何のことかよくわからない石碑を調べると面白い
果たして、草刈って競技化して面白いものだったのかどうか。今でも疑問は残りますが、なんにせよ、6年間は全国大会が行われたのは確かです。
マイナーなというか、あまり日の当たらない事象に注目してイベント化する気持ちめちゃくちゃわかるんですが、その情熱を持ち続けるというのは、なかなかむつかしいですね。
横尾はその著書の中で「草刈突撃隊の編成」だとか「金肥一作反当二円以上使う農民は死刑に処す」というスローガンを掲げていますが、冗談なのか本気なのかさっぱりわかりません。
さらに横尾は、①麦食の実行 ②全日本草刈選手権大会の開催をすれば、農村が数年で更生するだろうと言っています。この二つのうち麦食はわかりますが、全日本草刈選手権大会の開催は突飛すぎてちょっとついていけなくなります。
横尾が言うには、まず全国の各町村において、6月頃から草刈選手権大会を開催し、7月下旬頃には府県選手権大会、そして最後(8月頃?)に各府県の選手権者が明治神宮に集まって、東京近郊の適当の地で全日本草刈選手権大会を挙行する。この選手権大会を実行すれば日本に草刈時代が到来し、堆肥中心の時代となり、金肥1億円が節約できる……と構想します。
さらに、この草刈選手権大会は男子ばかりではなく女子選手権大会も作るべきで、ややもすれば“都会フアン化” (都会に憧れる?)せんとする現今の農村女子の鍛錬上極めて有効適切である。と述べます。どうなんでしょうか?
とまあ、今みるとかなりの暴論のような気もしますが、当時はこういったことがマジで考えられていたわけです。
この『如何にして農村は更生するか』という本は、1937(昭和12)年に発行されています。そして、第一回の全日本草刈選手権大会は1938(昭和13)年に行われています。思いつてから実行に移すまでの速さは見習いたいところです。
横尾が戦後に著した『わが半生を顧みて』(1958)という本では、全日本草刈選手権大会を開催するまでの経緯が詳しく述べられています。
まず、横尾は全日本草刈選手権大会を開催するにあたって、マスコミを動かすのが一番だということで朝日新聞に話を持っていきます。おそらく頭にあったのは中等学校野球(高校野球)でしょう。草刈選手権大会の地方予選大会から全国大会の流れも、完全に高校野球を意識したもののような気がします。
朝日新聞は、中等学校野球で手一杯だけど、意義は感じるということで、大会長に朝日新聞副社長だった貴族院議員の下村宏を推薦します。(なお、この下村宏は、後の優生保護法の前身となる国民優生法を推進したことで知られる)
マスコミの協力を取り付けた横尾は省線電車で通る荒川放水路の堤防が草刈にピッタリだと気づき、全国大会をここで行うこととし、陸軍の協力も得て第一回を開催します。
そもそも、今まで草刈というものを誰も競技として行ったことがないため、最初は手探り状態だった様子がうかがえます。
競技点は、競技時間、草刈の状況、草刈の貫量(量)を審判官が採点して点数の多いものから1等、2等、3等を決め、賞品は、1等が役牛(農作業で使う牛)、2等が堆肥舎(の建設費)、3等が屋外堆肥盤(の建設費)となっています。
草刈選手権大会がどんなふうに行われたのか、まとまった記録がないのでよくわからないのですが、第1回は出場選手48名で、優勝は宮城県宮沢村の壮年選手、遠藤榮造君(32)で、50分間の草刈量112貫200匁(420キログラム)を記録し、牛一頭と優勝旗を授与されています。
なお、第二回の大会から、草刈だけでなく堆肥の積み重ね方などを競う全日本堆肥選手権大会も同時に開催していたようです。
横尾の熱意によって開催にこぎつけた全日本草刈選手権大会ですが、時代は太平洋戦争に突入します。陸軍の軍馬のための草刈という名目もあったため、戦争中も草刈大会は行われ、1944(昭和19)年(終戦の前年)まで続きますが、いよいよ戦局が危ないということでこの年が最後となりました。
戦後、全日本草刈選手権大会は復活することはありませんでしたが、1958(昭和33)年にその記念の石碑が建てられました。それが、この石碑というわけです。
果たして、草刈って競技化して面白いものだったのかどうか。今でも疑問は残りますが、なんにせよ、6年間は全国大会が行われたのは確かです。
マイナーなというか、あまり日の当たらない事象に注目してイベント化する気持ちめちゃくちゃわかるんですが、その情熱を持ち続けるというのは、なかなかむつかしいですね。
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