特集 2023年11月15日

日本最古級の地下街「有楽名店街」の最後を見届けた人・Towersさんに色々聞く

有楽名店街の「よっちゃん」で飲む

「よっちゃん」は、ママの伊藤よし子さんが一人で切り盛りするスナックだ。6~7人が入ると満席という小さな店である。瓶ビールを飲み、落ち着いたところで少しだけお店のことを聞いた。

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気さくに迎えてくれた「よっちゃん」のママ・伊藤よし子さん

――ここは何年やってるんですか?

30年ぐらいかな。おぼえてないけどな(笑)

――この場所でお店を始めたのには理由があったんですか?

知り合いがここでやっててん、その紹介でね。その前は大阪にも住んでたけどな。中百舌鳥の方、向こうで30年やって、こっちで30年。昔は賑やかやったよ。

――昔は店の外にも椅子を出すぐらいだったと聞きました。

そう。今はいらんから外に出しとんねん(笑)24時まで人いっぱいやった。道いっぱいや。ぞろぞろぞろや。24時までな。

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なんとも絵になる「よっちゃん」の棚

――あちこちから人が集まったんですね。

昔は県庁からは降りてくるし、港に船が着きよったからな。船会社からもざーっと人が降りてきて、ここで飲んで大騒ぎしてな。40人くらい来て、あちこちの店に流れるんや。また戻ってきたりな。楽しかったな。勉強もさしてもらった。私、若い時は借金の保証人でえらい目あっとるからな。必死のパッチでやってきた。絶対ハンコは押したらあかんで!そういう経験をしてるからな。絶対に保証人にはならないこと。絶対にいかん。

――「保証人にはならない」と。

ここはな、冬はぬくいしな、暖房いらないからな。そのかわり夏はあかん。冷房なしでは蒸し風呂や。

――今年の夏は特に暑過ぎますね。お店の定休日はあるんですか?

今は休んでない。もう終わりが近いからな。悔いなくな。毎日23時ぐらいまでやな。ここをやめたらゆっくりはできるけど、体がだめになるな。体がそうなってるからな。まずは親のお墓参りいこうと思ってねん。四国の香川県。「ありがとうございました」ゆうてな、お礼参りやな。兄弟が田舎におるから、一緒に温泉でも行ってな。そういう予定をな。

――今のお住まいはお近くなんですか?

遠いよ。ここから家まで2時間かかる。駅から自転車で40分かかる(笑)

――自転車で40分ですか!?

暑かろうが、寒かろうが。日中は暑いよ。焼け放題や。それでも、ここ好きやからな。なんでも好きになるまで頑張らないと。そこまで頑張らなんだらあかん。なんでも一緒やと思うで。もうすぐ終わりやけどな。今はまだ実感としてはないけど、その日が来たら泣き崩れると思うで。

――ずっとお一人でお店をやってるんですか?

そう。最初はな、心細いゆうもんじゃないな。どなたもお客さん知らないもん。どなたがどなたや、西も東もわからん状態やから。全然この辺もまったく知らんからな。でもトータルしたら楽しかったな。みんなに支えられて、協力していただいてな。家を飛び出してきたからな。若い時はそんだけ勇気があるんや。親の気持ちになったらな、心配で寝られへんかったやろな。連絡もせえへんし、どこにおるやもわからん。無茶苦茶や。悪いことしたなと思うわ。親に背いて。その分、苦労したけどな。

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Towersさんが大好きだという村下孝蔵の「初恋」を歌ってくれた。めちゃくちゃいい声だった

「よっちゃん」はおつまみとしてゆで卵と梅干しが出るのが決まりだそうで、Towersさんいわく「この梅干しを口に含んだ状態でゆで卵を食べるとめっちゃ美味しいんですよ(笑)最近それに気づいて」とのこと。やってみたら本当に美味しかった。

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梅干しとゆで卵を合わせるのがTowersさんスタイル
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Towersさんと伊藤よし子さんのおかげで楽しい夜だった
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それから一ヶ月後に再びTowersさんと

前回の取材から1か月ほど経った。私たちが「よっちゃん」へ行った時、一人いらしたご常連さんが、近くにある焼肉店「味道園」をやっている方だと言っていた。なのでTowersさんとそのお店に行ってみることにした。

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元町の焼肉店「味道園」でTowersさんの近況を聞く
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今日もよろしくお願いします

――あっという間に1か月経ってしまいましたけど、その後の有楽名店街はどうですか?

