特集 2021年7月8日

新しい携帯ゲーム機「風呂」

オリジナルのゲーム機を作りました

たまごっち、デジモン、ポケットピカチュウなどなど、専用のゲームで遊べる小型の携帯ゲーム機に魅了される10代だった。

あれから20余年。いまなら、あの雰囲気のゲーム機を自分で作ることもできるのではないか。作ってみることにした。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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携帯ゲーム機に惹かれる

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たまたま手元に残っていた携帯ゲーム機(ちょっと種類が偏っているが)。いずれも「手にすっぽり収まるサイズ」「正方形に近い液晶」「各種ボタン」という構成が共通している

90年代の後半ごろ、こういった携帯ゲーム機がブームになって各社からいろいろと発売されていた。その頃はもちろんスマホなんてない時代。気軽に持ち運んでちょっとした時間に遊べる携帯ゲーム機は、当時学生だった私にとっても貴重な娯楽のひとつであった。

特に1998年に任天堂から発売された「ポケットピカチュウ」は衝撃的だった。ただのゲーム機ではなく、歩数計と連動してピカチュウを育成するという、リアルとゲームの融合が図られていたのだ。

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いまでも大好きで大事にしているゲーム機「ポケットピカチュウ」。デザインも最高

ポケットピカチュウの良さを語っていたら終わらなくなるので別の機会に譲るとして……それ以来、「こんなゲーム機、自分も作りて~」とずっと思いながら生きてきた(任天堂の入社試験も受けた)。

早いもので、あれから20余年である。ふと気が付けば、自作できる環境がそろっていることに気付いてしまった。知識面はもちろん重要だが、それ以上に簡単にモノを作るためのツール(Arduinoやその周辺パーツ、3Dプリンタ、レーザーカッターなど)が登場したことが大きい。20年の間に、世界は確実により良い方向へと進化している。

あれ? いまなら普通に作れるんじゃないかゲーム機。ならば作ってみるしかないだろう。

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ゲームをどうするか

ゲーム機はあくまで器である。そこにゲームという魂が入ってはじめて、携帯ゲーム機としての命が宿る。ゲーム選びは重要だ。

ところで、携帯ゲーム機が流行っていた頃の中高生の私は何をしていたかというと、ゲームを作っていた。わりとゲームにまみれた人生である。

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1997年に作った「肉ジャンプ」というゲーム。この記事を読んでくれている人のうち、知ってるという方が1~2名いるかも、というくらいの微妙な知名度です

中学生の頃、親にねだって「Visual Basic 5.0」という開発ソフトを買ってもらい、それを使ったゲーム作りにどっぷりハマっていた。いまだと確実に「はじめてゲームプログラミング」にハマっていただろう。

作ったゲームの発表は自分のホームページやVector(PCソフトのダウンロードサイト)で行うのだが、ある程度知られるようなると「雑誌掲載」という名誉が与えられた。

90年代はネット回線も遅く、接続時間に応じて料金がかかる従量課金が一般的。なので今みたいに何でもネットからダウンロードできるような状況ではなくて、PCソフトの入手元といえば、もっぱら「雑誌の付録CD-ROM」だったのだ。

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これは「テレビ殴り」という、テレビを殴って破壊するゲーム

多くの付録CD-ROMは、個人開発の「フリゲ」(フリーゲーム)がいっぱい入っているという夢のようなものであった。その末席に、私の作ったゲームも収録されていたのだ。当時は毎月のようにどこかの雑誌に載っていたので、自分で買わなくても見本誌だけでずっと楽しめるというフィーバー状態に突入していた(基本的に掲載料はなく、見本誌+雑誌によってはオリジナルグッズがもらえた)。

インターネット老人会的なネタではあまり話題に上らない界隈なのだけど、当時のフリゲの雰囲気に懐かしさを覚える方もいっぱいいるであろう。私もその一人である。

そんな20世紀の出来事を思い起こしながら、なにか携帯ゲームにできるネタはないかなぁと考えていたとき、ひとつのゲームに行き当たった。

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2000年に作ったゲーム「風呂」である
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「風呂」というゲームのこと

知らない方は「何のこっちゃ」と思われるかもしれないが、このゲームは私の人生を変えたといっても過言ではないので、ちょっと話を聞いてはくれまいか。

「風呂」は、実際の風呂をシミュレートしたゲームである。できるのは「水を入れる」、「湯を沸かす」という2動作だけ。それだけなのだが、水を入れるのに20分くらいかかるし、湯を沸かすにも20分くらいかかる。つまり、ゲームなのに実際に風呂を入れるのと同じくらいの時間がかかるという、かなり面倒くさいゲーム(今でいう放置ゲーの一種)なのである。

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久しぶりに起動してみたら、Windows10でもちゃんと動いた。動作させるには「VB6ランタイム」という、この界隈の方々にはお馴染みのライブラリが必要になる

