オクラの花は美しい
とりあえず昨年の話から。
母が世話をしている家庭菜園には毎年場所を変えつつオクラが植えられており(連作障害対策)、夏になると採り放題、食べ放題モードに突入する。ありがたや。
たくさん実がなるのだから、当然花もいっぱい咲いている。世の中には花オクラという食材があるらしいので、試しにオクラの花を食べてみるかと収穫してみた。
5枚の花弁は淡い可憐な黄色で、中心部分は鮮やかな濃い紫。とてもきれいだが食材としてはピンとこない。その大きさや美しさから、ハイビスカスやアサガオを食べるみたいな違和感がある。人類はなぜ花オクラを食べるのだろうか。ちょっと待てばオクラの実がなるのに。
オクラの花はおいしいけど花オクラじゃなかった
オクラの花はどうやって食べるのが正解だろう。体積こそ大きいけれど、ペラペラなので儚い程に軽いのだ。きっと食べ応えゼロ。
やっぱり茹でるのが一番かなと、サッと茹でて氷水で冷やし、そうめんに添えてみた。めんつゆくらいのあっさりした味付けが合うはずだ。
加熱することでシュッと萎んだオクラの花は、なんだかとてもかわいかった。紫と黄色の服を着て、緑色の帽子をかぶったなんらかの妖精っぽい。
どんな味かと食べてみると、オクラに通じる粘りと風味がちゃんとある。これはまさにオクラの花だ。比喩ではなく写実の例えで恐縮だが、そういう食べ物なのである。
オクラの花はオクラの実の若い頃という確認ができた。結婚式で新郎新婦の子供の頃のスライドをみた気分だ。
味自体はほとんど感じられないが(紫の部分はほんのり苦い気がする)、見た目と食感は相当個性的な存在。粘りのおかげで食べ応えは意外とある。
これはおもしろい食材だな~と花オクラについて今更ながらネットで調べてみたら、なんとオクラの花ではなかった。えー。
オクラはアオイ科トロロアオイ属のオクラ種であり、花オクラはアオイ科トロロアオイ属のトロロアオイ種の花の通称だったのだ。
おそらく「トロロアオイの花」とか「花トロロアオイ」と表記しても消費者はピンとこないので、「花オクラ」という名前で流通するようになったのだろう。
オクラとトロロアオイは同じ属なので、いわば兄弟くらい近い存在であり、花も似たようなものなんだろうなと思いつつ、やっぱり本物の花オクラがどんなものか気になる。そして花を食べるトロロアオイの実も食べてみたい。
そこで翌年(今年)、種を取り寄せて育ててみることにしたのだ。
花オクラ(トロロアオイ)を育てる
取り寄せた花オクラ(トロロアオイ)の種のパッケージには、見覚えのある花が載っていた。これ、色も形もオクラの花にそっくりだ。
やっぱりオクラとトロロアオイの花は似ているらしい。それならオクラを育てれば花も実も食べられていいじゃんと思いつつ、何か違いがあってくれと願いながら種を蒔いた。もしかしたらトロロアオイの実もうまいかも。
オクラと育て比べてみると、これが期待以上に違う植物だった。
はい、違った。
芽が出てしばらくは同じような姿をしたオクラとトロロアオイだが、ある程度成長してくると葉っぱの形が明らかに変わってきたのだ。
オクラは切れ込みが浅く、トロロアオイは深いという発見。モミジとカエデの違いのようだ。
花の違いならともかく、葉っぱの違いなんて今後の人生でまず役立たない知識である。だからこそ尊いよなと、畑で一人ガッツポーズ。
これが本物の花オクラだ!
