特集 2020年8月19日

駅前の本屋の跡地に一番多くできているのはセブンイレブン

町の本屋が消えていく

たくさん本屋を見ていたら、昔ながらの本屋ってやっぱりいいなという想いが溢れてきた。本屋の跡地に出来たものという話からは少しそれるが、大手書店ではない町の本屋の在りし日の姿をアンケートで寄せられたコメントと一緒にもう少し紹介させてほしい。

 

こちらはJR横浜線中山駅前の酒井書店。2015年に閉店。

本屋は文教堂が駅ビルにあるのでそれほど不便ではありません。しかし、昔からの本屋さんで子どものころは母が酒井のおじさんに『ミセス』など毎月配達してもらっていた思い出があります。歩く町並みに本屋がないのは寂しい。(zacco)

2014年に15年間続いたキャンペーンを終了したYonda?のキャラクターがテントに鎮座している。自ら堂々と名乗るに値する貫禄のある町の本屋っぷりに町の本屋大賞を授けたい。

 

こちらも2015年に閉店した京浜急行追浜駅前の追浜堂。

実家の最寄駅の本屋なので帰省するたびに寄っていたのですが、その楽しみがなくなり残念。駅前のショッピングセンターにも本屋があるのですが、駅前店のいかにも個人経営の本屋っぽさが好きだったのです。(きこり)

この「ただそこにある」とでも言うべき佇まいが町の本屋の本懐であろう。そのあとにできた磯丸水産ももう少し追浜堂の謙虚な姿勢を学んでほしいものである。

追浜堂を見た直後の磯丸水産は刺激が強すぎる。常に祭りをしているのか。

 

JR成田駅前のマキノ書店もいい味を醸し出していたが2016年に閉店。ちなみにすぐ近くに信水舎書店も2018年に閉店し日高屋に。

電車の乗り継ぎや待ち合わせで、ちょっと時間があった時に立ち寄れるところがなくなってしまった。(浅倉当吾)

2店舗の閉店が立て続き、成田駅周辺には本屋がなくなってしまった。ちなみにマキノ書店の跡地には、 

もうなんというか、あざまる水産です。

 

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オールド文教堂よ、永遠に

こういった温かみのある町の本屋が次々と消えていく傍らで、それを凌ごうかという勢いで大量に閉店していくチェーン店がある。それが文教堂書店だ。

今回調べた133店舗のうち実に20店舗が文教堂書店だった。ショッピングモールに入っている店舗や駅前ではない郊外型店舗も含めればもっとたくさんの店舗が閉店を余儀なくされている。

大手なのでもともとの母数が多い書店ではあるがこうもたくさん閉店していくと、なかなかに心配な気持ちになる。実は筆者の最寄り駅にあった文教堂書店も昨年閉店し、松屋になった。そんなこともありもはや親のような気持ちで行く末を案じているのだ。

 

というわけで最後に、文教堂書店の在りし日の姿を見ておきたいのだが、古き良き文教堂書店といえば、そう、三角屋根である。

兜を思わせるような三角屋根に「BOOK」と「文教堂」の文字。郊外型の文教堂によくみられるタイプで、現在新たにこのスタイルで建てられることはないため「オールド文教堂」とも呼ばれていたりする。

 

このオールド文教堂、時には居抜きでこのまま次の店舗が入ることがある。その場合、どんな店舗になっていようともともとそこに文教堂が存在していたことが一目瞭然である。すなわちこのオールド文教堂の居抜き物件は、閉店した後もそこが本屋であった証を残し続ける稀有な存在なのである。

 

上記の文教堂は既に閉店してしまっているが居抜きでリハビリセンターが入った。

誰がどう見ても元文教堂である。ただ「BOOK」と「文教堂」の文字が入っていた部分には何も入れずあえて真ん中のガラス部分に施設名を入れる端正なデザインだ。

 

