田熊スタジオ

会場の一番奥は田熊隆樹講師の出題する作品を集めた場所となっていた。田熊先生は一級建築士で、早稲田大学で講師を務めている。
しかし重要なのは田熊隆樹という名前である。ぼくもデイリーポータルZで早稲田の設計演習Aを取り上げるようになってからなんと17年になる。かつての学生はすでに立派な社会人になっており、そのなかには建築家になって早稲田で講師をするような人もいるわけである。
2011年の記事「建築かもしれない展に行ってきた」より
かつての記事に「それに対する1年生の田熊さんの回答におおいに共感した」と書いてある。
14年前に設計演習Aで課題に答えていた1年生の田熊さんが、いま早稲田で出題をしているのである。感慨深い・・。なお当時の問題を出題していた石川初先生はいま慶應にいる。中谷先生は当時からずっと担当だ。ありがとう中谷先生。
名建築の腰掛け

そんな田熊先生の出題の一つは「名建築の腰掛け」だ。
『名建築を腰掛け(椅子、スツール)化してください。
・その建築の特徴を捉えたもの、椅子としての完成度の高いものを期待します
・人が一人座っても壊れないものとしてください』
この作品で評価が高かったのはこの「投入堂」だという。
『投入堂』平向優壮
「三徳山三佛寺の投入堂をモチーフに、傾斜地の上に平らな床を作るという要素を抽出し、高低差のある場所に立てられる椅子を作った。」
とのこと。
投入堂
上の写真は当サイトの「根っこや岩をよじ登って見に行く崖のお堂」という記事のものだ。手前の柱を見ればわかるが、崖の上に長さの違う柱を立てることで水平な床をつくっている。

本作品はその点を応用し、どんな凸凹な床にも適合する椅子とした。

『通し柱に下から楔を差し込むことで4本の脚の長さをそれぞれ変えられるようにした』
とのこと。傑作だ。いますぐこれを持って外に座りたい。
大学一年生がつくる観察日記

最後は中谷先生の日記課題だ。
『成熟した知的地球人として、11日以上の観察日記をつけなさい
・継続したテーマ、対象を自分で決めて、開始したら必ず毎日それについて記録してください』
印象に残ったのはこの作品だった。
『父さんのつくる夕飯とスプーン』服部優亜
もうそのまま出版された絵本かと思うような表紙である。うますぎる。

『父の愛情がこもった夕飯は、ほこりが入らないようにフードカバーに入れられて毎日私の帰りを待ってくれる』

『5限まで授業があったため、とても疲れている顔をしているはずが、スプーンのもつ湾曲した面に沿って口角が上がったように反射して見える。』

『大きなたまごやきと明太おにぎりと4つの餃子があった。どれも私の大好物であるため、つい笑みがこぼれてスプーンに映った。』

『カレーがあった。(中略)りんごが隠し味なのかと思い冷蔵庫を開けてみるとそこにはナシがあった。秋になると秋のフルーツを入れているのかと驚いた。』

『美味しく食べていたものに対し、改めて見つめ直す時間をつくることで父が夕食を作ってくれることに感謝する必要があると強く思った。』
このテーマを選んでいる時点で十分感謝していることが伝わったし、途中から泣きそうであったよ。ごはんを作ってくれる人がいるのは当たり前じゃないんだなと思った。
発想を支える素養
これまで17年も見てきたことにまず驚いた。毎回発想がすごいなとは思っていたが、今回はそれだけじゃなくて素養も確かなんだという当たり前のことにようやく気がついた。思いついたとして、それを表現するだけの技術をちゃんと持っている。
あとは、今回スタッフである学生のご両親が来ていて、ご子息の作品の写真を撮っている姿を見かけた。お父さんも建築の設計をしていると言っていた。そんなの嬉しいに決まってるよなあ。息子もいま高2なので、どうなるかなあと思っている。
取材協力:
早稲田大学創造理工学部建築学科
設計演習A展2025「暁展」
https://gyoten-2025.com/
(展示は終了しています)
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編集部からのみどころ
三土さんから毎年恒例のレポートが届きました。今回特に秀作が多くて面白かった気がします!
個人的なお気に入りは、コンセプトも面白いうえに普通に工作としての完成度も高い『土の見えない時代の縄文土器』、ウィットが効いてるマリーナベイサンズのバナナ置き、そして機構的にスゲーと思った『仕掛けだけ』です。
過去に取材した学生が今では出題側になってる展開もアツい!!(石川)