トロロアオイもオクラも順調に育ち、夏が近づくと待望の花を咲かせてくれた。
そして私は花オクラがオクラの花ではなく、トロロアオイの花である理由を知ることとなる。
トロロアオイの花は、見た目こそオクラの花と同じだが、その大きさが全然違った。すごくすごく、でかいのである。
比べてみるとオクラの花は、トロロアオイの花弁一枚分くらい。そりゃ花を食べるのならば、オクラじゃなくてトロロアオイを選ぶよな。
トロロアオイの花、花オクラを食べてみる
大きいのは素晴らしいが、さてどうやって食べるのが正解かなと考えているうちに、トロロアオイはありがたみを感じなくなるほど咲きまくった。
これはさっさと食べなくては。
とりあえず茹でて食べてみると、トロロアオイの花は、まるで大きなオクラの花だった。なるほど。
大きいので食べ応えがあり、その分なのか粘りも強く感じる。さすがはトロロの名を受け継ぐアオイの花だ。そして大きいけど固くないのが普通の野菜と違うところ。オクラの花よりも柔らかいかも。
ただ花の付け根部分ははっきりと苦い。花らしい苦さ。ここはオクラの花もちょっと苦いが、大きいからこそわかりやすいのだろう。私はこの苦味が個性として好きなのだが、付け根は少し残して食べるのがいいのかも。
サラダにするとおいしい
せっかくだから生でも食べてみよう。
まず分解して部位ごとの味を確認してみると、黄色い部分はサクサクした歯ごたえで苦味はほとんどない。
紫部分は厚みがありパリパリしているが、レタスのような苦味を感じる。
どちらも噛んでいると滑りがでてくるのが、普通のエディブルフラワーと違う個性だ。
中央の花柱(オシベとメシベの部分)も苦いかと思いきや、特に苦くはないのだが、花粉がザラザラしておいしくない。やっぱり外して食べるべきだろう。
生で食べる花オクラは、独特のぬめりと餃子の皮くらいある大きさ、そして華やかさを兼ね備えている。やるな、花オクラ。
紫色をした部分の苦みも単体で味わえば気になるが、オイルや他の食材と合わせれば好ましいアクセントとなってくれる。これはオンリーワンの食材だ。
もっといろいろ作ってみよう
せっかくなので茹でる以外で加熱した料理にも挑戦だ。なぜなら次々と咲くからだ。
ちなみに花なので傷つきやすく、日持ちはあまりしてくれない。
トロロアオイの実を食べてみよう
そんなこんなで花オクラことトロロアオイの花を楽しむ日々なのだが、食べ切れない花は実へと成長していった。
オクラに比べるとずんぐりしていて、花ほど大きさの違いはない。そしてなにやら産毛がすごい。
さてこれは食べられるのだろうか。見た目から判断する限り、なかなか微妙なところである。
とりあえず塩水で茹でて食べてみよう。茹で加減がよくわからないので、オクラを一緒に茹でて、オクラが食べ頃になったら一緒に完成とする。
トロロアオイの実を食べてみると、びっしりと生えた産毛が咀嚼を強く拒んできた。すごい守備力、ハリネズミを食べようとしたヘビの気分だ。味とか毒の問題ではなく、物理的に食べられない。無理をしたら耳鼻咽喉科のお世話になってしまう。
もはや産毛じゃない。ちょうど私が無精ひげを生やしたときくらいの固さでは。試しに両者を二の腕の裏側にこすりつけたら同じ痛さだった。これじゃ塩でしっかり揉んだとしても、無駄に掌がチクチクするだけだろう。
トロロアオイは花の段階で食べるのが正解!
そうだろうなとは思ったが、そうである理由こそがこの夏一番の収穫だ。
オクラの花は小さいけど食べられるが、花オクラ(トロロアオイ)の実は毛が硬くて食べられない。肝に銘じて生きていこう。
ここでマメ知識の共有だ。トロロアオイの根は和紙作りに必要な「ねり」の原料で、根を太らせるには栄養が取られてしまう実が不要。そこで花を摘み取るついでに食べられてきたという一面もあるらしい。そして現在はねり用にトロロアオイの栽培をする農家が減っていて、和紙業界が困っているそうだ。オクラの根ではダメらしい。この冬は和紙作りに挑戦しようかな。
花オクラの商品価値が高まれば、ねりの生産にもつながりそうだが、日持ちの問題などで難しいのかな。でも花オクラはすごくおもしろい食材だと思います。