高気圧は「空気がたくさんあるだけ」
――高気圧といえば、夏、暑い、晴れ! というイメージがあります。これ、合ってます?
増田:合っていますよ。夏の高気圧は、晴れて暑さをもたらします。
――でも、冬に寒気をもたらすのもシベリア高気圧ですよね。夏の暑さも冬の寒さも高気圧って、どういうことですか?
増田:高気圧そのものには、暑いとか寒いという意味はありません。
前提として、気圧とは何かを説明しますね。気圧はそのまま「空気の圧力」という意味。空気が地面に向かって押す力です。
高気圧は、押す力が強い=空気がたくさんあるところです。簡単に言うと空気がたくさんあるというだけ。
高気圧は、出身地の空気をパックして送る
高気圧が暑いか寒いかは、「どこで高気圧ができるか」によります。冬に日本の北西の大陸でできる高気圧は、冷たくて乾いています。
北極圏の冷たい空気が、大陸でどんどん蓄積されたのがシベリア気団。そのたまった空気でできた高気圧がシベリア高気圧。これが冬将軍の正体です。
一方で、南の海の方でできる太平洋高気圧は、湿った暑い空気を送ってきて、その空気のかたまりは小笠原気団と言われます。これが高気圧ガールの正体ですね。
――そのエリアの空気をパックして送ってくれるのが高気圧ということですか?
増田:おっしゃる通り! その説明、テレビで使おう!
――高気圧、低気圧って、ただ気圧が高いか低いかしか言ってない。
増田:そう。暖かいとか寒いとかは言ってない。ざっくり、高気圧は空気の量が多いだけ、低気圧は少ないだけ。
高気圧は下降気流で、雲を消すので「高気圧=晴れ」は合っているけれど、暖かいか寒いかは、場合によりますね。
――高気圧ガールと冬将軍って真逆で友達にもなれない気がしていましたが、意外と近い親戚ですね。
陰キャの高気圧もいる
増田:夏の高気圧は高気圧ガール、冬の高気圧はドライでクールな冬将軍ですが、梅雨にはクールでじめじめした“陰キャ”の高気圧が現れることがあります。オホーツク海高気圧です。
オホーツク海高気圧は、北海道の北東海上出身の高気圧。北から冷たくて湿った空気を送り込みます。関東で梅雨時に急に寒くなるのは、オホーツク海高気圧から空気を送ってくるから。
オホーツク海高気圧の影響が夏場にかけて続くと、東北地方の太平洋側に「山背(やませ)」と呼ばれる冷たい風が吹き、冷害が起きます。
――冷たくて湿った高気圧……。高気圧ガールと真逆ですね。高気圧にはいろいろな性質があるんですね。
高気圧の性格は出身地による
増田:太平洋高気圧、シベリア高気圧、オホーツク海高気圧は、それぞれキャラも違うし、出自も違う。
太平洋高気圧の出自は、海面温度が高い赤道付近の海上です。このあたりの空気は暑くて軽いので上昇します。空気が上昇する時は空気の圧力が減るので、赤道付近は低気圧になりやすい。
ここで上昇した暑い空気は、北の冷たい空気と温度のバランスを取ろうとして北上します。北上した空気が「もうこれ以上行けない」というところで降りて下降気流になり、空気がたまって高気圧ができます。下降気流は雲を消すので晴れやすくなる。これが夏の高気圧のできかたです。
――夏の太平洋高気圧は、低気圧の上昇気流から空気をもらって成長するということですね。冬のシベリア高気圧も、隣に低気圧がいるんですか?
