住所には複数の体系がまざっている?
林:そもそも大字とか字とかよく分かってないんですけど⋯⋯住所って複数の体系が混ざってるってことなんですよね?
河合:そうなんです、それが相当にややこしくて、⋯⋯住所って大雑把に三階層あるんです。都道府県・市区町村と、末尾の何番地とか何番何号って部分と、その間の大字とか字とか丁目の部分。何番地とか何番何号は、地番と住居表示っていう全然違うふたつが併用されてる。で、「間の部分」は何でもあり。定義自体を国がしてないんですよ。しろよと言いたいんですけど。
現在、日本で使われている住所には、大きくわけて、住居表示と地番というふたつの系統がある。
住居表示は、都市部などでよくみられる「東京都千代田区霞が関二丁目1番1号」といった感じの住所で、地番は例えば「千葉県印西市大森2364‐2」のような住所だ。
地番はもともと不動産や土地の管理に使われてきたものを、便宜的に住所として利用している。
しかし、地番を住所として使う場合はかなり不便なので、それに代わるものとして法律で定められ、昭和37年から使われはじめたのが住居表示だ。
住居表示は地番と違い、土地そのものに名前や数字を付けていくわけではない。住宅などが建っている街区を道路や河川などを基準に区切り、そこに建っている建物ひとつずつに番号を振っていくというしくみだ。
で、大字や字(小字ということも)は、都道府県、市区町村の下に現れる、まさに住所の本体のような部分だが、地番か住居表示のどちらが使われているかと、この部分がどうなっているかには、基本的に関連性はない。
大字、字は地番を使う場合によく表記される……が、これが実に多種多様で、一言で「こういうことだ」と言えないのが難しい。
上の表でいうと、東京都と埼玉県の住所は住居表示で、住所の中に字名は入っていない。
一方、下3つは地番表記だが、龍ケ崎市役所の住所は大字が存在しない場所にあるため、字の表記がないということになっている。
また、大字はあるけど字がないとか、やたら長い字とさらにその下に地名がつく場合など、ざっとみただけでもこれだけの多様性がある……というわけだ。
河合:なんでこんなことになっているのか。これは、昔からの流れなんですよ。明治時代に大字や字を決めるとき、各地の実情に合わせるように(国がルールを統一しないで)地方に任せたんですね。で、任された地方は「昔からこういう風になってたから、これはじゃあ大字ってことにしとくか」みたいな。
良く言えば各地の実情に応じて、有り体に言えば惰性というか、そんな感じで各地で決めていったんですね。
西村:明治時代、一時的に大区小区制という新しい行政区画を設定しようとしてますよね。各都道府県ごとに大区と小区をわけて番号をつけて管理する方式。
大字小字レベルまでは対象としてないですし住所のためというわけではないですけど、町村レベルではそういうのやろうとしている。
河合:一応、システマティックにやろうとしたんですよね。ただ、明治維新で新しい政府になって、県から下は大区小区にわけて番号でやれって言っても、やっぱり住んでる人たちの地元の意識が強くてそこまでは強制できなかったんじゃないですかね。
住所については、その辺がずっと百年以上、尾を引いている感じはしますよね。
廃藩置県で県を設置し、中央集権化を目指した明治政府だが、県の先にある町や村にはまだ江戸時代の仕組みが残っていた。
県の次にそこも中央集権化して、戸籍を作り、徴税や徴兵を確実にしたい。そのための大区小区制だったようだが、制度への不満や仕組みとしての使い勝手の悪さなどから、わずか数年で取りやめになった。
その代わりに作られたのが「郡区町村編制法」だ。これは江戸時代から使われてきた郡、町、村などをいかした仕組みで、このときの区町村が今の市町村のベースになって、住所の一部となっている。
林:もし今後、統一した住所の表記ができたとしても、今の住所は残ったまま、別のレイヤーがひとつ増えるだけかもしれないですね。
河合:いや、絶対そうですよ。
住居表示も良し悪しで
