有楽名店街の閉鎖後、Towersさんに改めて会う
それから一ヶ月ほどした後、改めてTowersさんにお会いし、有楽名店街の最後の様子についてお話を伺った。と、その前に有楽名店街の跡地を訪ねてみると、すでに通路は閉鎖されていた。金網の隙間から見えるあの通りは変わらぬ様子で、不思議な気持ちがした。
近所のお店で乾杯をしつつ、お話を聞いた。
――最終日にちらっとお会いしましたけど、あの日はどんな様子でしたか?
この10か月間、昔の常連さんとかママさんとかマスターから「昔は肩がぶつかるほど賑わってたんだよ」みたいにたくさん聞かされてきましたけど、でも全然想像つかないじゃないですか。それが、一番最後、通りの真ん中あたりだけですけど、当時の姿を疑似体験できたというか、人が店からはみ出して、外にテーブル出して椅子だしてみたいな。「昔はああいう感じやったんやな」っていうのを最後に見られたのはよかったです。戦後の神戸を支えてきた場所がなくなってしまうのは寂しいですけど。
――私が行ったのは夕方頃でしたけどあれから夜にかけて盛り上がったんでしょうね。あの日は近くにホテルをとって最後までいたんですよね?
そうです。最後の日は、23時ぐらいまで「光」さんにいたんですよ。最近行ってなかったんですけど、常連さんで満席でした。
そこで飲んでいたら「ペペ」さんから「おいでー」って言われて、「ペペ」さんの最後を見届けて帰りました。終電が終わって、24時10分か20分ぐらいにお店の鍵を閉めて、元町駅のシャッターが閉まるのと一緒に出ました。
――本当に最後の最後まで。
その後は「ペペ」のママさんが「なんか終わったっていう感じがしないから一緒に飲もうよ」みたいな感じになって、高架下のお店で何人かで2時ぐらいまで飲んで帰りました。
――ママはどんな話をされてましたか?
寂しいという気持ちが3割で、やり切ったというのが7割って言ってたんで、踏ん切りがついたみたいです。84歳まで働かれていたわけですからね。
――お疲れ様どころじゃないですよね。このタイミングで営業を終えずに有楽名店街から移転したお店もあるんですよね?
「りさ」さんはもう別の場所でオープンしてます。まだ行けてないんですけどね。
――「よっちゃん」は残念ながらお怪我をされたとか。
残念でしたね。「閉まってる」っていうのが常連さんからLINEが来て知って。最終日に梅干しを口に含んでゆで卵を食べたかったんですけどね。
Towersさんがこれからしたいこと
――あの日はたくさんお店をめぐったんですか?
営業しているお店には全部行きました。「八亀」さんで「ペペ」のママさんとコーヒーを飲んで、その後「阪神理容」で髪を切って(笑)
――ははは。改めて髪も切って、Towersさんはどこのお店でもみんなに親しまれていらして、もう普通に常連さんという感じですよね。
うーん、有楽名店街のみなさんも、閉鎖が前から決まってたんで、そのタイミングで記念誌みたいなものを作りたいっていう話にはなっていたらしいんですよ。でもお金もかかるし、やり方も分からないしというので、そこにポッと出の僕が「どうもー」って現れたので(笑)ちょうどお役に立てたところはあったかもしれないです。
――ははは。喜ばれたんですね。『地下街への招待』もそうですけど、お店の方のお話をすごくよく記憶して、しっかり記録されていますよね。
若輩者だからこそ色々と聞かせてもらえたっていうのはあったかもしれません。常連さんからも「お前の歌う『柳ヶ瀬ブルース』は全然よくない!人生経験が足りんからや!」って言われたり。「すみません!」って(笑)
――そういう風に言いやすいというのはTowersさんのお人柄だと思います。しかも実際にお店にかなり通われて。
でも僕なんて一年も通ってないですからね。昔からのご常連さんはすごいですよ。
――これからどうしますか?でもまだまだ未知の地下街が日本にありそうですよ。
いっぱいあると思います。でも基本的には看板とか矢印を目がけていたので。
――そうかそうか。地下街だからいいというわけではないし。
でも、最初は看板や矢印を追い求めて行ってたんですけど、実際にお店に入るようになってからは、あんまりそこは関係なくなってきましたね。
――お店で人と会ってお話を聞かせてもらうのもすごくありがたいですよね。
でもお話を聞かせてもらって、それを書くのってすごく難しいんだなと「阪神理容」さんのインタビューをして思ったりもしましたね。書くって難しいなって
――noteに書いているTowersさんのインタビュー記事、すごくいいです。これからも続けて欲しいです。
せっかくみなさんが色々話してくれたのにそれを自分のものだけにしておくのはもったいないとは思うので、有楽名店街のことはなんらかの形で書こうとは思っています。
――楽しみにしています!私もそうなんですけど古い場所やお店が好きだから、だんだん無くなってしまうばかりですよね。焦ったって仕方ないんですけど。
行きたい場所の選択肢が少なくなるというのが純粋に寂しいですね。いつか旅行したら寄ろうと思っていたところがどんどんなくなって。常連さんがいてお店との相互関係ができあがっているのは、たゆまぬ努力があるからこそで、だからいいお店なのは確かだし、雰囲気も好きっていう。
――うんうん。
決して新しいお店が嫌なんじゃなくて、新しい店と古い店が隣り合ってたら、古いお店の方に行けるうちに行っておこうと思っちゃうんですよね。それで何回も悔しい思いをしてきてるんで(笑)旅先では絶対無理しますもん。お腹いっぱいでも行きます!「次はないぞ」と思っておかないと。
――これからめぐりたいと思っている場所はありますか?
「ポートピア’81(1981年に神戸で開催された博覧会)」の時に作られた花壇があるんですけど、それに関するZINEを制作しています。
――花壇……!それは造形が特殊なんですか?
特殊です。一目見てわかるんです。博覧会の終了後にそれがあちこちに寄贈されて、今も残ってるんですよ。
――なるほど、神戸のあちこちに点在してるんだ。何か所ぐらいめぐったんですか?
30か所、40か所ぐらいで、トータルで270個ぐらいです。一か所に何個もあるんで。
――270個も。それは結構コンプリートに近いんですか?
ははははは。それが、1215個あるんですよ。
――ははは!まだまだあるなー!
この近くにもあります。よかったら帰りに見ていきますか?
――はい!ぜひ。
Towersさんの案内で「ポートピア’81」の遺構である花壇を見て、その日は解散となった。
と、Towersさんやお店の方のおかげで、少し遠い距離からではあったが、有楽名店街の魅力を垣間見ることができて、楽しい日々だった。
Towersさんは有楽名店街について、ご自身のnoteにすごく丁寧な記事を書かれている。あの場所について知るには本当はそれを読むのが一番である。
Towersさんの撮影した有楽名店街の写真もあわせて掲載されているので、「有楽名店街、昔行ったなー!」とか、「え!あそこなくなったの!?気になってた!」という方にはぜひ読んでいただきたい!
Towersさんのnote
https://note.com/towers1961101