まずは世界平和大観音についておさらいしておく。
世界平和大観音とは、とある実業家が1977年に出身地の淡路島に建設した。故郷に錦ではなく巨大観音像を飾ったのだ。
しかし、2006年以降は閉館、廃墟となり剥落したコンクリートが周辺に落下するなどのトラブルが相次いでいる。
そして相続する人がいなかったため国の所有になり、先日、解体されることが発表された。
淡路島へ向かう
そんな世界平和大観音、以前から気になっていたものの足が向くことはなかった。行こうと思えばいつでも行けるという思いがあったかもしれない。
しかし、今見ておかないといずれ見えなくなる、その思いが僕を淡路島へと駆り立てた。
淡路島には鉄道が通っていない。おのずと自動車で行くことになる。およそ2時間のみちのりだ。
途中、休憩のためサービスエリアに寄る。
僕は高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの雰囲気が好きだ。サービスエリアの魅力は高速道路に乗らなければ行けないところにある。つまり日常と隔絶された世界だ。
しかしこの時、緊急事態宣言こそでていなかったものの、すでにコロナの影響が言われ始めた頃だったので建物内には寄らず、車内で休憩だけにした。
巨大吊り橋、明石海峡大橋。
そうしてふたたび車を走らせると淡路島への看板が見えてきた。淡路島方面は交通量がぐっと少なくなる。
長いトンネルを抜けると海と空が視界いっぱいに広がる。もう一つ楽しみにしていた巨大なアレが現れた。
この世界最大のつり橋は海面からかなり高く、海を見渡すような高さだ。
なんかもう最高に気持ちがいい。もしかすると僕は大きなものが好きなのかもしれない。
淡路島は巨大サービスエリアである。
わずか5分ほどで明石海峡大橋を渡り終え、淡路島へ入る。
淡路島は島といえども瀬戸内海最大の大きさを誇る。面積は592.55平方キロメートルで、東京23区(619平方キロメートル)とほとんど変わらない。
淡路島へのフェリーもあるが明石海峡大橋の開通後に大幅に縮小されてしまった。2020/05/07 16:00追記 淡路島ご在住の読者の方からご連絡をいただきました。現在淡路島へのフェリーは原付までしか乗れない高速艇(淡路ジェノバライン)のみ運行されており、車を乗せるものはないそうです。情報ありがとうございました!
従って淡路島へ行く手段は、基本的に本州側の明石海峡大橋と四国側の鳴門大橋の2つしかない。
いずれも高速道路なので、基本的に淡路島へは高速道路に乗らないと行くことができない。淡路島もひとつの巨大なサービスエリアだ。
大観音、登場。
高速道路から一般道に下り、ナビが示す到着時間まで10分を切る。巨大な観音像は遠くからでも見えるはず。どのように現れるのか?どんな場所に立っているのか?と想像を巡らせる。
もういつ見えてもおかしくない。…というか、もう見えているんじゃないか?
そう思って周りを見渡しながら進むと、
真っ白い人の姿がチラっと視界の端に映る。燃え尽きちまったぜくらい白い。
人をかたどったものは不思議と目線が吸い寄せられる。
あまりに大きく遠近感がおかしい。予想以上に大きな物を見ると人はただ笑ってしまう。
ここまでおよそ2時間かかっている。往復で4時間だ。
正直、ここまで3回くらい「僕は一体、なにしてるんだっけ?」という疑問が浮かんでは消えていたが、そんな疑問は吹き飛んだ。
大きいだけで面白いのだ。ずるい。
あと意外だったのは、茨城県の牛久大仏のように、もっとだだっ広い場所を想像していたが、意外にも幹線道路のすぐ近くだ。
港町では異物感がすごい。
場所がわかったので今度は車を止める場所を探す。
世界平和大観音のおひざ元は海沿いの町だ。
海沿いの街では斜面に家々が肩を寄せ合うように立ち並ぶ。経験上、こういう場所では車を止める場所がなかなか見つからない。
ぐるぐると回った挙句、車をとめて戻ってきた。
周囲に人影はなく、白い人だけ。
観音像の目線の先には大阪湾。なんかもう凄い光景である。
…というか、めちゃくちゃ海きれいだな。
庭先で畑仕事に精を出す人たちがいたが、その人たちは大観音像をまったく気にしていなかった。
明らかにおかしな建造物があるのに。まるで僕以外には見えていない様だ。
少しのっぺりとした観音さま。
遠くにあるとちょっと面白いくらいだが、近づいていくに従い徐々に両目で立体的にとらえると、大きさがあらわになっていく。
大きさ比較用に横にセブンスターを置こうかとも思ったが、たぶん手前の家と比べるほうが分かりやすいだろう。
改めてその大きさは圧巻だ。
それもそのはず、世界平和大観音は国内では牛久大仏に次ぐ大きさで、仙台の観音像と並び100メートルもある。建造当時は世界最大の像だった。
ただ牛久大仏や仙台の大観音像と比べると凹凸が少なくのっぺりとした印象だ。夏休みの宿題で8月30日に急いで観音像を作ったらこんな感じになりそうだ。
首に巻かれたマフラーの様な部分はかつての展望台で、老朽化のため、どてっ腹には風穴が開いている。
あんなに高い場所から建材が落ちてきたら本当に危ない。解体も致し方無いのだ。
立ち入れないがかなり近づけてしまう
かつては観音像のなかの展望台があり、登ることができたり中に博物館があったりしたそうだが、現在はもちろん立ち入る事はできない。
敷地への入り口は閉ざされ危険立入禁止の注意書きが貼られている。
しかし観音像のほぼ横には、地元の人たちが行き来する生活道路が通っている。
立ち入り禁止の敷地に入らなくても、横の道を通るだけかなり近くまで行ける。
建物のガラスも割られているし、近くで見るとよりいっそうボロボロだ。
部材が剥がれ落ちる可能性もあるそうで、ここまで近いと身の危険を感じるほどだ。早めに移動する。
観音様の周辺をうろうろしていると、他にもうろうろしている人がいた。
廃墟にいるのはだいたいヤンキーと相場が決まっているが、意外にも年配の夫婦だ。名残を惜しみにきたのか。
一番上の屋根なんかはほとんどシースルーに近い。
解体されるより先に倒壊してしまうんじゃないかと心配になるくらい観音像も塔もボロボロだ。
見晴らしが良い背中側
観音様の後ろは斜面になっていて正面側から見るより見晴らしがよい。そしてあまり傷みが気にならない。
手前に住宅地の日常感と、奥に大観音の非日常感。怪獣映画の手法だ。
手前の畑にはネコ車やコンテナがあって、つい先ほどまで誰かがいた形跡はあるが人はいない。
怪獣映画だったら避難した後だろう。
巨大な観音像を見ていると首のあたりがゾワゾワしてくる。少し怖いような不思議な感覚だ。たまらない。
ただビルのような四角い建物の場合はどんなに巨大でもあまりそういう感覚になることはない。やはり人の形ならではだろう。
そんなゾワゾワを実感できたし記録もできた。解体前にもう一度見たいけど、うーん、どうかな。