変かもしれないが効果あり
怒鳴るように謝るというのはできなくはないし、効果もある。萎縮がとれるし相手が躊躇するのはシミュレーションでもそうなったのだ、実際にもそうなるだろう。
デメリットとしては怒鳴りすぎて冷静でいられなくなり、ケンカみたいになること。そして第三者から見ればけっこう変な人、というのがある。
冷静でいられなくなるのは慣れれば冷静でいられるのかもしれない。そして第三者の見た目はもはや関係ない。今や目の前のクレーマー対策が重要なのだから。
クレーム対応のプロのお話の記事を読んでいて、怒鳴られたら怒鳴るように謝り返すのがいいと知った。怒鳴るように謝る? そんなことがあるのか。一体どういう感じなんだろう。そもそもいきなりそんなことできるのだろうか?
興味がわいてきたので俳優さんを呼んで一度練習することにしてみた。
怒鳴るように謝るとはなんだろうか? そんなことができるのか? と主に舞台で活躍する八木光太郎くんという俳優とデイリーポータルZ編集部の藤原浩一を呼んだ。八木くんは飛び抜けて声が大きいし芝居でも怒鳴りなれてるようだ。
まずは怒鳴るクレーマーが来たとしてふだんならこんな感じという例を見せてもらった。お菓子に虫が入っていたとお店に怒鳴り込んできたクレーマーだ。
ただ怒鳴られているかわいそうな映像である。一種の即興演劇でもあるわけだが、それでも萎縮した感じはする。店員を演じた藤原としては「困ったなあ」「とにかく落ち着かせよう」という気持ちになったようだ。
さて今度は怒鳴り返すように謝るということであるが、もともとの発端となったWEBの記事を見てみよう。
『激しく怒鳴るクレーム客には、この話しかたが最高に効く』ダイヤモンド・オンライン
簡単にまとめさせてもらうと、クレームで怒鳴られると足がすくんでしまったり萎縮してしまう、そんなときは怒鳴り返すように謝るといい、という話である。
怒鳴る人は萎縮させるために怒鳴っている。そこで怒鳴り返すと相手はたじろぐ。そのすきをついてどこかに座らせて落ち着かせるのだという。紹介されてる著書※も読んでみた。
著書内の解説によると相手の声の大きさやテンポ、呼吸に合わせる「ペーシング」と言われるコミュニケーション技法がそもそもあるようだ。
ペーシングはそもそも共感をするためにあるようだが、怒鳴り返す場合は虚を突いたり萎縮しない効果もあるということだろう。
そして疑問がある。
怒鳴り返すように謝るとはなんだろう? ということである。それはなんか変な世界にならないのか? ふつうに謝るのと怒鳴り返すように謝るのをデイリーポータルZ編集部の藤原浩一にやってもらった。
はたしてこんなに大きな声で謝っていいのだろうか。こんな人を実生活に放り込んでいいのだろうか。
実際にやってみるとどうなるのだろう? 店員である藤原浩一に怒鳴り返してもらった。
怒鳴り返すように謝ったところ、クレーマーの八木くんからとっさに返ってきた答えは「なんだよお前いきなり!? 用意してたろ、今の!」である。用意してたように見えたというのである。
そう言われた店員は「マニュアル化がバレてる!?とドキッとしましたね」と思ったそうだ。それはそれでまずい。
とはいえ、クレーマーの八木くんによると「まさか!?」「想像してたのとちがう!」とびっくりした間隔はあるらしい。虚を突くことはできているようだ。なるほど。狙い通りなのか。
今度はもっとはっきり怒鳴り返せる俳優の八木くんに謝ってもらった。
なんだこの店員は! めちゃくちゃでかい声で謝っている。そしてその勢いのままにクレーマーの藤原は別室行きに同意までした。すごいやりとりができた。
クレーマー役になった藤原によると「間違いを認めさせようという気持ちできてるのに、大声で謝られると謝らせようという気持ちがゼロになりますね。あ、どうしよう、という気になる」のだそうだ。なるほど。
第三者からすると、へんな店員だなーという感覚はあるものの、当事者からするとそれどころではないのか。
デメリットもある。店員の八木くんは「冷静ではいられないですね。大きい声出さないと、と思うから冷静に考えることができない」という。これは難しそうだぞ。筆者も体験させてもらった。
やっぱりものすごく変な人である。怒鳴り返された八木くんも第一声は「なんだよそれ!」であった。
そしてヒートアップしてしまう気持ちもわかった。怒鳴らなければ、と思うと思考が追いつかない。私達がふだん「冷静に話し合おう」というのには理由があるのだ。
難しいといえば、突然怒鳴りだすタイプのクレーマーに怒鳴り返すのが難しいと著書では紹介されている。
高難易度編である。突然怒鳴り出すタイプのクレーマーに怒鳴り返してみた。
突然怒鳴られて2ターンほどずれたあとで怒鳴り返している。クレーマーとしても「なんだ急に!?」となってるようだ。突然怒怒鳴り返すのはとてもむずかしそうだ。
店員は「そんな突然怒鳴られてもこっちの準備はできてない」と思ったらしい。大声を出した瞬間から何をしゃべっていいか急にわからなくなったという。やはり怒鳴りは慣れがいるのかもしれない。
怒鳴るのに慣れている俳優の八木くんに店員をお願いした。
さすが俳優、すごい瞬発力である。クレーマーのテンションにぴったりついていっている。やってる方は「なんだか知らないがやけについてくるなこいつ…」という思いと「バカにされてるのかもしれないな」という思いがある。
しかしこんなにアップダウンの激しいクレームがそもそもあるのだろうか!?
いっそのことこの難易度をあげてペーシングをさらに追求してみよう。向こうが怒鳴ればこちらも怒鳴る、怒鳴る以外にも理解を示したり恥ずかしがったりしてみてください、とお願いした。
なんて情緒不安定なクレーマーなんだ。そしてこの店員がどこまでもついてくるのである。ついてくるなあこの人、という印象である。
ここまでくるとクレームが処理できてるかは置いておいて、この二人仲良いなという印象である。これはこれで大きな成果をあげているのではないか。
(参考文献※『役所窓口で1日200件を解決! 指導企業1000社のすごいコンサルタントが教えている クレーム対応 最強の話しかた』)
怒鳴るように謝るというのはできなくはないし、効果もある。萎縮がとれるし相手が躊躇するのはシミュレーションでもそうなったのだ、実際にもそうなるだろう。
デメリットとしては怒鳴りすぎて冷静でいられなくなり、ケンカみたいになること。そして第三者から見ればけっこう変な人、というのがある。
冷静でいられなくなるのは慣れれば冷静でいられるのかもしれない。そして第三者の見た目はもはや関係ない。今や目の前のクレーマー対策が重要なのだから。
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