西村:住居表示も大変便利ですけど、ややこしい例というのも本にいろいろ載ってました。例えば違う建物なのに、住居表示がまったく同じというやつ。書籍では渋谷区のまったく同じ住所に別の建物がふたつ建ってる例が載ってましたけど、これ、おれが今住んでる家そのまんまだ! って勝手に興奮しちゃいました。
河合:そうなんですね。
西村:今住んでるマンションの住所(月島◯丁目✕番△号)とまったく同じ住所にもう一個アパートがあって、どっちにも101号室があるんですよ。
石川:集合住宅はたいてい101号室ありますからね。
西村:住居表示の場合、最後の「号」の部分って建物の位置を示すわけだから、建物名を省略して「月島◯丁目✕番△号101」とか「月島◯−✕−△−101」って書くこと多いじゃないですか。でもそう書くと、うちじゃないもうひとつの101号室に荷物が届いちゃう。
河合:なるほど(笑)
西村:で、うちの建物名、漢字ひらがなわあせて20文字もあってクソ長いんですけど、識別してもらうためにそれをわざわざ書いても、アマゾンの配達だけは1/2ぐらいの確率で違う方に荷物配達するんですよね。コイントスじゃないんだから。
河合:住居表示のプロトコル(共通のルールや手順)、国が定義しているのは10メートル、15メートルなりの間隔で入り口がそこにあったら、その番号をつけろっていう体系なんです。
東京みたいに密度高いところでカブったらどうするのかっていうのは知らん。と。
西村:まさにうちなんですよそれ(笑)
河合:渋谷区とかはもう「知らん」というスタンスで、ビル名を書けばわかるからそうすれば、っていう運用なんです。
別の自治体ではそれは困るから枝番つけまーすというのをやってるところもあるんだけど「だったらそこまでちゃんとプロトコルを定義してやってくれよ」ってなりますよね。
東京23区は割と冷淡なんですよ、そういうところ。
西村:住居表示もこうやって不便なところあるねって話すると、海外にいた人が「ストリート方式※の方がわかりやすい」なんてよく言うじゃないですか。
※海外でよくある住所の表記法。通りに面する建物に順番に番号を振っていって、場所を示すやり方。「10 Downing St(ダウニング街10番地)」といった具合に表記する。
河合:いやー(笑)
西村:どっちがいい、正解とかじゃなくて、どっちも便利なところあるし、どっちも不便なところありますよね。
河合:あります、あります。ストリート方式だとすべての道に無理やり名前つけないといけないっていうのもあって、だからほんとにちょっとだけの、行き止まりの道にも名前付けたりとかして。
西村:ぼく、ロンドンの都市地図を買ったことあるんですけど、ストリート名のインデックスだけで厚みの半分ぐらいあるんですよね。めちゃくちゃ分厚い。地図で調べるときはまず通り名をインデックスで調べてその道がどこにあるかを検索してからじゃないと場所が特定できない。
河合:京都すら名前がない路地とかがある※わけで、この通りとこの通りの間みたいに表現する場合がありますからね。
※碁盤の状に道路が整備されている京都は、東西と南北の通り名(ストリート名)を組み合わせた独自の住所の表し方がある。京都市上京区下立売通新町西入(下立売通りと新町通りの交差点から西側に入った所)みたいな書き方
西村:京都! 京都の住所はもう、ぜひ、別途記事でやりたくて⋯⋯こないだ、Wikipediaに載ってる「京都で一番長い住所」の場所に実際に行ってみたんですけど⋯⋯現地では住所をそのとおりには表記してないんですよね。そういうことさえある。
河合:僕もフィールドワーク的に行って、実際に確認したい。一番やばいなと思ったのは、祇園のあの神社のところの近くにある住所です。二丁目というけれども、それがリアルに存在している二丁目ではなくて、「2ブロック飛ばした先」という意味で2丁目と言ってる。みたいなところがあります。
西村:あ! もしかしたら、僕が行って写真撮ったところがそうだったかもしれないです。東山区ですよね。


