次世代を生きる君たちへ
やはり、メガネ拭きクロスは優秀だった。紙ナプキンより優秀。この実験で僕の過ちの7年間が帳消しになることはなかった。
しかし、いま僕がここでその事実を明らかにしたおかげで、後の世代が同じわだちを踏むことはないだろう。紙ナプキンはそんなにすごくないぞ。みんな、紙ナプキンがすごいって言いふらすなよ!後悔するぞ!これが僕からの、次世代、あるいはこれからメガネをかけるみなさんへのメッセージだ。
わけあってメガネ拭きのことを考えるともう本当にいてもたってもいられなくなり、まだおとそ気分も抜けきらぬ1月4日、僕は部屋にこもってひたすらメガネを拭きつづけた。
その結果をここにご報告します。
※2009年1月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
まずは、僕がそこまでメガネ拭きに駆り立てられた理由から説明しよう。
僕が大学のときに発見したライフハック(という言葉も当時はまだなかったけど)に、「紙ナプキンでメガネを拭くと意外ときれいになる」というのがある。一見ゴワゴワしていてガラス拭きには向いてなさそうな紙ナプキン、しかしいざ汚れたメガネを拭いてみると、きれいになるわなるわ、その実力ときたら本業であるところのメガネ拭きクロス以上、という衝撃的な内容である。
この大発見以来、僕は発見者であるところの自分の功績に心酔してしまい、また生活の知恵としての手軽さも手伝って、すっかりメガネは紙ナプキンで拭くようになった。もちろん人にも勧めた。「紙ナプキン、メガネ拭くのに結構使えるよ。」「メガネって紙ナプキンで拭くと意外ときれいになるんですよ。」「それ、紙ナプキンの方がきれいになるよ」「紙ナプキンで拭きなよ」。
そんな暮らしを7年ほど続けた2008年の年末、家でくつろいでいるときにふとメガネの汚れが気になった。こんな僕でもさすがに紙ナプキンを家にストックしているわけではないので、仕方なく引き出しの奥からずっと使っていなかったメガネ拭きクロスを出してきた。拭いた。思わずのけぞった。
すげえ綺麗になる!
ひと拭きで汚れがスイスイ落ちる。感動した。そして同時に、絶望した。紙ナプキンを信じたあの7年間。ゴワゴワした紙がレンズにつけた細かいキズの数々。そしてフラッシュバックするのは、自信満々に「紙ナプキンの方がきれいになりますよ」と言い放ったあのときの自分の顔だ。
前置きが長くなってしまった。こんなことがあって、僕はメガネ拭きについて、正月開け早々調べずにはいられなくなった。
この調査はもちろんデイリーに載せる記事のためなのだが、それと同時に、紙ナプキンを信じていた自分の7年間に対する、落とし前でもある。
メガネ拭き候補として、紙、布、レンズ拭きの3部門から、計7種類をエントリー。汚したメガネを順番に拭いていって、どれが一番きれいになるか試す、というのが今回の趣旨だ。
メガネの汚れは2種類ある。雨や麺類の汁はねみたいな水溶性の汚れと、指紋などの油汚れだ。今回の実験でも2種類の汚れを用意する。汚れにはあらかじめしっかりと色を付けておいた。
油汚れの方は油絵具でも使おうかと思ったのだが、お店の人にサラダ油には溶けないと言われてやめた。ネットで検索したところ、かわりに登場したのが赤マジック。油溶性のインクが入っているため、油にどんどん溶け出すのだ。
前置きが長くなりましたが(って言うのもすでに2回目ですが)、いよいよ実験開始です。
ちなみに先に評価のポイントを説明しておくと、水汚れはだいたいの素材できれいになったので、評価は速さとか手軽さ重視。油汚れは仕上がりに違いがでたので、どこまで綺麗にできるかを重視しております。ではどうぞ。
家、会社、かばんの中、大体どこにでもあるので思い立ったときにすぐ拭ける。
■水汚れ
さすがティッシュ、吸水性は抜群で、レンズに当てた瞬間から水分をぐんぐん吸い込んでいく。「拭く」と言うよりも「吸い取る」に近い感覚だ。ひと拭きふた拭きで十分。
評価:★★★★★
■油汚れ
油は水のようにひと拭きですっきり吸い取ることができず、拭きあとの形にビローと伸びてしまった。そこから何度かゴシゴシ擦って、初めてきれいになる。擦っているときに毛羽だって繊維が残るのが×。
評価:★★★
サクサクいくと見せかけていきなり中断してすみません。次は紙ナプキンなのだが、ここで僕があみ出した「紙ナプキンでメガネを拭く正しい方法」を伝授しよう。ただし「正しい」のは去年までの話で、今ではそんなにきれいにならないやり方だと分かったので参考にしても無駄です。