一方で、この記事でも紹介されていたブックオフ東久留米前沢店は三角屋根にゴリゴリにデザインをいれている。

新刊本屋の文教堂跡地で中古本屋のブックオフが営業をする皮肉っぽさを感じるが、ブックオフは居抜きの常習犯ということで、特に深い意味はないのだろう。

真ん中のガラス部分を取っ払っており、三角のカドが刺さりそうだ。エヴァンゲリオンの使徒みたいだな。第19使徒ブクオフ。

 

文教堂時代のデザインスペースをそのまま利用している例もある。

東武東上線鶴瀬駅周辺にあった文教堂はカーテンじゅうたん王国というお店に変わり、どちらの三角にも「カーテンじゅうたん王国」という店名をいれている。文教堂と同じスタイルだ。

なんだか間違い探しみたいだ。サイゼリヤが入居したらここに間違い探しを掲載して大人たちを悩ませるだろう。

このカーテンじゅうたん王国、実は既に閉店しさらに別の店舗へ変わってしまった。しかし依然として文教堂時代の居抜きをそのまま使っているのだ。

次は着物のお店。反転していそうなのにどちらも同じ向きでプリントされているため脳がバグる。間違い探しとしての難度は確実に向上した。(たぶん間違い探しではない)

面白いのは、着物屋になった時点でカーテンじゅうたん王国がここにあったことは分からなくなってしまうが、文教堂がここにあったというのは依然として判別できることだ。それはもはや遺跡である。早く歴史の教科書に載ってほしい。

 

オールド文教堂は幹線道路沿いの郊外にあることが多いので今回調べた駅前の本屋にはほとんど含まれていなかった。ここまで紹介した3店舗も全て駅からは離れている。

しかし1店舗だけ、駅前と呼べる範囲にある店舗で三角屋根の文教堂を見つけることができた。しかも居抜きで出来たのは本屋の跡地に一番できているセブンイレブンである。これは見に行くしかない。

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というわけで東武アーバンパークライン初石駅にやってきた

駅から徒歩3分程度の文教堂書店初石店が2016年の2月に閉店し、そのあとにセブンイレブンが出来た。それがこちら。 

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まごうことなきオールド文教堂である

誰がどうみても元文教堂だ。なんならこの形を知らない人でも、うっすらと「文教堂」の文字が残っているのでもともと文教堂だったことが分かる親切仕様になっている。

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ぎりぎりまだ文教堂生きてる?と思ってしまう残り具合
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目玉である三角屋根部分はそのままに、セブンの帯を巻いただけという所作にオールド文教堂に対するリスペクトすら感じてしまう
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オールド文教堂の居抜きだから出せる躍動感。かっこいい。
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これだけのために1時間半くらいかけて観に行ったのでたくさん写真を撮った

本記事の最後に紹介するにふさわしい物件だ。

そもそも本屋がなくならないことを祈るばかりだが、閉店後も本屋のころの記憶を今に伝えるオールド文教堂もしっかりと後世に残していきたい。

分かったこと③

・大手ではない町の本屋にしか出せない味がある

・跡地に磯丸水産ができるとギャップがすごい

・オールド文教堂は遺跡


本屋で本を買おう

事前アンケートの中で「本屋とその後にできたもの、どちらがあると嬉しいですか?」という質問もしたところ全84件のうち73件が「本屋」という回答だった。多くの人が本屋がなくなったことに寂しさを感じているのだ。

一方で行く頻度としてはその後にできたものの方が多いという意見も多く見られた。

そう、本が好きでも読むのに物理的に時間がかかるわけで、本屋に通う頻度はコンビニやドラッグストアほど多くないのが現実だ。だからといって一回あたりの購入額が何万円にもなるわけではない。これは本屋って大変だよなぁと思わざるを得ない。

 

そう考えると本を本屋で売るというのはあまり効率が良くないのかもしれない。ただ、多くの人が平積みになっている本を眺めて気になった本を買うという買い方ができなくなったことに不便さを感じていた。それは筆者も同感である。

ネットでその辺りが上手くできると良いが現時点ではまだまだ本屋が便利だ。本屋で気になる本に目星をつけて買うのはネットということもしてしまっていたが、これからはなるべく本屋で本を買おう。

 

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