利休すげえ
色の名前を調べるのが楽しかった。似た色でも、アステカとか芥子とか桑とか、全然違うものを連想して名付けられているのがおもしろい。
スーパーでレトルトのグリーンカレーを見て「グリーンと名乗るほど緑色じゃないな」と思った。
先入観を無くし、色んなグリーンカレーの色を見てきた。そしてその結果を総合して、グリーンカレーと言えばこの色だ、という色を制定した。果たしてその色はグリーンなのか…!
まず、グリーンカレーのグリーンなようなそうでもないような色を見ていただきたい。
グリーンっぽくあるが、他のカレーよりはグリーン寄り、というぐらいじゃないか。いや、それでいいのだ。他よりグリーンなのであれば「グリーン」と名乗ってもおかしくはない。僕が衝撃を受けたのは「グリーンカレー=緑色」というイメージが僕の頭の中でがっつりできあがっていたことだ。
これが名前の力だ、と思った。グリーンと名乗るもんだから今まで緑色だと思わされていたのだ。先入観を取っ払って改めて見るとグリーンカレーってそこまでグリーンではない。イエローの要素も強い。あとそもそもくすんでいて明確に何色、と言いづらい色をしている。
これは何色なんだろう。グリーンカレーは何色と言ったらいいのだろう。
そんな経緯で、グリーンカレーの色を調べながら何店舗かで食べてみることにする。グリーンカレーのグリーンさ加減に対して、今までぼんやりとしか向き合ってこなかった、その清算をさせて欲しい。
そうして集めたグリーンカレーの色を総合して見て、最後に「グリーンカレーは〇〇色だ」という結論を出したい。
まず色の調べ方だが、ColorNameというスマホアプリを使うことにした。スマホのカメラで写したものから色を抽出し、近い色を検索してくれるアプリである。
色を調べるツールは用意できた。行くぞ。グリーンカレーを見に(そして食べに)。
食べに行くお店だが、今回はグリーンカレーの色を知りたい、という目的なのでタイ料理の名店がいいと思った。これぞグリーンカレー、というグリーンカレーが見たいのだ。
調べてみるとタイ・セレクトという、タイ国政府がレストランを審査して認定するプロジェクトがある。中でも五つ星に相当する「タイ・セレクト・プレミアム」は都内には3店舗しかない。まずはこの3店舗をまわってみよう。
まずは六本木に向かった。大通りから広めの路地に入り、繁華街なのかオフィス街なのかよく分からない、とにかく閑静ではある立地にジャスミンタイはあった。
ここの2階にジャスミンタイがある。入ると店員さんが手を合わせて「いらっしゃいませ」を意味する何かを言ってくれた。本場だ!
グリーンカレーを注文して待つ。メニューで見た限りでは、よく見る一般的な色、という印象だった。どうだろうか。
タイ国政府が五つ星をつけた店のグリーンカレーである。早く食べたい気持ちを、色を知りたい気持ちで押し殺してスマホを構える。
どれも「くすんだ黄色」や「茶色」と表現される色になった。グリーンよりはイエローに近い。しかしこのイエローっぽいグリーンカレーは本場タイが五つ星をつけたグリーンカレーである。タイ国政府も「グリーンカレーがイエローっぽいから星を減らそう」とはならないのだ。
やはりグリーンカレーは名前ほどグリーンではないのかもしれない。ちなみにあとで名前の由来を調べたら「グリーン」という命名は材料の青唐辛子からきているということだった。しかしそれが青唐辛子を使ったことによる完成品のグリーンさを指しているのか、調理前の青唐辛子のグリーンさを指しているのかは分からなかった。
そして味だが、食べたことのないクリーミーさで驚いた。辛いのにものすごくまろやか。かき込むように食べてすぐに完食してしまった。
辛い食べ物は、胃にずっと食べた感触が残るところが好きだ。この日は半日ほど五つ星の辛さがじんわり残って幸せだった。
昼時に行くとメニューにランチビュッフェがあって、その中にグリーンカレーがある。平日昼に行ったので丸の内で働いているであろうパリッとした方々で賑わっていた。六本木もそうだったのだが女性がほとんどである。
そんな中、もそもそとグリーンカレーをよそって自分の卓に持ってくる。
イエローだ。それもオレンジに近いイエロー。見た目上はグリーン要素がない。
これは命名がおかしい、という話ではなくて「グリーンカレーは緑色だ」と思い込んでいた自分への戒めのタイ料理店巡りである。グリーンと名前に付いているからといって、そのものが緑色なわけではない。アステカゴールドなグリーンカレーもあるのだ。
味はというと、ちゃんとグリーンカレー の味だった。穏やかにずっと辛いのが心地良い。六本木よりもさらに具がゴロゴロしていて、スープより具材を楽しむタイプのグリーンカレー だと思った。
同じく丸の内にあるマンゴツリー東京。こちらは丸ビルの35階にある。ビジネスマンがランチに来る感じでもなくなってきた。