僕が貴重な20代の7年間をささげた紙ナプキン。その間、僕の生活において「外食する」=「メガネを拭く」の式が成立していた。
■水汚れ
こちらも吸水性はよし。ティッシュよりはパリッとしていて、「拭いている」感じがする。
評価:★★★★
■油汚れ
はじめ伸びて、あとでゴシゴシ拭き取るのはティッシュと同じ。こちらの方が毛羽立たないので拭きやすいが、仕上がりはティッシュの方が上。フライドポテトなど油物を触った手を拭く紙なので、油には強いかと思いきや、意外とそうでもない。
評価:★★
そういえば、メガネの話をしてて思い出したことがある。僕は大学のころにメガネをかけ始めたので、今メガネ歴10年くらいだ。そしてその10年の間に、1回だけメガネをなくしたことがある。(この話に特にオチはないです)
3年くらい前の夏、会社の同僚と東京駅の近くのビアガーデンに行って、不覚にも飲み過ぎてしまった。帰り道、「ちょっとトイレ行ってくる」って言って駅のトイレに入った…のを最後に記憶を失っており、気がついたら遠く離れた石川町(横浜の近く。東京から17駅)のホームで寝てた。とっさに「石川だから石川町?」って思った。ダジャレとかじゃなくて、酔っぱらった頭で最大限ロジカルに考えた結果、「あ、石川だから石川町にいるんだ」と、そういう結論にたどり着いたのだ。
ウェットだけに水分を綺麗に拭き取るのは無理だと思う。ここはウェットティッシュ→ティッシュのあわせ技も視野に入れて検討したい。
■水汚れ
拭いたあとウェットティッシュの水分(というかアルコールですか)が残る。濡れているだけあって吸水性もよくないので、ざっと拭いただけでは色水もちょっと残る。ティッシュとあわせるなら、気をつけて色水を拭き取ってから、残った水分をティッシュで拭くとすごくきれいに。でも水汚れだけならそこまで手間をかける必要もないような。
評価:★★★
■油汚れ
拭き始めは水分と油のせめぎあい。しかしキュッキュしているとすぐに水分が優勢になってくる。そしてここで残ったティッシュで拭き取ると…。輝きます。
評価:★★★★★
駅員さんに聞いたらもう終電は終わっていて、仕方がないので改札を出た。家まではかなり距離がある。冷静に考えたらマンガ喫茶にでも行けばよかったのだけど、なぜか頭の中は「帰らないと!」という気持ちでいっぱいだった。帰りたい、じゃなくて、帰らないと。欲求でなく、義務感。
そんな気持ちに駆られて、駅前の道でタクシーを止めた。
「ウォーターニードル方式(水圧で繊維を絡ませる方法)と原料はレーヨン100%にて創り上げた商品です」(パッケージより)
■水汚れ
他の紙よりも明らかにやわらかく、手触りがいい。吸水性もそこそこで、きれいになる。サイズが小さいのが少し使いにくいか。
評価:★★★
■油汚れ
出だしの吸油はイマイチ。ただし油が伸びて薄くなってからの回収率はピカイチで、結果的にかなりきれいになった。携帯用の商品も出ているし、常用するにはこれが一番なのでは。
評価:★★★★
タクシーに乗ると運転手さんが缶コーヒーをくれた。僕が明らかに酔ってたからだと思う。普段は人見知りなのに酔うと饒舌になる僕は、急に運転手さんと話がしたくなって、今の時期はタクシー儲かるのかどうかとか、酔っ払いの客にはどうしてるかとか(おまえだ)、いろいろ聴いた。
タクシーで話し込むと、理由はわからないけどなぜかだいたい運転手さんの前職の話になる。当時僕はシステムエンジニアで、運転手さんの前職もそれに近いものだった。それで意気投合して、家に着くまでの間、かなり話し込んだ。そう思ってたのは酔っぱらってテンションあがってた僕の方だけだったかもしれないけど。
めがねを買うとだいたい一枚ついているし、たぶん最もみんなが使っているメガネ拭き。なんで俺だけ使ってなかったんだ。
■水汚れ
紙のレンズクリーナーよりさらに手触りよし。ただ濡れたレンズに使う物ではない気も。吸水性はいまひとつ。よく拭かないと、レンズに薄く残った水分が乾いて、あとで結晶が残ったりする。
評価:★★
■油汚れ
すごい。多めに油を乗せてみたものの、キュッと吸い込んであっという間にピカピカに。ゴシゴシ擦らなくても、軽くひと拭きふた拭きするだけでみるみる透明になる。これを使わない人は本当にどうかしてる(ハイ、僕です!)