ありがたいことに、このゲームは当時いろんなPC誌に掲載され(ビックリである)、果ては「おそろしく退屈なゲーム」の実例として、『ゲーミフィケーション ―<ゲーム>がビジネスを変える』という真面目なビジネス書でも紹介していただいた。また「風呂」の作者をインタビューしたいという奇特な話もいただいたことがあり、そのときにやりとりしたフリーゲームマニアのインタビュアがいまの妻です。人生なにが起こるか分かったもんじゃないですね。

そんな思い入れのあるゲーム「風呂」なので、これを何かに展開できないかとはずっと考えていた(かつてiアプリに移植したりもしたが、いまとなっては歴史の彼方である)。

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なかでも温めていたのが、蛇口を専用コントローラにできないかというアイデア

実際に蛇口を購入していじっていたものの、加工が難しくセンサの取り付けができずに放置していた。

――そんないろんな背景が重なりあった結果、「あ、『風呂』の携帯ゲーム機を作ればいいのか!」と思い至ったのである。

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蛇口型コントローラのあるゲーム機

ポケットピカチュウは、歩数計をゲームに取り込んだ点が斬新だった。あんな感じで、実世界のインターフェースとゲームが融合した形にあこがれている。

そこで風呂の蛇口である。

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ロータリーエンコーダという、回転が検知できるパーツを使う
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それに3Dプリントしたパーツを付けると、あっという間に蛇口の完成だ

なにも本物の蛇口を使わなくとも、蛇口型のコントローラは作ることができるのだ。このアイデアが、自分の考えていた「新しい携帯ゲーム機を作りたい」という目標と奇跡的に合致し、思いついてから2日でゲーム機は形になっていた。

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これができ上がった携帯ゲーム機「風呂」だ!
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往年の携帯ゲーム機を参考にしたインターフェース。128x128の正方形ディスプレイがぴったりな雰囲気だ
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制御はProMicroというマイコンボード一枚でおこなっている。裏面はこれだけのシンプル設計
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携帯ゲーム機「風呂」の紹介

「風呂」はどんなゲーム機なのか。紹介動画を作ったので、こちらをご覧いただきたい。

 

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起動すると風呂の達人に蛇口をひねるよう言われるので、それに従おう
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蛇口をまわして水を出す。ひねる回数に合わせて水量が変わるようになっている
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このGIFは早回しにしているが、実際は徐々に徐々に水が入っていく。ほどよい水量になるには20分ほどかかるので、ひたすら待つ……!
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適量は風呂の達人がアドバイスしてくれるので、それに従って蛇口を閉めよう。蛇口型コントローラの動きに連動して、ゲーム画面上の水が止まる
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次は湯沸かし。赤いボタンを押すことで湯沸かし器のパワーを調整できる。最初の水が0℃なのは突っ込んではいけない
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ここでも水が温まって適温になるまで、ひたすら待つ、待つ、待つ……!
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40℃程度になったところで湯沸かし器を止めれば、風呂の完成だ。いい感じの風呂が入れられると、風呂の達人が褒めてくれる
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最後に評点が付けられてゲームクリア。これはかなりの高スコア!

とまあ、そういうゲームである。そこはかとなく面白いと思っていただけたなら幸いです。

ちなみに、風呂でありがちなのは「止めるのを忘れて水(湯)があふれた」というパターンだろう。最近では自動お湯張り機能があるので、こうしたうっかりも絶滅危惧種になりつつあるかもしれないが、その辺もゲーム「風呂」ではシミュレートしている。

時間がかかるのでつい放置してしまう
 ↓
ゲームしているのを忘れて、気が付けば水が溢れていた

というシチュエーションだ。これが現実とゲームの間で妙にマッチしていて、風呂という題材のゲーム性の高さを実感するのである。

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遊んでもら……えない!

なにか作ったら、他の人に遊んでもらって反応を見るのが定番だ。しかしソフトウェアと違って、この携帯ゲーム機は配ることができない。遊んでもらうことができない。

おまけにゲームと言ってもただ待つだけなので、遊んでもらったとしても何十分も無言の時間が続くだけである。

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なので自分で遊んで堪能しました。普通にイベントが開けるようになったら、展示していろんな人に遊んでもらいたい

20年ぶりの再会

このゲーム機をTwitterに投稿したところ、予想以上に反響があった。

それがキッカケで、20年以上前に自分のサイトで相互リンク(そういうネット文化があったのです)していた方と再会することができた。他にも「昔遊んでました」というコメントもいくつかもらって、こんなSNSの良いところを煮詰めたような出来事が起こるんだな~と感動してしまった。

「風呂」は何だかんだ、自分の人生には欠かすことができない重要なパーツになってしまっている。

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