圧倒的に写真を撮る人が増えました。若い人が「ここ終わるらしいよー」って。でもお店に入る人はそんなにいないみたいですね。僕も本を書くためというのがあったから入れましたけど、いきなりあのドアを開ける勇気はなかなか出なかったです。値段もよくわからないし。

――たしかに、どこも常連さんの憩いの場という感じですもんね。Towersさんは今まで有楽名店街のお店にどれぐらいいきましたか?

100回は行ってないけど、70か80ぐらいは……。全店一回ずつ行ったとしてもすぐ10、20になるんで、一日に1軒か、行っても2軒かですけどね。

――それだけ通っていて、色々思い出がありますか?

そうですね……。覚えてるのが「浜の人らにとってここは一時辛いことを忘れられる、いろんな人を吸収できる場所だったんよと、これを伝えていきなさいよ」って、それを「光」っていうお店の常連さんに言われて。伝えていきなさいかーって。

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「味道園」の焼肉、めちゃくちゃ美味しかったです

――それは伝える義務がありますね。Towersさんが通い出してから閉めてしまったお店もあったんですか?

東口の入り口すぐのところにあった「瑞穂」さんはやめました。でもそこだけですね。僕、「瑞穂」さんの最後の客だったんですよ。最終日の最後のお客さんで、電気が消えるのも見届けました。あそこはたしか、20数年ぐらいやってたんだと思います。最後の方はお皿ももう家に持って帰っていて、紙皿で簡易的にやっていて。「昔はカラオケ好きな人がわーっと来てた時期もあったけど、それがコロナで歌えんくなって、そういう人が来なくなってしまった」と聞きましたね。ちょっとずつ人が減っていくというのはなかなか寂しいものがあったようですね。昔の賑わいを知ってるからこそ。

――そうでしょうね。

ふと思ったのが、冬から春にかけての境目の頃、「ペペ」っていうお店のドアのところに「寒いから開けっ放しにしないでください」って貼り紙があったんですけど、夏にそれが外されたのを見て、「もうこれ一生見られへんねんな」って思って。なくなることが決まってるってこういうことなんやなって。

――もう寒い季節がめぐってくることはないわけですね。

閉まる一ヶ月前に「ここは一ヶ月後になくなります」って知らされるんだったら「寂しいよー」って感じかもしれないですけど、去年の11月に初めて行った僕でも、「来年の9月に閉まるんだよ」って言われて、一年近く前から知っているので。じわじわその日が迫ってくる感じはなかなか切ないものがありますね。

――うんうん。

「あんじゅ」さんが一番初めに閉まるようですね。9月16日には閉めると聞きました。地上の店舗に移転するらしくて。「ペペ」と「りさ」は最終日に棚のボトルを飲み放題にするらしいですよ

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締めの冷麺も絶品だった

「味道園」で美味しいお肉や料理を堪能した我々は再び有楽名店街へ向かった。

今度は「ペペ」で飲む

ここで改めて、有楽名店街がどんな場所にあったかをおさらいしておきたい。

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阪神電車・元町駅の地下ホームへ向かう階段を下りる
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左手に改札があって、右手奥に有楽名店街の入り口がある
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ここが東側の入り口。向こう側に通り抜けると反対側の改札の方に出られる
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奥に進んでいくとこんな感じ

今日はオレンジの看板が目立つ「ペペ」というお店へ行ってみることに。

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左手に看板の見える「ペペ」さんへ

Towersさんは昨夜も「ペペ」で飲んでいたらしい。「久しぶり!24時間ぶりかー!」と店主の佐伯一恵さんが笑顔で出迎えてくれた。

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「ペペ」の店主・佐伯一恵さんが瓶ビールを注いでくれた

瓶ビールをいただくと、突き出しに糸こんにゃくのたらこ和えが出てきた。

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これ以上ないほどにちょうどいいおつまみ

――おお、美味しそう。

お客さんがいない時に口寂しいから、自分が作ってきた突き出しを半分ぐらい食べちゃうの(笑)ご飯を食べた後にまた食べるから、食べても身につかないようなものにしてるの。

――こちらは何年営業されていますか?

