住んでる人にとってはロングテールじゃない
西村:河合さんが今まで扱った住所でいちばんヤバかったのってあります?
河合:さっきの長野県が2つ出てくるみたいなのは、知ってさえいればなんとかなるんですよ。やっぱり一番やばいのは人間の入力の方で⋯⋯。いわゆる「さわらろ」
西村:あぁ、香取市役所の住所ですね。香取市佐原ロ。イ、ロ、ハと振られたうちの「ロ」ですよね。
河合:一見、佐原口(さわらぐち)と間違えてしまうやつ。実際「くち」ではないんだから、「くち」が入力されても「ろ」とみなそう!なんてロジック書くわけにはいかないんですよ。でも実際には皆バリバリに間違えて入力してくる。
「佐原ロ」の写真はなかったが、佐原イは写真を撮っていました
西村:そういう人間の間違いはAIで処理できるかもしれないと。AI登場以前と以後では変わってきてますか?
河合:全然変わってきてますね。住所って結局、自然言語なんですよね。それをAI以前はなんとかロジックで解釈してシステムに落とし込む、というやり方が基本でした。しかし、それだと自然言語のイレギュラーな入力にはどうしても追いつけない。
西村:AI以前は、例外一個ずつにいちいち対応しなきゃいけないし、対応できてないことも多かったわけですね。
河合:そういうイレギュラーな住所はロングテールの端の端で、数としては多くない。でも、ずっと気持ち悪さは残るんですよね。それに一番大事なのは、そこに住んでる人にとってはロングテールじゃないんですよ。それは。
西村:確かに。
河合:今住んでいる住所が、いつまでたっても検索できない、入力できない。
林:戸籍の漢字が難しい字になっている話に似てますね。
河合:当人にとっては重大事なんだけど、全体で見れば一億分の一みたいな話になっちゃう。その温度差が一番厄介なんですよね。
それを救うために全部調べに行くのは物理的に無理だけど、だからといって、ご当人が困り続けていていいわけではない。
その温度差というか、住所処理にはそういう原罪みたいなところがありますよね。
西村:AIでこの住所の表記の問題って解決できそうですか?
河合:今のAIは、いわゆる大規模言語モデル(LLM・ラージランゲージモデル)ですよね。つまり自然言語を扱うわけですよ。入力として言語をもらって、そこに対してまた言語で返す。
で、ここまでのいろんな住所のカオスが示してるのは、住所はシステマティックに決まったフォーマットではなく、単なる口伝であり、フォークロアであるってことなんですよ。
西村:なるほど、住所は伝承だと。
河合:伝承なんですよ、実際のところ。伝承の集合体だったら、それはまさに今の大規模言語モデルの得意とするところで、そうなると、どれだけたくさんの「フォークロアとしての住所の実例」を集めて学習させられるかの方が重要になってくるんじゃないかなっていうところが、今現在としてはそうですね。
西村:なるほど。だから、河野大臣が3年前に言ってた「AIで解決できるかもしれない」というのは、ある意味その通りになったと。
河合:あの時点で彼がそこまで見積もっていたわけではないという確信もある。けれど、結果的にめちゃくちゃ正鵠を射ていたのは間違いない。(笑)
フォークロアとしての住所
住所なんて、どこも同じようなルールで決まっていて、検索すればすぐ場所がわかる――そんな気になりがちだ。しかし、この本を一通り読むと、その成り立ちから構造にいたるまで、住所がいかに複雑怪奇で奥深いものかがわかる。
地方ごとに独特な表記があり、京都や札幌のように、その土地ならではの住所の表し方もある。そのダイバーシティっぷりたるや、知れば知るほど底が知れない。
では、なぜそんな違いが生まれたのか。歴史をたどればいろいろな理由はあるのだろうけれど、突き詰めれば「前からそうだったから」というものも少なくない。
土地ごとに受け継がれ、今も当たり前のように使われている。そう考えると、住所とはまさにフォークロアなのだ。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
一般的に著者インタビューってインタビュアーが著者の話を聞くと思うのですが、このインタビュー、かなり西村さんと河合さんの発言量が拮抗しています。西村さんは西村さんで住所に一家言というか十家言くらいあるので…。
インタビュー時もこの話は無限に続のではと思いましたが、次回、京都の住所編をまたやろうという約束でお開きになりました。
そのうち京都編も載ると思いますので楽しみにしていてください。(石川)
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