評価:★★★★★
そうこうしているうちに無事に家には着いたんだけど、自分の部屋に着いたところからまた記憶がなくて、気がついたら翌日の昼、部屋でスーツのまま寝てた。たぶん記憶が飛んだわけじゃなくて、倒れるようにして眠ってしまったのだと思う。その日が休日でよかった。
起きてから、財布をなくしたりしてないかどうか調べた。ここで初めて気づく。いつもかけているメガネがどこにもなかった。どこ行ったんだよ、と思ってカバンを開ける。中にはなぜかグレープジュースがいっぱい入った、ウーロン茶のペットボトルがあった。
紳士のたしなみ、ハンカチ。買いたてで洗濯しないまま実験したので、もしかして本領発揮できてなかったらすみません。
■水汚れ
意外に水を吸わない。押し当てて吸い取る→残りをゴシゴシ拭き取る、の2段階が必要。一応きれいにはなるけど、レンズが傷つきそう。
評価:★★
■油汚れ
拭いても拭いてもテカテカ。いつまでもいつまでも。ハンカチも油っぽくなるし、ハンカチでメガネ拭いてもいいことないっすよ。
評価:★★
のどが渇いていた僕は、とりあえずその得体の知れないグレープジュースをグビリと飲んだ。すると、はたしてペットボトルの中に入っていた物は、グレープジュースではなくて、ワインだったのだ。期せずして迎え酒になってしまった僕はウゲーと思いながらも、口に入れたワインを飲みこんだ。ここで話は終わり。
なぜあの時カバンにワインが入っていて、しかもペットボトルに移しかえられていたのか。一緒に飲んでた同僚に聞いても、僕は「普通に電車乗って帰った」そうなのだ。東京~石川町間で僕の身に何があったのか、結局わからない。仕方がないので、メガネがなくなりワインが現れたことから、自分の中では「メガネがワインになった話」としてなんとなく処理している。それ以来、頭の中のメガネフォルダを開けると、もれなくこの話が顔を覗かせるのだ。
え、なんでネクタイ!?とお思いでしょうが、ネットで「メガネ 拭く」で検索したら拭いてる人がけっこういたので入れてみた。
■水汚れ
恐ろしく水を吸わない。拭いても拭いても水が伸びるだけ。ハンカチもひどかったけど、まだあっちの方がマシです。あとネクタイが青くなるので、汚れが青い場合は使わない方がいい。
評価:★
■油汚れ
他の「きれいにならない」は油が伸びて皮膜状になってから、その皮膜がなかなか取れないことを意味していたんだけど、ネクタイの場合は皮膜にもならない。油っぽいまま拭いても拭いてもギトギトしている。
評価:★
なんでメガネの拭き方の記事なのに人の酔っ払い話を聞かされているのか。疑問符でいっぱいになったあなたは正しいです。そしてご安心ください。もう話は終わりで、実験の総評です。
総評
・クロスはほんと偉大
・次点は紙のクリーナーか、ウェットティッシュ+ティッシュ
・水濡れならティッシュだけでも
・ネクタイだけはやめとけ
・そもそもカバンに入ってた得体の知れない液体を飲むな
で、ここまで書いてきてなんですが、レンズを拭くと多かれ少なかれ、キズがつく。今回の実験ではキズのことをまったく考慮してないので、気をつけて欲しい。
調べたところによると、キズを付けないためには、本当はこうするのがいいみたいです。
やはり、メガネ拭きクロスは優秀だった。紙ナプキンより優秀。この実験で僕の過ちの7年間が帳消しになることはなかった。
しかし、いま僕がここでその事実を明らかにしたおかげで、後の世代が同じわだちを踏むことはないだろう。紙ナプキンはそんなにすごくないぞ。みんな、紙ナプキンがすごいって言いふらすなよ!後悔するぞ!これが僕からの、次世代、あるいはこれからメガネをかけるみなさんへのメッセージだ。
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