28年。今日はテレビの取材も来た。

――どうして「ペペ」という店名なんですか?

『望郷』っていう、ジャン・ギャバンが主演の映画があったの。フランス映画。昔は日本に入ってくる映画ゆうたらフランス映画が多かったの。で、その映画に出てくる、ジャン・ギャバンがやってる主人公はペペ・ル・モコという名前で、ギャビーという恋人を追いかけるんだけど、「ギャビー!」って叫んだ声が汽笛がボーッとなるのが同時になって声が聞こえないわけ。それで腹を切って死んでしまう。ペペは警察に追われてるんだけど、ギャビーに会いたくて、捕まるのをわかって出てきて、あれは絶対に惚れちゃう。それで「ペペ」なの。

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当然だが、どの店にもそれぞれの雰囲気がある

――素敵な理由なんですね。28年か。

「よっちゃん」が一番古くて、2番目に古いのがうち。震災で三ノ宮の店ができなくなったからここに来て。

――三ノ宮の時代も長かったんですか?

21年かな。

――その時も「ペペ」という名前で?

そう。前のママさんから引き継いでるから、この名前はもう60年近いよ。

――あれ、じゃあ店名は前のママさんがつけたものということですか?

前のママさんがどういう思いで「ペペ」ってつけたかはわからないけど、私はペペ・ル・モコが好きだから。自分の思いでペペ・ル・モコーって。

――あ、そういうことなんだ。もともとあった名前に後から思いを込めたというか。でも覚えやすい名前だし、オレンジの看板もいいですね。

昔は神戸サウナの反対側にあった。同じオレンジ色の看板だからその頃から知ってる人もいるの。「ぺ」が字がはねてるから「ペペ」って読まないで「ペンペン」だと思ってる人もいる。そういう時は「ぺんぺん草、雑草だから強いのよ!」って(笑)

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包丁の「あご」の部分でトントンと氷を割る佐伯さん

――すごい!そこで割るんですね。

私、これしかできないです。アイスピックでしたらぐちゃぐちゃになるのよ。こっち方がぱきパキッと割れるから何十年とこれでやってるのよ。お客さんに「見てたら酔いがさめるー!やめてー!」って言われるけど。元町の昔からやってる氷屋さんから板氷を仕入れてくるの。凍らせるのに20何時間かけるんだって。不純物を全部取って。

――ここが閉まった後、「ペペ」さんは移転して営業はしないですか?

しないですね。みんな「頑張って!」って言うし私もしたいけど、もう歳やからね。全部お金出してくれて「はい、ここに入り」って言うならするけどね(笑)老後のためにお金も置いておかなきゃいけないからね。60年働いたんだから。

――これからはちょっとゆっくりお休みですか。

あちこち行きたい。国内もいいけど、私、台湾に長くいたから、高雄の駅からすぐのところに1年2か月いたんだけど、その時はゆっくり観光で行ったわけじゃなかったから、次は台北に行きたい。

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包丁で割ってもらった氷で飲む焼酎の水割り、美味しかった

有楽名店街の最終営業日に様子を見に行ってみた

それから半月後の9月30日、いよいよ有楽名店街が最後の営業日を迎えた。常連さんたちの大事な日だろうから私は外から様子を見るだけにしようと思いつつ、現地へ向かってみた。

閉店を知らせる貼り紙があちこちにある。「よっちゃん」はあの後お怪我をされたそうで、残念ながら最終日まで営業できなかったらしい。

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「よっちゃん」のドアの貼り紙
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お花も飾られていた

Towersさんが前に言っていた通り、「りさ」「カベルネ」といったお店では飲み放題イベントが開催されていて賑やかだった。

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お店に残ったお酒を大盤振る舞いしているらしい

店内にTowersさんの姿もあり、記念写真を撮らせてもらった。Towersさんは今夜、近所にビジネスホテルを予約して、終電を気にせず最後まで見届けるつもりだとか。

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絵になる。

後日改めてお話を聞かせてもらうことにして、私は最後の風景を眺めて帰ることにした。

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最後に何往復かして帰る
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西側の入り口から
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この電光掲示板が動いでいるのを見るのも最後だろう

⏩ 有楽名店街の閉鎖の日とその後

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