコーヒーゼリーは、インスタントコーヒーの質が悪かったこともあり、麦茶ゼリーの美味さが際立つという皮肉な結果になってしまった。 そのへんで売ってる適当なインスタントコーヒーよりも、濃く煮出した麦茶の方が美味いという、全然似てない森進一のモノマネが逆に受けるみたいな結果になってしまった。
以上、ぼくが作った「濃く煮出した麦茶」に関する感想をまとめてみると。
ということがわかった。
なんだか「美味い」と評価されるだけですこし嬉しくなってくる。麦茶はそのままでいいんだ。もう、コーヒーと張り合う必要はない。ありのままの麦茶でいればいい。 いつの間にか麦茶にかなりの思い入れを抱いている自分に気づいた。多分今なら麦茶で自己啓発本がかけそうなくらいの心境だ。
ところで、今回、わざわざ高橋さんのお宅で試飲会をしたのは理由がある。それは高橋さん所有のエスプレッソマシンで麦茶を煮出してみるためだ。
濃く煮出した麦茶がかなり美味いのであれば、エスプレッソした麦茶だって美味いはず……。
さっそくエスプレッソマシンで麦茶をエスプレッソしてみた……。
エスプレッソマシンで麦茶をエスプレッソするにあたり、どの程度麦茶を挽けばいいか分からなかったため、とりあえず、細かく挽いてみた。細かく挽いたほうがよく煮汁が出るだろうという思いからだ。
しかし、いざスイッチを入れてみても、本来なら煮汁が出るべき管から汁が出てこない。 どうやら粒が細かすぎると麦茶は蒸気を通さなくなってしまうらしい。無骨な外観に似合わず意外と繊細なやつだエスプレッソマシン。
仕方がないので、粗めに挽いた麦茶を装着し、再度エスプレッソしてみると……。出てきたのがこれだ。
これ、ただの薄い麦茶……んー、もうちょっと濃い目の麦茶は出ないのか……。 麦茶の挽き具合をさらに粗くして、粒が見えるぐらいにしてみる。
試行錯誤のすえ、なんとかエスプレッソ麦茶がでてくれた。ジョロジョロっと麦茶が出たときは、ちょっと歓声さえあがった。「うわークレマ(泡)も立ってるー!」という。
一見、クレマも立ってて、見た目だけはコーヒーにそっくりなのだけど、香りがちょっと弱い……。大丈夫かこれ?
味見をした高橋さんは、開口一番「新しい飲み物だ!」と言った。ただ
「腰がない」(久間さん)
「すっきりしすぎ」(高橋さん奥様)
「コーヒーを人間だとすると、麦茶エスプレッソはマネキン人形」(ナガイくん)
というように少し味が淡白らしい。
エスプレッソマシンのスチームを使って、麦茶ラッテも作ってみたい。
麦茶にミルクを追加した場合の美味さは、先程の濃い麦茶ラテで実証済みであるけれど、エスプレッソマシンで煮出した麦茶に加えると、どのような味になるだろうか?
味見した人たちの感想は
「アジアっぽい味」(高橋さん)
「女子ウケしそう」(ナガイくん)
「アンコと合うかも」(久間さん)
「でも美味しい」(高橋さん奥様)
と、その味から、なぜか和風のなにかを感じるようだった。 ただ
「香りが弱い」(久間さん)、
「メインではない美味さ」(ナガイくん)
など、美味しいけれどもいささかパンチの弱い、ひな壇の真ん中へんに座っている芸人みたいな評価となってしまった。
当初は「コーヒーに負けない麦茶を!」と意気込んでいたものの、麦茶の素朴な美味さを知るにつけ、麦茶はは麦茶、コーヒーはコーヒー。みんな違って、みんないい。という金子みすゞのような心境になってきた。麦茶と真剣に向き合い続ければ、なにか悟りが啓けるかもしれない
ただ、濃く煮出した麦茶を牛乳でわった麦茶ラテは本当に美味しかった。興味のある方はぜひやってみていただきたいと思う。
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