増田:いえ。シベリア高気圧はバカでかいので、隣に成長をうながすような低気圧はいないんです。でき方も太平洋高気圧と違います。
まず、大陸が冬に冷え、冷たい空気がたまっていきます。冷たい空気は重いので、周辺の暖かい空気よりも地面付近にたくさんたまる。その結果、空気の塊・高気圧ができあがります。これがシベリア高気圧。カラッと弾ける、ドライでクールな高気圧です。
“高気圧の影響で雪が降る”日本は特殊
増田:高気圧の下は基本的に晴れます。でも日本列島の日本海側は、シベリア高気圧の影響で雪が降ります。高気圧の影響で雪が降るのは、世界的にも珍しい。
シベリア高気圧の冷たい空気は、大陸では乾いています。ただ日本列島に渡ってくる前に、海水温の高い日本海を通ります。日本海は、湯気が出る露天風呂状態。そこで雲が湧いて、日本海側に雪を降らせる。日本海の湿気を吸って、高気圧なのに雪を降らせているんです。
本州の日本海側は世界有数の豪雪地帯の一つです。アメリカ・カナダの東部の国境にある五大湖周辺と、ノルウェーも同様の理由で雪がたくさん降ります。
五大湖周辺は暖かい湖の湿気が、ノルウェーは北大西洋の暖流の湿気が高気圧の冷たい空気にとりこまれて、その先の陸地でどかどか降ります。このあたりではスキー競技が盛んですね。
「WHITE BREATH」は「HIGH PRESSURE」
――「HIGH PRESSURE」っていうT.M.Revolutionの曲があります。タイトルは「高気圧」という意味で、真夏の曲。でも今のお話だと、冬の日本海側の大雪を「HIGH PRESSURE」と表現してもいいですね。
増田:そうなんです。シベリア高気圧の“圧”が風を送り出し、吹雪をもたらすのでまさにハイプレッシャー。
WHITE BREATHのMVで、西川貴教さんが吹雪の中で歌っていますけど、押し出された北風が嵐を呼び、それがホワイトブレスを作るわけですね。
――日本人にとっての「高気圧=夏」のイメージは、J-POPの歌詞から来ているんでしょうか。「高気圧ガール」や「HIGH PRESSURE」が夏の曲だから。
1000hPaのキスは「ぬるい」
――「access*」の夏の曲「NAKED DESIRE」も気になっています。歌詞に「1000(hPa)のKISSが 夜の太陽撃ち堕とす」(※歌ではhPaは発音しない)とあるんですが、1000hPaのキスってどんなキスなんでしょうか。(* T.M.Revolutionのプロデューサー浅倉大介のユニット)
増田:1000hPa(ヘクトパスカル)は、高気圧にしても低気圧にしてもぬるいですね。強すぎない、弱すぎない普通な感じ。
「NAKED DESIRE」は1993年の曲ですね。ちょうど前年の1992年12月1日に、気圧の単位がmbar(ミリバール)からhPaに変わりました。当時理科の授業で「今日からhPaだ」と先生が言っていてときめきましたね。作詞された貴水博之さんもhPaの印象が強くて、歌詞に使いたかったのかもしれません。
――ちなみに、高気圧や低気圧に数値的な基準はないんですか? 何hPa以上が高気圧、とか。
増田:ありません。周りより気圧が高ければそこが高気圧です。990hPaの高気圧もあれば、1010hPaの低気圧もありうる。
12月のクイズの回答
正解は、-26.1℃。北海道・上川地方の幌加内でした(12月22日)
かなり近かった皆様(敬称略)
今日(12/13)気温が下がりましたね。昨年並み程度の冷え込みがあると思います。場所は北海道の内陸ではないでしょうか。
そろそろ強い寒気がきそう
旭川 上川地方だとは思います。
全くわかりません。-20は下回るだろうけど、-30まではいかないだろうということで、切りのいいところで。
Bernie -23.4℃
北海道の上川地方で下旬の寒波の影響で観測。
ツトミちゃん -28.4℃
ラニーニャ現象が発生した2020~2021シーズンと似た傾向で厳しい寒さになる、という予報を見ましたのでそれに乗りました。旭川周辺でしょうか?
増田:最も近かったのは、11月に続いてメロポンさん。0.5度違いです。すごいですね。そのほかに上川を当ててる人が3人もいらっしゃる。
――上川地方が寒くなりそうだと予想できる根拠はありましたか?
増田:記事公開時点(12月9日)で予想はできなかったと思います。ただ、上川は海から離れていて周りに山があり、冷えやすいところです。冷たい空気は重いので、谷に降りていくんですね。
1月のクイズです
解答はこちらから(2025年1月18日23:59締め切り)
林:「気温のページ」っていう渋いサイトを見つけたんです。気象庁の職員だった方が運営しているらしくて、世界の気温を毎日記録してコメントしている。
このページによると、去年は日本で1月に-30度が出てるんですね。でも、そう思わせといてきっとそこまで冷えないから、私の予想は-27.8度、北海道・陸別で。
岡田:私はやや弱めに-28.4度。何の根拠もないです。北海道の土地勘がないので12月と同じところ、北海道・下川で。
西村:1月こそ-29.5。北海道・士別で。