前のお店でビュッフェをして少し休んでから来たのだが、こっちもランチビュッフェだと言う。事前に調べてこちらは単品で食べるつもりでいたんだけど勘違いしてた。単品はなかった。
ああ、ビュッフェビュッフェになってしまった。こんな贅沢許されるんだろうか。変な罪悪感が募る。
ここのお店も丸の内にお出かけに来た女性ばかりだ。もし今お店に強盗が入ってきて、お客を人質にとって立て籠もろうという時、入り口にバリケードを作るんだったら僕にやらせて欲しい。一応男だし、ビュッフェのあとにビュッフェを食べようとしているからだ。そんなやつはバリケードくらい作るべきだ。
しかし都合よく強盗は来ないので、帰ったら家の掃除をするぞ、みたいな柔らかな罰を自らに課してグリーンカレーを取りに行く。切り替えが大事だ。
今までとはまた違うグリーンじゃなさ。ホワイト寄りのイエロー。
今さらだけど料理の色がどう見えるかというのは、お店の照明という要素も大きいのだ。色って繊細なものでちょっと明かりの色が違うだけで違って見える。でも、お店のテーブルで、これから食べようという時に見るグリーンカレーが本来の色じゃないというなら、一体どのシチュエーションのグリーンカレーが本来のグリーンカレーだというんだ。
認めよう。グリーンカレーってけっこうイエローなのだ。たとえ別の場所で見た時にグリーンだったとしても。
Buff(バフ)とは牛や鹿の揉み皮のことらしい。個人的には野性味のある名前の色と結び付くとタイカレーっぽくていいなと思う。
これも味はすっきりした穏やかな辛さでおいしかった。具にかまぼこみたいなものが入っていておもしろかった。
食べながらのんびりしていると2軒目のビュッフェになってしまったけどまあしょうがないなという気持ちになってきた。おいしい食べ物は気持ちを穏やかにする。カレーの辛さがじんわり体を温めてくれるのでなおさらである。
今までの3店舗はさすが五つ星、という気品があった。しかしそれだけでグリーンカレーを語っていいのだろうかという気持ちになり、大衆的なお店にもあと2店舗、行ってみることにする。まず小岩の「いなかむら」である。
知らないと分からない場所にある。しかしこの辺でタイ料理といえばここ、という名店なのだ。
ここには牛ステーキにグリーンカレーソースをかけたステークキョーワンというメニューがあるのだけど、スケジュールの都合で昼にしか行けなかったので、ランチセットのグリーンカレーセットを頼む。
割とグリーンに見えるが提案された色には茶系が多い。
こう見ると確かにまあまあ茶色だ。ちょっと緑みのある渋めの茶色。
色って難しい。改めていなかむらのグリーンカレーの色はこれ、と言えるものを探してみる。
かなり微妙なラインだが、緑っぽさがほんの少しあると思う。
Brass色のグリーンカレー、食べるとコクのあるすごくいい辛さだった。元気が出るし健康になっていく感じがする。最高。
具には相変わらずゴロゴロしている鶏肉と、色んな野菜がいっぱい入ってた。
5店目。最後はもうグリーンカレーラーメンを食べよう。グリーンカレーのステーキが食べられなかったので、もうそこまで振り切っていいだろうという気持ちになっている。
券売機でグリーンカレーラーメンを探すと厨房から店員さんが出てきて「ランチタイムサービスありますので」とこそっと伝えてくれた。煮卵や白ご飯を選んでサービスしてもらえる。見てるとお客さんが券売機に立つごとにこそっと伝えていて、律儀さにジーンときた。
黄色っぽい薄い茶色は今まで何度か出てきたが、中でも明るくて黄色が強い茶色だと思った。グリーンからは遠い。しかしそれはラーメンだからではなくて、たまたまそういうグリーンカレーをスープに使ったのだな、と今なら思う。
スパイスが効いていて無心でズルズル食べた。そもそもグリーンカレーが中毒性が高い味をしているのでそれを麺と組み合わせたらもうたまんないよね、と誰かとしゃべりたかった。しゃべって気を紛らわすこともできなかったので、ちょっと怖いくらい無心で食べた。自分の意思じゃないみたいだった。
5店舗でグリーンカレーを見た。見つけた色をまとめるとこうなる。
二つの画像を見て、今回グリーンカレーを象徴する色は『芥子色』がいいんじゃないかと思った。色のくすみ方、明るさ、鮮やかさが標準的と感じたのだ。今回食べたどのグリーンカレーとも結びつきそう。
芥子色、くすんだ黄色である。グリーンカレーは辛子色。青信号が緑色、みたいなややこしい結論になった。とにかくここまでやったことで、グリーンカレーが緑色であるという強烈な印象は無くなった。
『グリーンカレーは案外緑色じゃない。強いていうなら芥子色』
些細な一歩だが、よりこの社会を生きやすい自分へと近づいたのだ。些細にもほどがあるけど。
色の名前を調べるのが楽しかった。似た色でも、アステカとか芥子とか桑とか、全然違うものを連想して名付けられているのがおもしろい。
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